第11話 冒険者試験
「シエラ、ここが魔大陸の冒険者ギルド本部だ」
「…広くて大きいね」
「一応学校みたいなものもやってるみたいだしな」
俺たちは冒険者ギルド本部の建物の前にいる。ちゃんとそれぞれのイメージカラーの竜の装備一式にミラはアダムとイヴ、シェンはインパクトグローブ、シエラは外見だけ変えたブレイブソード、俺はブレイブソードをシエラにあげたので現在はまったく使う予定のないリボルバーだけである。他に武器なら指輪にいくらでもあるのだが選ぶ時間が無かった。
ちなみにアダムとイヴというのは魔王上の倉庫にあった双剣を俺の〈エンチャント〉で、攻撃した相手の体力と与えたダメージによるが、まあ攻撃した相手の体力を吸い取って自分のものにするというとんでもない能力を付けた剣だ。ネーミングセンスがないのは勘弁してほしい。
「さて3人とも中に入るぞ」
ギルドの扉を開けて中に入る。この前見た時とさほど変わっていないがちょっと冒険者の数が多くなった気がする。
3人も俺に続いてギルドの中に入ったところで受付のところに移動する。するとハキハキと聞き取りやすい声がかかってくる。
「こんにちは。今日はどんな要件ですか?依頼の受注ですか?それとも達成報告ですか?」
「俺ら今から冒険者ギルドに入りたいんですけど」
「入団希望の方ですね。かしこまりました。今すぐ担当の者を呼んでまいりますので少々お待ちください」
受付のお姉さんは後ろの方に移動していった。そしてその代わりにまた新しい受付嬢が現れた。効率がいいな。
受付嬢が担当の人を呼びに行って1分もしないうちに筋肉もりもりのどう見ても脳筋としか思えないような男と一緒に出てきた。
「おう!お前らが入団希望のパーティか!パーティそろって同じ防具とは中々センスがあるな!まずは自己紹介をしよう。俺は冒険者ギルドアレン本部入団試験担当者のアレックスだ!よろしくな!」
最初に俺らの防具に目が付くとはやるな。自己紹介も最初のうちに済ませようとするあたり脳筋ではなかったか。
俺たちは順番に自己紹介と意気込みのようなものを発表していく。
「俺は一応リーダーのソーマです。入団試験があるなんて聞いてないが準備はできてます。よろしくおねがいします」
「私の名前はミラです!いろいろ分からないことがありますがご指導お願いします」
「我の名はシェンじゃ。こ、このパーティの保護役のような位置についておる。よそしく頼む」
シェンがこのパーティの保護役だと言ったのは俺が「シェンは一番大人に見えるからみんなの保護者みたいな立場でいいんじゃね?」と発言したからである。シェンは最初「マスターの使い魔である我がそんなことはできない!」なんて猛反対していたが俺がシェンの事を使い魔としてではなく仲間として扱っていることやシェンを信頼しているからと説明すると恥ずかしながらに承諾してくれた。
それにしてもこのアレックスさん、シェンの美貌を見ても表情が変わらないとは…鈍感なのか?それともそういうことを考える脳はすでに筋肉に変わってしまったのだろうか?余談だがギルド内のアレックスさんを除くすべての男女の目線はシェンに向いている。
「…私はシエラ。よろしく」
シエラは少し人見知りのところもあるため簡単に自己紹介を終えてしまった。自己紹介が終わったところでアレックスさんに試験の内容を尋ねる。
「ところでアレックスさん。試験って具体的に何するんですか?」
「そうだな…試験というかその前にまず2つの選択肢がある。1つ目は初めから研修を受ける場合だ」
「研修?」
「そうだ。冒険者としてのイロハや戦闘訓練などを冒険者になる前からやっておいて冒険者になったときの死亡率を減らすための物だ。この研修の最終目標に2つ目の試験が含まれていて試験に合格した者は晴れて1人前の冒険者になれるわけだ」
なるほど。最初に学校で勉強してから冒険者になることもできるのか。でもどれくらいの期間がかかるんだろう?
