赤髪の少女
「そうなの?」
キョトンとした顔でメルがきく。
「うん。私のところの領地は海に面してて漁業が盛んなの。でね、イカもたくさん釣るんだけど、そこの漁師からいろんな話をきいててね、その中にそういう話があったんだ。生だと鮮度のいいうちはいいんだけど、時間がたったやつはだめみたいだって。でも焼けば問題ないって」
へぇ、そうなんだ。
この世界特有?
いや、そういうわけではないか。
「そうなんだ。それなら、サンも一緒に食べれるね」
「にゃっ!」
おぅよ、今はそれが一番大事じゃからな。
「ありがとうございます。あ、えっと」
そう言われてメルは口ごもる。ん、どうしたんじゃ?
「僕・・・・メルティウスっていいます」
あ、自己紹介ね。そういえば名前も知らんのよな。
にしても口ごもるか。まぁ、名前を告げ、休日にこうしているということは察せられるか。
「ふふ、私はテトラ。トドキス家の娘よ。よろしくね。ちなみに三年次よ」
と、心配しておったが、あっさり吹き飛ばしおった。
おお、見た目からメルよりも年上かなと思ったがやはり年上じゃったか。
にしても、教師陣からなんのかんのといわれているほどじゃから名前を告げたら拒絶反応があるかと思ったがそんなことはなかった。
「よ、よろしく」
うわ、メル、顔を真っ赤にしてる。
かわいいの。
にしてもわしからしたら初めてじゃないか?
敵意以外の感情をメルに向けられているのを見るのは。
単に知らんだけとか?
「あ、あの、僕・・・・」
「ん?ああ、休日中に学校にいるってので、まぁ、噂の一年のことは知ってるわ。正直、私にしてみたらなにあほなことしてるのかしらってとこね」
「え?」
およ、知っとるのか?
「そもそも、貴族の子の親の目を気にしてるところからしてどうしようもないわね。まぁ、私一人気炎はいてもしょうがないけどね」
やや自嘲気味に笑うも、首を振り、何かを吹っ切るような仕草をする。
「出来のいい悪いなんてそのあとの成長ぶりでどうとでもなるわ」
そうにこにこといって近寄ってからメルの頭をぽんとなでる。
近寄られてわかったが、このテトラという子、そこそこ長身じゃな。
メルよりも少し高めか。
まぁ、メル自身がまだ12であり、かつ、その中でもわりと小柄なほうじゃからな。
「そうなんですね、テトラ先輩」
およ、ちょっと頬を紅潮しつつ先輩呼びか。
甘酸っぱいねぇ。
「ふふ、メガネが分厚くて見づらかったけど近くで見ると可愛い目をしてるわね。捻じ曲がってもいなさそうだから」
ちょちょちょい、随分とまぁ、色のある言葉を。
あーあー、メルが目を回し始めてるぞ。
「え、あ、その」
まぁ、免疫はないわな。
かくいうわしはきっちり免疫はあるぞ。
これでもギャルゲーエロゲー各種網羅していた時もあったからの!
・・・・・思い出して軽く落ち込みそう。
「あらあら、なんかせわしないわね。さ、それよりも食事にしたかったんじゃないの?私は自主連でお腹すいちゃったから早めのお昼ご飯にきたのよ。あ、おばちゃん、私にもきょうのおすすめのイカの定食で」
「あいよ。ほんとにテトラのお嬢さんは威勢はいいね」
そう言われてにかっとテトラが笑いながら二の腕に力こぶでも作るような仕草をした。
「ははは、これでも漁師の街の娘だもの。んじゃ、メルティウス君だっけ。よかったら一緒に食べない?」
「え?いいんですか?」
「遠慮なんかしなくてもいいのよ。どうせ今日は休日で周り見てももうろくに人もいないし、一人で食べるのも退屈だもの」
そう言われて、いつの間にやら食堂はがらんとしたものであった。清掃のおばちゃんとかもきていたりしてひと時の中休みみたいに静かな食堂内になっていた。
残っていたものもいつの間にか出て行っていたようじゃ。
ふむ、
『なら、お言葉に甘えておけ』
「え?あ、その・・・・」
メルがもじもじとしている。
まぁ、なれんじゃろうが・・・・
よしここはひとつ。
「にゃ!」
大きな声でわしは片方の前足をあげて同意した。
「ほら、猫ちゃんも一緒でっていってるし、ほら」
テトラが片方の手を腰にやりつつ聞いてくる。
「・・・・は、はい」
メルは両手をうにうにと組みつつ動かしたあと、上目遣いでテトラを見上げながら返事をした。
初々しいのぉ。
「ほら二人共できたよ。猫用のも言われたようにしっかり火は通したよ」
と、お膳を二つ出してきた。
ふわっとしてあげられたイカフライにイカの煮物。んー、醤油でなく塩?ブイヤベースで煮込んだのかな。それにとろんとしたミルクのスープに盛り合わせのサラダに・・・・・おいおいおい、イカめしがあるのかよ。
わしの目からしたら妙にちぐはぐにも見えるものじゃが、これはこれでめちゃくちゃうまそう。
あ、ちなみに儂のは、しっかりと炒められてあんかけソースがのっているねこまんまじゃった。
んー、お腹が早く食いたいと訴えおる。
あと、テトラの分が何気に多いのは気のせいか?倍以上にも見えるが。
「えっと、そんなにいっぱい食べるんですか?」
メルがおずおずときく。
うん、そう聞きたくもなるような量じゃよな。
「ん?当然でしょ。自主連っていったけど、けっこう体動かすし、明日からまた、学園の迷宮探索とかもするからね。しっかり食べておかなくっちゃ」
何気に体育会系か。
からからと笑うところに邪気はないし、こりゃなかなか人気のある子なのかのォ。
見目もいいしの。
「さ、しっかり食べてしっかり動いてしっかり学びましょ。学生の本分よ」
そういって、片手でお膳を持ちつつテトラは手招きして、テラスの一角へと向かっていった。
儂もメルも当然一緒に歩いて向かっていった。
いやぁ、遠いし遅めの時間じゃし、そもそも学園環境がよくないのもあったが、よいところもあるでないの。
ほっとしつつ、わしらはテーブルに向かい、そして、にこやかに食事をはじめていった。
うむ、イカ炒め、うまい。
程よい弾力に噛めばぷつっときれて甘味が広がる。
あふあふ。
とくにソースの塩加減がいい塩梅じゃな。
猫ゆえに塩分を少なめにしているのじゃろうが、こちとらもと老人。
薄味がどうこうと言われていたあのときの昨今、だしの旨さを痛感したこともあった。これもまただしの旨さというか甘さが際立っている。
いか焼き~、いか~が~、いか焼き~、ウォンチュ~
なんつてな。
あのおばちゃん、いい腕してるな。
飯もふっくらしているし、ほぅ、まともな食事にありつけた感である。
そういえば、ここにきて、豆を煎ったものしか食べておらんかったが腹はそれまで減らんかった。
迷宮内でもそうじゃったが、うーぬ、訓練後はやたら空いたなぁ。
魔力の減りは腹減りメーターでもあるのか?
まぁ、よくはわからんが。
とにかく。
飯がうまけりゃそれでよし。
じゃね。
そんなふうに料理に舌づつみを打ちつつ、わしは二人ならんで座っているメルとテトラを眺めていた。




