第40話 聖騎士
「風呂も入ったし、ぼちぼち寝ようかな…」
「あ、ソーマ様ちょうどいいところに」
あくびをしながら廊下を歩いていると、防衛班班長のカルロスが走ってきた。なぜか支給された防具を着こんでいる。
いくら防衛班の仕事として城と国の防衛をしなければならないとはいえ、つねに防具を着なければいけないわけではない。俺は仕事のない日は普通に私服で過ごすことを許しているし、みんな反対はなかった。
防衛班には俺が竜の島にいるときにあらかじめ支給品の武器を防具を配布してある。武器は俺の無名の劣等版でアダマンタイトではなく、ミスリル製の武器で、片手剣と両手剣と槍のモードにはチェンジできるようにしてある。この3つを魔力を流すだけで思い通りに変えられるのだから普通に実践だと強いだろう。
防具は耐熱性に優れたタングステンで作った黒の鎧だ。タングステンは鉱石の中でもそこそこ防御力があるにも関わらず、あまり重くない鉱石だ。だから鎧には向いている。タングステンで作ったといっても部分的に使っているだけだが。
「どうしたの?そんな重装備で」
「はい。それが今交代で監視塔を見張っていた者から連絡があったのですが、どうやらこの城周辺の山に敵兵らしき者の魔力を探知したそうです。今は動く気配はありませんが、おそらく近日中に何かしてくるかと」
「うん。知ってた」
〈魔力探知〉はシェンにコツを教えてもらって覚えた。本来はスキルを覚える事は出来ないらしいのだが、そこは魔王クオリティだ。ワー魔王バンザーイ。
実は花火を打つときには既に魔力を探知していた。花火は山の裏側からの反応なので打ち上げは見えないだろうが音で威嚇できないだろうか?という意味もあった。ちなみに〈魔力探知〉は自分で範囲を指定できるらしく、俺は大体50kmほどでオープンしている。
「知っておられたのですか!?」
「ああ、花火を打つときに気が付いたよ。花火はそいつらに対する威嚇でもある。花火は見えなくても音は遠くまで届くからな」
「さすがは国王陛下!どのように対策をすればよろしいですか?」
対策と言っても色々とあるだろう。攻めてくるのなら防御結界を俺が張ればいいだろうし、それがいらないのなら防衛班をフル動員させてより警戒をすればいいだけだ。カルロスの言っている対策がどれに当てはまるか分からないのでとりあえず無難な策を取る。
「とりあえずは俺が城と街に防御結界と侵入を防ぐ阻害結界を張っておく。今は国民が寝ている時間帯だ。これだけすれば今から攻められても夜まで余裕でもつ。朝になったら防衛班の何人かで国民に城まで非難するように伝えてくれ」
「はっ!畏まりました!」
国の規模が小さいからこそできる防衛手段だ。とりあえず攻めてはこないだろうが、念のために国中に2つの結界を張っておくだけで十分だろう。
「まさか…もう目を付けられることになるとは思ってなかったな。どこからだろうな…」
どこからでもいいのだが、敵対するだけなら全力で潰すだけだ、と気持ちを整えながら部屋に戻って睡眠をとった。
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「何で少し目を離したうちにあんな立派な城が経ってるんだ?」
リアン連合王国を取り囲む山脈の内の1つに野営地を張っている者たちがいた。それは聖王国の聖騎士たちだ。
聖騎士といえば聞こえがいいが、ただの聖王直属の兵士に過ぎない。聖騎士だからと言って特別な能力が使えるわけでもなく、普通の兵士よりも少しは強いだけだ。
聖王国は1年前の勇者との戦争があった後、魔王の復活を監視するためにこの野営地を作った。そこでしばらく聖王国から聖騎士たちが数か月交代で監視していたのだ。
聖大陸から魔大陸までに渡るだけで数十日はかかる。それから城まではもっと時間がかかるため、コストのかかるこの監視はあまり長くは続けられなかった。
今の野営地にいるのは聖騎士長“ブラフォード”を中心に送られた数百名からなるエリート部隊だ。戦争から1年間も音沙汰がなかったので野営地を片づけに来たところだったのだ。
しかし来てみれば魔王城は無くなり、黒い城の代わりに白い城が経っていた。そして城だけでなく街の様な物まで見えたのだ。そして野営地で国に応援を要請するかどうか話し合っていたところ謎の爆発音が鳴り響いたので急いで山頂に登ったがその時には爆発音は鳴りやんでいた。
「どうする?本国に応援を要請するか?それともこの少数で突撃するか?」
「突撃はやめておいた方が良いぜ。街の様な物がある以上魔王が奴隷を使っている可能性も捨てきれん」
