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第32話 竜の島①

 竜の島へは半日もかからずについた。一応国民にバレないように夜に出発したので今はちょうど昼頃だろう。バレないというのはシェンの竜化の姿を国民に見せたくからだ。いずれ見せる時がくるだろうが、まだ早いだろう。


「ここが竜の島か。思った通りというか違うというか」


 竜の島ってどんなとこ?と聞かれれば答えるのは難しそうだ。高いところから見ているのでわかる。ごつごつした岩場があったり、草原があったり、森のような場所があったりする。そして高い山があり、その山にエンシェントドラゴンが住むらしい。広さ的に言うとこれもまた難しい。大体佐渡島ぐらいの大きさなのかな?行ったことないけど。


「なあシェン。あの山に行きたい気持ちは分かるんだが、今回は一番標高の低いあの草原辺りに降りよう」

(何故じゃ?)

「竜の状態で降りたらエンシェントドラゴンだって分かるじゃん。だから竜人化で降りて、フードでもかぶって人間を装いながら進もう。もしかしたらシェンが治めてた時からあんま時間たってないけど色々変わってるかもしれないからさ」


 念には念を入れる。シェンがいなくなってからいろんなこと起こったと予想すべきだ。だからこそ竜化のままで行くのは危険だ。


(なるほど。承知した。しかしこの状態では草原に行く前にバレてしまうぞ?)

「だから今竜人化して?」

「ソーマさん何言ってるんですか!?ここから落ちたら死にますよ!?」

「ソーマ、それは危険」


 そんな事俺だって知ってる。多分4000mぐらいはある。酸素も薄いしな。スカイダイビングをするにしてもパラシュートが無いから自殺行為だってのもな。


「そんな事は分かってる。でも俺には転移がある。あの草原を視認した以上みんなに触れれば転移で勢いを無くしたままつける」

「もし失敗したら?」


 そんな不安そうに聞くなよミラ。俺まで不安になるだろ。


「失敗したら一回死ぬだけだ。また生き返るから大丈夫」

「そういう問題じゃないですよ!絶対痛いですよね!?」

「…分かった。私はソーマを信じる」

(我もマスターを信じるかの。死なないなら大丈夫じゃろ)

「ええー!?皆さんは大丈夫なんですか!?」


 早くしてくれないかな。俺意外と高いところ怖いんだわ。落ちる危険が無いところは大丈夫だけどここはマジでシェンの鱗から滑った瞬間落ちるからな。なら最初からミラとシエラは降ろしておいた方が良いか。


「じゃあとりあえずシエラとミラだけ先に降ろすから転移したら草原に隠れてくれよ。それでいいか?」

「それなら大丈夫です」

「じゃあ行くぞ」


 ミラとシェンに触れ、草原に向けて転移する。草原といっても腰ぐらいの草が生い茂っているだけなのだが。


「ここで待ってろ」


 2人を置き、シェンのいる位置に戻る。背中に転移できなかったらどうしようかと思ったけど何とか元の位置に戻れた。


「ただいま」

(お帰りなのじゃ。我は竜人化してもいいか?)

「いいぞ」


 シェンの体が白く光る。そして光が収まった瞬間俺は竜人化の圧力で吹き飛ばされた。


「うわ!?」

(マスター!)


 頭の中に念話が響いてくる。やばい落ち着け。幸い上に飛ばされてるから俺がシェンより速く落ちれば触れるな。


(シェン!空気抵抗をなるべく大きくしろ!大の字だ。大の字になれ!)

(わ、分かった!)


 シェンが手と足を大きく広げ、大の字になった。俺は頭を地面に向け、なるべく空気抵抗を減らす。


 距離は縮まってるが、間に合うか!?いや間に合わせる!


(まずいマスター。地面にぶつかる)

(いやまだだ!まだ間に合う!届けー!)


 俺は手を伸ばし、何とかシェンに触れようとする。そしてあと1秒ほどで地面にぶつかる時にやっとシェンに触れた。


「触った!!」


 その瞬間瞬時に〈ワープ〉を発動し、草原に転移する。


「ソーマさん大丈夫ですか!?」

「はぁ…はぁ…死ぬかと思った…」

「危なかったぞマスター…本当にぎりぎりじゃったの」

「まさか吹き飛ばされるとは思わなかった」


 あれは予想外だった。というか上に飛ばされてよかった。横だったら間に合わなった。


「…でも、〈魔王の加護〉で〈ワープ〉を使えるようにすれば良かったんじゃない?」

「「「あ…」」」


 シエラの言葉で全員がはっ!となった。


 忘れてた。そうじゃん。別にこんな危険を冒さなくても良かったじゃん。ていうか何でスカイダイビングしたんだろ。あ、俺がやりたかっただけかもしれないな。申し訳ない事をしたかもしれない。シェンもかなり弱ってるな。


