第19話 迷宮②
まず最初に変形させたのは槍の形である“グングニル”長さにして3mほどだ。
次は片手剣の形の“エクスカリバー”長さは大理石の剣と変わらない。
最後に大剣の形の“グラム”長さは150cmぐらいだろう。今のところこれらに一閃と一振りの5種類しか考えていない。
重さは自在に変えられるので紙切れのような重さの大剣からやったらこの世界が終わるが太陽と同じぐらいの質量の片手剣を作ることも可能である。
形態変化を終えてから俺の周りだけに防御結界の強化の練習をしていると3人がパタパタと階段から降りてきた。
「おはよう。良く寝れた?」
「ソーマさん、ありがとうございました」
「ん?何のこと?」
ミラ達を家で寝かせた事だろうか、それとも「瞬光」をテントで寝かせた事だろうか?ミラの方をよく見ると肩は震え、涙をこらえているようだった。
「わ、私たちを助けてもらって…」
「何言ってんの?俺なんか全然助けてないよ?リミッターつけたままの結界でリミッター外してちょっと本気出したらすぐ結界破けたし、気づいてないかもしれないけどあの一撃の衝撃でみんなの鎧壊れたし」
3人は自分の体を見てやっと気づいたようだ。自分が全裸とほとんどかわらない程損傷した防具を着ていることに。
「結構疲れただろうし、今日はここで休むから風呂にでも入ってきな。俺はその間防具を修復しておくよ」
「え、でも…」
「…分かった」
「うむ。今回はマスターと一緒に入れないのは気がかりじゃが確かに体も汚れておるし疲労も大きい。マスターの言う通りにさせてもらおう」
「おう、いってらー」
ミラは何か言いたげだったが、結局シェンとシエラの2人に押され、3人が風呂に行ったところで鎧を着るための服と鎧を〈クリエイト〉でササっと修復した。服は洗濯にかけ、新しい服を棚から出して着るように注意した。
次はテントへ向かう。するともうすでに「瞬光」のみんなは起きていた。
「おはようさん。よく眠れたかい?」
「…ここは?」
まだ状況の整理が出来ていないようだ。俺はさっき起きたことを話した。
「…そうか。ソーマ君が1人でケンタウロスを倒したのか」
「やりすぎちゃってこんなありさまだけどな」
「いや、いいんだ。それより3人は無事かい?」
「ああ、今頃ふ…ごほん。休憩してるよ」
「良かった。このテントはもうしまうのかい?」
「いや、あんたらがここで1泊してくならずっと出しておくよ。どうする?」
「瞬光」のみんなが顔を見合わせて頷く。
「じゃあお言葉に甘えてここで休ませてもらうよ」
「了解」
俺がテントから出て行こうとしたところでシーナに呼び止められる。
「ソーマ、実力について聞くのが禁忌だってのは知ってる。でも一応聞いておきたい。あなた…いえ、あなたたちは何者?」
シーナの発言にほかのメンバーがシーナを怒っている。
「おいシーナ!それは禁忌だって馬車で決めたんだろ?俺は寝てたけど」
「シ、シーナさん。ダメですよ!聞いたら…」
「でも知りたくない?」
「…うっ。それはそうですけど」
「いいぜ、教えてやるよ。今ミラ達を呼んでくるわ」
あっさり許可が出たことに驚いている。聞いた本人であるシーナは何か裏があると怪しげな目で俺を見ていたが。
家に戻るとちょうどミラ達が風呂から上がったところだった。風呂に入ってさっぱりしたようだ。3人を見て少し男として興奮しかけたのは内緒だ。仲間の風呂上がりの体を見て興奮しかけるなんて俺もまだまだ子供だな。
「どうだった?風呂は」
「今日もいい湯でした。昨日と違ってゆっくり浸かれました」
「昨日は我が迷惑をかけた。申し訳ない」
「過去の事はいいの。さっぱりした。ソーマは何してたの?」
「それなんだがな…さっき「瞬光」のみんなが寝ているところに行ってきたんだよ。したらさシーナさんに俺らの正体を教えろって言われた」
