第30話 奴隷市場
「確か…ディランの爺さんの話ではここでやってるんだったか?」
ここはアレン商店区の路地裏にある倉庫群だ。倉庫の大きさとしてはそれほど大きいものではないが、人が500人は軽く入るぐらいの大きさはあるだろう。
今いるのは俺1人。元々4人で行く予定だったのだが、俺1人で行くと言い出した時ミラ達から当然のように反対の意見があった。だがそれを何とか丸め込み1人で来た。理由としては奴隷市場でなるべくミラ達の姿を晒さないためなのと、奴隷を買った場合にすぐさま〈ワープ〉で城へと転移して保護してもらうための人員がいるからだ。
倉庫の入り口にいる倉庫を護衛しているらしき男に話しかける。
「なあ、ここが奴隷市場の会場で合ってるか?」
「そうだ。入るには参加料として銀貨1枚だ。まあ中の奴隷はそれより安い奴もいるがな」
男に銀貨を1枚支払い、中に入る。
中には買う人はそれほどいない。だが、檻の中に入れられ、裸同然のようなみすぼらしい服を着させられていて、手足を拘束されている人たちが100人はいた。
人間や獣人族しかいないが、獣人族の方が圧倒的に少ない。1対9ぐらいの差がある。
檻はいくつかに分けられていて、その中に何人かが入っていた。中にはまだ5,6才の子供もいたりする。
この奴隷市場で奴隷を買うには、欲しい奴隷が入っている檻の担当者と交渉する。そこで金額や状態を告げられて、その上で最終的に買うかどうか判断するのだ。
まず俺が目にした檻には1人ずつの男女と、3人の子供がいた。どうやら家族らしい。子供は男の子が1人と、女の子が2人。比較的健康そうだが、片方の女の子は寝たきりになっている。病気だろうか?
おそらく担当者であろう男性に声をかける。
「ここの檻の人を買ってもいいか?全員の値段と状態を教えてくれ」
「あいよ。まずこの檻の奴は全員家族だ。そこの男は健康で、力仕事も得意そうだから金貨1枚、女は3人産んでいるし、弱り始めているから銀貨3枚、男の子と元気な方の女の子はどっちも銀貨8枚、そこの弱ってる奴は…大銅貨6枚ってところだな。たしか肺炎だ。末期だからもって数週間だろう」
なるほどな…子供を産んでいると値段が落ちるのか。なんでだ?ま、いっか。それにしても末期の肺炎か。子供の肺炎って死ぬのか?前世では確かマイコプラズマ肺炎が子供に多いんだっけか。異世界だから肺炎でもウイルスとか症状が違うのかもな。
男から説明を聞いていると売られている子供の両親が叫ぶ。
「頼む!俺の事はいいからどうか子供だけは救ってやってくれ。そしてなるべく大事にしてやってくれ…頼む…」
「わ、私からもお願いします。何でもしますから…」
どうやらこの両親はなんとかして子供だけを救ってあげたいようだ。一応子供にも意見を聞いてみる。
「お前らは生きたいか?」
「ぼ、僕は父さんと母さんと一緒が良い!それじゃないと嫌だ!」
「私もパパとママと一緒が良い」
子供は両親が一緒じゃないと嫌なようだ。父親は息子たちの我儘に怒っていたが、俺は子供だけを救うような人間ではない。
「なるほど…意思は受け取った。じゃあ全員くれ」
「いいのか?あの病気の娘もだぞ?」
担当者は驚いたような顔を見せたが、すぐに俺の決意を感じ取ったようで商売人の顔に戻った。
「済まない。あんたの決定に口を挟むつもりはない。全員飼ってくれるなら値段は金貨2枚と銀貨5枚にまけといてやるよ」
「そうか、ありがとうな」
担当者に金を払い、檻と枷のカギをもらう。担当者は金をもらうとどこかへ行ってしまった。好都合だ。
檻のカギを開けて中に入ると両親が感謝の謝罪をしてきた。
「ありがとうございます。私たちを救っていただいて何と言ったらいいか…この御恩は一生忘れません。どんな命令でも精一杯取り組みます」
「私も、どんな扱いを受けようが構いませんから…どうか娘たちは無垢に扱わないでください」
「そんな事はどうでもいいから早くそこの病気の子を治療しなきゃな」
「え!?出来るのですか?」
「ああ、出来る」
父親が驚きを見せる。自分でも諦めてきた病気を治せるかもしれない事に歓喜の気持ちを抱きながら。
俺は寝たきりの女の子を起こし、声をかける。
「大丈夫か?」
「ごほっ…ごほ…あなたは?」
「君を助けに来た。君はこの病気から解放されて、お父さんたちと一緒に生きていきたいかい?」
「…うん」
「分かった」
肺をやられているせいか、声は掠れ、弱った声だったがその目は生きる希望を失ってはいなかった。
〈ヒール〉を発動させる。俺の魔法の力だとほとんどの怪我や病気は〈ヒール〉で治せる。治らなかったらもっと上位の回復魔法を使えばいいだけの事だ。でも今回は〈ヒール〉で治ったようだ。
「お父さん。とりあえずは治しましたが、今は念のため動かせたりあまり喋らせたりはしないようにしてください」
治ったがそれは病気だけで体力や体調は直せない。それは栄養のある食べ物を食べて、ゆっくりと回復させるしかない。
「ありがとうございます…ありがとうございます」
父親は涙ながらに感謝している。母親も治った娘を抱きしめている。家族ってやっぱり最高だな。子供たちも何となく雰囲気から何が起きたかを察したようで、喜んでいる。
「喜んでいるところ申し訳ないが、とりあえず俺に掴まってくれ」
「何のことか分かりませんが、あなたの言葉を信じましょう」
