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「ねぇ、準備はどうなってるの?」
あと一週間で式祭が始まるというときの昼下がり。
例によって訓練を行っての毎日であるが、授業よりもよほど充実しているようでメルは溌剌としていた。
「うーん、そこそこ進んでますよ」
いつもの木陰で二人ならんで話している。
特に揶揄してくるようなやつもおらず、とても心穏やかに過ごせている。
メルにとって、教室があまりにも居心地悪く、最近では使い魔がいなくなったこともあり、完全に落第生として見られているようであった。
そもそも二週間経ってもサンは帰ってこず、一度都市迷宮へとこっそりと探しにも言ったがなんの収穫もなかった。
酒場の中も探し回りはしたが、昼間であり、対して人もおらず、というか、
「こんなとこにガキは来るな」
と、酔客に絡まれたのもあり、そうそうに退散した次第である。
あと、攻略組と呼ばれる人たちのそばにいって聞き耳をたてたりもしたけど、対した情報はなかった。
「ノラの竜が出た」
「グランスライムの亜種が出た」
「変な魔剣の鑑定は・・・」
「裸男が出たけど、それがイケメンで目の保養に」
「そろそろ人の募集を」
「野良猫が増えたなぁ」
「猫酒場とか?」
猫に関してのことをきき、ついでに周辺も見て回ったが、確かに猫は多くいたが、サンらしい姿はどこにもなかった。
まだ迷宮の中か、それともまだ遠くにいるのか心配にはなる。テトラ先輩からは生きていれば感じられるものがあるということで、確かに未だかすかにではあるがいるという感じはしているのでそのあたりはほっとしているものの、けがをしているのではないのか?そもそも期日は過ぎているのに、もしかして、自分を捨ててしまったのではないか。
いろいろ不安にもなってきていた。
だけど、自分にはどうすることもできないでいた。
そんなふうにしていても時間は過ぎ去り、配下役用の魔物の確認、衣服の合わせ、進行の段取りなどを担当の覇気のない教師とともに行っていた。
覇気のないその教師はメルに対して無関心という感じであったが、悪意がないぶん、メルはほっとしていたこともあった。
一年次のほかのクラスメイトは勇者役とその仲間役に切磋琢磨している。
訓練、演習とは言え本物の魔物を倒せることにやや興奮しているようであって、その風景は真剣かつ楽しそうであった。
自分はその輪の中に加われないことに一抹の悲しみがあったが、こうしてテトラ先輩とマンツーマンで訓練するほうがいいという思いは強かった。
ともあれ、迫る式祭のためにも、せめてサンが帰ってきた時に胸を張れるような自分でいたいと身をいれて訓練していた。
「そっか、ならいいんだけども。私のクラスの方でもいろいろ進んでて、けっこう大掛かりな演舞をやるみたいよ」
この学校は今の季節は四年と五年は修行実習で旅をする授業があるのでおらず、三年が最高学年となるので、その舞台はかなり大掛かりなものになるようである。
毎年、使い魔とともに演武会を行ったり、それぞれの技や魔法やどう魔物を倒したり、また社会貢献できるかの発表の場にもなったりする。
メルにとっては魔王役ということもあり、最後のやられ役なので鬱々としたものもありはしたが、式祭全体の内容そのものはとても華々しく、見ていて飽きない一種のエンターテイメントであった。
「で、魔物はどんなだった、例年通り、また学園迷宮で捕獲したゴブリンとウルフ?」
「うん。でも、なんか今年は都市迷宮から珍しい魔物も取り寄せたっていってたし、それをこっちにもまわすって」
「へぇ、ちょっと珍しいわね。何かレアな魔物を品評会めいた形で出すこともあり得なくもないけど、あなたの配下用に出すのってちょっと意外かも。その覇気のない先生って生物顧問のタラスカ先生でしょ」
「うん。でもなんかその魔物を推薦したのは別の先生だっていってた。本人は例年通りの方がめんどうがなくていいんだっていってたけど」
「ふぅん、その別の先生って?」
「それが口を濁されてごまかされた」
「はぁ?!」
がばっとメルを見て目をむいた。
「もう、まったくどうしてこうもあなた関連に関しては負の方向へ働かされるのかしら?」
「知らないですよ。はぁ。でもこうしてテトラ先輩たちに訓練してもらえて少しはなんとかなってきたみたいですし、本番までにはなんとかなりそうです」
「そう。ならいいんだけど。というよりもここ最近はまた魔力が伸びなくなってきたみたいだけど、訓練前に比べたら大きな差があるわ」
「そうですね。たまたまそういう時期だったのかもしれません」
魔力伸び。
これに関してはメル自身も首をひねるばかりであった。
