第39話 仲直り
「終わったな。…結構大変なんだな。花火上げるのって」
花火上げは大変だったが、それ以上に花火が終わった後に国民の拍手や歓声がそんな疲れを吹き飛ばした。
俺はみんなが帰る前にもう1度防壁に登って締めの挨拶をする。
「みなさんどうでしたか?これは“花火”といって、とある国で伝統的に行われている文化です。今回は冬にやりましたが、俺の国では夏にこの花火の打ち上げを“花火大会”という名目で毎年実施したいです。今打ち上げたのは“打ち上げ花火”という花火ですが、“手持ち花火”という手で持ってやる簡易的な花火もあります。花火大会の実施に参加してもらえる人は拍手をお願いします」
すると先ほどの拍手と同じぐらいの拍手が鳴り響いた。結構賛成してくれる人がいるみたいで良かった。もしいなかったらどうしようと考えたけど大丈夫だった。
「えー寒いので家に帰ったら暖房でゆっくり温まってください。では解散!」
俺の声に合わせて国民が家に入るのが何となく見える。大体いなくなったところでライトと花火の残骸を片づけて、転移で城に戻る。
お腹が空いたので食堂で軽い晩御飯でも食べようかと思ったので食堂に転移した。もちろん誰もいない。
「うーん…軽食か…。何がいいかな?あ、そうだ!バイオレットが来た時に残ったアイスがあるな。あれにしよう」
軽食というかおやつだけど気にしない。厨房の冷凍庫を開けると業務用のアイスが入っているので取り出して、器に盛りつけて食べる。
あの時は俺は食べなかったから久々になるアイスはうまい。夏に食べるアイスと冬に食べるアイスは違うけどどっちもうまいなあ。俺は冬の方が好きだ。夏はアイスよりも水分を取りたい。
もちろん1つ2キロもあるアイスを全部食べれるはずもなく、残ったので残りは冷凍庫にしまった。
何しようかな?ととりあえず食堂から出ようとすると扉が開いていた。そしてその隙間から除く目がいくつも…。もう大体察しはつく。
「よし!誰もいないみたいだから部屋に転移しよう!」
別にわざわざ言う必要もない事を敢えて大声で言う。いじわるをしてみたかったのだ。まんまと引っかかったミラ達3人とユカリ、そしてメイド班がなだれ込むようにして食堂に入ってくる。
「あれ?いたの?」
「……」
全員がなだれ込んだ後に正座をして黙り込んでいる。なんだ?俺が不機嫌だと思われてるのか?こんなに可愛い顔をじゃないか。それに花火を打ち上げる前に言ったのに。
「…はあ。何か言う事は?」
「…済まなかった」
シェンから謝罪が帰って来る。俺の気持ちは残念ながら伝わっていなかったようだ。
「謝罪なんてどうでもいいの」
「「「え?」」」
「俺が聞きたかったのは花火を見てどう思った?って事」
「「「「綺麗(だった)(じゃった)!」」」」
みんながそれぞれの言葉で綺麗だと言ってもらえただけで俺は満足だ。
「そうか…ならいいや」
「その…ソーマ様は私たちを嫌いになっていないのですか?」
「何で?」
「え?だって私たちがソーマ様のお風呂に入ったりとか…」
「何で嫌いにならないといけないんだ?あの時はみんなの顔と行動が怖かっただけだぞ?頭を冷やしてくれたなら特にいうことは無いな。明日から何事もなく動けるのなら問題なーし。俺は今から風呂に行ってくる。入ってもいいけどオニマル達とか内政班に自分の体を晒す覚悟があるならな」
そう吐き残して転移で脱衣所に即行する。もちろんオニマル達がいるなんて嘘だ。そんなの知らん。もし本当に覚悟を決めてきたのなら仕方がないけど一緒に風呂に入るだけだ。特にミラたちは経験上誰がが行っていようがそこに俺がいれば問答無用に入ってくる。だからどうせ1人で入れないだろうと思っている。
最初にカゴに入れた服を回収して今の服を突っ込む。そういえばどうやら風呂に入る時間が班ごとに決められているみたいで紙が貼られていた。それによると、内政班と防衛班が3時間交代で入れるらしい。オニマル達も日によって入る時間が決められているみたいだ。
俺の欄は…「ソーマ様はいつでも入って良し!」…嘘やん。俺だけいつでも良いんですか?そんな待遇を受けてもいいんですか?いやでも中々朝とか入らんからな。
扉を開けて風呂場に入る。中には誰もいなかった。本日2回目の1人風呂だ。
いつも通りというか日本にいた時のようにまずは湯船に浸かる。
ガラガラガラ…。
「ん?誰か来たな。今の時間帯は確か…防衛班か?」
そして脱衣所からの扉が開いて出てきたのは竜の角を生やし、適度に鍛えられた肉体の防衛班の班員…ではない!?長く伸びた黒髪に日本のモデルなど目じゃないレベルのスタイル…ユカリしかおらへんやないかい!