「その研修は早くてどれくらいで終わるですか?」
「そのパーティの技量のよるが、今まで歴代最速が今のSランクの“瞬光”が叩きだした半年だな。平均は2年から3年あたりだな」
さすがにそれは長すぎる。だとしたら2つ目の選択肢だな。想像はついてるが…。
「それが嫌なら2つ目の選択肢、研修を受けないですぐに試験を受ける方を選べ、と言うことですね?」
「そういうことだ。ちなみに試験は担当の先生と戦うことだ。お前らは私が担当だから私と戦うことになるな」
「なるほど。じゃあ2つ目の選択肢を選びます」
「いいのか?一応引退してとはいえ俺は元Sランク冒険者だぞ?」
「じゃあなおさらやりたいです。Sランクの強さを間近で体験できるいい機会ですし」
この戦いでSランクの実力と俺たちの実力を同時に測るつもりでいる。そんなことを知りもしないアレックスさんは俺たちの事を向上心が強いパーティだと思っているはずだ。
「確かにいい機会だな。では案内するのでついてきてくれ」
「分かりました」
案内されたのは魔王城の訓練場のような円形闘技場だった。魔王城のより小さいが、どうやらここは武器の訓練や実際に捕まえてきて弱らせた魔物と戦わせたりしているところらしい。
「よし、これから試験を始めるぞ。ルールは私に参ったと言わせるか君たちが降参するか。それか私が合格と判断するまで戦い続ける事とする。使う武器は自由だが4対1なので魔法の使用は禁止させてもらう。だが回復魔法の使用だけは認める。けがをしたまま帰ってもられちゃ困るからな。
さて、こんなところだが何か質問はあるか?」
「いや、俺は特に」
「私もありません」
「我もじゃ」
「…私も」
みんなの質問が無い事を確認したアレックスさんは大剣を抜き中段に構える。俺たちもそれぞれ構える。(俺は武器が今無いので適当なものを即席で作っておいた。)
「では行くぞ!試験開始!」
アレックスさんの開始の合図と同時にシエラが走り出す。今回Sランクと戦うために4人はリミッターをつけていない。だがもしリミッターを外した状態で戦い、アレックスさんが不利になる場合すぐさま遠隔操作でリミッターをつけてアレックスさんよりすこし弱い状態にするつもりだ。
シエラが走り出すと同時に俺たちも走り出しシエラの援護に向かう。シエラが剣を振り下ろすとなんとかぎりぎり受け止められたようだ。しかしリミッターを外していてはあと少しでアレックスは持たなくなってしまうので俺は慌ててリミッターを起動する。
俺は1個150kg、ミラとシェンは100kg、シエラは初めてなので50kgでかけて余裕であれば少しづつ増やす予定だ。俺は4か所だが女性陣は両腕の2か所だけだ。
「「「「っ!!」」」」
4人にそれぞれの重さのリミッターが一気にかかる。全員が軽く膝をついたのでアレックスさんが驚いて声をかける。
「大丈夫か?」
「…はい、大丈夫です。シエラが一気に飛ばすもんだから体がちょっとびっくりしただけです。(3人ともいきなりですまなかった。どこか体壊れてないか?)」
俺はアレックスさんの心配をなんとか誤魔化し、3人に念話を飛ばす。不自然だったがアレックスさんは何も気づいていないようでよかった。
「そうなんですよ…いきなり動いたせいでちょっと体がついていけなくてですね。もう大丈夫です。(ソーマさんリミッターをかけるときは何か言ってからやってくださいよ!潰れるかと思いました)」
「我としたことが…準備運動をするべきだった。と思ってももう遅いがの。(本当に何か言ってからでないと危険じゃマスター。危うく反射的に竜化してしまうところじゃったわ)」
「みんなごめん。ちょっと調子に乗った。(ソーマ、私もなんか言ってからやってくれると助かる。それと私のせいにしたのはちょっと不快…)」
3人ともどうやらいきなりの体の負荷にびっくりしたようだ。批判の声が俺の脳内に響く。だが少しづつ動けてきてはいるのでそろそろ慣れただろう。
「アレックスさん、中断させて申し訳ないです。もう治ったので戦いを再開しましょう。(まじでみんなごめん。今度欲しい物作ってやるから勘弁してほしい)」
俺の謝罪と何か作ってもらえるというご褒美に3人は一気にやる気を出した。ちょろいな。
「そうか?では再開させてもらうぞ。4人ともあまり無茶はするなよ?」
アレックスさんの注意に一応全員が頷き戦闘が再開される。
リミッターを付けたことでいい感じの実力差になったようだ。俺たちの攻撃を受け止めながらたまに反撃をしてくる。基本的にシエラがアレックスの前に向かい合い、ミラが右側、シェンが左側、俺が後ろで攻撃を行うように立ち回っているのに中々思い通りに立ち回れないのは、やはりアレックスさんが引退したとはいえ元Sランク冒険者だという点が大きいのだろうか?
