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第26話 前夜祭

 乾杯の合図でみんなが一斉にミラの手料理を皿に取って食べる。握手の習慣はないのに無駄に「いただきます」とか「乾杯」などの食に関する習慣はあった。なんでだろうな。


 テーブルにはたくさんの種類の料理が並んでいた。肉に野菜、魚などを炒めたり、煮たり、焼いたりしたものだと思う。俺はこの世界の料理に詳しくないから、その辺は良く分からない。とりあえずうまくて食べられればなんでもいいのだ。


 とりあえず俺も腹が減ったので焼き肉のような物を皿に取り、頬張る。


「ん、結構おいしいな」

「ソーマさん結構って何ですか!結構って!おいしいって言ってください」

「俺はあんまりこっちの飯を食ったことが無いからびっくりしただけだ。悪い」


 正直に言って結構うまかった。肉は牛肉のような味がしたし、魚も脂がのってて美味かった。ただ野菜は美味かったんだが、1つだけ苦い野菜があった。多分ゴーヤみたいな感じの野菜なんだろう。見た目はジャガイモみたいなんだけどな。


「…ソーマ君、ここ…いいかしら?」


 しばらく食べ続けていると、バイオレットが来た。どうやら酒でかなり酔っているらしい。ちゃん…ではないかもしれないけどまあまあ喋れているが、足元は完全にふらついている。


「ああ、いいぞ」


 俺はバイオレットを膝の上に乗せる。体が小さいのでこんなこともできる。


「それで?何の用だ?」

「別にー。1人で飲むのが寂しくなっただけよ…」


 膝の上に乗っかりながら、ワイングラス片手に答える。どうみても見た目的にアウトだ。女の子がワイングラスを片手に酔っぱらっている姿など俺も見たくない。


「そうか、楽しんでるか?」


 まあそんな事も言えないので楽しんでいるかどうか聞いてみる。これで楽しくないと言われても俺にはどうしようもないが。


「ええ、お酒も食べ物もおいしいわね。…血があるともっと良かったんだけど」


 ヴァンパイアロードは血が無くても生活できるらしいのだが、やはり血があった方がいいようだ。


「悪いな、さすがに血だけは用意できなかった」

「いいわ。代わりにあなたからもらうもの。少し痛いだろうけれど、我慢してね」

「!?」


 何を言われたか理解して、〈ワープ〉で移動しようとするが間に合わなかった。その前にいつの間にかワイングラスを置いたバイオレットが俺の首筋に2本の歯を刺していたからだ。周りの奴らはほとんどが潰れている。助けも間に合わない。


「ぐっ…!」


 俺の首に2か所痛みが走る。そして、体中から血が抜けていくのを感じる。慌てて引き剥がそうとするが、うまいこと力が入らない。


 そのまましばらく血を吸われ続け気絶しかけた時、バイオレットが色目かしい息を吐きながら離れる。


「…ふぅ、ごちそうさま。とてもおいしかったわ。今までで一番ね」

「う…うぅ…」


 いきなり俺の頭に激痛が走る。以前バイオレットから聞いていたヴァンパイアの吸血時の能力〈吸血鬼化〉の初期症状だ。


 〈吸血鬼化〉とはその名の通り、吸血された者を吸血鬼に変える能力だ。この能力は最初頭痛の初期症状から始まり、異様なほどのどが渇く第2症状に陥り、最後は完全に吸血鬼になり、血を吸われた相手に絶対の忠誠を誓うという恐ろしい能力だ。


 この能力は誰でも吸血鬼に出来るわけではなく、初期症状の際に強い意志をもって、拒絶すれば吸血鬼にならずに済み、超低確率で〈吸血鬼耐性〉というスキルを手に入れることができるらしい。ちなみに〈吸血鬼化〉を拒絶できることを知ったのはバイオレットからではなく、ミラペディアからだ。


 今俺はバイオレットとミラペディアから聞いていたことを何とか思い出し、激しい頭痛と吸血鬼化への誘惑と戦っていた。


(私たちと同じ世界へおいで)

(…誰だ…お前)


 頭の中にバイオレットの声で何かが囁いてくる。


(私たちと同じ吸血鬼になれば楽になれるわ)

(…うるさいな!…なんで俺が…吸血鬼にならなきゃいけないんだ!)

(私たちと一緒になりましょ?)

(私たち、私たちってうるさいな!俺は…俺は、お前らとは一緒になんかならない!!)