「…ソーマ様いますか?」
「お前は馬鹿か!」
耐え切れなくなった俺はユカリに怒鳴り散らす。何のために俺が忠告したと思ってるんだ。
「ひっ!な、なんで怒るんですかぁ?」
何で怒られたのか分からないのでユカリは怯えている。こいつ馬鹿だな。確定だ。
「俺がどんな気持ちで忠告したと思ってる!俺だってなあ俺の体をお前らに見られるの以上にお前の体を他に人に見てほしくないんだよ!」
「だ、だからこそ脱衣所のカゴに服が入っていなかったから…誰もいないなと思ったんですぅ…うう…」
もう呆れるしかない。いやいや、脱衣所に服が無かったからそれなら入ってもいいとか言う問題じゃないだろ?まず何のために男湯と女湯に分けてると思ってるんだ?
「なるほど…明日から女湯と男湯の区別をなくして混浴にするか?もちろんお前のせいだぞ?」
「ええ!?そ、それは嫌です!す、すみませんでした!今すぐ上がります!」
「まあ待て。俺の忠告を無視したことは良くないけど、そこまでする心意気は悪くない。別に上がらなくてもいいよ」
何の目的があって俺と一緒に風呂に入りたいのか知らないけど一緒に入って満足するなら別に構わない。誰も言ってないけど「何でミラ達とは入ったの?」って言われたらおしまいだからな。
「え?上がらなくてもいいんですか?」
「何の目的で俺と一緒に風呂に入りたいのかは知らないけどやましい事をしないならいいよ。というかこの小さい体に興味を持つ奴なんているのか?」
別にユカリが居ようといなかろうと予定を変える気はないので、体を洗うために風呂からあがる。別に大事なところを隠そうとはしない。子供の姿だから恥ずかしくもなんともない。
ふとユカリを見ると、顔を真っ赤にして頑張って目を俺の股間から背けようとしているみたいだ。でも少しずつ顔と視線が股間に向かって動いている。
「あれほど俺と一緒に風呂に入りたかったみたいなのにいざ入るとなると話が違うってか?」
「いえ…その…男の人の裸は初めて見るので…」
「じゃあ何で一緒に風呂に入ろうと思ったんだよ。風呂に浸からないなら背中でも洗ってくれるか?この体だと背中までうまく洗えそうな気がしない」
「ふぇ!?え…あ…ええ?私が…ソーマ様のお背中を…?」
おうおう。すごい慌てっぷりだ。本当に何しに来たんだろ?
ユカリはああだこうだ言いつつも、なんだかんだで俺の背中を洗うつもりはあるらしく、俺の洗い場の横の椅子を後ろに持ってきている。
「じゃあこのタオルで洗ってくれ」
「は、はひ…」
噛むほど緊張するほどの事だろうか?たかが背中を流すだけなのにな。ユカリの洗い具合はちょうどいい感じだ。
「ソーマ様のお肌ツルツルですね」
「まあ子供の姿だしな」
「えい!」
何を思ったのかユカリは俺の背中にギュッと抱きついてきた。本当にお母さんみたいだな。
「あれ?怒らないんですか?」
「逆に感心させられるよ。怒られるかもしれないと思っておきながら行動するお前のメンタルの強さにな。」
もう既に怒る必要性もなくなってきた。そのいろんな意味ですごいメンタルがあるなら今度暇があったら俺の秘書でも頼もうかな?
「なあ、今度俺の秘書やらない?秘書って言ってもそんなに大したことやらないけど」
「え!良いんですか!?」
「まあ最初は失敗ばっかりだと思うけど責任もってやるなら俺は失敗は何も言わないから」
失敗は成功のもと、なんて言うしな。ユカリでも何回か失敗したら少しずつ覚えてくるだろう。
「やります!ぜひやらせてください!」
「任せたぞ。そろそろ離れてくれないか?満足しただろ?」
「あ、はい」
「じゃあ次俺の番だから場所変わってくれ」
「…え?ソーマ様が私の背中を洗うんですか?」
まさか自分だけやっておいてやられないなんて甘い考えを持っていたわけではあるまいし、何を驚いているんだろうか?
