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第46話 決闘

「お父様!」


 エミリーさんは訓練を中止して俺たちの所に来た。服は汗で濡れ、息も軽く上がっている。近くで見るとやはりかわいいのが分かる。貴族からお見合いがくるのも頷ける。


「エミリーか。どうした?訓練をしていたのではないのか?」

「訓練はしていました。ですがこの男は誰です!?新しい執事ですか?」

「あ、初めまして。ソーマと言います。執事ではないです」

「ふーん…執事じゃないなら私のお見合い相手なのかしら?」


 どうやらエミリーさんは俺をお見合い相手だと勘違いしているようだ。どこからどうみても一般庶民の服だし、お金持ちには見えないと思うんだが…。


 エミリーさんは不機嫌だ。ずっと俺を睨んでいる。初対面で嫌われるような悪そうな顔はしていないはずなんだがな…。


「エミリー、落ち着きなさい。このお方は私の客人だ。お見合い相手ではない。済まないソーマ殿」

「いえ、気にしないでください」

「でも剣を持っているって事は戦えるんでしょ?」

「まあ…一応は」

「なら決闘よ!お父様いいでしょ?いつも通りのやつで」

「エミリー…おまえは少し戦う相手を選べないのか?いや、相手の実力を察する事は出来んのか?」


 アレクサンダーさんはエミリーさんが俺に決闘を申し付けても焦ることなく対応している。俺が罵声を浴びても怒らない事は知っているんだろう。信頼されているって事でいいのかな?


