第37話 進歩
そしてちょうどミラとシェンとシエラの3人組に出会ってしまった。何やら焦っているのか急いでいるのか息が上がっている。
「ユカリさん!心配したんですよ!?いきなり部屋からいなくなって!」
「そうじゃぞ!今まで1度も部屋から出ず、飯も食わんでおって!そんな体になってしまったのか」
「…すぐにご飯を食べよう」
「みなさんありがとうございます。私も立ち直ったので安心してください」
俺は今ユカリの後ろに隠されている。なぜかは分からない。でもバレたらまずい状況だというのは伝わってくる。
ミラ達が俺の看病に行くのが遅れたのは今日もユカリに声をかけようと部屋にいったら部屋が空いていて、誰もいなかったからだそうだ。そして城中を1階から順に捜索して3階まで来たという事らしい。
「すみません。迷惑をかけました。私はこれからご飯を食べに行きますのでお三方はソーマ様の看病をお願いします」
「分かりました。ユカリさんもしばらくは休んでくださいね?」
「はい、ありがとうございます」
そしてユカリとその真後ろで隠れさせられている俺が3人とすれ違った。何事もなかったかと思いたかった。でもダメだった。シェンが強すぎた。
「おい、ユカリ。後ろの子供はだれだ?」
「…え?」
まずい…冷や汗が止まらない。普通にシェンは聞いているみたいだけど怖すぎて後ろを振り向けない。振り向いた時のシェンの顔が分からない。
「あ、本当だ。誰ですか?」
「…男の子?ユカリの友達?弟?」
「あ…あ…えっと…この子は…この子は…私の眷属です!魔獣界から呼びました!」
おいーー!嘘をつくならもう少しまともな嘘をつけ!そして動揺し過ぎだ!へたくそなのか!
「…おい…嘘つくの下手なのか!」
「…だってーバレるとは思わなかったんです!」
3人に聞こえないレベルの小声で言い合っているとシェンから声がかかる。
「そうか…眷属なのか。だったら我も見てみたいな。見せてくれるだろう?」
「あー!私も見たいです」
「…私も」
ダメだー!明らかにシェンが確信を掴んでる気がするー!仕方ない。命の1つぐらい捨てる覚悟で行こう。
俺はゆっくりまるで油の切れたロボットのようにギギギ、とシェン達に向かって振り向く。服はユカリに会う前からいい感じのサイズのを新しく作った。色も違うけど多分顔の雰囲気でバレる。
「…やはりマスターか。起きたのならそうと言って欲しかったぞ?じゃが何故そんな姿をしておるのだ?」
「…あ、ソーマだ。その姿どうしたの?」
「あれぇ!?ソーマさん!?え?え!?だって…さっきまで…ベッドで…あれぇ!?あれれ!?何で!?子供の姿でぇ!?」
「「済まなかった(ごめんなさい)!!」」
俺とユカリは息ピッタリに土下座する。シェンはマジで見抜いていたようだった。ミラはさっきまで俺が寝ていた上に、いきなり子供の姿になったことに驚いている。シエラは可愛いものを見る目でこっちを見ている。
俺は昨日の夜から起こったことを全て話した。ルシファーから1週間の出来事を聞いたこと。ユカリが俺が昏睡状態になったことで閉じこもり、死にかけている事。国民を含めた全員の士気が下がっている事。それの原因である俺の昏睡は自分自身を大事にしなかったことによる過労で倒れたという可能性が大きいという事。それを解決するために子供になろうと思って目覚めたら体が子供になった事。そのままユカリを慰めに行ったことなどすべてだ。ユカリと話した時の内容はもちろん言わない。さすがにあれはダメだ。ミラ達とユカリが現在俺が知っている限りで持っているスキル(俺が勝手に読んでいるだけだが。)嫉妬が発動してしまう。
「なるほどの…大体の話は呑み込めた。今回は我らのためにマスターが命を簡単に投げ出せるような人だと知っておきながら大丈夫だと安心しておった我らも悪かったのう」
「…ソーマごめん。今まで気が付かなかった」
