第34話 竜の島③
「おーい、シェン起きろ。朝だぞ」
「んー?はっ!?」
シェンが俺の体にもたれかかって寝ていたのに今気が付いて慌てて離れようとしたけど俺が止めた。というかシェンの頭を捕まえて抱きしめた。
「マスター…何をする」
「悪い。シェンの体は温かいからちょっとこのままでいさせてくれ。今度は俺が甘える番だ」
今は朝だが、昨日時にあのあと何かあった訳じゃない。シェンが泣いていて、静かになったな?と思ったら寝ていたから俺はあぐらをかいて、シェンが俺の胸にもたれかかるという形のまま俺も睡眠をとっただけだ。シェンの体は暖かかったからぐっすり寝れたし、今は離れると寒くなるから離れたくないだけだ。
「そうか?ならば好きなだけ甘えてくれ。じゃが首だけを抱きしめると折れるから普通に抱きしめてくれると嬉しいんじゃが…」
「それもそうだな」
抱きしめ直すといっても手を後ろに回してハグするのではなく、首をお互いの肩に置いて体を密着させるだけだ。でも俺にはきつい。体を密着させるとシェンの豊かな胸が俺のまな板に当たるんだ。幸せだけど男の俺からすれば辛い。
冒険心はむくむくと沸き上がり、息子をむくむくと起こさせるのを全力で我慢する事数十分。ミラとシエラが起きた。
「あ!2人とも何やってるんですか!?」
洞窟内に響くミラの叫び声。もう狂気とも呼べるほどの嫉妬。そしてそれと同じ嫉妬を持つシエラはミラと違う方法で嫉妬してきた。
「…私も混ぜて」
シエラは溶け込むかのように俺とシェンにくっついてきた。俺の左側にシエラの体がある。もはや抱きつくではなく、ただ体を寄せ合っているだけだ。
「ああーー!!シエラさん何しれっと入り込んでるんですか!?」
「…ったく。うるさいぞミラ。ラプトルも起きたじゃねえか。ほらお前らもこっちに来て一緒に温まろうぜ」
もちろん俺の言葉がラプトルに伝わるはずがないのだが、寝起きでもラプトルと俺たちの間に1日で築き上げた友情は鈍らない。
ラプトルは俺が何を言ったのかを雰囲気と現状で察して、嬉しそうに吠えながら俺とシエラとシェンの周りにくっつく。ラプトルは4頭いて、俺とシェンが向かい合って、シエラがその左側にくっつき、ラプトルたちがその周囲を囲むようにくっついている。
そんな状況に1人だけ入れなかったミラは悔し涙を浮かべて騒いでいる。
「何でソーマさんは私を仲間外れにするんですか!?」とか「何で私じゃなくてラプトルさんたちを先に呼んだんですか!?」とか嫉妬と妬みを大量に含んだ内容で声がかれんばかりの大声で叫んでいる。洞窟内は響くからかなりうるさい。
「じゃあミラも入るか?右側空いてるぞ?」
「え!?いいんですか!それじゃあお邪魔します」
こいつちょろいな。呼んだだけでさっきの嫉妬と妬みはどこかに吹っ飛んでいった。今は万弁の笑みを浮かべて俺の右側にくっついてきた。
これを傍から見れば男1人と女3人が四角にくっつき、その周りを4頭のラプトルが囲んでくっつくという異様な光景に見えるな。でもこの島の朝は寒いから動きたくもない。
くっついたままでいるとまたもや眠気が襲ってきてラプトルも含めた全員がまた眠った。もはやこのラプトルたちは友達以上の関係になっている。なぜなら言葉は通じなくても表情や雰囲気だけで意思疎通が出来るのだから。
「…また寝てしまった」
(おお、やっと起きられましたか。ソーマ様)
かなり寝てしまったようだ。もう昼過ぎだろうか。気づけば洞窟の入り口に赤が待機していた。
「赤か。おはよう。どうした?」
(おはようございます。話し合いが終わりましたので報告に来ました)
「終わったの?じゃあみんな起こすから待ってて」
(畏まりました。それにしても随分とそのラプトルはソーマ様方に懐かれている様子ですな)
「そうだろ?こいつら見た目の割にめっちゃ優しいからな。初めて会った時も背中に乗せてくれたしな。さて…みんな起きろー!」
