第31話 国民
「お、俺が時間を稼ぐから!に、逃げて!」
それは犬の耳を生やした10才ぐらいの少年、獣人族だった。なるほど。勇敢な少年か。是非ともユウキに見習ってほしいな。
「君は俺が魔王だと知って怖くないの?」
「う、うるさい!怖いさ…怖いけど、それでも俺は守るべき妹がいるんだ!」
少年の後ろを見ると、うずくまっている犬の獣人族の少女がいた。少年の妹だろう。
「君が守ろうとしている妹の他はほとんど君たち獣人族を劣等視する人間だよ?何とも思わないの?」
その勇気は褒めたいのだけれど…人間と共存する中であまり勇気は役に立たないだろう。
「確かに人間は俺たち獣人族を奴隷にしたり、気持ち悪い物を見るような目で見たりする。…でも!そんな人間にも俺の事をそんな目で見ず、友達になってくれた人がいたんだ!だから俺はそんな人間もいるから嫌いになったりしない!」
「ほう…」
確実に嫌われていると認識しているのにも関わらず自分を犠牲にしてまでも守ろうとするとは思っていなかった。
面白そうだと思ったので少年に近づいてみよう。もう〈霊気解放〉も無くてもいいや。
少年の近くに来て分かったが、少年の足は震え、今にも泣きそうな顔をしている。俺が目の前に来たことで気絶しかけている。だがそれでも気絶しないのは妹を守るためだろうか。
「親は?」
「…お父さんとお母さんはいない。妹が生まれてすぐにどこかへ行った」
「そうか…もし良ければ俺たちと一緒に暮らさないか?」
「…え?」
少年は呆気にとられてような声を上げている。養子とかそういう意味じゃなくて単純に保護下に入らないか?という相談だ。
「君の妹を守りたい気持ちは分かった。でも君だけだといつか守り切れない日が来ると思うんだ。だからさ、俺たちの国で暮らそうよ。君と妹の命は守る。俺も魔王とか言ったけど、みんなと仲良く暮らしたいんだ。最初は信じてもらえないかもしれない。でもいい人間もいるならいい魔王もいると思わない?どう?」
そんな良い魔王いるわけないだろ!って言われたら俺もう駄目だわ。この少年が固定観念にとらわれ過ぎていない事を祈るしかない。
「…妹も守ってくれるの?裏切ったりしない?」
おお!好感触。これは行けるかも。
「本当だよ。家で暮らすのもいいかもしれないけど、子供2人じゃ危ないからね。とりあえず城で暮らしてみてからかな。家で暮らすのは。俺が言っても信用性が無いな。まだ俺は15歳だからね」
「15!?15なのに魔王をやってるの?」
ほらな?年齢をバラすとすぐに驚かれる。ん?4神も驚いているって事は言ってなかったか。まあ魔王をやるのに年齢は関係ないしな。
「やりたくてやってるわけじゃ無いんだけどね。それよりも俺の言った事受けてもらえるなら手を握ってくれないか?」
右手を出す。この世界には握手の概念が無いらしいので握手しよう!と言っても通じないだろう。手を握ってくれとか初めての人からしたら気持ち悪がられるな。
でも少年は俺と恐る恐るだが握手してくれた。素直な子だな。
「良かった。これから君と妹さんは魔王の保護下に入った。名前は何?」
「“ルーカス”」
「そうかルーカス。これからよろしくな」
「う、うん。よろしく」
俺はルーカスと妹をミラ達に預ける。そして残った人々に問う。
「さて、勇敢な彼は俺たちの保護下に入った訳だけど…他に入る者は?よく考えてほしい。みんなが俺を恐れたのは魔王だと知ったからだ。じゃあ俺が魔王だと知らなかったら?この選択は俺が魔王だという事は関係ないと思う。魔王というのは単なる肩書であって、決してその人の性格を決める物ではないのだから!」
結構本気で演説をする。これによって魔王の印象が決まるのだから熱が入るのは仕方のない事だろ?
俺の演説で考えを改めたのか立ち上がり、俺の元へ来るものが数名。さっきの家族だった。まだ着替えてもいないみたいだし、風呂にも入ってないみたいだな。待ってたのか?