3人の顔が一気にまじめな顔になる。さすがにこの展開は予想できる。
「それで…教えたんですか?」
「いいや、でも教えようとは思う」
「なぜじゃ?」
「俺の実力の片鱗を見られた以上、しっかりと正体を打ち明けないと納得してもらえないと思う。言わないようにって釘はさすけどな」
「…それでももしバラしたら?」
「その時は…不本意だけど殺す」
「…分かった」
俺の覚悟を聞いて納得してもらえたようだ。3人だって俺が本気で殺すと思っていないことは十分知っているだろう。それでも納得してくれたので感謝ぐらいはしないとな。
ミラ達を連れてテントへ向かう。3人にはあらかじめテントの事については説明してあるので驚きはしなかった。
テントの中に入るとみんな一瞬体がビクリと震えたのが見えた。そんなに怯えなくてもいいのに…。
「さて3人にも確認を取ったところ正体を明かしてもいいと許可が出たので話したいと思うが…」
俺は脅すつもりで若干の殺気を声に乗せる。
「バラすのは一向に構わない。だがバラしたりして俺はあんたらの体をばらしたくはない。これは脅しでもギャグでも何でもない。それだけ俺らの存在は本来表に出るべきではなく、でた場合最悪世界が滅ぶ可能性がある事を理解してほしいからだ」
6人は体をビクビクしている。やり過ぎかと思ったがそれほど俺らは世界への影響力は大きいから仕方がないということにする。
「俺らの正体を明かすにあたってここじゃ狭すぎるから外に出てくれ」
「瞬光」は何のことかわからなかったようだが、シエラは輝いた眼でシェンを見ているのが分かった。そう、この機会にシエラにシェンが本当に竜王だと納得してもらおうと考えたのだ。
テントから出ると家とテントから離れる。
「俺らの正体は明かしても証拠が無い者が多い。シェンは何となく信じてもらえるだろうがあとは信じるかどうかは個人に任せる。じゃあミラ、シェン、シエラ、俺の順番で明かしていってもらう。ミラよろしく」
ミラが1歩前に出る。
「はい!私は他の3人と比べてそんなに大した者じゃないですけど…一応第99代魔王軍の幹部をやっていました。それだけです…。はい…」
最初にテンションの高さから一転して最後のほうには落ち込んでしまったミラ。このメンツでは1番しょぼい役職だとミラ自身が言っていたが、俺は結構すごい職業だと思ってた。だってあのルシファーの秘書をしてたらしいんだぜ?随分苦労をしただろうに。
「ミラは正真正銘1年前の戦争の唯一の生き残りだ。それは俺が保証しよう。では次にシェンだが…みんなシェンから20mぐらい離れてくれ。じゃあシェン任せた」
「承知した、マスター」
「「「「「「マスター?」」」」」」
「瞬光」全員がやはり俺を白い目で見てきたがそれは想定内だ。シェンから離れたところで竜化を始める。シェンの体が白く光り、光が止むとそこには真っ白な鱗を持った竜がいた。
(これが我の本当の姿じゃ。我はエンシェントドラゴン。我がマスター、ソーマ様に仕えし者。世間では竜王と呼ばれておる)
竜であるというだけで驚き物なのに竜種の中の頂点である竜王だという事を知った6人は腰を抜かしている。
「まさか…これが伝説の竜王…」
「おとぎ話の存在じゃなかったのかよ…」
「あわわ…食べられちゃうよ…」
「すさまじき貫禄…」
「シーナ、怖いよ」
「私も怖い」
「シェンも竜王として竜種の頂点に君臨していた本物の竜だ。どうだ、シエラ。信じてもらえたか?」
「…うん。かっこいいよシェン」
(そうかの?では確認してもらえたところで戻らせてもらう)
シェンの体からまた白い光が発生し、亜人状態に戻った。シエラにもようやく信じてもらえたのがうれしかったようで笑みを浮かべている。
「さぁさぁ、後は俺とシエラだけどこれはあんまり信用してもらえないかもしれないからサクッと言うぞ?