「選んでいるわ!でも今までで私に勝てた男はお父様だけよ!」

「…好きにしろ。ソーマ殿申し訳ない。少しエミリーの相手をしてやってはくれんか?」

「いいですよ?俺も聖王の娘さんの実力は知っておきたいですから」

「…だそうだ。お前は下で準備でもしていなさい。聖騎士よ!すまぬがそこを空けてくれ!」


 アレクサンダーさんの声で訓練していた聖騎士たちが一斉に訓練場内からいなくなる。多分観客席の下にでもいるのだろう。


 エミリーさんも準備のために下に降りて行った。降りるときに「死なないように手加減はしてあげる。」と言われた。俺も随分なめられたもんだ。


「私の娘だ。こうやって勝負をよく挑むところや腕っぷしの強さは似ていてな。少し天狗になっているのだ。ソーマ殿の力で天狗鼻を折ってきてやってくれ」

「分かりました。けがをさせないように気を付けます。まあ怪我をしても即死以外なら回復できますけど」

「ふ…頼んだぞ」


 訓練場の下に向かう。訓練場内は砂地だが、足場はしっかりとしていて動きやすい。聖騎士たちはいなくなっていた。どうやら城に戻ったようだ。


 俺とエミリーさんはある程度離れて、向かい合う。


「女だからって手加減はいらないわ。全力でかかってきなさい」

「そうですか…じゃあ俺は素手でやりましょう。木製の剣もないし、借りても使いにくいだろうし」

「あなた…なめてるの?」


 エミリーさんが額に青筋を浮かべながら睨んで来る。おっと…怒ると美人さんが台無し…でもないな。


「いや、アレクサンダーさんから調子に乗った天狗鼻を軽く折ってきてくれ、と言われたから」

「そう…それほどお父様はあなたの事が強いと認めているのね。じゃあ存分に確かめさせてもらうわ!行くわよ!」

「お好きにどうぞ」


 両手を下に下げてリラックスした状態のままエミリーさんが突撃してくるのを待つ。大体腕をダラーンと下げて待たれたらなめているように見えるだろう。


「ち…舐めた真似を!」


 素早く俺との距離を詰め、木製の剣を俺の頭に振り下ろす。中々早い一撃だ。これで今までの相手を仕留めて来たんだろう。エミリーさんの顔には笑いがあった。


「おっそ…」


 俺はそんなエミリーさんの会心の上段からの振り降ろしを手で弾くようにして軌道を右に逸らす。


「くっ…」


 エミリーさんは体制を崩すことなくそのままの勢いで横に薙ぎ払う。もちろん俺はそういう攻撃をしてくることを予想してわざと右に攻撃を逸らした。


 薙ぎ払いを何事もなく躱すと、常人には反応できないスピードでエミリーさんの首に手刀の形にした手を当てる。


「チェックメイト」

「!?」

「これで終わりですか?」

「…もう1度よ!今のはまぐれ!」

「お好きにどうぞ」


 負けず嫌いなのか、多分俺が負けるまで終わらせないつもりだ。俺も負けてやるつもりは無い。


 何回やっても結果は同じだった。どこからどういう風に攻撃を放とうと俺に避けられ、手刀を首にあてられる。エミリーさんは俺にもてあそばれていた。


「はあ…はあ…はあ…」

「もうやめましょう。俺も忙しいんです。負ける見込みのない戦いに割く時間は無いんです」

「くっ…うわーー!」

「エミリー!」


 何を血迷ったのかエミリーさんは木製の剣を投げ捨て、腰につけていた本物の剣を抜き、俺に斬りかかってきた。アレクサンダーさんもエミリーの突然の行動に驚いて叫ぶが間に合わない。


「死ねええーー!」

「女性が物騒な言葉を使うものじゃない」


 エミリーさんの上段からの振り下ろし。木製の剣よりも軽いであろうその剣のおかげでスピードは速い。その辺の兵士なら反応できずに頭を叩き切られるだろう。


 だが俺はそんな高速で振り下ろされた剣を片手で受け止める。もちろん俺の手は斬れない。


「何で!?」

「アレクサンダーさんの言っていた通り戦う相手は選んだ方が良いと言う事。世の中には歯が立たない相手もいる」


 片手で受け止めたエミリーさんの剣を握りつぶす。剣はまるでガラスのように散った。


 あまりの力の差にエミリーさんは腰を抜かして地面に座り込む。目を丸くして放心している。


「あれ?やりすぎちゃったかな?まあいいや。立てる?」


 腰を抜かしたエミリーさんに向かって手を差し伸べる。だが動けない様子を見て腰を抜かしたと気が付いた。


「全く…しょうがねえな。よいしょっと」

「ふああ!?」


 エミリーさんの脇の下に手を入れて強引にお姫様だっこをする。おんぶでもよかったけど座り込んで動けなくなっている状態からのおんぶは出来ない。まあお姫様だから合っている。


「ちょ…!何するのよ!」

「アレクサンダーさんのところに連れて行くだけだ。けがはしていないと思うけど一応な。報告に」

「は、離しなさいよ!」

「ん?顔が赤いな。熱かな?なら急ぐか」


 〈ワープ〉ですぐさまアレクサンダーさんのいる場所に転移する。エミリーさんは急に景色が変わったことに目をパチクリさせている。


「戻りました。よいしょ」


 ゆっくりとエミリーさんを床に降ろす。どうやらもう立てるみたいだ。


「どうじゃった?さすがにエミリー程度ではソーマ殿の相手にはならなかっただろ?剣も使っていなかったし」

「正直に言うとそうですね。まあ人間レベルなら強いです。さすがはアレクサンダーさんの娘さんって感じです」

「そうか…どうだった?エミリー。自分の遥かな高みにいる人の力は」

「……」


 エミリーさんは俯いたまま黙っている。そして何かを決意したように立ち上がる。


「あなたはソーマ…というのよね?」

「ああ」

「そ、その…あの…私を…私と結婚しなさい!」

「…はい?」


 何を言っているのか分からなかった。もし仮に結婚と言っていたとして、なぜ初対面で会ったばかりの人に結婚と言ったのだろうか。


「何度も言わせないで!」

「あの…アレクサンダーさん?これはどういう」

「ソーマ殿には話していなかったかな?エミリーは決闘で負けた男と結婚することに決めているらしい。私は反対なのだが、決めたことに私が口を挟む事ではないのでね。それにソーマ殿なら安心して娘を任せられる」