そしてこのリミッターは時間経過で少しづつかかる重さが大きくなっていくように俺が操作している。そうすることで体に疲れがたまり、あたかも動いたから疲れていると相手に思い込ませることができるのだ。
試験が始まってから5分ぐらい経過しただろうか。シエラの強めの一撃をアレックスが受け止めているうちにシェンの正拳突きがアレックスの左わき腹にあたる。
「ぐっ!…よしやめだ!このまま続けるといつか俺が死ぬからな」
アレックスさんが負けを認めたため試験は合格したわけだが俺たちの顔に喜びは無い。むしろ降参させるのに5分もかかってしまったことを悔いている。
もちろんそんなことをいう訳にはいかないので4人ともなんとか疲れ切った体を動かして喜びを表現する。
「…そうか。じゃあ俺らは合格でいいんですか?」
「俺の降参だからそうだな。まったくお前らはすごいな。4対1とはいえ降参させられたのは今回が初めてだ」
「やった、やりましたよ。これで私たちも晴れて冒険者ですね」
「そうじゃな」
「…うん」
「なんで棒読みなのかは知らないがこれで1人前の冒険者だな」
3人は別にうれしくないが一応喜ぶべきだと判断し、棒読みではあるが喜んでいる。アレックスさんはそのことを不思議がっているがみんな無視をする。
俺たちは受付に戻りこれからの予定について聞く。とりあえずリミッターも軽めにしておいた。
「それで俺たちは試験に受かった訳ですが、これから何するんですか?認証式みたいなのでもあるんですか?」
「そうだった。忘れてたわ。試験を合格した者は受付でギルドカードを発行してもらえる」
「「「「ギルドカード?」」」」
「そうだ。まあ私は冒険者ギルドに所属してます、というのを表すカードだ。カードには名前、歳、種族を手動で入力して、ランクと称号は自動的に適したものを入力される」
つまりは身分証明書のようなものか。それにしても称号ってなんだろうか。シェンの竜王のようなものか?
「あのー称号って何ですか?」
「称号というのは冒険者になったときにその人の情報を読み取ってギルドカードが自動で入力してくれるものだ。ようするに2つ名だな。称号は被ることはないから自己紹介などでは名前を伏せて称号で呼び合う冒険者も多い」
アレックスさんからギルドカードについての説明を聞き、早速ギルドカードを発行してもらう。みんな手動で入力するものは隠せるらしいので本当の事を入力する。
「出来ました。これがあなたのギルドカードです。これに魔力を流すことで正式にあなたの物となり魔力からその人の情報を読み取ったカードが自動的に称号を決めてくれます」
受付嬢から受け取ったカードは名刺ほどの大きさで中には俺の情報が書いてあった。
〈名前〉ソーマ
〈年齢〉15
〈種族〉魔族
〈称号〉
〈ランク〉E
ランクがEから始まっていたのがちょっと残念だった。最初から始まるのはいいことだけどさ…。
どうやら全員ギルドカードをもらえたようだ。見せてもらうと年齢と種族が非公開と書いてあった。それは俺がプライバシーだから隠してもいいよと言った結果だ。
「よしみんなちゃんと貰えたようだし魔力を込めて称号をもらいますか」
称号はまだもらっていないのでみんなでやろうと言う事になり一斉に魔力を込める。するとギルドカードが青白く光り、すぐ消えた。どうやら無事称号が入力されたようだ。
見てみるとそこには可能性はあると思っていたが一番手に入れると厄介な称号が書かれていた。
〈称号〉魔王
よりにもよって本職が称号になってしまい落ち込んでいるとシェンとシエラが同じように落ち込んでいて、ミラはよくわからなそうな顔をしている。なんとなく想像はつくが一応称号を見せてもらう。
〈名前〉 シェン
〈年齢〉 非公開
〈種族〉 非公開
〈称号〉 竜王
〈ランク〉E
〈名前〉 シエラ
〈年齢〉 非公開
〈種族〉 非公開
〈称号〉 勇者
〈ランク〉E
〈名前〉 ミラ
〈年齢〉 非公開
〈種族〉 非公開
〈称号〉 剣姫
〈ランク〉E
やはりシエラとシェンの称号は想像通りだった。だがミラ称号が剣姫なのはなぜだろう?アダムとイヴを使っているからか?
