第25話 面倒な悪魔王
「確認取ってなかったけど私はソーマ君のベッドで寝るって事でいいのかしら?」
城に入る前にバイオレットが尋ねてくる。
「いいよ。ただし、バレないように何か対策取ってくれるとありがたい」
「分かったわ。でも私、お風呂入ってみたいんだけど」
どうやらバイオレットはさっきの話を聞いていたときに風呂に興味を示したらしい。だが俺には心配な事があった。
「それは構わないんだがどうやって入るんだ?1人で入るとバレるんじゃないか?」
今はアイシャさんたちが女風呂に入っている頃だろう。別に行かせても問題は無いだろうが、さすがにアイシャさんたちにとって知らない幼女を放り込むわけには行かない。だからといって男風呂に放り込んでいいってもんでもない。逆にそっちの方がアウトだ。
「じゃあ2人で入ればいいじゃない」
何か腹が立ってきたな。どうやって入るんだ?俺は男でバイオレットは女だぞ?何回も思うがこの世界の女性は自分の体を人に見せる事を何とも思わないのだろうか?
「いやいや、それはちょっと困るんだが…本気か?」
「ええ、何か問題でも?もしかして私に体を見せるのが恥ずかしいのかしら?」
「逆なんだがな…まあお前が良いっていうなら入るか」
もうこいつと話す場合全部言う通りにした方が良いとさえ思った。なんせ面倒くさすぎるのだ。
ほぼほぼバイオレットの言うことにただ頷いただけだが、2人で風呂に入ることが決まったところで城に入る。風呂場に行くところでちょうどミラたち3人に会った。
「あ、ソーマさん戻ったんですね」
「ああ、今からちょっと風呂行ってくるわ」
「では、我らも一緒しよう」
「…すまん、ちょっと1人で入りたい」
3人が一緒に入るとバイオレットの事がバレてしまう。今バイオレットは俺の横にいるのだが、姿を消すらしいスキルで隠れている。というより男風呂と女風呂の両方に「瞬光」が入ってるだろ!?俺が女風呂に入ったらアイシャさんたちに、ミラたちが男風呂に入ったらレックスさんたちに申し訳ないだろ!
一緒に風呂に入れないと聞いて3人はすこし悲しそうな表情をしたが、すぐに立ち直った。この立ち直りの速さはありがたい。ここで駄々をこねられても無理な物は無理だからな。というよりミラ達の裸を他の人に見せる事は俺が嫌だ。
「…ソーマがそう言うなら諦める」
「済まんな。今度余裕が出来たら一緒に入ろうな?」
「はい!約束ですよ!」
「じゃあそろそろ行くわ」
ミラ達に挨拶をし、風呂場に向けて歩き出す。俺が歩くと同時にバイオレットも動き出す。足音が後ろから聞こえるのだ。振り向いても姿は見えないが確実にそこにいる。
風呂場はもちろん男湯である。デリカシー的にそうだろう。俺は変態じゃないからな。俺とバイオレットは服を脱ぎ、籠に入れる。姿は見えないが脱いだ服がまるで宙を舞うようにかごの中に入っていくのが見える。
この城の風呂場は大浴場だ。前世の一流旅館にも劣らない程凝った風呂をたくさん用意した。回復効果満載の風呂に、泡風呂、電気風呂、サウナに露天風呂などが代表として作った物だ。泡ぶろとか電気風呂の仕組みは分からなかったからその辺はお得意の魔法で何とかした。
浴場への扉を開けて中に入る。移動式住居の時と似ているがまず広さが違う。それに湯船の大きさもだ。露天風呂を作ったので城の外からは変なでっぱりがあるように見えるだろうが大丈夫だと思う。みんなここが露天風呂だと認識してもらえば気にしなくなるだろう。
「なっ…!」
浴槽にはラッシュさんとアンドリューさん、そしてレックスさんが入っていた。今はバイオレットも姿を隠していない。だが俺には秘策がある。
「ソーマ君も来たのかい…え?誰だい?その子」
「この子は俺の妹です」
「え…?」
