訓練の一幕
「ん?」
ふと、背筋に何かが走るのを感じた。
なんだろ?なんかが体に入ってきたような感触だったけど・・・・・なんだったんだろ?
「どうしたの、メル?訓練中に」
「あ、テトラ先輩、すみません。なんとなくぞわっときたもので」
「ぞわっと、そう・・・・」
テトラさんがそういって、口元に手をやる。
「ふぅ、うん、なら、ちょっと休憩する?」
僕にテトラ先輩が声をかけてくる。
「はい、できましたら」
まぁ、ぞわっとしたこともあるし、風邪とか引いたらまずいからね。
「そう、じゃ、休憩しましょ。それにしても、よく頑張っている方じゃない。というかかなり魔法の伸びがいいわね。魔力そのものはやっぱり弱いままだけど、制御するのはすごくうまいじゃないの」
「いえ、そんなことないです。先輩の制御のがすごく上手ですし」
「そりゃ、先輩だから迷宮の攻略もしたりしてるしねぇ。メルくんのは年下だし、その年次での制御ならなかなかのものよ。問題は魔力そのものがなさすぎるのが痛いんだけどね」
「ごもっともで」
苦笑しながら応えた。
うん、仕方ないけども、ね。
そういって、林の中の一本の木陰にお互い腰を下ろして、訓練の反省会を行いつつ、話し合った。
なんというか、こうして誰かが自分のことを見て、しっかり訓練に付き合ってくれるのがとてもうれしいが、それに反してちょっと申し訳ない気持ちも湧いてくる。
先日の魔王役をやらされたことに関して、学園中に周知されることになり、どうも僕が訓練場を使うことが全面的に禁止措置になってきている。
それを身に受けつつ小耳に挟んだことだが、この魔王役、そもそも一番成績の悪いものが毎年うけることになるようで、やられること前提での運びとなるそうである。
魔王役はせいぜい惨めに負け、勇者役の引き立て役をすることが重要だとか。
死ぬことはないよう設定されるとは言え、やられっぱなしは・・・・・
今まではそうでもなかったけど、サンが傷ついてしまうのをみるのはやっぱりいやだ。
だから、わらにすがる思いで、先輩との訓練のことを思い出して、改めてテトラ先輩にお願いしに行ったら
「別にいいよ」
と、あっさり了承してくれた。
なお、学園側には秘密で僕たちは行っている。
なんか知られるとまずいような気がしたし、事実テトラ先輩より
「そんな、演習場を使えなくするくらいだなんて、学園が了承しているってことでしょ。これ、一生徒がどうこうできる問題ではないわ。となれば、隠れてがんばるしかないわね」
とのこと。
でも僕にしてみたら、演習場でみんなから嫌な目で見られながらやるよりも好きな先輩と一緒に訓練している方がよっぽど楽しい。
ちょっと訓練メニューはきついし、何度も魔力枯渇仕掛けた面もあったけど、おおむねうまくいってよかった。
それに・・・・
「おーい、いつまで休んでんだ?それに魔法訓練もいいけど、体動かすのもやっとくのがいいぞ」
テトラ先輩よりも背が高く、見た目細身だけどがっちりした筋肉の金髪短髪女性がこちらに手を振った。
一応隠れているつもりなんですけどね、ナイルナ先輩。
「ナイルナは体動かしすぎ。それより、魔法知識の向上」
その横で、対照的に黒いローブで全身を隠し、つばの広い帽子で表情まで隠れている小柄な少女がぼそぼそと言った。
「キッコロ、そうはいってもよ、もう訓練初めて三日目だけど、制御に関してはいいんだが肝心の魔力が育ってねぇじゃねぇか」
憮然とした表情で応える。
その向こうでそれぞれ大きな鳥と牛と鳥がそれぞれ戯れてとても楽しそうにしている。
『そっちいったわよ、シェリー』
『オッケー、ホワ。ティーゲル、喰らいなさい』
『おっと、なんの』
念話は聞こえないけど、そんな感じのことをやっているんだろうなというのが容易に想像がつくような様子である。さっきからひとつの固めのボールを取り合っている。
もっとも、はたで見たら戦っているようにしか見えないけど。
それぞれ牛のシェリーがテトラ先輩の、虎のティーゲルがナイルナ先輩の、鳥のホワがロクマ先輩の。
みな、ランクアップした使い魔なんだとか。
すごいなぁと思える。
シェリーはきいたところによるとシータウロスの子供でリトルレッサーがついている種。
ティーゲルはタンケッテ種。
ホワはレッサーファルコン種。
どの使い魔もとても強そうである。
僕のサンも強くなるのかなぁ?
「ほら、それなら、もう少し移動向上を行っておくとかさ」
「ナイルナはほんとに走り込み好きよね」
「ナイルナ、走りすぎ。使い魔に似た」
「いや、それなら使い魔がうちに似たじゃないのかよ」
二人共そばまでやってきて、テトラ先輩といっぱいおしゃべりし始める。
今いる三人がなんだかんだとこの三日、訓練に付き合ってくれている。
理由としては暇だと二人言っていたけど、単純にテトラ先輩が心配なんだろうなって思った。
なにせ、二人からテトラ先輩がいないときにぼそっと言われた。
「お前さんの境遇とかいろいろ知っちゃーいる。何、だからテトラも負けん気起こしてお前さんをすくいたがっているんだよ。うちらだって、それに救われたところもあるしな。だから、恩義もある。あいつは見捨てられないからな」
そういっていた。
ちなみに、迷宮ではこの三人でよくおりるとかいっていて、グループ名は紅き槍。
それをきいたとき、なんとなくテトラ先輩の髪を思い起こした。
そんなわけで、授業以外でもしっかりと式祭をなんとか無難にするためにこうして訓練に付き合ってもらっている。
なお、魔王だから無様に負けなければならないという理由は一切ないんだとか。
あくまでも不文律として、無様な負けっぷりがどうのとあるだけなんだって。
ふぅ、少しでも先輩たちに応えるために、式で立派な姿を見せるぞ。
「とにかく、走り込みだ。ほら、メル、うちと走るで」
「はい、先輩」
そういうや、少し顔を赤らめて「お、おう、任せとけ」といっていた。
先輩呼びするといつも照れている。
呼ばれ慣れていないのかな?
ともかく、そうして、約束の二週間までに少しでもサンに「僕だって、がんばったぞ」と見せてやるんだ。
そのあとの二週間は、なんとなく、サンといろいろと作戦会議して訓練して・・・・・
なんだか、とっても楽しく過ごせそうでわくわくする。
早く、二週間経たないかなぁ。
・・・・・
そして、二週間が経ち・・・・・
いろいろと訓練中にやはりはじめの時ほどではないものの、何かが体の中に入り込む感覚はあったり、多少のすったもんだはあったものの、にこにこしてメルは待っていた。
そして約束の期日。
なぜか、サンは戻っては来なかった。




