第10話 ソーマの人騒がせ②(事後)
再び目を覚ますとそこは和み亭の俺たちの部屋の中だった。部屋には誰もいない。日が出ているから買い物にでも行っているんだろうか。
早速体を起こし後遺症がないか動き回るが大丈夫なようだ。
俺は指輪からリミッター装置を取り出してつける。しばらく死んでいたらしい。動いていなかったので筋肉が弱っていて、1個100kgだと潰れそうなので妥協して75kgにした。
最近はまともにご飯を食べてなかったので腹が空きすぎている。今がご飯時かは知らないがもしやってなかったらジェームズさんに無茶言ってなんとか用意してもらおう。
レストランに向かう途中ジェームズさんに会った。今は朝のビュッフェをやってるらしい。俺は死んだことになっていたかと思ったがどうやら体調を崩して3日ほど寝込んでいるということになってたらしい。めっちゃ心配された。
どうやら3人は朝食をとっているようだった。俺が寝込んでから元気がないから早く行って元気にしてやってほしいとのことだ。
レストラン会場は賑やかだった。さすがアレン屈指の有名宿だけの事はある。俺は一回しか食ってないがここの料理はうまい。特にカレーもどきがめっちゃうまい。みんなも異世界の見たことの料理に興味津々ですぐになくなってしまうほどの人気料理だったりする。
レストランの一角に3人はいた。赤と白と青の髪色ですぐに分かった。
ここでドッキリ作戦の説明をしよう。
①最大限の隠密で3人に近づく。
②ミラの顔を手で隠し「だーれだ」をする。
③その瞬間3人に触れ〈ワープ〉を起動し自室へと飛ぶ。
これが帰ってきてすぐに考えたドッキリだ。3人が食べていたものと俺が食べたいものは無理を言って後で部屋に持ってきてもらうようにジェームズさんにお願いしてある。当店はドッキリ後のアフターケアも充実しております。みたいな看板掲げればいいのに。
作戦を実行するにあたりリミッターを2つ外した。これで病み上がりならぬ死に上がりでも3人に気付かれないレベルの隠密が出来る。
行くぞ!作戦開始ぃーーーーー!!
心の中で戦いの狼煙を上げる。まず最大限の隠密をして3人に近づく。3人との距離は直線にして20mといったところか…。他の客に紛れるようにして近づく。
無事に3mのところまで近づいたところでフェーズ2に移行する。
よし!無事に近づけたな。本当はみんなにやりたいけど前魔王によろしくって言われたしな…今度の機会にしてもらおう
そこから急スピードで接近してフェーズ2を実行する。ミラの目付近に手を当て…。
「だーれだ?」
「ふぇ?」
その瞬間なんとかして他の2人にも触れて〈ワープ〉を発動して自室に転移する。腕伸ばし過ぎて肩はずれるかと思った。
いきなり自室に転移したミラたちはぽかーんとしていたが、前の布団で死んでいるはずの俺がいなくて後ろを振り返るとそこには3日前と変わらずピンピンしている俺がいることに驚いているようだ。幽霊を見たらとりそうなリアクションだ。
「ソ、ソーマさん?」
「おう、久しぶり」
「ほ、本当にマスターなのか?」
「お前が3日間消えなかったところを見ると体は死んでも俺の精神は死なないよう踏ん張ってたんだなって実感するよ」
「う、嘘だ…ソーマはあのとき私が…。そ、それにまったく嫌悪感も何もかんじない」
そのセリフは殺したはずの相手が生きていたようなセリフだけど多分動転してるんだな。
「それは俺も同感だな。きっと勇者と魔王の中にできたわだかまりが少しは無くなったんだろうな」
少し深呼吸をし、俺は帰ってきたら言いたかったことを伝える。
「3人とも…ただいま」
「「「うわーーーー!」」」
ただいまを言った瞬間3人は泣きながら俺に抱きついてきた。ミラが正面、シェンは右後ろ、シエラは左後ろという感じに完全に包囲されてしまった。
「うおおお!?ちょっとお前ら落ち着け!」
今回はまじでやばい!ミラの時でさえ1人で骨逝ったのに今回は3人だと!?死ぬかもしれない。
「うう…今までと違っていつまで経っても目を覚ましてくれないから本当に死んでしまったのかと思ってたんですよーー!」
ミラは鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を俺の胸にこすりつけながら言う。正直汚いと思ったが3日間俺が死んだと思い込んだ時のショックは相当大きいんだろう。そこで「汚いから離せ!」などと野蛮なことを言う程俺は最低じゃない。
「…我がいなくならないからいつも通り生きているとは思っていたが、日に日に肌から血の気が引いていき、触ったときのあのひんやりさと言ったらもう忘れられんぞ。本当に生きててよかった…」
体が死ぬとやっぱり血液が流れなくなるから肌の色の変化と、体温の低下が起こるのか…。もうちょっと目覚めるのが遅かったらゾンビみたいになってたかもしれん。
「あのときは本当にごめんなさい。私はまだ勇者として未熟だけどいつか…いつかきっとソーマたちの足手まといにならないように頑張るから…だから…私が言うのはおかしいだろうけど…応援してほしい」
3人はそれぞれの気持ちを俺に向かってにぶつけてくる。ミラは心配の気持ち、シェンは俺の体が死人に変化していく恐怖と生きていた事への安堵、シエラはもう2度とこんなことをしないという決意が感じられる。
「あのなシエラ、あの時はああなると分かってて飛び込んだんだ。死の覚悟もしてた。生きてたのはちょっと予想外だったけどな。それに足手まといって自分を過小評価してるけど多分もうそこらへんのチンピラとか冒険者には負けないぞ?俺を包囲するときに2人と同じ速さで移動できてたしな。…2人はリミッターつけてたけど」
俺の最後の独り言は耳に入らなかったようだ。シエラの顔が少し赤い。照れているのだろうか?
