表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/69

嫌な教室内




 その答えは教室に入ってすぐにわかった。


 「あはは、やっぱりダメルティはダメルティだったってことだな」


 「魔力なんかほとんどないんだし、使い魔もハズレ猫」

 

 「気の毒にねぇ。ほほほほほ」


 「不動の総合成績最下位様だからな。いや、筆記の試験ではどうにかだからちびのあたまでっかちか」


 「何もできない上に使い魔は気まぐれ猫。また、伝来のランク1家系だな」


 「所詮貧乏貴族ですもの」


 嘲笑、侮蔑、陰口、嫌悪。


 ありとあらゆる悪意に彼はさらされていた。 

 その間、言われるメルはうつむきながらも苦笑いをしつつ黙って一番後ろの窓側の席に座った。


 完全に見下されているようであった。

 ふと周りを見回せば、生徒一人ひとりに使い魔がいるようであった。

 こちらを小ばかにするように見ているねずみや鳥たち。

 完全に見下している少し小さめの牛や虎。

 無邪気に甘えつつも愛想をふりまき、どこか優越感をうかべているようなウサギ

 首に巻きついて威嚇している蛇。

 この教室を見渡せば生徒は50名ほどいてそれぞれに使い魔がいればにぎやかさは大きいだろうが、メルが中に入れば声を潜める感じになりどこかひそひそと圧迫する静けさもその空間にはあった。

 ふと、使い魔がいないものもいたが、そのものもこちらを馬鹿にするようにして言い募る。


 「いやぁ、馬はさすがに大きくて教室には入らないなぁ」

 「おお、だが、いのししもなかなかでかくてね。牙の成長が楽しみだ」

 「けど、癒しなら羊のふわふわ加減が。ああ、盗まれないか心配だわ」

 など、いってきている。その中、極めつけは制服は基本は同じようだがかなり改造している服を着た少年が

 「ふん、だが、もっとも強大で偉大なのは俺様だな。なにせ竜種を召喚し契約できたのだから」

 そう言うと周りで「おー」という感嘆の声が響いた。


 ふぅん、竜ね。

 トカゲ型か?それとも筒型か?

 まぁ、こういうファンタジーならトカゲ型がポピュラーなんじゃろうが、それでも激レアってところなんじゃろうな。

 で、話をきくにおいて、召喚は要はガチャと似たようなものなんじゃろうな。

 んー、となれば、儂と同じ猫型はおらんかなぁ・・・・・お、いた。って、なんかひとり目立たんようにはしにいるか。

 なんかあの子、肩見狭そうにしている感じがしている。

 同種がいるならそっちにいるし、行きたいなと思ったらメルの足はそっちに向いた。

 席に座るとにこっと笑ってその一人の少年に話しかけた。

 「やほ、ガリバー、えと、僕もその、猫だったよ。は、はは、一緒、だよね」

 何やら落ち込んでいるように見えるガリバー君じゃったが、メルの姿を見、そして儂を見て、交互に見てなんかやたら絶望したような顔をしたかと思ったらバンと机をたたいてそばにいた猫の使い魔をほったらかしにして教室を走って出て行った。

 「あっ」

 メルは追いかけようとしたが、苦笑いを浮かべるにとどめた。

 さて、席に座るか、というところで、席が急にすっとひとりでに動いた。

 当然、なんの備えもしていなかったゆえ。メルは床に尻餅をつき、わしはというと「ぎゃっ!!」とそのまま投げ出された。

 このまま儂も床に尻餅か、最悪叩きつけられるかと思ったが、体が自然と動き、くるりと回ってナイス着地、した。

 そういえば、儂、猫だったか。

 

 メルは痛そうにしているし、何があったのかと目をやれば、2匹の猿が椅子の足を持っていた。

 こやつらも使い魔なのじゃろう。


 典型的ないたずらじゃな。


 (なんじゃこやつら)


 シャッとわしが威嚇するとニヤケ顔で主のもとへと向かっていく。二人の少年がそこにおり、なんとはなしに、その猿どもと雰囲気が似ておった。

 「むぅ」


 なんというか、どう見てもこれはいずめであろうな。

 この状況、どうよ。

 教師に訴えるのが一番では?

 そも学園であろう?