「当然。流してもらった相手にお返しするのがルールだ」
「そ、そうなのですか?でしたらお、お願いします」
今度はユカリが前になって俺が後ろで背中を流す。子供だからかユカリの背中はとても大きく見える。何回も言うがお母さんみたいだ。あ!あれだ!多分俺はユカリを母さんに見立ててるのかもな。
俺のお母さんは黒髪で長髪だったし、優しいのだがお節介で普通の人ならしなそうなことを平気で言ったりしたりする。
中学生になったときに何も言わずに風呂に入ってきた時はびっくりした。「いつになってもお母さんが背中流してあげてもいいのよ?」なんて当たり前のように言うもんだからよく困っていた。でもすごくいい母だ。
母さんは俺にいつも「男の人は女の人にいつも優しくルーズじゃないといけないのよ?」って言われて育った。いまだにルーズの意味が分からないけど優しくは出来てるのかな?俺はこの世界でもきちんと出来てますか?母さん。
結局ユカリの背中は俺よりもすべすべで綺麗だったし、洗う前からいい匂いがしていた。香水な何かでもつけていたのだろう。
俺がタオルで擦るたびにビクッと体を震わせるのには良く理解できなかった。
「はい、終わったよ」
「…はぁ…はぁ…ありがとうございました」
「ん?疲れてんの?」
「い、いえ!何でもありません!」
特に気にしない俺はユカリに元の場所に戻ってもらって、頭を背中以外の体を洗った。久々に体を洗ったせいか、すっきりした。
「どうする?もう上がる?」
「ソーマ様はどうするんですか?」
「俺はもう少しいろんな風呂を堪能するかな。自分で作ったけど露天風呂とか気に入ってるからな。お?今日は星とか見れそうだ」
「私も行っていいですか?」
「いいぞ。でも頭あまり濡らしたままで行くなよ?ユカリの髪の毛は長いから凍るぞ?ちょっと待ってて」
俺はユカリの髪を軽く絞ってあげる。絞ってから気づいた。女性の髪は命の次ぐらいに大切だから気安く触ったらダメだと母さんに口を酸っぱくして言われていたことに。
「あ!ごめん!髪の毛触っちゃって!」
「え?どうしたんですか?」
「いや、女性の髪の毛は命の次ぐらいに大切だから気安く触るな!って母さんに言われてたんだけど…忘れてた。その…綺麗な髪だったらつい」
「えへへ…ありがとうございます。ソーマ様ならいくらでも触ってもいいですよ?最近ご飯も食べてなかったし、ストレスも溜まっていたので絡まったりとか抜けたりとかしてません?」
「いや…特にないな。普通にさわり心地のいい髪だった」
ストレスが溜まると髪の繊維質だっけ?か何かが悪くなって抜け毛ぎみになったりとか毛先が痛んだりするってシャンプーとかリンスのCMで聞いた気がする。
髪の毛の水分もある程度取ったところで露天風呂に行く。露天風呂へはガラス張りの扉を抜けた先にあるのだが、扉を出てから露天風呂に浸かるまでが寒い、と思った。前世なら。
「寒いですね…早く入りましょう」
「そんなに寒くないな」
こけない速さで歩き、湯船に素早く浸かる。この温泉は常に1定の温度のお湯が出る仕組みだから真冬の外でもお湯はそれほど冷たくない。俺は雪国出身だから真冬の露天風呂は何回も経験している。湯船の枠の石の上に乗っている雪を温泉に溶かして遊んだりとか結構した。あの溶ける感じが何とも見てて気持ちよかった。
ここら一帯は冬でも気温は氷点下を下回らないくらいなので、雪はあまりつもらない。だから雪合戦とかスキーとかが出来ないのだ。本当にそれは残念だった。
俺はよくテレビで東京の方で最低気温が2度とか3度とかの時にインタビューで「今日は寒いのでしっかり着込んできました」とか言って、普通に氷点下10数度になった時に俺らが着るレベルの厚着をしていて「何が寒いじゃー!2度や3度でぐだぐだ言ってるんじゃねー!」とテレビにキレた事があった。
でもいざそういう土地に来るとこれぐらいの寒さで寒いって言っている人を見ると怒りよりも環境の違いだよな…ていうのが先に沸いてくる。
「ふう…やっぱり露天風呂は気持ちいいなー」
「ソーマ様?」
「んー?」
「このお風呂とか先ほどみた花火とかってどの国で知ったのですか?聖王国にこんなのなかった気がするのですが…それとも聖大陸の小国にありましたっけ?」
そういえばユカリにはまだ俺が異世界からきたことは告げてなかったけ。
「内緒」
「ええー!教えてくださいよー!」
「じきにな。いつか分かる日が来る。それまで楽しみにしてたらいい。風呂とか花火以外にもみんなが知らない物はいくらでもあるからな」
あえてもったいぶるのは意地悪でも何でもない。今言ったところで理解できないか驚かれるだけだ。どうせならもう少しタイミングを遅らせたい。
露天風呂で温まった俺らは長い間風呂に入ったのでのぼせないために風呂から上がった。
「ソーマ様、いつ子供の姿から戻るんですか?というか戻れるんですか?」
着替えている途中にユカリが聞いてきた。ユカリはてきぱきと着替えを終わらせ、ドライヤーで髪の毛を乾かしている。長いから大変そうだな。
「いつでも戻れるぞ?特にいつとは考えてないな。あまりにも不便だったらすぐにでも戻るけど今のところ不便でも何でもないからな。何でだ?」
「今のソーマ様の方が可愛くて私は好きだな…なんて。あ!いつものソーマ様も好きですよ!?どっちかって言われたら悩みますけど…」
女性陣には小さい俺の方が人気のようだ。最近気の張り過ぎらしいからもう少しこの姿で過ごしてもいいかな?
「じゃあ俺は寝るわ。お休みー」
「おやすみなさいソーマ様」
男湯と書かれたのれんの前で俺とユカリは別れた。何とも変な感じだった。