家族全員が俺に触れたところで〈ワープ〉で城の謁見の間に転移する。謁見の間を保護場所にした理由は一番広いからである。
転移するとミラ達と4神が待っていた。俺の姿と家族を見て近寄ってきた。
「この人たちに服と食事を与えて風呂に入れてやってくれ。それとこの娘は病気で俺が治したが、病み上がりなので気を付けてくれ」
「分かりました!ソーマさんはこれからどうするんですか?」
「俺はまだ売られてる人の確保に向かう」
「承知した。マスターも気を付けられよ」
シェンとミラに状況を報告してすぐさま〈ワープ〉で奴隷市場に戻る。一応人目のないところに転移しているし、参加料は1度払ったから大丈夫だと思う。というか大丈夫だと思いたい。
「さて…一気に回収するか」
この会場のどこかにいる主催者の所へ向かう。主催者は会場の奥にいた。高級そうな椅子座っているまるで豚のように太った人だった。
「すいません、あなたがこの市場の主催者ですか?」
「いかにも、吾輩がこの奴隷市場を仕切る者だ。で、どうかしたのか?不満でもあったのか?」
「いえ、ただお願いが1つありましてね」
「どんな願いだね?」
栄養が詰まったお腹を揺らしながら聞いてくる。その脂肪を筋肉に変える努力をしろよ!と言いたかったが我慢する。
「この奴隷市場に出てる人全員が欲しい」
俺の要求、それは奴隷全員の買い占めだ。1組ずつ買ってもいいんだがその前に誰かに売れたりすると困る。
「何!貴様の様なガキに全員を買う金などどこにある!?」
「いくらだ?」
「ちょっと待ってろ…」
動揺しながらもいくらか数える豚…じゃなくて主催者。
「全員だから高い奴も病気で死にかけの奴も含めて白金貨10枚だ!払えないだろ」
指輪から白金貨10枚と、自作の所有者を示す契約書を取り出した。
「金ならある。そして俺の所有物になるっていう契約書もだ。これにサインしてくれればいい」
「何だと!?お前一体どこの貴族の息子だ!?」
「いいからサインしてくれないか?こっちは忙しいんだ」
なんだかんだ言いながらも最終的にはサインしてくれた。名前はポークランドだった。やっぱし豚じゃんか…。
ポークランドから契約書とカギをもらい、各檻を回って全員城に回収した。事情とかは全部言わなかった。どうせ後で言うんだからいいと思ったのだ。病気の人や弱っている人もいたがまずは回収が先だ。話し終わったら順番に治せばいい。
最後の1組を送ったときすでに謁見の間には100名以上の人がいた。ミラ達も色々忙しそうだった。
そんな中俺は玉座の前に立ち、人々の方を向く。そして大きな声で話し始める。
「ええー、まずは自己紹介をしておこう。俺の名前はソーマ。一応みんなの主人っていう形になると思う。でも俺はみんなの事を奴隷にするつもりはない!」
ざわつく人々。周りで「どういうことだ?」とか「殺されるのかしら」とかいろんな事を言っている。いろんな考えを巡らせるのは良い事だ。
「みんなが不安がるのも分かる。俺がみんなにしてもらいたいことは1つ。これから新しく作る国の国民になってもらいたい」
ざわつきがピタリと止む。そしてその後1人の男が意見を言う。
「もし断ったらどうするんだ?」
「その場合は好きな街にでも送る。多少のお金は与えるつもりだし、武器や防具など必要なアイテムが欲しいならそれも支給できる。ただし、その選択をした者はまた奴隷になる可能性があることを知っておいてほしい」
当たり前のことだ。一度奴隷になった人は同じ道を歩んでしまう可能性が高い。
「あなたの作る国に居れば奴隷にはならなくて済むの?家や仕事は?」
この女性の人もそうだが全体的に服がボロボロだな。後で住む住まないに関係なく服を支給しなきゃ。
「家は俺が作れる。でも、最初は見慣れない器具に戸惑う事もあるかもしれない。その場合は気軽に聞いてほしい。それに仕事の話は気にしなくても多分大丈夫。今の段階では食料には困らなくていいように食料配布の手段が出来ている。しかし、お金は稼がなくてはいけないのでいつか働く日が来るかもしれないと知っていてほしい」
家については〈万物創造〉で量産できるし、食料も同じ要領で作れるので大丈夫なのだが、各自の欲しいものは買わなくてはいけないため、仕事はいずれやらなくてはいけない。更にここから他の街へは離れているから交易もあまり盛んに出来無さそうだ。まだその辺はいいか。働くといっても街の見回りだとか、城の警備とかになりそうだけど。
人々が家の事やいろんなことを話し合っている中、俺は国民になる上で克服しなければならない事を話す。
「大いに悩んで結構。だが、俺の国に入るには俺の素性を知っておいてほしい。それで嫌な者は入らなくてもいいし、大丈夫な者やそれでも入りたい者は歓迎する」
俺は〈霊気解放〉で軽く威圧する。弱いと思われたら困るしな。
「信じるかどうかは任せる。…俺は魔王だ」
一言。たったそれだけの言葉だが、俺の放つ威圧も合わさりほとんどの人が腰を抜かし、床に座り込む。何とか立っている者も動かない。騒ぎ出すと思ったんだけど意外と大人しいな。
いや違うか、動けないのか。俺の注目を引かないために。魔王は人から恐れられている。そして殺されると思っているため、目立たないために逃げたい気持ちを抑え、叫びもしないんだろう。
しばらくの間、人々は怯えつつも俺の動向を窺ってるようだった。しかしその時俺の前に立ちふさがる人がいた。




