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本番へ

 「さぁ、並み居る紳士淑女の皆様、お待たせいたしました。これよりこの時期行われる新風式において、新進気鋭の魔法使いたちによる華やかなるデビュー戦を行いたいと思います」


 一際若い教師が音声拡大の魔道具を手によく通る声で宣言した。

 その途端、わーっと大きな歓声が響き渡った。

  

 ふと、メルは「ああ、そういえばこのお祭り、新風式って呼ぶなぁ」と今更ながらに思っていた。

 名前の由来としては新入生の魔法使いを新しい風と呼称し、新進気鋭なる新たな担い手として、そして、外の守護者として歓迎するというものだったなぁと授業で聞いた内容を思い出していた。


 それと同時にこれから行われる段取りも思い出していた。


 これはタラスカ先生から教わっていたことだが、面倒面倒と言いながらもけっこう細かいことまで教えてくれていた。


 一応、概略から説明すると・・・・・




 まず、勇者役の生徒が行進してきて、横陣になりまずは王族に向かって礼、続いて親族のいる貴族側へ礼、そして最後に観客に向かって礼を行われる。


 観客への礼が終わると今度はこっち側にで大きな音の花火があがる。


 そして、檻がせり上がり、中の魔物を前面に押し出して、一声吠えさせる。

 吠えさせたあと、檻の中の魔物を順次会場内に放っていく。

 ちなみに檻を前面に出したり、魔物を出したりするのは魔王役の役割となっている。


 このときに決して所定の位置から外れた檻の移動の仕方をしてはならない。

 封印の処置が施された道のりを外れると魔王役の生徒に危害が及ぶからである。


 だが、それにしてもけっこうたくさんの檻を一人でどうにかするというのは重労働である。

 なので、皆が礼をしている間に暗幕を落とされて中が見えない状態で行う必要がある。


 時間制限の中慌ただしく動く。


 借りた衣装の魔道具の中に多少の補助できる機能があるがそれにしても疲労困憊してしまう。


 さて、それらが済み、いざ暗幕が勇者役の魔法使いたちのうちの代表何人かが風の魔法で暗幕を吹き飛ばす。

 ついでにその際に魔王役の生徒が檻を自壊させる装置を発動。

 というか下に魔法陣があり、それにほんのわずかに魔力を通せば自壊できる仕組みとなっている。


 さてそこからが本番。

 魔物をどんどん勇者側のほうにけしかけなくてはならない。

 弱化の魔法がかかっているとはいえ魔物は魔物。

 プチゴブリンはとにかく前進しかしないから統制はとりやすいが、バットは四方八方へあっちこっち飛んでしまう。


 ウルフに至っては下手をすればこちらが噛まれてしまう。


 なお、そういうのを見て観客は笑い転げるのもまたいつものこと。


 魔王役はいわば道化師役である。


 必死になればなるほどその身に飾っている衣装により笑いを誘う。


 外から見れば、さながら乞食が必死に踊っているかのような格好である。


 ともあれ、今回のウルフは従順なようで自分の周りを囲んで守るようにうずくまっている。


 現行戦力として


 プチゴブリンが100

 バットが50

 ウルフが5

 ゴブリンが1


 そして、呪符が貼られている檻がひとつ。


 それとメル自身。 

 となっている。

 そもそも檻一つ一つが魔道具なのでそこそこの数の魔物がひとつの折に入っていたりした。

 ただ、見えているのは全面のみという仕様である。



 対するは一年次と補助の二年次、総勢50名ほど。それに控えとしてなにか不測の事態が起こったときのための教師が二人。

 内一人は担任のハジェイトンである。


 むろん1年次全員が参加というわけでなく、裏方だったりするものもいるがほとんど出てきていてそれが自分一人へと敵意をみなぎらせているのはどうかと思うが。

 それに加えて、生徒一人ひとりに使い魔もついていて、それが各生徒の周りを守っている。


 様々な動物たちで彩られ、親族側から「がんばれー」とか「いけー」とか声がかかっている。


 魔王側にはそういう声援は一切ない。

 そもそも、自分の親族はきていない。


 招待されてはいるだろうが、魔王役をやる時点でこないことはわかっていた。


 魔王役がどんな生徒がなるのか学園に通っていた親ならよくわかっているだろう。



 

 「はぁ」


 小さくため息をもらす。

 せめて無様にはならないよう、先輩方からの訓練を無駄にはしないよう。

 

  


 足掻こう。




 目の前で次々と潰されていくプチゴブリンの群れを眺めながら、ぎりっと奥歯を噛み締めた。


 ふと、さっき呪符で縛られてとりあえず、開けはしたが、ゴブリンとともに動きを見せない幕で隠れた魔物を振り返る。


 そういえば、ゴブリンはなぜに幕の前にたって動いていないんだろう。


 貧弱な装備ではあるものの、そこに佇む様子はさながら騎士のように毅然とゴブリンの様子であった。



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