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第43話 対談

 俺は泣きまくった後、素に戻った。多分30分はぐだぐだ泣いていた。


「…はっ!?俺は何を?というか何故シェンの胸の中に?」

「おお!やっと正気に戻ったかマスター。いやー大変だったぞ?いきなり我の胸に飛び込んで来るものだから…つい女になりかけたわ」

「…はい?」


 ヨクワカラナイナー。何を言ってるんだ?いきなり飛び込んで…来た…あっ…。


 そこで俺は思い出した。俺がどんなことをしていたか。


「うわーー!」


 俺はすぐさまシェンから離れて後ずさる。だが後ろの何かにぶつかった。


「痛ってぇ!?何だ?」

「うふふ…ソーマ様は可愛いですね…。えい!」

「ぎゃあ!?」


 後ろにいたのはユカリだった。なぜか暖かい目線で見られていた。そして俺が動く前に抱きかかえられ、また胸に押し込まれた。今度は強引に。


「ん!んんんんー!(ぐっ!苦しいー!)」

「え?嬉しい?」


 ユカリは俺の頭を胸にぐりぐりと押し付けている。そのせいでまともに呼吸が出来ない。いくら魔王で体が強くても呼吸が出来なければただの人だ。いずれ意識を失う。


 こいつ頭おかしい!ダメだ。力が強すぎる!このままだと…堕ちる…。


「ぐぐぐ…ぐぅぅ…」


 ここで俺の意識はどこかに飛んで行った。その前にぎりぎり気絶している聖騎士たちがどこかに行かないように防御結界と阻害結界を張って置けた。我ながらナイス判断。この時に転移して逃げるという事は頭の中になかった。


「…うわぁ!?」


 目が覚めるとそこは寝室だった。ベッドの上ではなく、ベッドの下で寝ていた。


「起きましたか?ソーマさん」

「…ミラ?」


 起きた俺の目の前にいたのはミラだった。なぜミラの頭が天井の方向に見えるのかはすぐに分かった。俺はミラに膝枕をされていたのだ。


「…この状況は?」

「ごらんの通り私がソーマさんを膝枕しているんです。私には中々こういうスキンシップの機会が無かったので、ユカリさんとシェンさんが譲ってくれたんです。ちなみに私の後はシエラさんが控えているので大人しくしていてくださいね?」


 どうやら俺はいつの間にか猫や犬のようになってしまったらしい。膝枕をされたままでいるなんてそれくらいしかいない。


「…大人しく…ね…。じゃああの土下座したまま大発狂してる奴はどうなの?」


 俺が見たのは「ごめんなさーい!」とか「私死にますー!」とか土下座しながら発狂しているユカリだった。


「ああ…あれは…きっとソーマさんに謝っているんですよ。ソーマさんが起きたことに気が付いていないようですけど」

「そうだな…ちょっくら起こしてきていいか?」

「ええ…はぁ…仕方ないですね。ちゃんと起こしたら戻ってきてくださいよ?まだ私の時間なんですから」

「はいよ」


 いつから俺は時間付きで貸し出されるようになったのだろうか?と思いながら大発狂しているユカリの傍に行く。


 上から見ると尚酷い。体はガクガクブルブル震えている。この部屋は暖房があるので寒くはないはずなのだが寒いのだろうか?そんなわけがない。これは怯えているんだ。


 俺が目の前に来てもユカリは全く気が付かずに謝り倒している。というか多分意識が無いんだと思う。


「おーい、ユカリ?」

「ごめんなさーい!私死にますぅー!」


 ただそれだけを繰り返し言うだけの人形になっている。どうしようか?そんなの決まっている。こいつは褒美を上げた方が強くなるタイプだ。それならば俺も一肌脱ごうではないか。