 と言う事はアレクサンダーさんは俺がまずエミリーさんに勝つことを分かっていた。つまりエミリーさんが俺に結婚するように言う事を知っていてお願いしたのだ。


「まじか…騙された」

「そ、それで?へ…返事は?」

「はぁ…嫌です」

「な!?何でよ!私がこうやって頼んでいるのよ!?戦う事しかできないけど…望むなら、り…料理や家事も頑張るわ」

「何ができるとかじゃない。料理なら俺だってできるし、家事もそれなりにはこなせる。俺が聞きたいのはエミリーさんが本当に俺の事が好きなのか?と言う事だ」

「…私が…あなたを?」


 エミリーさんはお見合い相手をすべて断ってまで決闘に負けた相手と結婚したいらしい。それは悪い事ではない。だがそれは政略結婚と変わらないのではないだろうか?決闘で結婚するかを決めると言う事は本当に愛し合っているのだろうか?ただ勝負で負けたからその人の嫁になるのでは政略結婚と変わりはない。


 アレクサンダーさんも思っているはずなのだが、娘の決定事項に口を挟むつもりはないらしい。もし俺の事を信頼しているのであればきっと安心しているだろう。だがそういう問題じゃない。


 このことをエミリーさんに伝えると悩み始めた。結婚すること自体は俺も別に構わないが本当にエミリーさん自身が納得するのか決めてほしいのだ。特に理由もなく結婚を申し付けられてもうちの女性陣に殺されかけるだけだ。…俺が。


「どう?結論は出た?」


 10分程経ったのでとりあえず聞いてみる。ダメだったらまた時間をあげればいい話だ。


「まだ…でも…確かにあなたの言う事はただしいわ。だから私はしばらくあなたのところで生活させてもらうわ!」


 何とも我儘な娘さんだ。俺の事を知らないから俺を平民と思っているのだからかは分からないが、王家だからって断られないとでも思っているのだろうか?もう少し現実を知るべきだ。


「…どうします?俺は別にいいんですけど。もし本当に俺と結婚する気になったら俺の正体も知らないといけませんよ?」

「そうだな。ならばソーマ殿の国で条約も含めて行ったらいいのではないか?私とエミリーにも国の様子を紹介してくれないか?」


 どうやらエミリーさんに俺の正体をリアンで少しずつ知って行って欲しいみたいだ。ついでに条約など出来る事もやってしまおうと言う訳らしい。


「国?あなた国の偉い人なの?」


 リアン連合王国の存在をエミリーさんは知らないため俺が国の重要人物だと思ったみたいだ。目を細めて俺を観察している。まあ合ってはいるが、国王と魔王の2つの王なんだけどな。


「まあ一応。俺の国で条約やらを結ぶついでにエミリーさんに俺の事を知ってもらう、というのは賛成です。ただ、気を付けてもらいたいことが何点か」


 これを守れなければ俺の体が大変なことになる。痛いやら苦しいやら心地いいやらの複雑な行為が行われるだろう。うちの女性陣によって。


「ん?何かあるのかね?」

「はい。エミリーさんに守ってもらいたいことばかりなんですけど、アレクサンダーにも覚えていてほしい事があります」

「何?言ってみなさい」


 腕を組み、肩幅に足を開き、偉そうなポーズをとるエミリーさん。すごく似合っているのだが、顔が少し怒っているみたいで印象は悪そうだ。


「まず1つ目。俺の周りにはたくさんの人がいます。ですが、絶対に今の様な態度で接しないでください。あいつらは優しいけどもし怒ったらエミリーさんぐらいなら瞬殺できます」


 そんな馬鹿な、みたいな顔をエミリーさんはしているが事実だ。上級竜などはエミリーさんでは話にならない程の強さだ。みんな優しいから怒らないだろうし、アレクサンダーさんの娘さんだと言ったら許してくれるだろうが、俺の嫁になりたいのであれば言葉遣いよりも人への上から目線を治して行って欲しい。


