分かれ道
「ねぇ、サン、別にいいんだよ。訓練所に行かなくても。ほら、僕は大丈夫だからさ」
苦笑いしてそんな台詞吐くならなおのことどうにかせんといかんぞ。
そもそも大丈夫じゃないやつほど「大丈夫」という言葉を吐く。
気のせいでなく、経験則からじゃな。
『なら聞くが、何か方策でもあるのか?お主が傷つかず、皆をまとめ、滞りなく進める方法を』
「それは・・・・・」
『今のままではお主、ヘタをすれば殺されかねん勢いじゃぞ。よく考えてみろ』
「そんな、そこまでないよ」
そんなことはない。
あの教師、言っていたよな「一撃『以上』いれれば」と。
これって公然とメルをぼこれ宣言ではないのか?
集団リンチにも程がある。
「で、でも、きっと先生なりの激励のつもりで」
『それならもっと穏便な手もあるじゃろうに、式の期日を早めてまで嫌がらせされておる状態なんじゃぞ。これははっきりいって常軌を逸しておる』
すたっと今まで抱っこされていたが地に降りる。
『休日の訓練はこのまま行っていけばいいができることなら平日の放課後もみっちり演習場で訓練しておく必要があるからな。できれば都市迷宮にいけえれば手っ取り早いんじゃが』
そう、そうすれば早くパワーレベリング手強くしていくこともでき、対抗手段にもなり得るのじゃが、都市迷宮にいけば、まず停学は必至。最悪、退学のうえ不名誉な称号も一生付きまとわれなくてはならん。
学園迷宮は低年次ゆえに入れないし。
さて、どうするかといえば今ある手札は訓練所とテトラ嬢との訓練だけじゃな。
少しでも抵抗できるようにせねば。
天凛が邪魔するのはあるが、ステータスよりもプレイヤーズスキルを伸ばせればまだ個人戦なり集団戦なりで生き延びれるし一泡吹かせられるからな。
『善は急げじゃ。ほれ、いくぞ』
「あ、待ってよ」
儂はテテテテテと走り抜け、メルもそのあとをついていく。
道中、やはり平日ゆえ、授業も終わってのものじゃから行き交う生徒も多い。
そして、それに付き従う使い魔もまた雑多におる。
相変わらず荷物持ちやらその背に乗っての移動やらけっこうこきつかっておるなぁ。
ねずみにすら集団で本を持たせておるし遅れて何やら叱責をかっておるものもおる。
はぁ、気が重くなる光景じゃな。
ともあれ、今は演習場じゃ。
とっとといくぞ。
「ここは通せませんよ」
入口へいざ入ろうとしたら受付の若い職員に止められた。
「ど、どうしてですか?」
もともと乗り気ではなかったが今まで入れていたところにはいれなくなったことに驚きを隠せないメルは即座に聞いた。
「えーと、メルティウス・ダンジェス君で間違いありませんね」
「はい」
「それでは、あなたは式典まで魔王役をやるということで勇者役である方々と同じ訓練を行うことはできません」
何?!そういうシステムなのか?
「勇者と魔王は同じところにいるわけにはいきませんし、戦略戦術戦力は当日ぶっつけで行われてこそ意義のある式典となるわけなのです。で、勇者役が多く利用されることもあり、魔王役の方は別口のところで訓練を受けてもらいたいのです」
うーむ、なんということじゃ。しかも、役をわけておるといいながらも実質はメルとその他大勢という分け方じゃと。
「じゃ、じゃあ、僕はどこで訓練を」
「さぁ?」
・・・・・はっ?!
