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第21話 迷宮④

 階段を下りた先にあったのは1辺がおよそ100mほどの四角形の部屋だった。階段を下りたところから真っすぐ赤い絨毯が敷かれ、見たことはないがまるで王城の謁見室のようだった。


 そして絨毯の先には大量の金銀財宝が山のように積まれ、その真ん中には玉座に座っている女性のようにも男性のようにも見える身長はおよそ160cm程の何かが座っており、その周りには四天王だと思われる比較的整った顔立ちで人間と同じ姿の男性であろう者が3人立っていた。人間に見えても確実に人間ではないだろう。


「どうやらここが最終層で間違いなさそうだな!」


 四天王に向かって大声を上げる。どうせ四天王を倒さないとボスには挑めないのだろう。ケンタウロスを倒したので残り3人だが。


 そう考えていると四天王の内の1人が玉座に座るボスに頭を下げ、こっちに向かってきた。しかし敵意は感じられず、こちらを歓迎しているようだ。


 男は俺たちの元へとたどり着くと頭を下げた。


「貴方方が初めての客でございます。まずはこの迷宮のボスである我らの主に挨拶をしてもらいたい」

「マスター、おそらく罠じゃ。行く必要は(ああ、案内してくれ。)…マスター!?」

「ソーマさん!?どうしたんですか?」

「ソーマ?」

「畏まりました。では、こちらへ」


 俺は男に案内されるがままについていく。ミラ達も警戒をしながらも後をついていく。


 案内した男は玉座の前まで進むと迷宮のボスに向かって膝をつく。


「連れてまいりました、我が主」

「ご苦労。下がってよい」

「は!」


 男声のようにも女声のようにも聞こえる声が部屋中に響き渡り男が玉座の横へと移動する。


「此度は我が迷宮の49層までの攻略を祝おう。そして余の栄養分になることに選ばれたことを喜ぶがいい」


 迷宮のボスがとんでもない威圧をかけながら発した言葉はミラ達の警戒心をさらに引き上げた。ミラとシエラは剣を構え、シェンもいつでも防御、反撃ができる構えをとっている。


 だが俺はどこか虚ろな顔をして迷宮のボスを見つめる。


「このたびは私を栄養にしてくださることを感謝します。吸血鬼の王よ」

「「「ソーマ(さん)(マスター)!?」」」

「ほお、〈魅了〉の魔法にかかっていながら余の正体を見破るとは。余が大人へとなるための栄養として選んで正解だったわ」

「き、貴様ー!マスターに何をしたー!」 


 〈魅了〉という魔法と俺の状態から何をされたかを察知したシェンが声を荒げながら迷宮のボスへと殴りかかる。


 だが迷宮のボスにあたるはずだった拳は2人の前に立ちはだかった俺にあたる。だがそのまま吹き飛ばされることも無くシェンの攻撃を吸収しきる。


「マスター!なぜ庇う!」

「私の役目は王の栄養となる事。それにより王に危害を加えることは許さない」


 1人称も完全に変わっている俺を見て、3人は愕然とする。


「はっはっは!どうだ?貴様がマスターと呼ぶ者が余の手の中に収まったことを。今やこやつは余の奴隷同然よ!」

「…そんな、ソーマさん!正気を取り戻してください!」

「ソーマ!元に戻って?」

「…元に戻る?今の私が本来の姿だが?」


 俺が身も心も完全に支配された事に絶望する3人。そこにさらなる絶望が襲い掛かる。


「余としてはこの3人を始末したいところだが…今は栄養を得て完全なる吸血鬼の王へと進化することが先だな。名をソーマと言ったな。余の前に来て跪け」

「は!王の仰せのままに」


 俺は玉座へと歩み、膝をつく。


「本来であれば血を吸うのが基本だが…お前は魔力に自信があるように見える。だから今回は魔力だけを吸い取ってやろう。首を見せろ」

「ありがたき幸せ」


 頭を左に傾け首を見せる。

 