「おいシェン。大丈夫か?」

「…もう駄目じゃ。我は疲れた」


 シェンはかなり弱っている。肉体的じゃなくて精神的にだと思う。聞くと竜人化で飛ぶときと竜化で飛ぶ時ではまったく感覚が違うらしい。俺もかなり怖かったんだけど…。命綱とかパラシュートが無い状態で垂直に落下する恐怖。あの時はシェンを助けるために必死だったけど、今考えると体が震えてくる。


「俺も怖かったさ。でもこんなところで道草を食ってるわけには行かない。シェンだってそうだろ?」

「うむ。そうじゃな」


 俺たちがこの島に来た目的は3つある。1つ目は現状の竜たちの動きを把握するためだ。竜たちをまとめていたシェンが突然いなくなった以上何か問題が起きているかもしれない。そして仮に問題が起きていたとして、その問題が竜の島だけで済むかどうかなのだ。以前も言った記憶があるけど竜たちが島から漏れ出したりすればシャレにならない。


 竜種はかなり強いらしい。世界最高レベルの実力を持つ「瞬光」でも中級種を倒すのが限界らしいのだ。もしもそれこそ上級種以上の竜が街を襲うような事があればそれは俺のせいだ。だから現状を確認する必要がある。


 2つ目がオニマルから頼まれたこの島で竜人化できる上級竜以上の竜に国をよくするために協力してもらえるか聞くこと。


 今の俺たちの国は国として機能していない。国民と呼べる人たちはいるし、俺を中心に国王もいる。でも内政を担当する人や国を守ってくれる人たちが全然いない。内政班は4神に頼んでいるから少しはいるけど国の防衛に関しては誰もまだ決まってない。


 オニマルからはもし竜がダメだったら魔獣から持ってくればいい、と言われたけどどうせなら魔獣界じゃなくてここの世界から引っ張ってきたい。


 そして3つ目が俺は賛成じゃなかったけど魔王である俺を竜種をまとめる新しい長にする事。これは竜種の最高責任者のシェンを使い魔にしたことで俺が竜種の頂点に立ったらしいのだ。それにより俺が竜種の新たな長に就かなきゃいけなくなった。


 俺がまとめる事なんて出来るわけもないんだから今まで通りまとめたりはシェンが行うらしい。だから実質シェンとはこの竜の島で形的にはお別れになりそうだった。


 というのも結構竜の島の管理が大変らしく、俺らの国に住みながらの管理が出来ないみたい。だから今まで通り「カオス」の一員だし、連王国の幹部としての立場は変わらないけど俺らとはあまり行動できなくなるみたいだ。


 これからも時間を見つけてはちょくちょく来てくれるみたいだけど俺としては寂しいし、悲しい。この話を聞いたのが昨日の夜なんだけど俺とミラとシエラはずっと夜シェンの部屋で泣いてた。それほど長い間いたわけじゃ無いけどそれでも毎日を共に過ごし、いろんなことを共有し合った仲が離れるのは悲しい。


 そんな事があるからこそ俺たちは草原を歩いている間もなるべく無言にならず、楽しく会話をしながら山を目指すことにした。


「なあシェン。この島にはどんな竜がいるんだ?全部が全部シェンみたいな姿の竜じゃないだろ?」

「もちろんじゃ。我の様な竜もいるが、2足歩行の竜もいるしいろんな種類の竜がいるぞ」


 シェンに詳しい話を求めたところ、そこそこ豊富な種類がいるみたいだ。“ラプトル”って言う本当に恐竜のラプトルと同じ2足歩行の小型の竜や、“ワイバーン”って言う名前の空を飛び回ることに特化した翼竜。そして海には泳ぐことに特化した海竜などがいるらしい。翼竜もワイバーンだけでなく色々といるらしい。


 上級竜以上は全てシェンの様な地竜で中級竜や下級竜は翼竜や海竜、そしてラプトルの様な小型の竜という分け方になっているそうだ。


「それだけの竜の管理なんだから大変じゃなかったのか?」

「ん?大きな管理は我がしておったが細かい管理はレインボードラゴンなどに任せておった。さすがに島の端から端まで我1頭で管理が行き届くはずもなかろう。特に海なんて無理じゃ。竜化した我は泳げんからな」


 シェンの様な地竜タイプの竜は地上と空中では動けるが水中は無理らしい。要するにカナヅチなんだってさ。逆に海竜とかは陸上では動けないみたいだ。結構面白いんだな竜って。


 海竜は海にいるんだったらどこか他の大陸に行かないかな?と思ったけどその辺はきちんとレインボードラゴンとかが見張っているらしい。そういう所では縄張り意識が高そうだ。


「竜って意外と縄張り意識高い?」

「んー。どうじゃろうな。高い奴もいるかもしれんが普通の魔物と違って頭の良さが違うからのう。知識を求めに島の外に出たがる竜もいるしの。一概には何とも言えん。我は気にしないタイプじゃしな」

「ソーマさん…何か聞こえません?」


 ミラが息をひそめながら聞いてきた。んー?確かに聞こえるな。これは…何かがこっちに向かってくる音だ。しかも一方じゃない。全方向からだ!