「さ、さぁって」
「申し訳ありませんが規則ですので。ハジェイトン教師から今回の魔王役は君が快く引き受けてくださったのでいろいろと生徒のモチベーションもはかどるといいます。まぁ、お気の毒様というところで。訓練はどこか雑木林ででも行ってください・・・・・あ、これはガレット様。それにお付きの方々も」
にこやかに若い職員が応対するはいつの間に後ろに来ていたのかクラスメイトども。
「おー、ドクト。また邪魔するぜ」
「どうぞどうぞ。行われる式典の中心勇者役、がんばってくださいませ」
「ふん、当然の役回りだからな・・・・・ん?あー、ダメルティ、いたのか」
今の今まで空気のように扱っていたところで視線をこちらにやる。
「ふん、演習とは言え、ただの遊びだ。君なんぞ、秒で終わるが、少しは楽しませるようにしてくれよ」
周りの追従する貴族子弟もはははと笑い、メルと応対が違い、スムーズに演習場へと中へ入っていった。
「さて、ダンジェス君。そのままつっ立っていられても邪魔になるだけですし、早めにここから去ったほうがいいですよ」
そう冷たく言われて、若い職員は所定の位置へと戻っていった。
これは・・・・・弱者に対しての扱いのなんとひどいことか。
「あー、サン。ほら、気にしないで。じゃあ、訓練なら近くの林でもできるし。こないだもそうしたじゃない。それに部屋の中でもできるし」
気落ちしておる儂に声をかける。
じゃが、なんと後ろ向きな提案か。
・・・・・このままではこんな素直な良い子が苦界にまみれてしまう。
・・・・
・・・
・・
よし!
『のぉ、メル。平日は普通に授業もあるわけじゃよな。そして休日はテトラ嬢と訓練の約束をしておるな』
「う、うん」
『儂はしばらくここを離れる。二週間後くらいには戻るから、それまで平日は授業が終われば食事以外は部屋の中での訓練に勤しめ。課題としてそうじゃな、わしくらいの大きさの光の玉を複数所持、維持できるようにしておけ。いいな』
「え?え?」
『とりあえず、儂はいくところがある。何、必ず戻ってくるから心配するでないぞ』
しゅだっとちょうど外とつながる廊下にいたので、草むらに出る。
『林の中で、訓練というのも良いが、演習場以外では事故もあるやもしれん。だからなるべく部屋の中で訓練するんじゃぞ。では』
と、行こうとしたが。
「さ、サン、僕を置いてくの?」
不安そうに叫びに近い声をあげる。
何事かと幾人かの生徒が目を向けてくるがすぐにそらす。
『置いて行きはせんよ。それよりもお主を守るためには儂はまだまだ役不足じゃからな。少しでもなんとかせんといかんからな。じゃから、それまで、すまんの。事は急を要するからな。ちょっと都市迷宮へ行ってくる』
「と、都市迷宮って」
『おっと、止めようとするでないぞ。これは決めたことじゃからな。無論、こっそりいくぞ。メルも知っていよう、これでも一度訪れたところじゃからな』
「そんな・・・・」
気落ちし始めるメルの足元まで行ってつま先にぽんと前足を載せる。
『ま、このままでは十中八九痛い目を見る。儂はそれをどうにかするために動く。じゃから、メル、お主もお主なりに最善をつくすようにせよ。よいな』
言う事言ったら去るとするか。
「なんか、サン、君、ほんとうに使い魔というよりもなんというか」
『メル、儂は使い魔じゃよ。それこそこの世界ではどういう定義をしているのかしらんが、儂としては主を護り、主に正しき道を切り拓くものこそ正しき使い魔の道と思っておるからの』
ちょっとかっこいいこと言ってみたくなったので言ってみる。
前世じゃまずこういう台詞、言えんかったからのぉ。
わしかっこいい。
「サン」
『んじゃな、しっかり訓練するんじゃぞ。サボるんじゃないぞ』
そういって、てってけてとその場をあとにした。
後ろをちらと見るといつまでもこっちを見ているメルの姿があった。
もう、いつまでもおらんと、さっさと訓練しろってーの。
軽く風魔術でメルのほほにぽんと当てるとはっとしたような顔になる。
そして、こくりとうなずいて去っていった。
よし、では儂、いっそう頑張るとするかな。