「エリックか…確かにお前の言う事も一理あるな」
“エリック”は聖騎士だけでなく、人類の中でもトップクラスの実力を持つ副騎士長だ。その実直はSランク冒険者よりも上だという噂だ。
エリックが騎士長をやらないのは、ただ自分が指揮をとるのが嫌いなだけだ。
「だろ?しかも目を離していたとはいえ、1か月もないくらいだ。そんな短期間であれほどの建築など出来ない。それを可能にするのだからかなりの力を勢力を持っていると考えるのが妥当だ」
「そうだな。だとしたらやはり一回誰かを本国に行かせて現状を伝えるのが無難か」
「いや、俺からは魔王に戦闘を挑むのではなく、交渉を見せかけての暗殺が1番だろう」
「…」
ブラフォードは答えるのに時間がかかった。どちらを取るべきか。一回王に相談してからの方が応援が来たりするかもしれないし、全体的な魔王討伐の成功率が上がる。だが魔大陸と聖大陸を横断しなければいけないため、時間がかかる。その間に魔王が動かないとも限らない。
エリックの言う通り、暗殺が出来れば大幅に時間の削減が出来るかもしれない。それに魔王を討伐できれば英雄の中の英雄になれる。だが失敗する危険が非常に高い。
「…エリックの意見で行こう。もし暗殺が出来なくても話を聞いてくるだけで十分だ。それも出来ないかもしれないが」
「了解。じゃあ出発は明日でいいな?」
「ああ、エリックも今日は休んでくれ。他のみんなも既に休憩を取っている」
「分かった。じゃあまた明日な」
エリックが野営地の休憩所へと入っていった。指令室に残されたブラフォードは頭を抱える。
「…何でよりにもよって俺たちの番にこんなことが起こるんだ」
だが覚悟は決めているのだ。聖騎士として魔王討伐をして死ねるなら本望だ。
次の日の朝。日が昇りきると、聖騎士たちはリアン連合王国に向けて数百人という部隊としては決して多くはない人数で行動を開始した。
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すがすがしい朝…ではない。俺は扉をノックする音に起こされた。まだ眠い目をこすりながら扉に向かう。
昨日風呂に入った後カルロスから報告されて結界を張った後寝ようと思ったんだけど、偶然会ったミラ達から「何で結界を張ったんですか?」って質問責めされた。
答えたら国民にも伝えるべきです!と言われて夜遅くに謝りながら家を回っていた。みんなは国王がわざわざすみません!みたいなことを言っていて逆に謝られた。
「…おはよう」
「かわいい…はっ!?…こほん。おはようございますソーマさん」
俺を起こしに来て、逆に朝の眠いテンションの俺に見惚れていたのはミラだった。基本的に俺たちの寝室である3階は俺たち以外入れない。昨日ユカリが自由に出入りしていたのは俺が特別に許可を出したからだ。
「どったの?眠いんだけど?」
「すみません。ですが結構非常事態です。聖騎士と思わしき数百人の隊列がこっちに向かってきているみたいです。ソーマさんが昨日のうちに対策をしたおかげで既に国民はクランルームに避難しています」
「お、結構早かったな。でも数百ちょっとじゃ敵対してもわざわざ防衛班を竜化させる必要もないな。俺1人で十分だ」
どれほど向こうが強いのかは分からないがもし敵対してくるなら多分俺1人でも対処できるだろう。
詳しい話は謁見の間でするらしいのであくびをしながら謁見の間に転移する。
謁見の間にはシェンとシエラに4神、防衛班カルロスを除く全員が待機していた。俺は玉座に座る。まだ子供の姿だから座るというか登るといった感じだ。
「で?今の状況は?」
「じゃあ俺から報告させてもら…います」
オニマルが一歩前に出て跪く。跪くのはどうやらみんなで決めたルールらしい。国王だから敬意を示さなくてはいけないとかなんとか…。俺は正直どうでもいいけどけじめは大事だからな。つべこべ言う気は無い。
「今現在聖騎士と思われる軍勢が数百人こっちに向かっています。向こうは完全武装で来ており、昨日陛下が張られた阻害結界のおかげで侵入は阻止しています。今は交渉しに結界越しでカルロスを向かわせてい…ます」
「忘れてたけど聖騎士って何だ?」
「陛下は知ら…ご存じないのですか?聖騎士と言うのは聖王国の聖王直属の騎士部隊だ…です」
と言う事は聖王国の兵士がこの国に来ているのか…早くないか?仮に王会議が終わってすぐに俺たちが国を作るって知ったとしても聖大陸から魔大陸までの移動にかなりかかるんじゃないのか?聖王国は竜の様な素早い移動手段を持っているのかな?
