移動
「ガレット?」
「ちょっと慰め的なことでも言ってやろうかなと思ったが、いやはやなんとも賑やかなところじゃないか。これなら全然さびしくもないし、いやむしろ、ゴブリンの王たる君ならばとても過ごしやすいところではないのかい。おっと王の御前であったな。みんな頭を下げようじゃないか」
にやにやと笑いつつ、慇懃に、皮肉げに礼までしてきた。
全員も小馬鹿にしたように頭を下げ、それから檻をガンと蹴った。
「ふふ、お前みたいなひ弱で何もできない奴はほんとうに目障りなんだよなぁ。いい子にしてれば誰かが助けてくれる。はん、お前の才能のなさはけっこう知れ渡っているからな。せいぜいさっさと降参して無様な姿をさらせよ」
「あ、でもすぐ降参すると家名に傷がつくとかじゃなかったでしたっけ」
「あー、そうだったそうだった。でもこいつのところの家名なんて所詮最下級の名ばかり貴族だろ。それも最弱の吹けば飛ぶようなもの。むしろなくなったほうがその分の年金もなくなって国の資産に貢献できるんじゃないか?」
「はは、いえてら」
げらげらと周り中が笑い出す。
「おー、そうだそうだ、そろそろ腹も減ってるだろ。これやるよ」
何やらひとりがひとつの袋を取り出す。
「そうらよ」
袋は放られて中身がまろびでる。
そこには大量の虫がたくさん入っていた。
そして、異臭を放つ腐った卵やら果物も一緒に。
檻の床にぶちまけられ臭気が一変に広がる。
メルは思わずうっと顔をした半分手でおおった。
「ははは、じゃあ、それ食ってくれよ。それ食ってるとこ見たら俺たちも行くからさ」
そういって、ガレットも鼻を抑えてニヤリと笑った。
「なんで・・・・」
「あ?」
「なんでみんな、そうやって僕を攻撃する?」
「そりゃ、親の因果が子に報いるってものだよ。それに」
そこでさらにガレットが何かを言おうとしたところで。
「そこで何してるの?」
静かな、でも、威圧するには十分な声であった。
「ロクマ、先輩?」
「私は備品管理の警備をしている3年次のロクマ。ここで新入生たちは一体何してるの?」
「い、いや、えと」
「そう、ちょいとね差し入れをね」
「ああ、退屈だろうと思って」
「それで、そこの腐った生ものと大量の虫を入れたと?」
ちらと床を見、彼らを見、険のこもった瞳で彼らを見つめた。
「・・・・くそ、白けたから行くぞ」
ガレットがそうおんどをとって、全員を引き上げさせようとした。
「待って」
ぼそっとロクマ先輩が言う。
「あん?なんだよ、先輩」
「片付け」
そうぶちまけられたゴミを指差した。
「はん、知ったことか。おい、全員とっとと行くぞ」
「・・・させませんよ」
瞬時にその場が冷えてゆき、一触即発になっていく。
しばし、彼らと彼女がにらみあっていて・・・・・
「おーい、ってなんだこれは?」
一人の教師の乱入で一気に弛緩する。
ぼさぼさの髪にどこか眠たげな、様子を見せた白衣の教師であった。
「タラスカ先生」
「あー、なんだこれはだけど、うーん、変なことになってるなぁ。はぁ」
そういって、指をぴんとたててから何かをぶつぶつといってからくるりと回す。
その途端、床が一瞬光ったかと思うとさっきまで臭気を放っていたゴミやら虫やらが消えて失せた。
「ふぅ、めんど。とりあえず、これでいいだろ。ほら全員持ち場に移った移った。そろそろこの檻だしゃなきゃだし・・・・ああ、そうだ、君たちに手伝ってもらおうか」
「はぁ?何をいって。僕は公爵の息子で」
「ん」
また指をぴんとたてたあと、すーっと横に引く。
途端に、ガレットの口がファスナーで閉じるように閉じる。
「ほら、ちゃちゃと行こう。めんどくさいし」
ぼりぼりと頭をかいてあくびまでしながら片手でこいとひらひらさせた。
痩せこけた中年の男なだけに、どこか覇気のなさが異様なふうに映るが、ここは変になにかするのもまずいかと思い、「んー!んー!」とうなっているガレットを二人の少年が支えて、残りの全員が檻を台車に乗せて移動し始めた。
ちなみに、巨大な檻のしたには車輪がついており、それを魔道具を使って滑るように移動させるもので、会場まで、この折はそのレールのようなものでひかれて運ばれていくのである。
そうして、メルは載せられるまま、小型の檻とともに会場へと、正確にはその魔王側準備室というところへと運ばれていった。
何やら周りではいろいろと動いているようであったが、メルは中の魔物たちとともに何をするでなくじっとしていた。
やがて、巨大な檻の上からこれまたそれをすっぽりと覆う布で覆われた。
一年次の式にて、この状態でそのまま檻は会場中央に運ばれることとなっているそうである。
そして、準備は整ったとばかりに、その時間が来るまで、メルは魔物たちとともにその場に捨て置かれるように待機させられた。
ちなみに余談だが、1年次のほかのクラスメイトの勇者側はまた別の待合室であり、お茶に焼き菓子とそれぞれがくつろげるようになっていた。
ともあれ、メルはただただ不安に苛まれながら、じっと事の成り行きを見守るだけで大きく動くことはなかった。
ただただ、じっと、何かを考えるように、目を閉じて・・・・・
「サン・・・・」
ぼそっと小さく使い魔の名をいった。
しかし、それに応えるものは、応えることがらはなにもなかった。
にぎやかな歓声が会場のほうから聞こえてきていた。




