第18話 迷宮①
迷宮に入ってすぐ俺は3人に声をかける。
「そうそう、忘れてたけどシェンに頼まれてた短剣できたから今渡すわ。」
指輪から4本の黒い短剣を取り出す。長さは30cmぐらいで柄と刃の付け根にはそれぞれのイメージカラーの色の宝石がはめられている。
「この短剣はアダマンタイトから作った剣で切れ味は保証するし〈エンチャント〉で魔物の血とかで錆びないようにしてあるし、魔物によって肉が硬く素材がうまく剥げないことも考えて自由に切れ味を変化できるようにしてある。俺らには効果が無いけど切れ味によっては斬撃も飛ばせるかも。
ミラの双剣が腰横のベルトにあることも考えて腰裏につけてもらいたい。ミラは赤、シェンが白、シエラは青で、俺が宝石が無いやつだな。自由に持って行ってくれ」
各々が指定された短剣を手に取り腰の後ろに装備する。
「ちょうど取りやすい位置でいいですね」
「うむ。使いようによっては我のサブウェポンになるかもしれんな」
「かっこいい。ソーマありがとう」
評価は上々のようだ。俺はさらに指輪から4個のネックレスを取り出す。これもそれぞれのイメージカラーの色の石がつけられている。
それをみんなに渡してつけてもらう。
「今渡したネックレスは対トラップ用のネックレスで、つけていると半径10m以内のトラップの発見および無効化を行ってくれる便利な物だ。トラップのほとんどは効かないだろうが転移系のトラップだけは引っかかったら防げないからな。これで無効化してもらうってわけだ」
迷宮にはもちろんトラップがあり、ダメージ系のトラップや状態異常系のトラップ、さらに一番危険な転移系トラップなどがあるみたいだ。転移系トラップは2つで1組で片方を踏んだ人をもう片方に転移させる物。転移した先に魔物の巣などがある場合もあるので一番恐れられているらしいトラップだ。
「それとミラに頼まれてた料理セットだけど、あれはご飯の時に説明したいんだがそれでもいいか?」
「はい、分かりました」
「さて、「瞬光」のみんなは今頃慎重に進めてるだろうが俺らはサクッと進めるぞ。シェン、〈魔素探知〉と〈魔力探知〉の使用と先導を頼む」
「承知した」
シェンが先頭になり俺たちは迷宮を進む。
〈魔素探知〉は魔素濃度を可視化するものでそれにより魔素濃度の濃い方向、各階層のボスがいる方向へと簡単に進むことができる。
〈魔力探知〉は生物が持っている魔力を探知して、その大きさや距離で強さなどが分かる要するにレーダーの様なものだ。
シェンの案内で少し進むと俺にとって人生で初めて魔物に遭遇した。完全にゴブリンだった。ゴブリンといっても数十体はいるだろうか。すぐさま陣形を取る。陣形は俺とシエラが前衛でミラとシェンは観察だ。
なぜこんな陣形かというと俺とシエラは魔物と戦ったことが無いから敵の行動をよく見る観察力とそれにうまく対応する適応力と瞬発力を戦闘経験のある2人に見てもらうためだ。
シエラはブレイブソードを中段に構え、俺は魔王城にあった武器ではなく自分で作った日本刀によく似た黒刀を構える。
俺の新しくアダマンタイトで作った黒い武器“無名”だ。なぜ無名かというとこの武器には様々な形に変化できるようにされているからである。そのためアダムとイヴのようなこれと決まった名前が無いのだ。それが無名の由来だ。
今構えている日本刀のようなモードを俺は“一閃”と呼んでいる。仕組みはアダマンタイトの密度を高くしたもので武器を作り、それを状況に合わせて様々な武器の形に変えているだけである。しかし切れ味も自由に変えられるので刃を付けなかったり色々と幅広い調整が出来る。
無名じゃないじゃんと思うかもしれないが、それは言ってはいけない。色々と俺も悩んだのだ。そして武器というよりかはアダマンタイトの塊を自由に変えて斬れるようにしたりしているだけだから武器とは呼ばないんじゃね?ということも。