 生徒を保護せねばというものあろうし。


 『教師に何かを言おうと思っても無駄だよ』


 小さく甲高い声が聞こえた。



 声の方を見れば、一匹のねずみがいた。


 『なんじゃ?何が無駄なんじゃ?』


 『そりゃ、教師に話をしにいこうとしたところだよ。そもそも、今の状態の使い魔がお話なんかできるわけないでしょ。主とも話ができないんだから』


 と、おやと思う。

 使い魔同士だからか会話ができる。

 『いや、現にお主とこうして会話ができるだろう。猫とネズミって明らかに捕食者と被捕食者で会話なんぞできるものではなかろうに』


 『あはは、たしかにそうだね。でも、今はぼくらは召喚されたばかりだからね。主人とのパスもまだ十分ではないし。あと君よりも二時間早目に召喚されてきたけど、この二時間はでかいね。いろいろと僕らの状況をきくことができたもの』


 『状況?』


 『うん、状況。ほら、僕の手の甲と君の手の甲をよく見てよ』


 そう言われて儂の手の甲を見れば、何やら六芒星をさらに二重にさせ、周りに幾何学模様の文字のようなものを円させた痣ができていた。ねずみの方も見れば同じ模様がある。


 『まずはこれ、制約の印。さっき君、捕食者と被捕食者っていってたけど、これをしている限り、自分の考えで殺しを含む死闘はできなくなってるんだ。喧嘩なんかそうだね。もっとも、さっきみたいないたずらとかはできるよ』


 『ほぅ』


 『それに、無駄ってさっき僕言ったけど、そこの彼、見込みがないからだよ』


 『は?見込みがないから無駄ってどういうことじゃ』

 

 『だってここ、実力主義のところで、件の彼はここでは最下位の魔力で万年卵の落ちこぼれ家系って言われてるそうだよ』

 

 『ん?最下位というのは少なくとも理解はできるが、万年卵?』


 『んー、詳しくは僕も知らないけど、親もその前もその前の前も強化の石っていうものを使って普通は上位の職っていうものになれるのがなれないみたいなの。あ、職っていうのは』


 『魔法使いの卵』


 『ぴんぽん正解。あれ?少しは話してくれてたんだ。うん、でね―――』


 と、このネズミ、けっこうあれやこれやと話したがりなのかな?この世界にこやつも召喚されたわけだし、それに話している中でどうも儂に話しかけたのは、制約の印ゆえに自分がネズミだから猫の前に出て、教えてやろうという猫の兄貴分みたいなのを感じたかったからだとか。


 まぁ、そりゃ、小さなねずみが猫とは言え自分よりもでかい天敵の兄貴分になれるなら気分はいいわな。


 儂としてはそこのところはどうでもいいのだが。


 さて、どうやら、この世界というか、この場所はワドナ魔導学園で、ここにいるものは皆国から認められている貴族の子どもなんだとか。というか魔力持ちは全て貴族なんだとか。

 で、この中では魔法実力主義というか、魔術が強ければえらいというえらく単純な性質をもっているとか。

 で、12歳からの五年制で、卒業後は基本進路としては国の外の魔物刈りがメインになるんだとか。

 競争率として【聖導騎士団】とか【白牙の集い】とかいう国認定の高位術者の集まりとかいうのが行きたいとかって希望があるんだとか。

 どういう集まりかはまだねずみの彼も知らないそうだが、なんとなく予想はできるな。

 で、さっきの強化の石じゃが、どうやらランクアップ用の魔石のようである。

 魔術師のランクなら儂もとったのぉ。


 ランク1 魔法使いの卵

 ランク2 見習い魔法使い

 ランク3 魔法使い


 ここからちょいと枝分かれしていっていろいろとどういう職業になっていくか選べるわけなんじゃが儂の全魔師へと至る場合じゃと


 ランク4 下級魔術師

 ランク5 上級魔術師

 ランク6 下級魔導師

 ランク7 上級魔導師

 ランク8 大魔導師

 ランク9 統合魔導師

 ランク10 全魔師


 といった具合である。

 もちろん、あのオンラインゲームでは他にも剣士とか盗賊とか踊り子とかちょっと変わったところだと、樵とか石工、はては遊人からの遊郭経営者とかね。

 よくわからんが戦いが全てではないってところなんだろうな。


 で、どうやらそのあたりのシステムがぶっちゃけ、こっちでも通用しているようである。

 基本的に卒業時には平均してランク3までは行けて、才能あればランク5とかいうのが出るらしい。

 というのも年次終わりにランクアップ試験というのがあって、要はペーパーテスト後にただ魔石に触るだけのものなんだが、ペーパーさえ合格点取れれば年次にはいけるようだが、ランクアップできないとなれば魔法使い社会ではけっこうなハンデということになるらしい。


 その後もランクを積んで現在の最高位としてはこの国の宮廷魔導師とかさっきの騎士団や集いのトップとかなんだとか。

 それでも聞いたところではランクは8とか。

 


 まぁ、それはそれでこの世界の価値基準。

 もしかしたら知らないこともあるのかもしれない。



 それはさておき


 実力主義というのは学園の中でもあることでより如実になるんだとか。


 その現実がこのいじめというかいたずらなんだとか。


 そして、それに関してどうやら教師に至ってすら加担しているようなのである。


 『なっ!』


 これには儂も愕然とした。

 教師側の理由としては最下位の魔力のものに貴族としての位はどうかとか今後に支障をきたすやもとか単に叱咤激励のつもりだとか理由としてはあるようなのだが、ちょっと、いや、これはかなり悪質すぎるのではないか?