「おー、さっそくバレたのう」

「そんな呑気なこと言ってる場合か!?」


 まずいな。完全に囲まれてる。多分こいつらがラプトルだ。体長は2m無いぐらいだろうが前の爪が鋭い。こんなので切られたら確かに普通の人間じゃ戦えないな。


「…ソーマの言う通り。シェンどうする?ここはあなたの管轄内。どうするかは任せる」

「だな。シェンに任せるわ」

「私も任せます」


 俺らが勝手な行動をしてラプトルと敵対したくはない。向こうも警戒しているけど襲ってくる気配はないから出来れば穏便に済ませたい。もし敵対することになっても向こうの数は100以上いるから数で押し負けそうだしな。


「承知した。我が決める事にしよう。ここは何もしなくても大丈夫じゃ。ここにいるラプトルは下級の竜じゃがおそらくもう少しすればレインボードラゴンのどれかが来るじゃろ。人間に見たらそういう風に動けと伝えてあるからの」


 さすがはシェンだ。自分の作ったルールを利用しているらしい。という事はこのラプトルたちは警戒してるんじゃなくて俺らを移動させないように囲んでるのか。


 しばらくするとワイバーンたち翼竜も空で飛びまわってきた。翼竜はシェンの体に似てるけど全体的にもう少し細くて、翼が大きめだ。本当に飛ぶことに特化した体をしている。


 そしてその翼竜の中に混じっていた。地竜だろうが、体が赤い竜。あれがレインボードラゴンだろう。シェンから少しだけ聞いた話によるとレインボードラゴンは体は虹色じゃなくて、それぞれ7つの魔法元素の内一番適性の魔法元素の色が濃く出るらしい。だからあのレインボードラゴンは火属性の魔法元素の適性が一番強いみたいだ。


(貴様らは何故ここに来た)


 竜化したシェンの時のように頭の中に直接声が響くような感じ。念話とは少しだけ違う。声質的に年老いた男性のようだな。ここもシェンに任せておくか。


「…シェン。任せた」

「分かっておる。…エンシェントドラゴンとか言う伝説の竜に会いに来た!」


 シェンに言っている事は自分が自分に会いたいという事だ。俺らは笑いをこらえるのに必死だった。シェンも恥ずかしそうだ。この緊迫した空気で笑う訳にもいかないので顔を俯かせるしかなかった。


(エンシェントドラゴン様は今はいない。よって会うのは無理だ)

「なぜいないんだ?」


 ここにいるんだけどね、と思いながらも笑いをこらえるのに必死だ。でもシェンのいない間に新しいエンシェントドラゴンとかが生まれてなくてよかった。


(儂らも詳しくは知らん。じゃが人間如きに教える必要もないわ。用事はエンシェントドラゴン様に会うだけか?だったら帰れ!)


 赤のレインボードラゴンが咆哮しながら威嚇してきた。これが世界でも屈指の冒険者でも歯が立たないレベルの竜の咆哮か…。大したことないな。やっぱエンシェントドラゴンだからかシェンの威圧の方が凄みがある。


「…人間如き?貴様人間を何だと思っている!?」


 シェンが怒号を上げている。今のシェンはフードを被っていて、角が隠れているからただの人間に竜たちは見えるだろう。俺からすればシェンも最初旧魔王城の訓練場に呼んだときミラを雑魚だと認識していたみたいだから竜の方が人間以上に他種族を劣等視するんだろう。


 でもシェンは俺らと過ごす上で人間や他の種族への価値観を改めてくれた。シェンの怒号は演技だろうけど多分心の中では悲しんでるんじゃないかな?島から出ないから他種族の事は何も知らないのに勝手に自分達よりも格下だと思い込んでる竜たちが自分の眷属なのか…みたいな。


 シェンは1人称が「我」だし、語尾に「じゃ」とかつけるから偉そうにしていると勘違いされるかもしれないけど意外といい奴なんだよな。ミラとシエラにも共通する事だけど俺の事になったら誰よりも俺の事を気にかけてくれるし。俺が昨日部屋で泣いてた時も俺が泣くとは思わなかったのかずっと挙動不審だったしな。


 だからこそ、そんなシェンが好きだからこそ俺はシェンと別れたくないんだけど。


 そろそろシェンがかわいそうだから役目を変わってやるか。


「…シェン。交代だ。お疲れさん」

「しかし、いいのか?こいつらはマスターの事を劣等視するぞ?」

「劣等視されるよりもそんな事をしている自分の眷属とずっと話しているお前を見る事の方がつらい。そしてそれを悩むお前を黙って見てるわけにもいかない」

「!!…気づいておったのか」

「まあな。だからさ、任せてくれ」

「…承知した」

(おい貴様ら。何をこそこそと話しておる。さっさと帰れといったはずだ!)


 本当にうるさいなこの竜。頭の中で叫ばれると迷惑なんだよな。それにフードを被ってるとはいえシェンの正体に気が付かないとはそれでもシェンの眷属か?あ、今は俺の眷属か。


 シェンと居場所を交代して、赤いレインボードラゴンの前に立つ。

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