一閃の状態にしているのは中学ではバスケットボールをやっていたが小学校からずっと剣道をやっていたからだ。初段は持っていないが剣道のような持ち方もするし、たまに片手剣のような持ち方もする。
そんな新たな武器、無名の一閃モードを確かめているとゴブリンが5体、こちらへ攻撃してきた。
俺はこん棒で突進してきたゴブリンを横に回るような形で回避し、頭を面の要領で2つに斬る。シエラも他のゴブリンの攻撃を軽々回避しブレイブソードで斬り捨てる。
それを何回か繰り返すと、数十体はいたゴブリンは全滅してしまった。
俺は汗をかいていないが疲れたふりをしながらミラとシェンに評価を聞く。
「どうだった?俺の戦い」
「そうですね…見たこともない武器と立ち回り方だったので何とも言えませんが良かったと思います」
「強いていうなればもう少し複数の敵を視野に入れて戦うべきじゃな。1対1の形に持っていくのはいい事じゃが今のような状況がいつまでも続くとは限らんからの」
「1対1を基本とした動きだからしょうがないけどちょっと気を付けてみるよ」
「…私は?」
「シエラさんはまだ剣を振ることに戸惑いがあるようで少し振る速度が遅いですね」
「その点はミラと同感じゃ。もう少し自分の力と剣を信じて戦うと良い」
「…分かった。頑張る」
評価を聞いたところでゴブリンの魔石を回収し、再びシェンが先導する形で先に進む。
しばらく進むと50m四方程の大きな広間に出た。どうやら第1階層のボス部屋のようだ。
「ここがボス部屋みたいだな」
「あそこに敵いますもんね」
ミラが指さした場所にいたのはケンタウロスのような馬の体の下半身に悪魔のような体の上半身をした10mはある魔物だった。
「あれ悪魔の体だよな?」
「じゃな。しかも相当でかい」
そんな会話をしているとケンタウロスがこっちに気が付いた。
「やあやあ、貴様らは我が主に挑みしものか。ここを通りたければ俺を倒していくがいい」
「え?お前しゃべれんの?」
「俺は魔物ではなく魔獣だからな」
え、そうなの?魔物じゃなくて魔獣だったらしゃべれちゃうの?と思っていたが、魔王が使役する使い魔は本来魔獣だったことを思い出した。俺の場合は異例だったからすっかり忘れていた。
「そうか…で、お前を倒せばいいんだな?」
「その通り!」
「すまんがここは俺1人にやらせてくれ」
「し、しかしマスターではまだ戦闘の経験が少ない。ここは我らも加戦するべきじゃ」
「そうです。あいつからは強敵の感じがします」
「ん、私も頑張る」
「悪いがちょっと実験したいことがあってな。それでお前たちを巻き込む危険性があるから広間から出てほしいんだわ」
「…分かりました。でも無理はしないでください」
「マスターはどうしてもトラブルを起こしがちじゃからな」
「頑張って」
俺の説得に3人は渋々広間から出ていく。出て行ったところで防音結界と防御結界、それに出入りや転移を防ぐ阻害結界を張る。
「これで音、攻撃から迷宮を守り、結界の外のやつはもちろん俺らもこの結界から出られなくなった。」
「貴様が自分で退路を塞ぎ、なおかつ1人で俺に挑むだと?悪いが俺は主に仕える者の中で四天王と呼ばれる程の強者だぞ?」
「あーそれ1層に配置されてることから多分他の四天王に「所詮四天王の中で最弱の存在よ!」とか言われてるぞ?」
「そんなことはない!例え他の四天王がそう思ったとしても主は俺の実力を信じてここの防衛を任せてくださっているのだ!」
「そうか…ならいい。話を長くしてすまなかった。そんじゃ戦いと行こうぜ」
「かかってくるが良い」
そして俺とケンタウロスの一騎打ちが始まった。
「すまんがお前に抵抗する手段は無い。ただ全力を出すのにちょっと時間がかかるのでな。待っててほしい。その間にお前も隠している力使っていいぞ?どうせ第2形態とかそんな感じのパワーアップ残してるんだろ?」