 とはいえ、この世界の価値として


 『貴族は魔物を狩れてなんぼ』


 というのがあるようでそれで役に立たなければ、貴族の風上にも置けないとのことである。

 メルの家は落ちこぼれと言われているがまぁ、そういうわけで大した役には立てず、それゆえに貧乏貴族なんだとか。


 上位貴族になればなるほど魔力量は大きくなるとかだが、世代交換によって変動も激しいらしい。


 なので、この学園ではそれを測る場としても珍重されているそうである。



 しかし、その学園がいじめに加担しまくりとは・・・・・くそ。


 あの天凛持ちのメルなら大器晩成として良い素材じゃろうに不憫なとおもう。

 



 そもそも、ねずみいわく現在進行している「教師からの使い魔の注意事項」とやらをいつの間にか始まっており、ちらと見るともう教科書を広げてメルが神妙な面持ちで聞いておるが、それに付随するようでどうも基本的な魔力向上は基本は魔法訓練として演習場で魔法を放ち続けることであるとか。


 訓練ではなかなか上がらんじゃろうなとも思う。


 そもオンラインゲーム内でも訓練というものがあったがあくまでも魔術や剣技などの使い勝手を見るために使用していたようなもので、経験値は入りはすれど雀の涙ほどじゃったなぁ。


 この世界でも似たステータスが自分に見られたとすればまずそういう感じではなかろうかと推測できる。

 魔物退治が一番じゃろうに。

 確かゲーム内説明として魔物の持つ魂の力を経験値に変えて強さを得るとかじゃったかな。

 ここでも似たようなことではなかろうか?

 現に、教師もこの近くにある学園の訓練用ダンジョンで二年生の半ばより本格的に訓練し、卒業後には使い魔とともに外世界の魔物を駆除するようにと言っていた。

 むぅ、ダンジョンねぇ。

 余談に教師がぼそっと、「学園近くには攻略がまだの三大ダンジョンのひとつがあるが決して潜らないように」とのこと。

 そちらは冒険者と呼ばれる団体さんががんばってくれていてギルドが管轄しているとかいっていた。

 変に苦い顔をしているのが印象的ではあったが。


 で、それで一応使い魔の講習が終わったが最後に


 「みなもしっかり励むんだぞ。そこの落ちこぼれみたいにならず、高位のランクになれることを祈るぞ」


 と、メルを蔑んだ冷えた目で見ていったあとふんといって出て行った。




 なんだ、あのおじん教師?

 自分の生徒にあの暴言。

 PTAに訴えるか?

 



 そう思ったが、クラス中にせせら笑われるメルはというと苦笑いを浮かべたまま困ったような表情を浮かべて「ははは」と言っただけであった。




 ・・・・・むぅ、なんとなくこの笑い、全てを諦めきった感の笑いで絶望とか悲しみとか突き抜けて「どうでもいい」という感じの雰囲気があった。

 ふむ、それでもこうしてここに通っているのか・・・・何か理由でもあるのか?

 


 そんなこと考えているうちに


 「ま、これが現実よ。教師は助けにならない。生徒は皆敵。そういうことね」


 「でもお主はどうなんじゃ?こうして話してくれておるが」


 「うーん、まぁ、興味本位?結局きみしか猫の使い魔は残らなかったみたいだからね」


 そう言われてとなりを見れば、さっき出て行ったガリバーとやらの生徒が残した猫の使い魔はどこかに消えていた。

 

 「ま、授業に出れなければまずいからね。これで一回目なのかな。そうなると彼はこの学園からは除名勧告、次出てこなければ除名宣告、三回目なら停学処分、四回目までに何らかのアプローチしなければ退学処分だね」


 「なっ!」


 「あ、言っとくけど、貴族がこの学校から退学なんてなったらけっこう悲惨らしいよ。君の主のことを噂している時に退学後は家にも勘当されて冒険者に身をやつすみたいだけど、元貴族、なんて格好の使い捨てにされるのが目に見えてるからね。気をつけなよ」




 でなければならない理由はそれか。

 かなりきつすぎるな。



 使い魔になって未だ数時間。

 

 

 はっきりいってかなりブラックな学園に来たようであった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