 3人は俺が首を見せたことで迷宮のボスが何をするか分かったようだ。顔が青ざめている。


「やめろーー!マスターー!」

「ソーマさん!だめです!」

「ソーマ!今助ける!」


 3人は俺の所へ走ろうとすると四天王の残りの3人に羽交い絞めされて止められた。


「何をする!離せ!」

「ふふふ…我が主の神聖な儀式を邪魔させませんよ」

「ふん、そこで見ているといい。余が吸血鬼の王“ヴァンパイアロード”になる姿を!」


 迷宮のボスが俺の首に顔を近づけ…2本の犬歯で首を噛む。そしてそのまま俺の魔力だけを吸い取る…はずだった。


 突然迷宮のボスが俺から離れる。


「…なぜ魔力が吸い取れない!」

「はぁ…やっとこさ計画が思い通りに進んだと思ったのに…お前弱すぎ。もう死んでいいよ」


 俺が迷宮のボスに手をかざすと迷宮のボスの体が光り始めた。


「やめろ!こ、これは!体が溶けていく!うおおおぉぉぉぉー!」


 数秒もたたないうちに迷宮のボスの体が灰になった。今俺が出したのは〈灯球〉。これは太陽と同じような光を出すのでもしかしたら吸血鬼には効果があるかもしれないと思ったのだが想像通りだった。


 迷宮のボスを倒したこともそうだが俺が元通りになったことも含めてミラ達3人は状況を呑み込めていない。


 主が倒されたことで四天王の内の2人が叫ぶ。


「き、貴様!よくも我が主を!」

「ただで済むとは思うなよ!」

「はぁ…自分の主を間違えてるとかそんなに吸血鬼はバカなのか?どう思うよ本物の吸血鬼の王。いや、本来吸血鬼の王になるべき者…かな」


 迷宮のボスを倒されて叫んでいなかった吸血鬼を指さす。その吸血鬼はシェンを捕まえていたが、解放すると吸血鬼特有の鋭い犬歯をニヤリと出して不気味な笑みを浮かべた。


「なるほど、最初から知っておられたとは…さすがは4日ばかりでこの迷宮を攻略された冒険者のリーダー…と言うべきですかな?」


 はあ、マジで演技きつかった。何で俺よか絶対弱い雑魚に跪かなければならんのだ。というかやっぱ俺たちが迷宮攻略をしてたことは知ってたのか。


「好きに呼んでくれ。それでそろそろ3人を解放してくれないかな?」

「そうでした。おい、そこの2人を離してやれ」

「なんだと!?お前、下っ端の分際で俺たちに命令するのか!」

「本当にバカって困るよな…」


 高速で移動して四天王の2人の頭を手で貫く。そして、喋らせる暇もなく〈灯球〉で消滅させる。


 解放されたミラ達はようやく少しづつ状況を呑み込んできたようだ。


「ソーマさん?本当のソーマさんですか?」

「…いつから俺が本当の俺じゃなくなったんだ?」

「じゃがしかし…あの時マスターは「私」と言っておったじゃろう」

「あれは芝居に決まってるだろ。逆にどうやったらあんな弱い〈魅了〉にかかるのか教えてもらいたい」


 最初に〈魅了〉を使われたときただこっちを見てるだけかと思ったわ。でも何となく魔法辞書に載ってた〈魅了〉と特徴が似てたからなんとか分かった。


「じゃあ最初から私たちも騙してたの?」

「騙してたってのはちょっと言い方があれだけど…バレないようにしたかったから騙してたのかもしれないな…済まない」


 俺は今までの状況を話した。ここに来た時に玉座に座ってたやつが吸血鬼の王になるための資格を持っていなかった事。案内しに来たこの吸血鬼が資格を持っていた事。資格を持っていたのにもかかわらず偽者の手下を装っていたことに疑問を覚え、騙されてやろうと思った事。吸血鬼は血を吸った相手をしもべにできるらしいけど自分には通用しないから吸血鬼の王に頑張ってさせようとした結果、偽者との実力差が大きすぎて血どころか魔力すら吸えなかった事。そのせいでいろいろと計画が狂って、偽者を殺すしか方法が無くなったことなどを全部話した。


 まあ楽しかったからいいんだけどね。あの馬鹿がまんまと騙されて調子に乗っているさまはこっちから見て滑稽だったよ。


「…そんなことまであの短時間で考えていたんですか?」

「まあ最下層に来た時に何か起こるのは鉄板だからな」

「ではあの時の我の攻撃もわざと受けたのか?怪我などはしておらぬか?」

「これを怪我って呼べるのかは分からないけどすげえ痛かったのは覚えてる。今でも痛いけどな」


 鎧を脱ぎ、服をめくる。俺の腹筋の部分にはぽっかりとシェンの拳の大きさの倍ぐらいの穴が空いていた。貫通しているようで向こうの景色が見える。不死身って怖い。まさかこんなに穴が空くとは思ってなかったし、空いてもそんなに痛くなかった。俺はどうやら人間をやめてしまったようだ…。後で目からビーム出るかやってみよ。