「なるほど。それほどソーマ殿の国の兵士は強いのか」

「あれ?この前見なかったんですか?まあこのことはあとで話します。2つ目。向こうに4人の女性がいます。赤と白と青の髪の女性に、黒髪長髪の女性。あいつらは俺の事になると狂気じみた行動を取ります。一回死にかけたこともあるぐらい。エミリーさんがあまり俺にくっつきすぎると俺が死ぬので気を付けてください」


 死にかけたのは聖騎士たちが来た時のユカリの嫉妬だった。その時は意識を失うだけで済んだが、もしかしたら意識ではなく命を失っていたかもしれなかった。


「そんな恐ろしいの…?」

「まあ何があってもアレクサンダーさんとエミリーさんの命は守るので心配しないでください」


 嫉妬で聖王国と全面戦争なんてバカみたいなことはしたくない。俺の方でも嫉妬が起きないように膝枕とか結構してるつもりなのだが、一向に良くならない。というか俺が何かをするたびにどんどん嫉妬深くなっていっている気がする。


 ユカリが1番酷いのだ。ミラ達の3人は周りを見て動けるからそれほど嫉妬はしない。特にシエラはほとんどと言っていいほどしてこないので、たまに俺の方から発散させている。ただユカリに関しては、時場所状況に関わらず常に俺の傍にいたいみたいなので少しでも何も言わないで離れると面倒な事になったりする。


 今回はきちんと言ってきたので大丈夫だろうが、多分明日とかになると俺が帰ってこない事への苛立ちが溜まっていくだろう。


「ソーマ殿が守ってもらえるのなら安心だな。私がいなくなっても1日程度なら大丈夫だろう。執務も終わらせているし、執事にもしかしたらと言う事で今日は王城で寝ないかもしれない、とだけは伝えてある。エミリーは準備とかいるか?汗をかいているから着替えなどは持って行った方がいいのではないか?」

「あ…はい。着替えを持ってきます」


 エミリーさんは訓練場を出て、王城の方に走って行った。


 するとアレクサンダーさんが疲れたように大きなため息をついた。


「どうしたんですか?」

「いや…娘の言葉遣いも治さなければな…と思ってな。ソーマ殿の嫁に行かせるのであれば尚更だ。」

「あの…今気になったんですけど、アレクサンダーさん自身はエミリーさんを俺の嫁に行かせることは反対じゃないんですか?だって俺魔王だし」

「魔王だから、と言って反対していたのなら最初からエミリーとソーマ殿の決闘を認めはしない。私はソーマ殿を魔王としてではなく、1人の男として信頼しているのだ。だから君になら娘を預けても問題は無い。ソーマ殿の方に問題はありそうだがね」


 アレクサンダーさんは笑いながら話してくれた。確かにそうだろう。俺を信用しているからアレクサンダーさんはエミリーさんの決定に口出ししないのだ。すごく優しい父親で、人想いだ。


 これは支持されるわ、と街の案内の時もだが思った。


 しばらくして、大量の荷物を抱えてエミリーさんが走ってきた。リュックの中にこれでもか!と言わんばかりに荷物が詰まっている。うちには泊まる場所も道具のしっかり用意しているのだが、何を持ってきたのだろうか?


「何をそんなにいっぱい持ってきたんですか?」

「な、内緒よ!は、早く行きましょ?あれ?でもどうやって行くのかしら?」


 今になって気が付いたみたいだ。俺が聖王国の重要な人物であればもちろんエミリーさんだって知っているはずだ。だが知らないと言う事は他の国だ。


 聖王国から1番近い国の街でもかなり離れている。この世界で世間一般的に1番早い移動手段である馬車を使っても何日もかかる。(俺たちは転移や竜に乗ればすぐだ)


「とりあえず俺に掴まってください。まずはその荷物を置ける部屋に案内するので」


 どこが良いか悩みつつも転移するために声をかける。アレクサンダーさんは普通に肩に手を置いているのだが、エミリーさんは何故か俺の頭に置いている。それほど変わらないとはいえ、身長的に俺の方が大きいのだが頑張っている。


 特に気にせずに俺は2人をリアンに案内するために転移した。

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