「そういってもらえるとうれしい。これからも頑張って鍛えてみんなに追いつけるようになる!」
「我らもできる限り稽古などはつけてやろう。じゃが剣での戦いとなるとミラに教えてもらうのが一番早そうじゃな。我が教えてやれることは少ないが適性があるならマスターに魔法について習うのもいいじゃろう。様々な距離で立ち回れるようにすると良い」
「…分かった」
この前はどこか2人の仲が良くないと思っていたけどうまくやっていけてるようだ。いい感じに溶け込めて来たな。そういえば前魔王からの伝言も伝えなければ。
「ミラ。ちょっといいか?」
「はい?なんでしょうか」
俺はミラを連れて部屋の隅に移動する。別に2人だけの秘密にするつもりはないがシエラの父親を殺した張本人だしな…なるべくシエラにだけは聞いてほしくない。
「実はだな、俺が死んでた間前魔王に会ってきたんだ。実際は俺の精神の中にいる前魔王の魂と話してきたって感じだけどな…」
「え!?そんな事してたんですか?というよりソーマさんの精神の中ってことはあのお方結局生きてるんですか!?」
「そういうことになるのかな?それでその時に伝言を預かってきた」
「どんな?」
やっぱ俺が言わなきゃいけないのかと悩んでいたが、引き受けた物はしょうがないと腹を括る。
「俺が言うとおかしいかもしれないけど…「ソーマ君とお幸せに」だってさ」
「!!」
ミラは前魔王の伝言を聞いてうれしいのか悲しいのか読み取れない複雑な表情をしている。
「…そうですか。気持ちは伝わりました」
「また会う約束したからすぐ会えるだろうけどその時に逆に伝言ある?」
「うーん、あ!「今度ソーマさんにあなたの秘密言いますね」って伝えておいてください!」
「え?う、うん…」
うわー、女の子ってどの世界でもおっかないんだな、と俺は改めて思った。
シェンとシエラのところに戻ったところで4人でこれからの目標ややりたいことなどを話し合うことにした。
「えーまず、仲間が4人になったことで正式に冒険者ギルドに入ることができるようになった訳だが…これからでも行こうと思うんだが何か意見のある人挙手!」
するとシエラが手をあげた。
「はい、シエラどうぞ」
「冒険者ギルドって何?」
「それは私が説明します!冒険者ギルドというのはですね…」
シエラの質問にミラが丁寧にそして分かりやすく説明している。
「…という物ですが分かりました?」
「分かったけど冒険者になって何するの?ずっとここで依頼受けてるの?」
「いや、俺たちは世界を回るつもりだからここには1か月ぐらいしかいない。それからは魔大陸をしばらく探索したら聖大陸、天大陸に行く予定だ」
「ん?マスター、天大陸に行くのか?」
シェンが首を傾げる。シェンの竜化で行けばすぐ行けるだろうし竜もいるらしいからな。
「ああ、シェンの竜化なら余裕だろ?それに天大陸は竜種も結構いるんだろ?」
「いや確かに我の竜化なら行けん事もないが、行っても竜種はおらんぞ?」
あれ?何かサンタさんの正体を知ってしまったときのようにすげーショックなんだけど。
「え、そうなの?だってミラが見た人がいるって言ってたぜ?」
「たまにくつろぎに足を運ぶ者がいるくらいで基本的には竜種はこの世界の真ん中にある小さな島でひっそりと暮らしておるわ。我から言わせてもらえばあんな大陸人もおらんし、建築物もほとんどないし人間はそんな大陸になぜロマンを抱くのかが理解できん」
衝撃の新事実!俺よりもミラの方が驚いている。いままであると思ってたものがないといわれればそんな反応になるか。
「ええー!建築物が無いなら行く意味ないじゃないですか!がっかりです…」
「ま、まあ一応行ってみようぜ?もしかしたら新しい発見があるかもしれないしな。…さて、そろそろ冒険者ギルドに行かないと日が暮れるぞ」
「あ!そうですね。早く行きましょう!」
俺が支度をする前にシェンが挙手をする。
「マスター、その前にシエラにちゃんとした防具を支給してはやれんかの?」
「…貰えるの?」
今のシエラの服はいたって普通の服だ。スラム街のようにぼろぼろではないが豪華でもない。確かに竜の鱗装備を渡すのを忘れてた。
俺は指輪から竜の鱗装備1式を取り出して、シエラに渡す。ついでに指輪も渡す。