 俺が頭の中で強い意志を唱えた瞬間、誘惑と激しい頭痛は嘘のように消えた。〈吸血化〉への拒絶に成功した証だ。そしてついでに〈吸血鬼耐性〉も手に入れたらしい。なんでか分からないがそんな感じがした。


「う…俺は生きてるのか?」


 しばらくすると意識が覚醒してきた。ふと膝にいるバイオレットを見ると、大粒の涙を目の端に浮かべ、俺に向かって謝り倒していた。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」


 バイオレットどうやらは俺の血を飲んだことで、酔いから醒めたらしい。そして自分が酔っている間に俺に何をしてしまっていたのかと、バイオレットは〈吸血鬼化〉を拒絶できることを知らないので、もう俺は元に戻れないと勘違いしてずっと謝っていたという事だ。バイオレットが〈吸血鬼化〉を拒絶できることを知らなかったのは後から知った。


「…せめて大事にするから…ごめんね…」


 もう俺は吸血鬼になったと思われているらしい。大事にするって…奴隷か?


「…誰を大事にするって?もしかして俺の事か?」

「え…?」


 俺の声を聞いて驚くバイオレット。そして俺が吸血鬼になっていない事に安心したのか更に泣いてしまった。


「うぅ…良かった…良かったわ。生きていたのね」

「そうだな。なんか一緒にならないかって聞かれたから嫌だって答えたら戻ってこれた」

「もしかして〈吸血鬼化〉を拒絶したの?出来るの?」

「どうやらそうみたいだな。今回は酔っぱらってたし、しょうがないな。拒絶できるって分かったから今度酔った時はいつでも俺の血を飲みに来てもいいぞ?」


 〈吸血鬼耐性〉がもらえたらしいのでもう血を吸われても吸血鬼にはならないはずだ。ただ血は吸われるのであまり吸われ過ぎると貧血で死ぬが。


「ええ、極力酔わないように努力するけど、酔ってしまったときはお願いね」

「任せとけ。俺は酔いつぶれてるやつをとりあえず部屋に寝かせてくる」


 この世界には未成年という制限が無いので、飲もうと思えばみんな酒を飲める。今回ジュースを飲んでいたシエラも酒に酔った者たちに半ば強引に酒を飲まされ、酔いつぶれてしまった。俺は特に強引に飲ませようとしてくるミラからずっと逃げていた。シェンは酒に強かったみたいだが意外と酒に強かったソーナさんと飲み比べをして両方潰れていた。今残っているのはディランの爺さんとレックスさんだ。レックスさんは意外と酒に強いらしい。ディランのじいさんと仲良く会話している。


 俺は酔いつぶれているみんなを1人ずつ抱え、〈ワープ〉で各部屋に転移してベッドに寝かせてあげる。酔いつぶれても明日の王会議に遅れなければ何の問題もない。2日酔いとかでも魔法で治せるからな。


 全員寝かせ終わった後にディランの爺さんとレックスさんの所へ行く。


「お楽しみの所申し訳ない。みんな酔いつぶれたのでそろそろお開きにしてもいい?明日は忙しくなりそうだし」

「そうか…では仕方がないのう。ほれ、レックス君。そろそろ儂らも寝るとするか」

「そうですね。王会議もありますもんね。ではソーマ君、僕は先に失礼させていただくよ」

「ああ、2人とも明日に向けてゆっくり休んでほしい」


 2人は俺に挨拶をして食堂から出ていく。足取りはおぼついていなかったのでおそらく無事に帰れるだろう。


 食堂に残ったのは俺とバイオレットだが、俺にはやらなければならない事がある。


「さて…このたくさんの洗い物を終わらせないとな」


 テーブルの方を見るとたくさんの皿が山のように積み重なっていた。そう、ミラが潰れたため俺が片づけをしなければいけないのだ。


 大変だな、と思っているとバイオレットから声がかかる。


「私も手伝った方がいいかしら?」

「いや、バイオレットは一応客人だからな。俺一人でやるから。その間暇だな…そうだ!甘いものは好きか?」

「好きよ。何か作ってくれるのかしら?」


 こっちの世界の料理に疎い俺だが、前世の料理は熟知しているつもりだ。


「甘くて、食べるのに時間がかかる物か…アイスクリームとかどうだ?」

「アイスクリーム?良く分からないけれど、甘くておいしいならそれでいいわ」

「じゃあいっぱい作っとくけど、食べ過ぎんなよ?食べ過ぎると腹壊すぞ」


 俺は〈万物創造〉でバニラと、チョコと、ストロベリーの3種理のアイスを作りだす。見た目も中身も完全に業務用だが、とりあえずこれで我慢してもらうしかない。さすがにミニサイズで200円ほどするあの有名アイスは食べたことが無いし、食べたいとも思わないので作らなかった。業務用だったら絶対残るだろうし、残ったら厨房の冷凍庫で保存できるしな。