「ユカリお姉ちゃん?」

「ごめんなさ…ふぇ?」


 ユカリは震える体を俺に向けて起こす。その瞬間俺はユカリに抱きつく。まあ俺がユカリの弟になってやろうではないか、と言う事だ。


「ユカリお姉ちゃんやっと起きたー」

「え…ええ!?ソーマ様!?何で!?」

「わーい。ユカリお姉ちゃん大好き!」


 15の俺にこの演技は結構酷なのだ。ミラも顔を真っ赤にして見ているし。出来ればささと終わらせたい。早くユカリを正気に戻すべきだ。


「ええ…どうしたんですか?」

「んー?ユカリお姉ちゃんが落ち込んでたみたいだったから僕が元気を出そうかな?と思って。嫌だった?」

「いえ、嫌と言う訳では…はっ!?これは夢なのでは?そうか…夢だ!」


 どうやらユカリはこの事実を夢だと認識したみたいだ。まあ中々というか俺がこうやって子供に帰ることも無いしな。夢だと思われても仕方がない。


「よしよし。ユカリお姉ちゃんはもう元気になりましたよー!」

「わーい。やったー。じゃあお休み」

「え?」


 元気になったと言ったので魔法で眠らせる。この〈スリープ〉は自分より弱い者にしかかからないが、逆に言えば俺は誰でも眠らせる事が出来る。


 眠らされたユカリは俺を離しバタリと横になって眠る。このまましばらくは今あったことの夢を見続けるだろう。


「…この演技疲れるんだよな。ミラ終わったから膝枕するんだろ?」

「え?あ…はい!」


 俺はミラも膝に再び頭を置いて横になる。もう最近色仕掛けが多すぎて膝枕程度では反応しなくなってしまった。俺の純情な心はいったいいずこへ?


 この部屋にはシエラとシェンもいたが、2人は俺のベッドの上で普通に寝ていた。特に気には止めなかった。


 そしてしばらくミラに膝枕をされた後、時間が来たようなのでシエラと交代した。シエラの膝はミラよりも少し固かったが、それでも女性の膝だ。ものすごく心地よかった。


「さて…そろそろカルロスは聖王国に着いた頃だろ。」


 2人の膝枕(される側)を終えた俺は、謁見の間の玉座に聖騎士を全員集めた。阻害結界を張っているので逃げられもしないし、防御結界で壊せもしないので事実上檻と同じなのだが。


「えっと、ブラフォードさん。何か言いたいことは?」

「……」


 ブラフォードさんはずっと黙りこくっている。俺を殺そうとした時はすごく威勢よく罵声を浴びせていたのになんたるざまだ。周りの聖騎士たちも心なしか元気が無い。多分ブラフォードさんの調子に乗った行動に一緒に乗ってしまった事を後悔しているんだろう。


 逆にブラフォードさんに乗る前に俺が報復する準備は出来ていると言ったところでやめるべきだったと気づけたはずなのだ。今になって報復を恐れても遅い。


「じゃあ俺はいまから聖王国に乗り込んで来るわ。聖騎士さんたちの見張りはオニマルとかよろしくね」

「あいよ。任せておけ。まあ出れないけどな」

「ま、待ってくれ!こんな事態を起こしてしまったのは俺の責任だ!俺だけで済むとは思っていないがどうか俺の命だけで勘弁してもらえないだろうか!」


 ブラフォードさんが必死に提案している。聖騎士長と魔王の命が釣り合うのならいい世の中じゃないか。


「えー…嫌だ」

「そ、そんな…」

「じゃあ俺はカルロスに連絡でも取るとするか」


 俺は念話でカルロスに語り掛ける。


(おーい、カルロス?いるかー)

(……こちらカルロスです。どうなさいましたか?陛下)

(そっちは聖王国に着いた?)

(はい。今は聖王と会談をしています)

(そっか。じゃあ今から俺もそっちに向かうわ)

(畏まりました。気を付けておいで下さい)

(分かった。じゃあね)


 念話を切り、カルロスの魔力を〈魔力探知〉で探す。


 もしかしたら魔力を探知して、それで見つけた場所に転移できるのではないか?と思ったのだ。それで試行錯誤を重ね、生み出したのが〈魔力転移〉だ。


 〈魔力転移〉は誰かの持つ魔力の近くに転移できる魔法だ。ただ距離が離れれば離れるほど転移のコントロールが難しい。だが聖王国ならばおそらく離れても数十m程ですむはずだ。そして知っている人物の魔力しか探せないところもデメリットだが、逆に魔力さえ知っていればどこにでも転移することのできるストーカーにとってはたまらないような魔法だ。…俺はストーカーではない。


 聖王国の方面にカルロスの魔力を発見した。〈魔力転移〉で知っている魔力しか転移は出来ずとも、〈魔力探知〉でどの魔力を持つ人が、どこに、どれぐらいいるかが分かる。カルロスは本当に聖王と話をしているらしい。