 傷を見てシエラは焦り、シェンは驚いたり申し訳なさそうな顔をしたり、ミラは見ていられないのか顔を手で押さえて俯き、吸血鬼は興味津々なようで手を入れたりして遊んでいる。


「ソーマ!それは重傷!早く治さないと!」

「いや、いいよ。シェンの放った衝撃波を体の内部だけで吸収しようとしたら途中で爆発しちゃってさ。でも鎧には傷ついてないっしょ?」

「申し訳ない!我の攻撃でそんな傷を負ってしまうとは…どんな罰でも受けよう!」

「その言葉前に聞いた気がするな…あのな?あれは俺が自分で受けたからシェンが気にする必要はない。それと、そこの吸血鬼!手を突っ込んだりして遊ばない!」


 手を突っ込まれると風でスース―するから止めてほしい。あれ?穴が空いてるって事は内臓はどこ行ったんだ?ま、いいか。多分その辺は考えない方が俺にとって幸せな気がする。


 回復魔法を使うと肉がモコモコと俺の体の穴を埋めていった。…自分の体だけど気持ち悪い。


「おお、それは申し訳ない。人間の身なのにその傷で良く生きていられるな、と思ったもので。それで、私をどうなさるつもりですかな?このまま殺しますか?」


 このまま殺してしまうのもいいとは思ったが、どうせならヴァンパイアロードになるのも見てみたいと思ったので考え方を変えた。


「とりあえず何で資格があるのにヴァンパイアロードにならなかったのか理由を教えてもらいたい。それでもしいいならヴァンパイアロードになってほしい」

「分かりました。まず私がヴァンパイアロードになりたくなかったのは王会議に出席したくなかったのです」

「「王会議?」」


 俺とシエラしか反応しなかったのでどうしたのだろう、と後ろを見ると、ミラとシェンは忘れていた物を思い出したかのような顔をしていた。確実に忘れていたのだろう。こいつら、やったな。絶対大事なイベントだろこれ。


「はい。100年に1度開かれる世界中の王と名のつく者たちを集めて行われる会議の事です。今は聖暦4999年の12月後半なのであともうちょっとで出ずに済んだのですが…」

「すまん。その王ってどんな王が出席するか分かるか?」


 その前に聖暦って何だ?西暦じゃないのか?まあ兄弟みたいな世界だから地球と似てるって考え方でいいのかな?


「そうですね、確か聖王、竜王、魔王、妖精王、獣人王、亜人王、世間では勇者と呼ばれている英雄王、性別によって違いますが剣姫を含めた剣王、魔導王、私たち悪魔の頂点である悪魔王の10の王をまとめて十王と呼びます。ちなみに悪魔王は今はヴァンパイアロードが担当することになっているので、ヴァンパイアロードになりたくなかったのです」

「ん?ちょっと待ってくれ。魔王と竜王と英雄王と剣王?」


 俺は3人に視線を向ける。3人もまたお互いを見ている。これって全員王じゃね?


「なあシェン、今回お前が何も言わなかったのは無かったことにしてやるからさ、頼むからあの吸血鬼の話を嘘だってくれ」

「我も知らなかった。我はまだ王会議に出れたことがないのじゃ。…じゃが聞いた話は本当じゃ」


 どうやらシェンは忙しすぎて出れなかったらしい。というか100年に1度の王会議って参加しなくてもいいんだ。


「わ、私もありませんよ!?というか剣王なんて初めて聞きました」

「英雄王だって。かっこいい」


 俺たちで口論をしていると(シエラは英雄王という名前をずっと連呼していたが。)、仲間外れにされた吸血鬼が怒ってきた。


「すいません!仲間外れにしないでもらえます?」

「…おお、忘れてた。何となく事情は分かった。で?ヴァンパイアロードになってくれるか?」

「はい、なりましょう。王会議には出たくないんですが…。ちなみに王になるのにはとてつもない魔力がいるんですが…足ります?」

「その辺は大丈夫だから安心して魔力を吸ってくれ」

「そうですか。魔力切れになっても知りませんよ?」


 そう言うと吸血鬼は俺の首筋にかぶりつき、魔力だけを吸い出す。


 5分ぐらい吸っていただろうか、突然離れたかと思えば、吸血鬼の体が赤く発光し始めた。光が収まるとそこには10才ぐらいの黒髪のツインテールのかわいらしい少女がいた。


「…終わりました」

「「「「……誰?」」」」


 俺たちは4人そろって首を傾げる。マジで誰だろう。さっきの吸血鬼は男だったぞ?性別も変わるのか?