「すみません。私たちの命を救っていただいたのにも関わらず、魔王というだけで逃げ出しそうになりました。ですが、今は大丈夫です。私たちも保護下に入りたいです。」
「そうですか、分かりました。では、今日中に住む家と何日か分の食料を配布するのでここで待っていてください」
「分かりました」
この家族が保護下に入ったことがきっかけになり、結局全員が俺の国民になることを承諾してくれた。まあ家なんてまだ建てないし、家の周りの城下町的なところに壁も建ててない。いい機会だからみんなに見てもらうか。おっと、その前に病気の人とか治さないと。
「ミラ!これから病気や怪我をしている人の治療をする。病人やけが人はここに1列に並んでくれ!」
玉座の前で1列に並ぶように指示を出す。ミラもその横で手伝ってくれる。
結局ほとんどいなかった。病人はいなく、軽いけがをしている人が数人ぐらいだった。
次に俺の〈万物創造〉を見てもらいたいので謁見の間がある2階から外に出る。この城はピラミッドのように上に行くにつれて小さくなっていくので余ったところはテラスのようになっているのだ。もちろん柵もある。街は城の南側に建てる予定だ。みんな俺の後にぞろぞろとついてくるのは面白かった。
「さて…今から魔王としても力の片鱗を見てもらおうかな。危なっかしいのじゃないから心配なく」
一応前置きをしておいてから〈万物創造〉を発動させる。南側に街を作る。まずは300m四方の城壁より大きい1km四方の城壁を城壁の南側に作る。感覚としては城壁が頭で、街の壁が体の雪だるまだと思ってもらえれば分かるだろうか。
もちろん街の壁も同じ高さで同じソーマ印(超高密度石)の石材を使っている。北側が城壁の南側の城への入り口だけで、東、西、の防壁には300m感覚でそれぞれ出入りできる門2つずつ置いた。南は北の城への入り口と向かいになる真ん中に1つだけ門を置いた。これを基準に道を作るつもりだ。門があっても今の時点では交易など出来もしない鎖国状態だが将来を考えての結果こうした。
「「「「おおーー!」」」」
まだ街の壁を建てただけなのに周りから歓声が上がる。ここで驚いていてはついてこれないな。
「今は国民のみんなが暮らす街の周りの防壁部分を作りました。この防壁は街が発展して小さくなったらいつでも拡張できます。じゃあ次は街に中の施設をあらかた揃えます。」
次に街の通路を整備する。使うのはもちろんソーマ印の石材。門の幅が大体10mなので10mの幅で、西門から東門の2か所に真っすぐ。南門から北の城門まで真っすぐに大通りになる通路を作る。
「「「「「「うわーー!」」」」」」
何もなかった草原に突然道が出来たらそりゃ沸くわな。小さい道とかはオニマルたち内政班に任せよう。多分俺が作ったら都会になる。俺が目指してるのは自然あふれる街だからな。
「じゃあ最後にみんなが住む家を建てます」
悩んだ結果密集させるんじゃなくて適当に大通りと繋がるように建てた。数も適当にした。正直に言おう。飽きた。俺には建築関係の仕事は向いていない。適当に建てたって言ってもきちんと大通りには繋がってるから玄関から出ると大通りだけどな。
家は一軒家にした。内装は1階にLDKとトイレと風呂。2階には部屋がいくつかある。家族によって人数も違うからそれぞれのニーズには答えてあげられないけど、多分大丈夫だと思う。何かあったら工夫すればいいし。
「「「「………?」」」」
先ほどまでの歓声が急に大人しくなった。家を建てたのだが良く分からないようだ。まあ全部内政班に任せよう。俺は本当に誰かをまとめるとかそういうリーダーシップとかは無いからな。まず大勢に何かを説明するのが嫌いなんだ。
あらかたの街を作ったところで、国民を連れて謁見の間に戻る。
「これから食料を配布します。これは常温ではあまり日持ちしませんが、冷やすことで長くても1週間は持ちます。冷やす器具とかは家にあります。詳しい事はそこの4人に伝えてあるので聞いてください。」
全ての責任を4神に押し付け、食料のクリームパンとチョコパンを配る。この世界にアレルギーという概念は無いらしく基本どんな食べ物も食べれるらしいが、好き嫌いはあるので普通のパンも用意した。1人当たり1食5個と換算して1日15個だろう。多い気がするが保存が効く。4日分配布して、無くなれば城に取りに来ればいいし、余れば来ないで冷蔵庫に入れてある余りを食べればいい。
パンだけだと栄養が偏るので肉や野菜も大量に〈万物創造〉で作ってある。本当に面倒くさくなってきたから途中から全部4神に丸投げした。
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4神に内政を丸投げしてから1日が経った。竜の島に行く予定だったが、もう少し国として安定してからの方がよさそうだと4王で判断した。
オニマル達4神には〈魔王の加護〉で〈万物創造〉を食料しか生産できない上に、家の内装を変える事しかできない制限付きで使えるようにした。国民が住む家の魔力は城の魔力タンクから引かれるので実質使い放題だ。
最初は慣れなかったようだが少しづつ慣れ始めているらしい。1日しか経っていないが成長が早い。
街に問題は無いが、城側に問題があった。確実に人手不足なのだ。防衛とかではなく、家事をする者が足りなさすぎる。だがそれのために国民を働かせるわけには行かない。