「じゃあ今から行ってくるからミラたちも待って」

「はい、行ってきてください」

「うむ。くれぐれも騒ぎを起こさないようにの?」

「…聖王国を破壊したらダメ」

「分かってるってば。じゃあ行ってくる。〈魔力転移〉」


 魔法を発動し、カルロスの出来るだけ近くに転移する。


 転移した先は天井にたくさんの宝石がちりばめられたシャンデリアなどが付いた豪華な廊下だった。おそらくここが聖王国の王城だろう。カルロスの魔力を頼りに少し歩くと、カルロスが居るであろう部屋の前についた。だがその前にはいかつい装備をした兵士が2人。


「ん?どうした坊主。迷子か?」

「いや、この中に用事がある」

「は?この中は現在聖王陛下がおられる。入ることは出来ん。ほら子供は帰った帰った!」

「何だと!?俺は子供じゃない!」


 とりあえずカルロスに気付いてもらうために駄々をこねてみる。耐え切れなくなったのか兵士の1人がドアを開けて話している。


「城に子供が迷い込んでいたもので!」

「だから…俺は子供じゃないの」

「何を言っている!どう見ても子供だろうが」

「…陛下!」

「ん?…おお!カルロスか!」


 どうやら気が付いてもらえたようだ。カルロスがすぐに部屋から出てきて、跪く、いや…ここでは止めようよ。


 部屋から豪華な服に身を包んだ50代であろうおじさんが出てきた。感覚でもわかるが、見ただけで分かる。この人が聖王だろう。


「さぁ!陛下も入ってください!聖王陛下もいいですよね?」

「…ああ。というかこの子供は誰だ?」


 聖王だろうおじさんが俺を見て首を傾げている。


「あ、紹介遅れました。この方が私の所属するリアン連合王国国王ソーマ様です」

「初めまして。ソーマです。あなたが聖王で合ってますか?」

「!!…あなたが…本物か?」


 聖王は顔を真っ青にしている。体も震えている。トイレでも我慢していたのかな?まあいいや。この兵士には色々とバレたくない問題もあるから下がってもほしいな。


「陛下。詳しい話を中でしましょう。聖王陛下もそれでいいですか?」

「あ…ああ。警護兵よ。下がってくれ。というよりしばらく王城の見回りをしていてくれ」

「「はっ!畏まりました!」」


 警護兵の人は聖王に敬礼をしてどこかへ行ってしまった。そして俺はカルロスに部屋の中に連れ込まれた。そしてなぜかソファの上座側に座るよう言われたのだが、俺にはやることがある。


「そっちの聖騎士長に「糞ガキ」と罵倒されたのでここでは元の姿に戻ります」


 俺は姿を変える魔法を使い、15歳の俺の姿に戻る。服装も霧の中で変えた。普段着だが。俺は姿を変える魔法で意識を失わないように努力した。そのおかげで黒い霧の中は出れないが自由に動けるようになったし、意識も失わなくなった。これで俺の視線が高くなる感じが分かるようになった。あまり気持ちいいものではないが。


 黒い霧が晴れるとそこには鏡に映っていた先ほどの小さい俺ではなく、普通の俺が立っていた。鏡で見ても俺はこの姿の方がしっくりくる。


「どう?この姿」

「やはり先ほどのお姿もかわいらしかったですが、このお姿の方が私個人としては凛々しくてカッコよく見えます!」

「ん?ありがとう」


 カルロスからお世辞か本音か分からない返事をもらっておき、カルロスの横に座る。


 ふとお聖王を見るとぐったりしている。今にも意識が飛びそうだ。大丈夫だろうか?