 スプーンと器をバイオレットに渡す。


「ほれ、これによそって食べてくれ。俺は皿洗ってくるから感想はあとで聞くな」

「分かったわ。それじゃあ行ってらっしゃい」


 どのアイスクリームを食べようか悩んでいるバイオレットを見ながら、皿を持って厨房へ向かう。


 いくら皿がたくさんあっても、皿洗いに慣れている俺は10分ほどですべての皿を洗い終えた。我ながら素晴らしい仕事量だった。


 食堂に戻るとバイオレットはまだアイスを食べていた。というかほとんど手すらついていない。


「どうした?おいしくなかったか?」

「どれを食べようか悩んでいたの。あまりたくさん食べ過ぎるとお腹壊すんでしょ?」


 バイオレットは俺の食べ過ぎると腹を壊すという言葉を真に受けすぎていままでずっと悩んでいたようだ。呆れるしかなかった。


「あのな?確かに説明不足だった俺が悪かったが、そんな1杯ぐらいじゃ腹なんて壊さないし、腹壊すのは冷たい物の大量摂取が原因だから。10分ぐらいたってるからそれもう溶け始めてるぞ?」


 アイスクリームの方を見ると、端っこの方が溶け始めていた。好みによっては今が食べごろだという人もいるだろう。というか溶け始めている辺りで速く食べなければ!と気づくだろうが。


「あら?そうなの?それを早く行ってほしかったわ。じゃあ食べちゃいましょ」


 バイオレットはバニラを器に盛り付け、スプーンで口の中に放る。


「…ん!これは、口に入れた瞬間ひんやりとした冷たさとしゃりしゃりの感触で、すぐに溶けてなくなってしまうわね!これはおいしいわ!」


 甘いとか味に関する感想は無いのか。おいしいと言っているから気に入らないわけじゃないだろうけど。


「そうか、喜んでくれて何よりだ。何回も言うがたくさん食べるのは構わないけど腹壊すなよ?」


 満足してくれたようだ。次々にいろんな味を食べている。しかしある時を境に一気にペースが落ちて、食べなくなったかと思ったら寝ていた。スプーンを片手に持った状態で。


「おいおい、寝落ちかよ。まったくしゃあねぇな」


 俺は残ったアイスを冷凍庫にしまい、器とスプーンを洗うとバイオレットを抱えて、自分の部屋に転移した。


 バイオレットをベッドに寝かすと、ベッドの周りにだけ防音結界をかける。そしてベッドの上に伝言を書いた紙を置き、転移で城の外にでる。「今からちょっと特訓してきます。探さないでもらえると助かります。というかお願いします。まあこの結界からは出れないと思うけど。」と書いてある伝言をバイオレットの元だけではなくすべての部屋に置き、防音結界を張ってある。最後のは煽りの気持ちを入れておいた。


 城だけでなく城壁からも離れたところ出た俺は精神を集中させて、ルシファーを呼び起こす。


「どうしたんだい?こんな夜遅くに」

「悪いな、ちょっとばかし特訓するために情報が欲しいんだわ」

「特訓か、ソーマ君はいつでも熱心だよね」

「俺は魔物との戦闘経験が少ないからな。死んでも生き返られるとはいってもそればっかりに頼ってたらいつか仲間を失う事になる。俺はそれだけは絶対に避けたい」


 自分がこの世界でも最強クラスの力を持っている事はまわりが認めているし、俺も何となく自覚がある。だがそれは現在であり、いつそれを上回る力を持つものが現れるか分からない。現れてほしくないのだが、何が起きるか分からない。


 もしそんなものが現れた時、特訓を怠ったせいで仲間を失うなんてことにはなりたくないのだ。


「なるほど、ソーマ君の意思は分かったよ。僕は最初から力を貸すつもりだったけどね。それで?何を知りたいんだい?」

「召喚魔法で呼び出した相手を仲間にして呼び出した場合、メリットやデメリットはあるか?それとそいつと特訓することは可能か?もし可能な場合相手にも特訓の成果は現れるのか?とりあえずこんなところだ」

「ソーマ君はシェン君以外にも使い魔が欲しいのかい?」

「いや違う。俺が求めている物はシェンの様な常にこっち側にいるようなのじゃなくて、必要な時に俺の呼び出しに応じて、助けに来てくれるような奴だ」


 俺が欲しいのは特訓に付き合ってくれるような魔獣だ。そいつと戦闘訓練を行う事で、両方の成長できないかと考えた。戦力の増強だな。


「じゃあソーマ君の質問に1つずつ答えていこう。まず1つ目のメリット、デメリットについて。メリットは戦いの時に助けてくれることや、魔獣は同じ種族の魔物より強いって事。 