「この防具は高性能なうえに自分の体の大きさにフィットするように自動で伸縮する。俺らは基礎能力がハイスペックだから普段はこんな感じに自由に服を着てていいぞ?その防具は依頼を受けたりする時のパーティとしての証みたいなもんだな。
それでその指輪は魔力を込めればどんなものでも無限に収納出来て、なおかつ取り出したいものを任意に取り出せるチート級のアイテムだ。防具や金目の貴重品はその中に入れておくと盗まれる心配が無くていいぞ。あと指輪に魔力を込めれば俺らと心の中で会話することもできるぞ。重要な情報とかは念話で話すことになるだろうから覚えておいてくれ。
ちなみに指輪の中に最初からいくらか金を入れてあるがそれはお小遣いみたいなもんだから自由に使っていいけどシエラが見たことのないような大金だから変な物とかに使い過ぎないようにしろよ」
シエラは早速指輪の中から硬貨を取り出している。
渡した指輪の中には防具を着る用の下着とインナー、こっそりと換金しておいた大銅貨が数十枚、銀貨と金貨がそれぞれ10枚づつ入っている。ささやかなサプライズではない。ミラとシェンのにも入れてあるし。シエラからすれば見たこともないような大金だろうが俺たちにはただの端金にしかすぎないのでシエラが詐欺やら悪徳商法のやからに騙されないかが心配なのだ。
シエラは生まれてから見たことが無かったのか金貨をみて涙を流している。まじでうちの女性陣は涙もろすぎて困る。俺以外女性しかいないから女性陣とは呼べないかもしれないけど。
「…これ私が好きに使っていいの?盗ったりしない?」
「心配すんな。一応みんなにも同じ額を渡してるし、俺も指輪の中に公私で金は分けてあるから誰も盗らんよ。あと足りなくなったら言えよ?買いたいものによるけど大体は出せるし、装備とか冒険者として使うものは自分の金で買わなくていいからな。その金は自分の趣味のためだけに使ってくれ」
「…え?そんな贅沢できるの?お金は大丈夫?」
「なあミラ。魔王城の金ってどれぐらいあった?」
「えっと確か…前魔王はあまりお金を使わない人でしたし…ここ1年も私と前魔王の食費と、前魔王の治療費にしか使っていないので、白金貨で表すとざっと1万枚ってとこでしょうか?」
白金貨1万枚ってことは日本円に換算すると1兆ぐらいか…とんでもない金額あったんだな。いくら使ってもなくなる気がしない。
「白金貨ってあの貴族しか持ってない白い硬貨の事?それってどれぐらいの価値があるの?」
「そうだな…俺も詳しくは言えないけどとりあえず金の心配はしなくてもいいだけあるってことだ。だからお前はあまり難しく考えるな。そういうことの管理は年上に任せておけ」
「うん、分かった。…ソーマっていくつ?」
「それは我も聞いたことが無いな…年上に任せるってことは我らより上か?」
2人はさっきの年上に任せるの意味が俺も入ってると勘違いしてるようだ。唯一俺の年齢を知っているミラは顔を真っ青にしているが…。
「言ってなかったか?ちなみにさっきの年上に任せろに年上に俺は入ってないよ。ミラとシェンが何歳なのかはデリカシー的に聞かないけど俺より確実に年上だしシエラは俺よりすこし年下か?」
「…え?私今15だけどそれより少ししか上じゃないの?」
「15か、俺も今15だから同い年だな」
「「15!?」」
ミラとシェンは口は開いたまま目を見開いて俺を見つめている。なんだ?そんなに若く見えないってか?失礼だな!外見は向こうの世界と変わらないから若くは見えるだろうが、言動からして15とは思えないのか。
「…マスター、15であの殺気とは…いったいどんな波乱万丈な人生を送っていたんじゃ?」
「俺の年齢を聞いて第一声がそれか…俺はいたって普通の人間だったぞ?…多分」
そこなんだ。殺気の所を気にしてたのか。でもあの時は普通にキレてたからな。何でって言われても分からん。
俺は前世の事を考えていたが、冒険者ギルドに行くという事を思い出しみんなに伝える。
「余計な話で時間をつぶしたけどそろそろ冒険者ギルドに行くぞ。聞きたいことがあるなら道中で聞いてくれ」
「分かりました!」
「了解じゃ」
「分かった」
こうして俺たちは再び冒険者ギルドのある冒険区へと移動する。