「すみませんでした!ソーマさんの頑張りが命を削っていたなって…知らなくって」
俺たちが土下座して事を話したら逆に土下座された。
「いや、俺が悪いんだ。確かにルシファーの言う通り俺は自分を大切にしなさ過ぎた。その結果がこれだからさ。本当にみんなには迷惑をかけた。特に国民にはなんて言ったらいいか…」
「その辺は気にせんで良い。国民や竜たちには我の方から説明しておこう。最近マスターは働きすぎたのだ。過労で倒れただけじゃ、とな」
「…助かる」
俺の方から言っても多分ダメだろう。ここはシェンが言う方が説得力がありそうだからお願いした。
「オニマル達にも謝らなければないけないな。今どこにいるかな?」
「今なら多分防衛班の訓練をしてますよ?」
「ん?内政班なのに?」
「はい。あまり強い人がいないので」
と言う事は城壁の外か中にでもいるのだろうな。でもその前にユカリのご飯の方が先だな。
「分かった。まずユカリのご飯を食べさせる方が先だな。3人は悪いけど俺の事をオニマル達に伝えてきてくれないか?後で行くから」
「分かりました」
「承知した」
「…分かった」
3人は2階の階段へと駆けていく。もう3人も俺のトラブルに多少は慣れたみたいだな。俺が悪いけど毎回毎回泣かれては困るからな。
「ミラさん達は随分と落ち着きがありますね」
「まあ俺がこうして意識無くしたりとか数日寝込んだりするの3回目か4回目ぐらいだからな」
「そんなに頑張っていたんですか?」
「頑張ってなくても俺はトラブルメーカーだからな」
「自分で分かっているなら治したらいいんじゃないですか?」というユカリの視線を受けながら食堂を目指して歩く。
「さて…まずは何から食べてもらおうかな?ラーメン辺りがいいかな?」
とりあえず思いついた物からどんどん作っていく。醤油ラーメンを初め、塩、味噌、豚骨のラーメンにうどんとそば。これらはあまりたくさんは作らない。どんぶり半分ぐらいかな?
炭水化物だけじゃだめだからしっかり他の栄養も取らせる。次はタンパク質。豚肉の生姜焼きに牛の焼き肉と鶏の焼き肉。いろんな種類の魚焼きなどだ。
野菜ももちろん取る。この辺はサラダあたりだな。野菜はサラダで取るか野菜炒めが無難だ。
「…作り過ぎた」
量を1人前よりも減らしているとはいえ、頭の中に思いついた物をどんどん作ったら作り過ぎた。テーブルの上には大量のご飯が並んでいる。
「うわーー!これ全部食べていいんですか!?」
「ああ…うん。いいよ」
意外とユカリは嬉しそうだ。そしてスプーンとフォークとナイフで食べ始めた瞬間物凄いスピードで減っていく。いやスピードというより1口に頬張る量が異常だ。
麺なんて口に入れた瞬間もう次の麺を口に入れている。のどに詰まらせるとかの問題ではない。口と胃が繋がっているかのように吸い込まれていく。
「はあー…おいしかった!」
「なんて奴だ…まだ5分ぐらいしか経ってないぞ?」
あれだけの量を5分ほどで食べきってしまった。そしてまだ余裕そうというまさに化け物。俺の求めていた食いしん坊系女子とは何か違う。早食い系女子は好みじゃない。
「結構お腹いっぱいですよ?」
「ああ…そう。頼むからもう少しゆっくり食べてくれない?思ってたのと違う」
「いやー、いつもはゆっくり食べてるんですけど…あまりにもおいしくて…」
おいしかったんなら別に言うことは無い。皿をてきぱきと洗って片付けると、次はオニマル達のいるところに向かう。
そしておいしいと言ってくれたことももちろん嬉しかったが、ユカリの顔色が戻ってきているのが何よりもうれしかった。
ここでも転移を使いたかったが、ユカリの止められた。というか肩車された。
「何のまねだ?」
「えへへ…お母さんごっこです」
「いやいや、肩車はお父さんだからな?お前戦士じゃないのにどこにそんな力隠してるんだよ」
「あれ?そうなんですか?でもいいじゃないですか。今は子供なんですからお母さんに甘えてもいいんですよ?」