俺の秘策、その名も「妹だったら何気なく入れるんじゃね?大作戦!」だ!ネーミングセンスのなさには目をつぶってもらいたい。俺は前世の温泉で何回か見たことがある。お父さんが可愛らしい娘さんを連れて温泉に入ってくる姿を。その時の周りの反応はどうだろうか?特に気にした様子を見せないと思う。今のバイオレットの姿はまだ幼い。そのため妹という設定にすれば行けると思ったのだ。
「おいおい、ソーマさんよぉ。妹なんていたのか?」
もちろん初耳だろう「瞬光」男陣の中でもラッシュさんが一番反応を見せた。
「スラム街で助けてあげて保護してあげたら懐かれてしまってな。血は繋がっていないから」
「…そうなのか。そりゃ悪い事を聞いたな!よろしくな嬢ちゃん。俺の名前はラッシュだ」
「アンドリューだ」
「レックスだよ」
「ほら、ちゃんとお兄さんたちに挨拶して」
「…」
バイオレットは突然の事に固まっている。俺はこの作戦をバイオレットに伝えていないからな。完全にアドリブで返答するしかない。そしてもしバイオレットが挨拶しなかった時のための返しもある。
「うちの妹はちょっと人見知りなんです。名前はバイオレットです」
「かわいらしい名前だな。よろしくたのむぜ!」
「よろしく頼ny」
「よろしくね」
「…よ、よろしく?」
うん、アドリブで返事できたならいいんじゃなかろうか?
この後俺とバイオレットは一通り作った風呂を体験した。作ったのは俺だが入ってはいなかったので、入ってみて意外と前世と似ていて良かったと安心した。どうやらバイオレットは泡風呂が気に入ったらしい。しばらく出たがらなかった。この世界の住人は風呂に入ったことが無いため、のぼせる事を知らない。それはヴァンパイアロードのバイオレットも同じだった。だから無限に入ろうとするのだが俺は無理やり泡風呂から上がらせ、浴場から緊急離脱させる。
「せっかく初めてのお風呂を満喫してたのに…何するのよ。というよりよくも私を恥ずかしめてくれたわね」
レックスさん達3人はもうすでに上がっているので、2人しかいない着替え室でバイオレットの本音が出る。
「風呂ってのはな、長い時間入ると気持ち悪くなるんだ。それを“のぼせる”って言うんだ。覚えておいた方が良い。それとお前が勝手に風呂に入りたいって言ったんだろ?俺が何しようと勝手じゃないか」
「なるほど。気持ちいい事には落とし穴があるってことね。覚えておくわ。さっさと着替えて早く上がっちゃいましょ。ミラの作る晩御飯が早く食べたいの。この屈辱は忘れないわ…いつか絶対に仕返ししてやる」
最後らへんに恐ろしい言葉が聞こえたが聞かなかったことにしておこう。それにしてもまた勝手な事いいやがってからに。
「バレたら終わりなのにどうやって食べるんだよ」
「もうバラしてもいいんじゃないかしら。どっちにしろ明日の王会議で真実を話すことになるだろうしね」
本当に自由な奴だな。まあもういいか。確かにどうせ明日になったらバレるんだしな。
「そうか?まあ確かに明日か今日かの違いしかないからな」
「決まりね。これでミラの手料理が食べられるわ」
「ああ、じゃあ行くか」
俺とバイオレットはさっさと着替えを済ませ、食堂へと向かう。バイオレットの着替えはないらしいので洗濯にかけてあげる間とりあえず何ので来ていたワンピースと同じものを造ってあげた。
食堂は衛兵や大臣など、身分の違いなく食べられるように設置したものだ。
食堂に入るドアの前に立つと、最後の警告をする。
「おい、バイオレット。本当にバラしてもいいんだな?」
「ええ、今更後戻りは出来ませんわ」
「…分かった。じゃあ行くぞ!」
バン!と勢いよく扉を開け、食堂の中に入る。食堂の中にはミラ達3人、「瞬光」、ディランのみんなが座っていた。どうやら俺を待っててくれたようだ。