俺が第100代目魔王でシエラが勇者だ」
「「「「「「……ん?」」」」」」
「よし納得してもらえたようだな。それでは解散!」
「ちょ、ちょっと待った!」
ギャグのような流れを止めるようにレックスさんの待ったがかかる。やっぱり信じてもらえなかったのかな?絶対面倒くさい質問攻めが来るから早めに切り上げて逃げようと思ったのに捕まった。
「…どうかした?」
「いやいや、ソーマ君が魔王でシエラちゃんが勇者ってどういうこと?詳しく説明してほしいんだけど…」
「説明も何もシエラは1年前の戦争で前魔王と一緒に死んだ勇者の子だぞ?俺は前魔王から魔王やれって託されたし実際許可ももらったし。なんなら本人に聞いてみるか?」
「…ごめん。状況が整理できない」
「整理できないなら整理する時間を与えよう。明日でまたここに集合で、お疲れさん」
色々とあーだこーだ言われるのが目に見えているので俺たちは家に戻る。後ろから「待ってくれ!」とか聞こえたが完全に無視をする。
家に入ってリビングにつくと俺は床に倒れた。何だろう体が思い通りに動かない。
「ソーマさん!?」
「はあー疲れたー。一応逃げられないように広場全体に結界は張ったからー。お休みー」
「マスター、寝るならせめてベッドで寝てくれ」
「…ソーマ、お腹すいた」
みんなから言いたい放題言われた俺はゆっくりと重い体を起こし、冷蔵庫からさっきミラたちが寝ている時に作った軽食を取り出し、電子レンジにかけテーブルに置く。
「これさっき作ったやつだけどちょっとしかないから食べ足りないなら冷蔵庫にいくつか食材入ってるからミラに作ってもらって?道具の使い方は教えたからできる…で…しょ…」
「出来ますけど…ってソーマさんしっかりしてください!」
「悪い。ちょっとリミッター一気に外した影響で疲労がたまり過ぎた。おやすみ」
ソファに寝ころび、目を閉じるとすぐさま眠りについてしまった。一気にリミッター解除+弱めたとはいえ〈才能覚醒〉のコンボは思ったよりも体の負担が大きかった。
次に目が覚めた時、目の前にシェンの顔があった。
「…んん…ん?何やってんの?」
「見ての通り膝枕じゃが?」
「…そうか夢か…」
夢ならばと寝返りを打ち、シェンのふとももに思いっきり鼻で息を吸う。息を吸っているというよりかは匂いを嗅いでいるという方が正しいだろう。断じて変態ではない。夢だからだ。
「マ、マスター!何をする!」
「何ってシェンの匂いを堪能してるだけだよ…。甘くていい匂いだなぁ…。…ん?匂い?」
そこで俺の意識は一気に覚醒する。シェンから離れるとやっぱり夢じゃなかった。シェンはうれしそうだがミラとシエラの視線が痛い。
「まさか…夢じゃない…だと?」
「いいえ?夢ですよ。ですからもう一回眠りましょう?」
やばい!顔は笑ってるのにミラの目が笑ってない。
「ソーマ、もう一回寝た方がいい。…永遠の眠りに…」
シエラから物騒な言葉が聞こえて逃げようとするがいつの間にか背後に回り込まれたシエラに膝かっくんさせられ、膝をついたところで羽交い絞めされた。
「…ソーマ、何か言い残すことはある?」
「最後に懺悔を聞いておきましょう」
もうだめだ。シェンは完全にさっきの俺の言葉が心に来たのか顔を赤く染めて放心している。
「最後か…そうだな。やっぱり俺にかわいい女性3人は多すぎた。3人よさらばだ。またいつか来世で会おう」
おそらくミラに腹パンをもらい、意識と一緒に腹も飛ぶんだろうと覚悟を決めるがいつまでたっても意識が飛ばない。それどころか後ろの羽交い絞めが緩くなっている。
どういうことだ?とゆっくりと目を開けると、ミラがシェンと同じ状況になっていた。後ろで見えないがシエラも同じような状況になっているのだろう。
「…かわいい。かわいい。かわいい?私が?ソーマさんから見て?」
「ソーマが私をかわいいって…。ちゃんと見ててくれた」
あーこりゃダメですわ。完全に俺の軽く言った言葉で3人ともダウンしてますわ。
俺はシエラの羽交い絞めから抜け出し、こっそりと風呂場に向かう。そして3人の服を洗濯機から取り出し、自分の脱いだ服を入れてまた洗濯機を回す。
風呂場に入り、体を洗い、しっかりと風呂に浸かり上がろうと風呂場の扉に手をかけようとした時、またさっきの急激な眠気が来て床に倒れそのまま眠ってしまった。あれだ、ヒートショック的なやつだ。そんな感じがする。
再度起きた時は自分の部屋の中だった。ちゃんと服も来ているところを見るとあの後服を着せてくれて部屋に寝かせてくれたのだろうか?