「あのー…大丈夫ですか?」

「…はっ!?申し訳ない!魔王にこのような姿を見せてしまって!」

「ああ、気にしないでください。ところであなたが聖王で会ってますか?」


 さっき聞いたのだが答えてくれなかった質問をもう1度する。これで違ったら面倒くさいことになる。


「私が聖王国聖王アレクサンダーだ」

「アレクサンダーさんですね。もう1度言いますが俺はリアン連合王国国王兼魔王のソーマです。そんなに硬くならないで軽く行きましょう。今回は別に正式な対談ではないので。あ、俺の事はソーマで結構です。様とか魔王とかはいりません」

「ではソーマ殿でよろしいか?」


 アレクサンダーさんは少し深呼吸をすると落ち着いたようだ。顔が真面目だ。だが目は怯えている。


「それでいいです。さて、どこまでカルロスから聞きましたか?」

「ソーマ殿の国にうちの聖騎士が勝手に攻め込もうとしたところと…報復の準備は出来ているという所まで…」

「全部ですか。まあそれはカルロスをこっちに送るまでの話なのでその後の話もあります」

「…結局聖王国は滅ぼされるのか?」


 ん?滅ぼす?どうやらアレクサンダーさんと俺の間で何か勘違いが生じているようだ。


「結論から言いますと、聖騎士たちは全員無事です。そちら側に何か求めたり、国を滅ぼすつもりもありません」

「…良かった」

「ただし、2つだけお願いがあります」

「な、何だ?私にできる事ならば何でもしよう」


 アレクサンダーさんは緊張しているのか汗をびっしょり掻いている。魔王がどれほど恐れられているのか何となく分かった。


「そんなに難しくはありません。1つ目はうちの国と条約でも連合でも構いません。とりあえずリアン連合王国と聖王国が仲良くやりましょう!って言う約束を結べればいいです。出来ますか?」


 俺たちの国はまだ色々と国として不十分な点がいくつもある。特に交易の面では鎖国のようになっている状態だ。聖王国からは遠いが、別に運べない距離…ではない。だけど食料とかは無理なので、工芸品などを輸出入出来ればいいと考えている。


「それは出来る。だがどのような条約を結ぶつもりでいるのだ?」

「それは何でもいいです。友好条約でも魔聖連合みたいな感じでも何でも。ただリアンと聖王国が交易を行えるような感じが良いですね」

「交易…か。さすがに聖大陸から海を挟んでそちらの国までとなると難しいかもしれないな」


 その問題は出ると思っていた。そのためにもう改善の策はうってあるのだ。俺優秀。


「そう来ると思って、こことリアンを繋げる転移門を用意しました。馬車程度なら通れるので簡単に行き来できます」

「な…そんな物があるのか!?」

「作りました」


 ただの門の形の四角い枠に〈エンチャント〉で片方の門を〈ワープ〉出来るように結ぶだけだ。4つ作れば行く用と帰ってくるようで2つの転移門を置ける。これで転移してすぐの事故も防げるだろう。


「なるほど…さすがは魔王。分かった。では明日にでも書類をまとめておこう。それで2つ目の要求は?」


 もっと時間がかかると思っていたのだが、意外と手っ取り早く事が進んで良かった、と安心した。


「2つ目は聖王国の知識をうちの国も有効活用したいんです」

「というと?」

「簡単に言えば聖王国の国運営のシステムだとか、どうやって国を動かしているのだか言ったところです。と言ってもこれは俺が見た物だけを取り入れたいのでアレクサンダーさんから許可をもらえるだけでいいです」

「分かった。好きに見てそちらのより良い国づくりに役立ててほしい」

「ありがとうございます。えっと…書類やらに時間がかかるようであれば、一旦聖騎士たちを引き取りに来てもらえませんか?というか謁見の間にいるんですけど軽く一喝してもらえれば…なと」


 俺が聖騎士にどうこう言う必要はない。裏切られたのは聖王なのだから聖王が処分を下せばいい。ただ俺としては止めさせたり、死刑は望んでいないけど。


「それに関しては本当に申し訳なかった。ソーマ殿の言いたいことは分かったのだが、どうやって行くのだ?」

「転移します。今からで大丈夫なのであれば30分もかからずに帰ってこれるかと」

「では頼めるか?なるべく早めにお願いする。何せ時間が経てば私がいなくなったと大騒ぎになるからな」


 まあそうだろう。いきなり会談途中の聖王がいなくなったなんて事になれば大事だ。国中が混乱に陥るだろう。


「分かっています。では行きますので掴まってください。カルロスも」

「うむ。分かった」

「畏まりました」


 カルロスとアレキサンダーさんが俺の腕に掴まったところで俺はリアンの謁見の間に転移する。その時に聖騎士たちを覆っていた結界は解除した。でもこれから襲う恐怖で動けないだろう。

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