何かが入ってきたなと思ったそのあとの魔法を使った訓練では今までの倍では聞かないような出力の光の魔法が出て、あわや目が潰れるかと思ったほどであった。
三人の先輩よりも魔力事故かと心配され、次いでそうではないと知れるとしっかりするよう怒られて散々であったが、どうにも異常な魔力伸びに戸惑うばかりであった。
可能性としていきなり使えたこと、そして、サンがいないことより、サンに何か大きな成長があったからではないかと言われたが召喚したてのサンではそんなことはありえないと言われ、やはり、成長期に入ったのかと思われ、これを逃す手はないと訓練がエクストリームモードに入って半ばメルは死にかけたところであった。
ちょっとそれを思いだし、身震いしたが、ここ最近、また停滞し始めたので突発的なものかとまた通常モードへと戻っていってほっとしているところもあった。
居心地の悪い教室にいるよりはその訓練は嬉しい限りのものではあったけども。
「ま、とにかく、だいぶ使えるようになってきたし、これならしっかりと戦えるわね」
「うん。でも・・・・・」
口ごもらせたあと、あえて言おう言おうと思ってなかなか言い出せなかったことだが言わなくてはと思い思い切っていってみた。
「どうして僕にここまでしてくれるんですか?前に、先生がむかつくからとかそんなことをいってたけど、それにしても熱が入っているというか」
「ああ・・・・うん、まぁそうかもね」
ちょっとはにかむように微笑んで上を見上げた。
メルもなんとなく上を見上げた。
今日も空が青くいい天気である。
「えとね、魔王役だけど、やっぱり式祭があって、そういう場があるということは毎年かならず誰かがなっているっていうことだけど」
そう両の指をこねあわせたあと、目を閉じる。
「去年、出た子は女の子でね、女魔王役をやらされたけど、ずっと式の間も泣きっぱなしでね。クラスメイト全員からその式の際、リンチめいた感じで攻撃を受けていたの」
表情がだんだんとなくなり、冷たくなっていく。
「泣いている顔がとても悲壮でね、魔物はともかく使い魔までぼろぼろになって、「やめて、降参」っていっても観客や魔物を初めて倒して興奮してしまっていた相手しているクラスメイトにも聞こえず、そのまま、失神して気絶して、それでも攻撃を受け続けて・・・・・その子、次の日から学校にはこなくなったわ」
「・・・・・うん」
「その子ね、私の領地からきた子だったの。だから少しみていたのもあったけど、それを見て「あーなんかやだな」って思ったの。もともと、弱いものいじめはよくないって兄さん達からも言われていたけど、ここでは弱いは敵として見られるようなものだからずっと違和感を感じていた」
「・・・・・うん」
「そうして、また今年、去年よりもひどい噂でもってあなたがきた。なんとなく、だけど、魔王役があんたにふられたとき、ある意味ね、私にとってのこの違和感を取れるチャンスかなって思ったの」
「チャンス?」
「うん。ほら、最弱な子が実はすごかったっていうのはなんだか胸がすく思いだもの。負けて欲しくない。ただ、そう思った。それに必死に抗うあなたをみて余計にそう助けなきゃって思ったから。だから、こうして訓練に付き合っているのよ」
にこっと笑いかけてきた。
陽光で少し表情が見えなくなっているが少し、泣いてる、のかな?
「だから、魔王役、もうこの際だからクラスメイト全員を蹂躙するくらいの気持ちでがんばってほしいの。期待してるからね!」
「いや、そこまではちょっと」
「なによ、そこは胸をはって「どんと任せろ」っていうところでしょ」
あははと笑って「さて、と」と立ち上がる。
「そろそろ、二人も来る頃だし、仕上げに掛かりましょ。えっと、サンちゃんはまだ見つからないのよね」
「はい、でもきっと戻ってきます。約束したし。それに、もし来れなかったとしても、胸をはって、「がんばったよ」っていってやりたいですから」
「もう、何この子、天使過ぎるわ」
かいぐりかいぐりとぎゅーといきなり抱きしめられる。
うがむがといきなりなことにばたばたとする。
やおら、パッとはなし、真っ赤になってふらつくメルをよそにテトラは気合を入れた。
「よし、じゃあ、また訓練していこっか。今度はあのハードモードよりももっとハードにして仕上げていくわよ。目指せ、勇者役とその補助にかりそうな教師もぼこっちゃおうで」
「いや、教師までやるのはさすがに無理が」
「無理を承知でやってかないとのびないよ」
「うっ」
「目標は高く、気構えは晴れやかに!」
そういって、手を引っ張っていつもの訓練の場所へと戻っていった。
そうこうして、式祭前日まで、バタバタしながらもメルは三人の先輩たちとともに訓練にいそしんでいった。
サンは、未だ、戻りはせず、メルは不安を抱えながらも。
式の朝を迎えようとしていた。