ありがとうを言わなきゃな、と思いつつ体を起こそうとすると腕に2つずつ小さくも大きくもない膨らみが当たっていることに気が付いた。もしや…と横を見るとやっぱりシエラとミラが俺の腕に抱きつきながら寝ていた。しかもどっちも裸で…。
「こりゃあどういう状況だ?」
「…ん。マスター起きたのか」
「うわ!」
いきなり横から声がして横を振り向くとシェンがベッドにもたれかかるようにくつろいでいた。全く気が付かなかった。
俺の声に反応してミラとシエラも目が覚めたようだ。
「…ソーマさん、おはようございます」
「ソーマおはよう」
「あ、はい。おはようございます。あのーすいません、ちょっと離れてもらっていいですか?腕に胸が当たってるんですよ」
「分かってますよ」
「知っててやってる」
まったく離してくれる気配が無いので〈ワープ〉でベッドから床に転移する。そのまま起きて下に降りる。時計を見ると深夜の3時だった。さっきシェンの膝枕で寝た時が10時ぐらいだったからそこそこ寝たのだが体がすっきりしない。なんというか体が重たいのだ。そこでふと昨日の朝から何も食べていないのを思い出した。
キッチンに行き、冷蔵庫を開けるといくつか食材があったので簡単に野菜炒めと〈クリエイト〉でパンを作った。
眠たい目をこすりながら夜食を食べていると匂いにつられたのか3人が降りてきた。
「あ!ソーマさん夜食を食べると太るんですよ!」
らしいな。特に女性には気を付けなければいけないな。
「マスター我にももらえないだろうか」
「私も食べる」
「…いいぞ。ミラは太るからいらないんだろ?」
「う…食べたいです。食べたいですよ!」
「そう言うと思ったよ」
また野菜炒めを作るのが面倒なので〈クリエイト〉でチョコパンとクリームパンを何個か作る。
「なんですかこれ?」
「チョコパンとクリームパンって言って俺の国のパン。甘くておいしいぞ?」
甘いものに目が無いシエラがクリームパンを取り頬張る。
「…おいしい」
「そうか…では我もいただくとするか。……これは確かに甘くておいしいパンじゃのう」
「え、甘いものはちょっと太りそうですけど…せっかくソーマさんが作ってくれたんですし食べなきゃいけませんね!……甘ーい!おいしいですねこれ!」
やっぱりミラはただ食べたいだけだったようだ。
このあとしばらくパンを堪能した俺たちはリビングのソファに座り、真面目にこれからの迷宮の攻略について話し合う。
「俺たちこんなに気楽にしてるけどここ迷宮の中なんだよな。これからどうする?」
「私としてはすぐに攻略したいところですね」
「我も早めに攻略した方が良いと思うぞ」
「私はどっちでもいい」
「そうだな。「瞬光」のみんなにこれからの行動を聞いてから決めるか。そういえば時間を与えてたっけ。行ってみるか」
俺達は防具を着て、外に出る。家を指輪にしまいテントに向かう。
テントの外ではシーナさんが見守りをしていた。確かこのテントに結界張ってあるって言ってなかったな。
シーナさんは俺たちを見ると、怯えたように叫んだ。
「うわーー!」
「どうしたシーナ!?」
シーナさんの叫び声につられたように他のメンバーたちが武器を持って出てくる。しかし俺達であると分かっても警戒している。
「え?俺たちに武器を向けたまま下げないってことはこれから敵として振る舞うって認識で大丈夫?」
無名に手をかけると緊張した空気が流れる。だが武器を向けたままの「瞬光」をみて覚悟が分かったので両手を挙げる。
「そんなに緊張しないでくれよ。別に俺たちはあんたらが正体を知ったところで対応を変える気もなけりゃあ、バラしても殺したりなんてしない」
「…それは信じてもいいのかい?」
「ああいいよ。いずれバレる事だ。それが早かったか遅かったかの違いでしかない」
「そうか」
信じてくれたようだ。レックスさんが武器を降ろすとみんなも降ろしてくれた。だが納得したのはレックスさんだけのようで、他は警戒しているが本題を切りだす。
「今来たのはこれから「瞬光」はどう動くのか確認したくってな。このまま迷宮探索を続けるのか、それとも帰るのか」
「今のところは続けるつもりでいるよ。でもマッピングが主になるだろうけどね。だから攻略は君たちに任せても大丈夫かな?」
「任せてくれ。じゃあテントを回収して俺らは先に進むわ」
俺は素早くテントを片づけ、指輪にしまう。そして次の階層へ降りる前に「瞬光」に忠告をしておく。
「そうそう、確かに殺さないとは言ったけど一応みんなには俺らの正体を人に言えない一種の呪いをかけておいたけどこれからも仲良くしようぜ」
なにやら後ろの方で話し合っていたがどうやら会話の内容から考えて誰かにバラすつもりは元からなかったようだ。というよりそんな呪いかけていない。似たような魔法があるにはあるらしいがそんな事をする必要性が無い。