分かった。こいつも調子に乗らせるとダメなタイプだ。というか飯を食って回復したんだろう。先ほどまでとはテンションが違う。それにしてもこいつ俺に気持ちを打ち明けてから俺に会った時よりべったりくっつくようになったな。まあ…悪くはないとだけ言っておこう。
調子に乗ったうちの女性陣は手が付けられないのを知っているため、肩車されたままオニマル達の元へ向かう。
一応訓練場みたいなものを城壁の北側の外に作ってはあるのだ。ここは魔王がいるからかは分からないがあまり魔物がいない。だから城壁などいらなかったのだが、何となく会った方が城っぽいなと思っただけだ。
訓練場と言っても草原の草を刈って動きやすい土地にしただけの簡単な訓練場だが、それでもたまに魔物と戦う機会があるかもしれないし、訓練場を円形にして防御結界を張ってあるから闘気を出したり、本気で攻撃してもまったく大丈夫なようにしてある。
「おっすー」
ユカリに肩車されたまま結界をくぐって訓練場の中に入る。訓練場は半径50mはあるので150人の防衛班など簡単に入る。
「ユカリ…と…ソーマ様…か?」
「そだよ。色々と迷惑かけてごめん」
オニマルが戸惑うように聞いてきたので軽く手を振っておく。あんまりはしゃぐとユカリから落ちる。というか俺の足をユカリががっちりと掴んでいるからどうあがいても落ちる事は無いと思う。
「シェンさん達から子供になったとは聞いてたが…まさか本当に子供になってるとはな」
「俺もびっくりしたよ。でも体が子供になってるだけだから心配すんな。中身は変わらん」
「そうなのか?それと…何でユカリに肩車されてるんだ?」
「あれ!?私が復活したことは何にも触れないの!?」
ユカリが話のネタにもされない事にお怒りのご様子だ。俺の足を掴む力が強くなっていく。
「あ?どうせソーマ様が起きたらお前も元気出すだろと思って気になんかしてねえよ?なあマサムネ?」
「ああ、特に心配はしてない。お前もだろ?ユウキ」
「い、いや…僕は心配してたよぉ。だってご飯まで食べないユカリは初めて見たんだもん。…あの食いしん坊が…」
ユウキが心配していたと言ってくれたおかげで俺の足は折れずに済んだ…と思った瞬間ユウキからユカリへの悪口のような言葉が聞こえ、俺のユカリにつかまれている部分の足が悲鳴を上げた。
「っ!?」
俺はなんとか声を殺す。
「ん?ソーマ様どうかしました?」
何かあったのかと心配そうに聞いてくるユカリ。その顔は青筋が何本かたっていたが、それは俺に向けてではないと分かっていたし、何よりユカリ自身が俺の足首を粉砕したことは気が付いていないらしい。
すぐさま回復魔法で粉々になったであろう骨を治したので幸い痛みが治まるのは早かった。
もう肩車しなくてもいいのではないか?と思ったけどダメだった。まだユカリ様は満足いかないみたいです。
訓練場内ではマサムネが剣を訓練を行い、ユウキが弓の訓練、オニマルが闘気を扱う訓練を行っていたらしい。あのユウキが人前で何かを教えていたなんて…成長したな。
訓練場に入ってからずっと俺の事を防衛班のみんなが見ている。オニマルが「あ?この子供はソーマ様だぞ?」と説明すると一同が声をそろえて驚いた後、平服し始めた。
「いや…あの…やめてほしいんだけど。俺はそんなに偉くないし…その…平伏される程頑張ってもいないから」
「いえ、ソーマ様は我々防衛班の目標です」
「うん…誰?」
1人の竜人が俺の1番目の前で平伏していた。正直誰だか分からない。まだ全員の名前を知らない。
「自己紹介が遅れました。私は赤のエレメンタルドラゴンでこの防衛班の班長を務めさせてもらっています“カルロス”と言います。以後お見知りおきを国王陛下」
「そして俺が副班長の1人。“アーロン”だ。よろしく頼むぜ国王陛下!」
「…副班長の1人“アルバート”だ」
防衛班はいつの間にか班長と副班長を決めていたらしい。カルロスが火のエレメンタルドラゴンで冷静に物事を判断できるタイプだな。