幸せそうに寝ているミラ達を起こす。すると次に起きたラプトルたちが赤を見て慌てだした。
「落ち着け。赤は俺らに危害を加えないはずだ…多分」
(こやつらは儂を見て驚いているのですな。下級竜は中々儂らを見る機会はありませんからな)
ラプトルたちが俺たちの後ろに隠れるようにして縮こまってしまった。どうやら赤の事が怖いらしい。
「赤よ。お主が来たという事は話し合いは終わったのじゃな?」
(はい、儂らで話し合った結果いくつかの決め事をさせていただきました。詳しい事はこの森を抜けた先の草原で話しましょうぞ)
「承知した。マスターよ、このラプトル共はどうする?」
「ん?連れてってもいいんじゃね?だってもう俺らの仲間みたいなもんじゃん」
少なくとも俺はそういう風に思ってるからな。簡単に言えばペットみたいな感じだな。草原は行った事があるから転移できるな。
俺はラプトルとミラ達と赤に触れて、草原に転移する。赤やラプトルは最初何をするのか分からなかったようだけど転移したら分かるだろ。
「…何だこれ?」
転移した草原にはたくさんの竜がいた。草原中のいたるところに様々な姿の地竜がいて、空には翼竜、海には海竜は顔を覗かせている。
俺たちは草原にある岩に登るように言われたので登る。上からだとすごく見える。地竜だけでも軽く300体はいるだろうか?そして赤を含めた7つの魔法元素の色の鱗を持つ7体のレインボードラゴンが地竜たちの1番先頭で俺たちに向かって頭を下げた。それに合わせて他の竜たちも頭を下げている。
「なあ赤。どういうことだ?」
(昨日ソーマ様が仰っていた通り竜人化できて、尚且つ言葉を話せる上級竜とファイアドラゴンやウォータードラゴンたちを全てかき集めました。ここにいるのは300体と少ないですが全員がソーマ様方の国で働きたいとの事です)
嘘だろ?これ全部が俺たちの国で働きたいって言ってくれたのか?しかも全部上級竜以上なのか…最強じゃんか。多分レインボードラゴンの鱗よりも少し暗い色の鱗がそれぞれの魔法元素を持つドラゴンたちだな。ていう事は翼竜や海竜はギャラリーなのか。
「まじかよ…おいシェンどうする?これは計算外だ。まさかこんなに集まるとは思ってなかった」
「我も同感じゃ。これほどまでに協力的な眷属は初めて見た」
(儂らが決めたのはこれだけではありません。シェン様がここに残って管理することのない様に儂ら“7天竜”が責任をもってシェン様の代わりを務めさせてもらいます。儂らの勝手な判断ですが、どうかお許しください)
と言う事はシェンは俺らと別れなくてもいいって事だ!驚いたな。これを1日で決めたのか…。
多分ここにいる竜たちはこの姿のシェンがシェンだと分かっているだろう。ミラとシエラはあまりの竜の多さに固まっている。
「…シェン。何か言ってやれ」
「し、しかし…いいのか?ここはマスターが…」
「いいんだ。この竜たちの主はお前だろ」
「…そうだな。感謝するマスター」
「気にすんなって」
シェンは大きく息を吸うと洞窟内でミラが叫んだときの声よりも大きな声で叫んだ。
「我が眷属よ!ここにいる我のマスターが作られた新たな国のために働きたい者は声を上げろ!!」
シェンの思いは竜たちに伝わったみたいだ。地竜の咆哮が飛び交う。こうして俺たちの国は竜300体という大きな力を手に入れた。
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竜たちは初めて竜人化するときは裸なので竜の島で1体1体竜人化してもらって、とりあえずの服を渡すところから始まった。もちろん竜にも男と女はある。さすがに俺が女の竜の裸を見るわけには行かないし、ミラ達に例の嫉妬で止められたので俺は男側に回って服の配布をした。男女比的には男が7で女が3だろうか?