 デメリットはソーマ君には全く関係ないけど、毎回召喚するためには魔力がいるって事。魔獣は天界のような魔獣界と呼ばれる場所から呼び出すんだ。だから召喚コストは魔力だけでいいわけ。そして、2つ目と3つ目の質問の答えはどちらもYESだね。契約さえ結んで呼び出せれば、特訓だって出来るだろうし、魔獣にも伸びしろはあるから成長するよ。無限に成長するわけではないだろうけどね。いつか限界が来るよ」


 ルシファーの説明を聞いて正直安心した。特訓相手になってくれるならまだまだ強くなれるという事だ。


「なるほど、分かった。初歩的な事を聞くが、魔獣ってどんなのだ?ケンタウロスの様な魔物と同じう奴だけなのか?」

「その辺は召喚してからのお楽しみと言う事で」


 逃げやがった。でも確かに分かって召喚するより知らないものを召喚する方がおもしろそうだな。


 一応召喚魔法の事は少しだけ魔法書に書いてあったので何となく分かる。


「確か、魔法陣を書いてそこに思いっきり魔力を流し込むで合ってたか?」

「そうだよ。ソーマ君の場合だといくらでも流し込めるから、強力な魔獣を呼び出すチャンスだね」


 ルシファーに魔法陣の書き方を教えてもらいながら、木の棒で地面に魔法陣を書く。大きさは半径5mぐらいだろう。シェンの時のように血を使わなくてもいいのが利点だな。あの時はやばかった。貧血になりかけた。


 できた魔法陣にありったけの魔力を注ぐ。俺の魔力は無限なのでずっと注げるのだが、途中で魔力を注いでも魔法陣が魔力を吸ってくれなくなったので注ぐのをやめる。どうやら魔力を注げる限界、つまり最高レアリティが確定したという事でいいだろう。確定ガチャは嫌いじゃない。


 魔法陣が色々な光を発する。中で最後に強烈な光を発し、魔法陣の中が見えなくなった。


「…う!」


 光が消えたのと、俺の腹部に何やら短剣のような物が刺さったのはほぼ同時だった。


 魔法陣から出てきたのは4人の人間だった。いや人間の姿をしているだけでもしかしたら違うかもしれない。その内の1人の男が俺を見て驚いている。


「おいおい!お前の投擲を喰らって生きてんのかよ!腕が鈍ったんじゃねぇか?“”剣神よぉ」

「違うな。腕が鈍ったのではなく俺達の召喚者が耐えただけだ“闘神”」

「ねえ、私は早く帰りたいんだけどどうすんの?“竜神”」

「僕に聞かないでよぉ。これでも考えてるんだ“魔神”」


 魔法陣から現れた4人の神と名の付く者たちは思い思いに話している。何を言っているのだろうか?


 闘神と名乗る者は、小麦色の肌に赤髪赤眼のどこから見ても熱血がすごそうな筋肉質の男だった。引き締まった体で身長は180cmぐらいだろうか?


 剣神と名乗る者は、両腰に片手剣、背中に大剣、腰裏に俺に向かって投げた短剣を複数携えた、黒髪黒目のほっそりとした冷静そうな男だった。闘神と名乗る者よりは細めの体つきだ。


 竜神と名乗る者は、身長は150cm程で4人で一番小柄だが、蒼い髪に蒼眼の男の子だった。背中には弓を背負っている。オドオドとしている所から人見知りなのだろうか?


 魔神と名乗る者は、紫と白を混ぜたような薄紫の髪に、薄紫の眼、スタイルも長身にほっそりとした体のライン、シェンと同レベルの胸を持ち、シェンを超えるかもしれない美貌の持ち主だ。この女は杖を持っているのでおそらく魔術師だろう。真っ黒なローブを着ている。


 俺はそんな個性豊かの4人を見て声を荒げる。


「おい!いきなり剣を投げるなよ!とりあえず話を…ぐっ!?」

「うるさい。喋るな」


 俺が喋っている途中に剣神から短剣が投げられ腹部に2本目が刺さる。痛いが我慢できない程ではない。短剣を2本とも抜くと、剣神に返すようにして剣神の足元に放り投げる。


「痛ってーな。おいルシファー、こいつら誰だよ」

「まさか…この4人が召喚されるとはね。この4人は“4神”。魔獣界のトップだよ」

「魔獣界のトップ!?」


 いきなりのボス登場俺は困惑するしかなかった。


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