「おかしいな…さっき俺の魔力を吸ってたのはいい感じの好青年だと思ったんだがな」

「え!?私の事男だと思ってたの?」

「思ってたけど」

「思ってました」

「思っておった」

「…思ってた」

「ええ…もういいわ。とにかくこれが本来の私の姿。覚えておいて」


 どうでもよくなった新しいヴァンパイアロードは早速体の調子を確かめている。どうやら好青年に見えたがあれで女性だったらしい。おとこの娘か?いやそれにしても大人過ぎるな。まあいいか。とりあえずこいつも俺らと同じ王の仲間入りか。


「新しいヴァンパイアロード誕生祝いと共にもう1つ祝福しよう。俺ら王と同じ領域に踏み込んだ感想はどうだい?」

「我らが王と同じ領域?どういうこと?」

「おっと言ってなかったかな?では自己紹介と行こうか。俺の名前はソーマ。第100代目魔王だ」

「ミラです。剣姫なので一応剣王の部類に入ることをさっき知りました」

「我の名はシェン。エンシェントドラゴンで竜王じゃ」

「私の名前はシエラ。勇者をやってる。英雄王」

「…は?」


 まだ呑み込めていないのか呆気にとられたような顔をしている。だろうな。俺も最初そんな感じになったもん。


「もう一度言うぞ?ここには5人の王がいて、悪魔王のお前、魔王の俺、剣王のミラ、竜王のシェン、英雄王のシエラの5人だ」

「…よくそんな嘘つけるわね。証拠である王石はあるのかしら?」

「王石?なんだそれ。シェン知ってるか?」


 するとシェンは指輪の中から手の平サイズの石を取り出した。石には“竜王”と刻まれてる。


「これのことじゃ。みんなも持っておろう」

「私は持ってませんよ?」

「…私も」

「ああ、それならの2人の分も一緒に俺が持ってるわ」


 俺も指輪から“魔王”と“剣王”と“英雄王”の刻まれた3つの石を取り出し、それぞれの石を渡す。そういえば魔王城の倉庫にそんなのあった。魔王と勇者は分かったけど剣王は全く分からなかったからガラクタとばかり思ってた。


「嘘、まさか本当にみんな王なの?」

「そうらしいぜ?信じてもらえたか?」

「…分かったわ。あなたたちが王なのは認める。でもなんで勇者と魔王の相反する存在が一緒にパーティを組んでるの?」

「その辺がお前らの悪い決めつけだよな。それは置いておいて自己紹介してくんね?」

「ああそうね。私の名前は“バイオレット”。覚えておいてね」

「バイオレットな。分かった。で、王会議ってどこでやるんだ?」

「そうね、今回ならソーマ君の本拠地である魔王城だったような」


 魔王城といえば只今半壊中の建物だ。そんなところで王会議などできるだろうか。不可能ではないが直すのにとてつもない労力を割くことになりそうだ。


 ミラは魔王城の有り様を知っているので何とも言えない顔だ。


「そうか…分かった。魔王城でやるんだな?だったらさっさと帰ってやらなきゃいけないことがあるんだがこの迷宮はどうするつもりだ?ボスも殺したし後は魔石を回収して帰るだけなんだが」

「この迷宮は元々あの影武者が作った物だしどうでもいいわ。私はしばらくの間どこかをうろついているわ」

「ならこの金をやる。これがあればしばらくは飯に困らないだろう。血は吸えないがな」


 指輪から大金貨を数枚取り出しバイオレットに渡す。これだけあればとりあえず1人で1年は持つだろう。


「ありがとう。受け取っておくわ。別に吸血鬼だからって血が無いといけないわけじゃないし、ヴァンパイアロードは太陽の光じゃ消滅しないわ」

「ならいいんだが。さて俺たちはそろそろ行くからな」

「また今度会いましょう!」

「次の王会議で待っておる」

「…また会おう」

「ええ、魔王城ではよろしくね。それと王会議では仮面をつけた方がいいわよ。素性を知らせないためにもね」

「分かった。ではまた今度会おう」


 俺たちは魔石を回収して〈ワープ〉で和み亭の自室に戻る。


「…今回の王は私も含めてめんどくさい人が多いようね…」そんなバイオレットの1人ごとが聞こえた気がした。



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