食堂に入ってきたバイオレットを見て、ミラ達は驚き、レックスさんら男風呂組は暖かい視線を送り、アイシャさん達女子組は誰だか分からない顔をして、ディランの爺さんはバイオレットの正体が分かったようで興味深そうな顔をしていた。
俺は誰かがしゃべり始める前に全員に向かって声をかける。
「お!ちょうどいい事に全員いるな。じゃあこの子の紹介をしよう。レックスさんたちにはさっき嘘をついたことは先に謝っておく。すまない。こいつは俺の妹じゃない。赤の他人だ。それでこの子はバイオレット。数日前になったばかりの十王の一角、悪魔王だ」
「「「「「「悪魔王?」」」」」」
アイシャさんたちは素直にこんな小さい女の子が悪魔王だという事で驚いているが、レックスさんたちは俺に騙されたこともあって複雑な顔をしているな。申し訳ない事をした。あの頭のおかしいディランのじいさんに関しては俺が言う前から何となく察してたな。特に表情が変わっていない。
「そっか、一般には十王とか知られてないからな…。せっかくだから「瞬光」に十王のメンバーを教えておきます。一応企業秘密みたいなもんだからなるべく洩らさないでくれると助かります」
「何を言っているのか良く分からないけど、秘密なら守るよ」
俺の一方的な説明についていけていないようだが、何とか話だけは聞いているようだ。
「ありがとう。さて、十王の事は自己紹介も含めてバイオレットから頼む」
「ええ、任せてちょうだい。私の名前はバイオレット。ヴァンパイアロードの悪魔王よ。よろしくお願いね。
それで十王の事なんだけど、十王って言うのは言葉通り十人の王の事を指すわ。聖王国国王“聖王”、ソーマ君の“魔王”、シェンさんの“竜王”、シエラさんの勇者を“英雄王”、ミラさんの剣姫を“剣王”、魔法の王“魔導王”、獣人族の王“獣人王”、亜人族の王“亜人王”、妖精の王“妖精王”、そして“悪魔王”である私を含めた十人で構成されているわ。
その十人が100年に1度開かれる会議で集まって話し合う事を王会議と言うわ。これはソーマ君にしかまだ伝えてないけど、今回の王会議では聖王、獣人王、亜人王、妖精王は場所的に遠くて出席できない者や、めんどくさい者で出ないそうよ。だからここにいる私を含めた5人の王と、まだ来ていない魔導王だけで会議を行うしかないわ。…とりあえず、ここまでが私が手に入れて伝えに来た情報よ」
バイオレットは「瞬光」に分かりやすいように伝えている。だが、バイオレットは1つ間違いをしている。それを分かっているディランのじいさんが前に出る。
「お嬢ちゃん…いや、バイオレットちゃんかの?初めまして。儂の名前はディラン。お嬢ちゃんの言っていた魔導王じゃよ。ほれ、ちゃんと石もあるぞ」
ディランのじいさんは懐から石を取り出して見せる。石には魔導王と刻まれていた。それをみてバイオレットは何か納得したようだ。
「なるほど…この違和感の正体はあなただったんですね、ディランさん。ようやく納得できました。」
「そうじゃな。というわけでここには6人の王がいると言う事じゃ」
バイオレットが納得したところで再びみんなに声をかける。
「さて、ここに明日の王会議に出席するメンバーが全員そろったところで乾杯と行きますか!」
みんながグラスを持つ。お酒が入っているグラスもあれば、シエラのようにジュースが入っているグラスも多い。別にお酒を飲むのに年齢制限はないらしいがシエラは普通に酒が苦手なんだそうだ。
俺も未成年なのでジュースのグラスを持ったところで、乾杯の合図をかける。
「それじゃあ、明日の王会議に向けてたくさん食うなり飲むなりしてくれ!乾杯!」
「「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」」
少し短く区切ってしまいました。その分次回が少し長めなので許してください。