「…みんな、分かってるとは思うがこの称号は俺らだけの秘密だぞ。バレると面倒だからな」
「分かっておる。我とてこんな称号ごときで有名になりたくはないからな」
「…同感。私とソーマがこの称号を持っていることが知られたらまた戦争が起こりそう」
それは否定できないから怖いな。まあバレなければどうということは無いのだろうけど。
「すいません。なんで私は剣姫なんでしょうか?」
「剣を扱うのが得意なんじゃないのか?それとも剣に対する才能があるとか」
「そうなんでしょうか…かっこいいのでいいんですけどね!」
カッコよければなんでもいいのか?と思ったが口には出さない。
これで正式に冒険者ギルドに入団した俺たちは早速依頼の紙が貼ってある掲示板を眺めていい依頼が無いか確認する。
「なんかいい依頼あったか?」
「こっちはさっぱりですね」
「我も特に目ぼしい物はないのう」
「…これはどう?」
シエラが指さした先にあったのは「緊急依頼」の掲示板だった。緊急依頼とはランク関係なく受けられるが難易度がよくわからないため、緊急でやってほしい場合に出す依頼らしい。魔物が出た場合どんな魔物が出るかわからないので基本依頼を受けるのはAランク以上の冒険者だ。緊急依頼は報酬が高いのでハイリスクハイリターンとなっているそうだ。
シエラが指さしたのは迷宮の攻略の依頼だった。その迷宮は最近見つかったのだが誰も攻略できないらしい。そこで冒険者に依頼して攻略してほしいみたいなことが書かれていた。
「…なになに。迷宮で見つけた物は見つけた人のものとする。だってさ。どうする?俺的には行ってもいいと思うんだが…それに迷宮の事を詳しく知るチャンスだしな」
「私も行ってもいいと思います」
「我も構わんが、どれぐらい日数がかかるのかによるのう」
「うん。なるべく早く帰りたいけど迷宮に潜るなら準備はしっかりしておきたい」
反対する者はいないようなので迷宮探索の依頼書をはがし、受付に持っていく。
「これを受けたいんだが…できるか?」
「迷宮探索の緊急依頼ですね。するとあなた方で最後のパーティになりますね」
「ほかにも参加しているのか?」
「はい。今回はSランクのパーティが1組参加されるようです」
「なるほど、分かった。ではその依頼を受けさせてもらおう」
「かしこまりました。ではパーティ名をお伺いしても?」
パーティ名?そんなの考えてなかったぞ。そうだな、やっぱ困ったときは念話だな。
俺はみんなに念話を飛ばす。
(すまん。パーティ名考えてなかったが何かいい案あるか?)
(そうですね…今のところ思い浮かびませんね。すみません)
(我もこれといった案はないんじゃ。すまぬマスター)
(私も特にない)
(そうか…じゃあ俺が今考えたんだが「カオス」はどうだ?)
(どんな意味が込められてるんですか?)
(カオスって言うのは混沌って意味なんだよ。俺たちは魔王に魔王軍幹部、竜王に勇者と正直異常な戦力で構成されてるだろ?それに魔王と勇者という光と闇の存在。つまり混沌だからこれがいいと思ったのもあるな。どうだ?)
本当に今考えた案だから安直だし、ダメだろうと思ったらそうでもなかった。厨二ワードなのに。
(すごくいい理由ですね!私は賛成です)
(うむ。我も賛成じゃ)
(…賛成)
(分かった。じゃあ満場一致でこれからのパーティ名は「カオス」で行く!)
(了解(です!)(じゃ!))
言ってからカオスという厨二ワードに恥ずかしくなったけどみんなに押され、結局カオスになった。パーティ名が決まったところで受付嬢に伝える。
「俺らのパーティ名はカオスだ」
「カオスですね、かしこまりました。では明日の朝迷宮行きの馬車を手配しますので冒険区の門でお待ちください」
「分かった」
こうして俺たちは無事冒険者になった。