オニマルが敬語を難しそうに使っているのを視線で応援する。これもみんなで決めたのなら仕方がない。
「うーん…とりあえずは話し合いが終わってからじゃないと何もできないな…もし攻めてくるつもりだったんなら阻害と防御結界で無理だしな」
俺が焦ることも無く交渉に行った者が帰って来るのを待っていると謁見の間の扉を開けて、飛び込んで来るものが1人。交渉に行っていたカルロスだった。
「痛たたた…。報告申し上げます!」
「うん。まあその前に一回鎧とか整えな?」
「はっ!」
転がりながら飛び込んできたのでガシャガシャと鎧の位置を直しながらカルロスが呼吸を整える。
「すみません。もう大丈夫です。それでは報告申し上げます!」
「はいどうぞ」
オニマルが立ち上がり、脇に下がる。そしてカルロスが俺の前に来て膝をつく。
「やはり確認をとったところ、聖王国の聖騎士でした。今回は魔王と会いたいと言う事でしたが、この国の事は全く知らなそうでした」
「ん?知らない?って事は聖王に確認とか取ってないのかな?」
聖王からの命令で来たのならば魔王が国を作ったという事は知っているはずだ。それを知らないという事は聖王も知らないのか、聖王に聞かずに単独で来たかもどっちかだろう。
「その辺は分かりませんが、陛下の事を魔王と仰っていたのでほぼほぼ確定かと」
「分かった。それで向こうはどんな要件で来たの?」
「用件は陛下との対談とここにいる捕虜の解放ですが…捕虜なぞいるのですか?」
「…捕虜?」
俺は頭の中の隅々の記憶を探すが捕虜を取った記憶など一切無い。というか捕虜なんて言葉自体こっちに来てから初めて聞いた。
「捕虜ってどういうことだ?そんな人うちの国にいないぞ?」
「陛下、私の方から1つだけ思った事があるのですが…」
捕虜という言葉でピンときたらしいのはユカリだった。どうやらユカリは捕虜について何か知っているらしい。こういう場で一回俺に許可を求めるのも国王の前では普通の事みたいだ。まだというかこの先もずっと国王としての態度に慣れる気がしない。
ユカリはかなり回復したようで、もう体や顔色も元に戻っていた。それに以前よりも楽しそうにご飯を食べてくれるようになった。ご飯の消費量が増えたが必要経費だ。
「何か思い当たる節があるのか?ユカリ」
「いえ、まだ確定ではないのですが…陛下を国王としてではなく魔王と認識しているのであれば、国民を捕虜だと勘違いしている可能性があります。おそらくカルロスは武装していた事から魔王の近衛兵だと思われた…とかです」
もしユカリの仮説が合っているとしたなら辻褄が合う。魔王は世間一般の今の常識では悪者だ。もし魔王である俺が国を作っている事を向こう側が知らないのであれば、国民を奴隷や捕虜として勘違いする可能性があるかもしれない。
さすがはユカリだな。俺が気が付かないところを冷静に判断する。やっぱ秘書にしただけはある。名前だけなのだが。
「なるほどな…。その可能性は一理ありそうかもしれない。ユカリ、いい意見だった」
「はっ!陛下のお褒めに与り光栄です!」
いつもなら俺に褒められたら顔を真っ赤にしてもじもじするユカリ褒められてもまったく顔色を変えずに対応してくるのはけじめだからだろうか?俺の方も言葉遣いを気を付けなければいけないらしいしな。
4神やミラ達もこういう場では俺の事は「ソーマ」ではなく、「陛下」と言わなければダメみたいな空気だし実際そうしてるからな。けじめだと分かっていても一般庶民の俺には重い。
ユカリからの意見が終わった所でオニマルが意見をまとめて再び俺の前に跪く。