アーロンは土のエレメンタルドラゴンで軽い感じのするどこか腑抜けているが絡みやすいタイプだ。
アルバートは水のエレメンタルドラゴンで無口で大人しいけどしっかりしているタイプだな。
「なるほど…3人ともよろしく頼む」
「「「はい(おう)(ああ)」」」
それぞれから全く違う言葉で返事をもらったところでなぜか俺も訓練に参加することになった。しかも教える側に。
「何で俺が指導するんだ?というか何を指導するんだ?」
「いや…みんなに聞いてみたら国王の力が見たいんだとさ。ちゃんとギャラリーもいるぞ?」
ふと見るとオニマルの傍にルーカスとエマがいた。俺の力が見たいって…お前らか。
全力を出せば自分で張った結界なんか薄い氷のように割れるので本気は出さない事を前提でやることになった。一応危ないから結界からみんな出てもらった。
防音結界は張っていないので音などは聞こえてしまう。そのため防御結界の外にいるオニマル達の外に防御結界を張った。これで俺とオニマル達は話せるが、オニマル達より外の人は何も聞こえない。
「よーし。じゃあ行っくぞー」
「ちょっと待った。何をやるんだ?」
オニマルから待ったがかかる。そういえば何をやるかの説明はしてなかった。
「あ、忘れてた。今回は魔法をやろうかな。剣術を見せても見世物になるのはせいぜい斬撃を飛ばすぐらいだから」
「はあ!?斬撃なんて飛ぶのか!?なあマサムネ?」
「俺は飛ばせないな。それこそ音速を軽く超えないと飛ばないぞ」
だから俺の斬撃は音速を超えるって意味なんだけどな…。まあいいやさっさと魔法を打とう。ユカリが期待と興奮に満ちた視線を送ってくるからな。
「さてと…何の魔法で行こうかな?じゃあ綺麗な魔法でもやるか。〈アイスクリスタル〉」
俺が地面に手を付けると、防御結界内に綺麗な氷の水晶がいくつも出来上がった。
「うわーー!綺麗!」
エマから歓声が上がるとみんなからも次々と拍手や歓声が上がる。でも〈アイスクリスタル〉の綺麗なところはここじゃない。
「じゃあ行くぞ」
指を鳴らして〈アイスクリスタル〉を爆発させる。すると氷の水晶が結晶になって光を反射しながらキラキラと地面に落ちていく。ダイヤモンドクリスタルを魔法で再現した感じだ。
「「「「……」」」」
みんな静かに氷の結晶を眺めている。〈アイスクリスタル〉は敵の足元に出して突き刺す魔法だが、俺はそれを見世物用に改造した。
「どうだったかな?結構綺麗だったと思うけど…」
「すごいですソーマ様!」
「うわっ!」
興奮して結界内に入ってきたユカリに俺は高く持ち上げられてしまった。高い高いをされている気分だ。
「ユカリー…降ろしてくれ…へぶ!?」
「嫌です。私からのご褒美です」
高い高いをされて降ろされるのかと思ったら抱きしめられた。周りから「ヒューヒュー」だとか「さすが国王!羨ましいねー」みたいな発言が飛び交う。ち、違うんだ。これは俺が悪いわけじゃ無い!
俺は防衛班の基礎トレーニングに組み込んでほしいトレーニング法も見せたかったが、それはユカリが許してくれなかった。体が小さいことで強制的に肩車の形にさせられたのだ。もうどうしようもないので後日に回すことになった。
その後また肩車されて訓練場から出ていくことになったのだが、オニマル達からユカリについて謝られた。「ソーマ様も知ってると思うがユカリの性格だから許してやってくれ」だってさ。ユカリの本音を知っている俺からすればさっきのご褒美はユカリなりに頑張った方だったろう。
あとで褒めてあげなきゃな、と思いつつユカリに肩車をされて俺たちは城に戻る。
一応副班長としてアルバート君とアーロン君を登場させましたが、ほとんどの出番を班長のカルロス君に持っていかれるので、多分もう出てこないかと。ですが、「かなり裏で防衛班を纏めてくれている良い奴ら」とだけ書いておきます。