「ほう、気が付いていたか。よかろう。最初から俺と貴様の全力の出し合いといこう!はあああああ!!」
ケンタウロスの声と共に体に赤い闘気が溢れ出す。闘気とはオーラのようなものであり、1部の者しか扱えないいわば才能のようなものである。闘気を身に纏う事で体力と引き換えにすさまじい力を得ることができる、と以前シェンから「頭の隅に入れておくといいかもしれんのう」と教えてもらった。
「ふはは!どうだ!これが俺の本気だ!貴様の早く本気を出すがいい!」
正直ケンタウロスから出ている闘気はシェンのオーラとは比べ物にならない。雑魚なのだがとりあえず話に乗っかっておく。
「一瞬で終わるからいつ攻撃が来てもいいように身構えてろよ?」
「よかろう!一瞬で倒せるものならやってみせろ!」
ケンタウロスが身構えたのを確認した俺は体のリミッターを1つずつ外す。今や1つ軽く300kg近くにまで重くなったリミッターを。
4つ全てのリミッターを外した俺の体からケンタウロスの闘気と比較にならない程の闘気があふれ出るのを抑える。
そして魔王としてのエクストラスキルの1つを発動させる。
「今こそ我に混沌の力を〈才能覚醒・弱〉」
エクストラスキルを解放した瞬間俺は世界の時間が停止したように感じた。
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ソーマから広間を退出させられた3人は雑談をしていた。主にソーマの心配話で。
「ソーマさん大丈夫でしょうか?」
「結界をあんなに厳重に張ってまでする実験とはなんじゃろうか?」
「2人ともあの結界破れる?」
「いや我には出来ん。竜化の最大火力を持ってしてもやぶれるかどうかじゃろう」
「私も無理です。というかソーマさんのあの防音と防御と封印結界を破れる人なんていませんよ」
こんな話をしながら周りを警戒しているとシェンの気配探知に反応があった。
「向こうから気配を探知した。数は6つじゃからおそらく「瞬光」の者であろう」
シェンの予想通り「瞬光」の6人が駆け足でこちらに向かってきた。
「やあ、また会ったね。奇遇だね」
「嘘をつけ。どうせ我らが心配でそれほどマッピングもしないで来たんじゃろう」
「おっとバレてたか…それでソーマ君はどこかな?」
レックスが周りを見回している。ミラは自分たちの背後の通路を指さす。
「あの中で第1階層のボス、ケンタウロスと戦っています」
「1人でですか!?」
アイシャが声を上げて驚く。それにアンドリューやラッシュ、シーナにソーナも続く。
「…それは危険だ」
「おいおい、ケンタウロスってマジか!」
「助けてあげるべき」
「シーナに同意」
ソーマはケンタウロスは雑魚キャラだと思っているがこの世界においてケンタウロスは危険な魔物であり、危険度を冒険者のランクと同じ風にE~Sで表した難度ではB~Aに値する。「瞬光」でも5体以上でかかられたら負ける。それほどに危険な相手なのだ。相手が魔物だった場合だが…。
「今ソーマさんが戦ってるのはケンタウロスの魔物ではなく魔獣です」
「魔獣!?」
魔物でさえB~Aなのだ。それよりも上位の魔獣だとS難度に相当する。これは「瞬光」と他のSランクの何パーティが力を合わせて倒せる難度である。
「瞬光」のメンバーが絶句していると驚くべき事態が起こった。
なんとケンタウロスの闘気開放が結界によって弱められてはいるが結界を通り越してこちらまで伝わってきたのだ。
本当に微弱だがソーマの結界の強さを知っている3人を驚かせるには十分だった。
「え?嘘、あの結界を通り越してここまで闘気が伝わってくるなんて」
「我でも敗れんどうかの結界を超えるほどの闘気とは…中々やるな」
「あのケンタウロス強い?」