地竜は体格がいい。全ての竜人において共通しているのが美形ということだ。竜人化した全ての竜が美男美女なのだ。それに少し年老いた竜も若い竜と同じで若い竜人の姿に変わるので見た目は全て綺麗だ。
全部が美男美女だったので美女の変なところに俺の目が行かないかとミラ達がずっとジト目でみていたのは言うまでもない。
上級竜は160体、各魔法元素の竜が20体ずつで140体の計300体だった。ファイアドラゴンでも他の元素のドラゴンでも竜人化した時の肌の色に違いは無かった。全部綺麗なピンク色をしていた。
そうそう。忘れてたけど元素を1つしか持たない竜、つまりファイアドラゴンとかは“エレメンタルドラゴン”って正式にはいうらしい。ファイアドラゴンとかは人間が勝手につけた名称で、レインボードラゴンも勝手につけたらしい。
こうして竜人化した竜たちへの服の配布や、どの竜を内政班や防衛班に回すかを決めているうちに1日が経過した。
「…ふぅ。これで1段落かな」
草原に置かれた移動式住居のリビングで俺はメモをとっていた。まず300体の竜の配属先が決まった。
赤たちはレインボードラゴンではなく7天竜というらしいのだが、まず7天竜の方であらかじめどの竜がどんなことが得意なのかをまとめてもらって、それを元に決めた。
まず女性の竜90体は全て城の家事を行うメイド班に所属してもらう事にした。やっぱ風呂の掃除だとか、飯作りは女性の方がいい。
そして残った210体の中で戦闘が得意な竜150体を国の防衛などを行う防衛班に所属させ、それ以外の竜はオニマル達が中心の内政班に所属してもらう事になった。
「お疲れさまです。今お茶を入れますね」
「ああ、ありがとな」
移動式住居の中で仕事を終わらせた俺にミラがお茶を入れてくれる。
最近ミラがすごく何かと俺に構ってくれる。なんでだろうなすっげえ秘書みたいにくっついてくるんだわ。心なしかシェンとシエラもいつも以上にくっついてくるような気がするな…。まあいいか。美女の竜がいっぱいいるからそれで嫉妬しているなんてことは無いだろう。まさか…俺の考えすぎだな。
竜の姿でほとんど違いは無くても、竜人の姿では結構違いが出る。身長に違いがあったり、スタイルに違いがあったりぐらいだが、基本全員が美男美女だから個性があってもカッコいいし可愛い。
「それで、これからどうするつもりですか?」
「んー、この後は竜たちを転移で城に連れ帰ってそれぞれ決めた班に入ってもらおうかな。オニマル達からの念話での報告によると国民たちも生活に慣れてきてるみたいだからな」
オニマル達からも定期的に連絡は入れてもらっている。結構の人がもう生活に慣れて当たり前のように風呂や料理をしているらしい。食事も全然間に合っているらしく、最近では畑を作って農作物を作れないか試しているとの報告だった。
「そうなんですか。それではもうこの島ともしばらくお別れですね」
「でも、シェンと別れなくて良かっただろ?」
「そうですね。あ、あのラプトルさん達も連れて行くんですか?」
「出来れば連れて行きたいんだけど…無理そうだな。俺らとしか意思疎通できないからな。あいつらには前もって伝えておいたよ。…すごい悲しそうな声で鳴いてた」
「…分かりました。そろそろ私たちも島から出ますか」
「だな。シェンとシエラを呼んでくる。ミラはみんなを集めてくれ」
「分かりました」
シェンとシエラは今7天竜と雑談をしている。シェンだけでいいんじゃないかと思ったけどシエラも竜に興味があるらしく話したいんだとさ。連れていく300体の竜には竜人の体に慣れてもらうためにずっと竜人の姿で過ごしてもらっている。国民に竜の姿をあまり晒したくないからな。
今回の300体ならぬ300人は竜人化を完璧に維持できる上に人間の言葉をペラペラと話せる竜を集めたらしい。だから上級竜はもっといたけどこれだけの数になった、と赤に聞いた。俺からすれば1000人とかいるよりも300人ぐらいの方が丁度いいかもしれない。竜人化した竜は人間と同じ食べ物を食べるから1000人もいたら食事の用意が大変だ。用意するのはメイド班だけど。
ミラと家を出て、家をしまった後俺はシェンの所へ、ミラは少しずつ竜人の呼びかけを行いに別れた。