「どうしたものか…」
玉座に座りながら王様らしく悩んでみる。本当に困っているのだ。国民は時間をかけてだが前世の人たちがやっていた普通の家事を覚えるだろう。そしてそれが定着するはずだ。だが城のものは全くそういうのが出来ない。シェンとシエラ、4神には無理。ミラは料理ぐらい。俺は一通り出来るが、あんな温泉レベルの大浴場を毎日掃除してくださいってなったら3日で死ぬ。
俺たち「カオス」という名の王は色々とこれから忙しい。4神に教える事も出来るが、4神は今は内政だけで精いっぱいだ。オニマルとマサムネが中心になって頑張っている。ユカリとユウキも何とかついて行っているらしい。
となると今暇なのは「瞬光」だけなのだが、一応冒険者なのだ。今は城で暮らしているがいつ活動を再開するか分からない。もし城の家事を教えてもいつかいなくなるだろう。というか6人では確実に足りない。
「やっぱ国なんて作るべきじゃなかったのか?」
「そうですね…まだ早かったかもしれませんね」
俺の悩みに隣にいるミラが答えてくれる。シエラとシェンも横にいるのだが悩んでいるようだ。俺の目の前の段差の下にはオニマルがいて、1日にあったことの報告をしてくれていた。
「なあソーマ様、俺から提案を1ついいか?」
「どうぞ?」
「今の現状では国民たちは何とかして新しい生活に慣れようと必死だ。そのせいもあって早いうちになれるだろう。でも問題は圧倒的な人手不足だ。まずは人手を増やさなきゃいけない。そうだろ?」
「そうだね。人手が足りない。俺らも竜の島に今から行かなきゃいけないし、4神も内政で手一杯。「瞬光」もいつ冒険者を再開するか分からない状況だ」
今城には4王と4神、「瞬光」にルーカスに妹のエマの16人だ。俺らは良いとして、ルーカスとエマの世話をしてくれる人もいないのだ。今は「瞬光」の主にアイシャさんたち女性陣が世話をしてくれている。だがそれもいつまで続くか分からない。
「そうだろ?俺も考えたんだ。そしたらよ、あったよ」
「本当か!?どんな方法なんだ?」
「方法は2つある。でも両方ともうまくいくか分からないし、ソーマ様が作りたい国の方針に合わない可能性が高い」
「何だ?」
「1つ目は魔獣界から呼び寄せる。魔獣といっても向こうには何も全部が魔物みたいなやつじゃない。獣人に似た奴もいる。人間と同じ姿は俺ら4神だけだがな。そして2つ目が竜の島から引っこ抜いてくる方法だ。竜人化できるレベルの竜を連れてこさせりゃかなりいけるだろ?」
確かにそうだ。もし竜族が簡単に来てくれるなら上位種だけで軽く1000体はいるのだ。全部の竜種が来てくれるとは限らないだろう。ただ竜種が国に入れば仮に敵が来た時の戦力になるかもしれないな。
バックに竜がついていると公表すれば抑止力になるかもしれない。竜種と共存できる国、いや亜人族の1部の魔物と同じようなゴブリンなどの亜人族は無理かもしれないが、獣人族や竜人のただ角が生えているだけの人間と何ら変わらないような所属の差別のない国なら作れるかもしれない。…作らないけど。
「結構いい案かもしれないぞ。ただ竜種を連れてくる場合は問題があるな」
「掟を破らなければいけんのう。それにより勘違いした竜が人間の国に攻めてくる可能性が無いとも言えん」
そう。今の竜の島では島から出てはいけないという掟がある。それがあるからこそ今は比較的安全だ。もしそれが無くなれば竜が聖王国などに一挙に攻めてくるかもしれない。そうなったら俺のせいだ。また魔王としての評価が下がる。その辺はやはりシェンが1番詳しいか。
「シェンの言う通りなんだ。もしかしたら俺たちのせいで大変なことになるかもしれない。でも竜の島に行ったときに出来るかどうかやってみる価値はあるな。魔獣の方はしばらくはいいな。竜の島に行ったときに出来るかどうかやってみよう。それでいいか?3人とも。もしダメだったら色々考えよう」
ミラは気楽に考えていても内面ですごく悩んでいるかもしれない。シェンとシエラだけでなくミラにも振っておくべきだな。
「いいと思います」
「まずはやってみることが大事じゃの。我も反対はせん」
「…いいと思う」
「良し、決まりだな。オニマル、これから俺らは竜の島に行ってくる。もしかしたら1週間とかそれ以上にかかるかもしれない。だから内政の面は頼んだぞ。渡した指輪があればどこでも俺と連絡が取れるから何かあったら知らせてくれ」
オニマルたち4神にはあの時の念話しかできない指輪ではなく俺たちと同じ収納の指輪を渡してある。念話もできるようにしてある。
「了解だ。食料の問題や、内政は俺らがしっかりやっとくからソーマ様達は竜の島でゆっくりバカンスでもしてきてくれ」
「バカンス出来るほど竜が優しければな」
まずは竜の島に行く前にユカリ達にも伝えてこなければ。
「良し。「瞬光」や4神にも行ってくるって言ったし、ルーカス達にも留守番頼んだから一通り準備は出来たな」
俺たちは今城壁の北側の外にいる。竜の島へは竜化したシェンに乗っていくため、まだシェンの本性の事を知らない国民にはバレずに行かなければいけない。
「大丈夫です」
「…準備は出来てる」
(マスター、我もいつでも飛べるぞ)
「了解。じゃあみんな竜の島に行くぞ!」
俺たちはシェンの背中に乗り、竜の島へと旅立った。