「結界?どれぐらいの強さの結界を張ってた?」
「最高結界魔法〈断絶〉の数倍はあります」
「!!」
この世界における防御結界魔法の中でも最高位に属する〈断絶〉の数倍の強さの結界など張れる人などいない。張れるなら古代のアーティファクトぐらいだろう。
「そのレベルの結界を通り越すほどの闘気なら早く助けに行かないと!」
「行かせませんよ?」
「瞬光」が助けに行こうとすると3人が立ちはだかる。それにラッシュがキレる。
「なんだよ!お前らの大切な仲間じゃねえのかよ!」
「もちろん大切じゃ。我らだってすべての事を放っても助けにいきたいわ!」
「じゃあなんでいかねえんだよ!?」
ラッシュの怒鳴り声にシエラが答える。
「私たちじゃあの結界を破れないのが1つ。そしてもう1つは…」
「「「ソーマ(さん)が負けないと信じているから!」」」
3人の息ピッタリの決意に「瞬光」は気づく。ソーマという男はそれほどまでに仲間の絶対的信頼を得ているのか、と。
「瞬光」と3人がソーマを信じ座ろうとすると信じられないことが起こった。
――パキィィィィィィン!
ソーマの結界が破れたのだ。そして破れた結界から風のようになだれ込んでくるケンタウロスの闘気とおそらくソーマの物であろう闘気のようなよくわからない気。
それと同時に聞こえてきたソーマの怒号、すべて一瞬だったが全員が怯む。
やはり一番早く立ち直ったのは3人だった。
3人はソーマのおぞましい量の闘気により落ちかけている意識をなんとか保ちながら広間へと向かう。その後を這いずるように「瞬光」のみんなも続く。
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俺は〈才能覚醒〉を半分ぐらいに弱めた〈才能覚醒・弱〉を発動させる。すると体に力と闘気があふれる。抑えられなくなった闘気が体から濁流のように溢れ出る。
「…すまん!抑えられなかった。さっさとけりをつける!〈モードチェンジ!一振り!〉」
持っていた一閃が長さ2mほどの太刀に変化する。無名の武器形態の1つ“一振り”である。1振りで敵を殺すことができるようにつけた呼び方だ。
そしてケンタウロスに向けて瞬間移動のようなダッシュをし、ケンタウロスの首を切り落とす。〈才能覚醒・弱〉の力でここまでの動作にコンマ1秒もかかっていない。もちろんケンタウロスも身構えていたが何が起きたか理解できないだろう。即死である。
すぐさま〈才能覚醒・弱〉を解く。すると時間の感覚が元に戻り、ケンタウロスの首が地面に落ちる。
溢れ出る闘気を抑えきれていなかったことを思い出し、周りを見渡すとやはり結界がすべて割れていた。
「ああ、やっちまった。もしかしたらあいつら死んでるかも…」
こうは言ったが内心全然大丈夫だと信じていたので一振りを一閃に戻し、腰横につけた鞘にしまう。そしてケンタウロスの死体へと向かう。
ケンタウロスの落とした魔石を拾い、動き回るがどうやら体に異常はないようだ。
再びリミッターをかけたところでミラとシェンとシエラの3人がふらふらと広場の中に入ってきた。俺の姿を見て安心したのだろうか?意識を失い地面に倒れようとするので慌てて高速で向かい、受け止める。
急いで指輪から家を取り出し、広場に置く。広場の半分が埋まるほどだったがなんとか置けた。
3人を抱え、急いでそれぞれの部屋のベッドに寝かせる。起きた時の事も考えてミラから少しもらった食材で軽食を作っておく。
外を見に行くと「瞬光」のみんなも気絶していた。どうやら家を見て気絶したらしい。家に入れる気はさらさらないので指輪からテントを取り出し、6人が入れる大きさで建てて、中に6人を寝かせる。
3人のすぐそばにいてあげないと心配するだろうと思い、俺はリビングで無名がしっかり他の形態に変わるかの確認を始めた。




