9.ボーイミーツガール
〜カオスシティ第4区画中央広場〜
パーティ戦闘がしたい。そう思い立ったのは、練習を始めて塔内でぶっ通し2日目のこと。現実ではダビデディア戦含めて4、5時間程度しか経っていないが、丸2日なんもない草原に1人でいると気が滅入ってくる。おまけに〔神片:投擲〕使いまくってたから体感はもっと長い。
というか、なんで俺はずーーーっと1人でゲームしてるんだ?カオスタワーのジャンル分かってんのか?MMOだぞ?正式名称知ってっか?「マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン」だぞ?俺以外にもプレイヤーなんか山程いんだぞ?
ソロでやるのもプレイスタイルの1つだし、ぶっちゃけ俺もそっち側だ。だがその…40時間以上会話どころか言葉を発する事すらせず練習に勤しんでいたせいで、ちょっとメンタルにキた。
というわけでパーティを募集しよう。場所はここ、「カオスマッチング酒場」。名前もうちょいどうにかならんかったんか?過去一酷いぞ。
外観は普通の酒場だ。内部にはテーブルと椅子、カウンター席。まあ普通だ。
おかしな所があるとすれば、中にいたプレイヤーの数人が俺を見て値札を見るような視線を向けて来た事くらいか。何だ?PKか?名前は見えてんだぞ「ブリザードギャグ」に「デンドロビーム」、その他何人か。来るなら来い、武器を抜いた瞬間対物ライフルの的にされたスイカにしてやる。
だが今は他にも無関係なプレイヤーがいる上、屋内だ。建物にまで被害を出して騒ぎを起こしたくない。ちっ、命拾いしたな。
奥に設置されたいくつもの壁掛けの掲示板、その内の1つに触れてウインドウを呼び出す。自分の名前と募集要項、募集目的ね、はいはいっと。名前はハヤ、Lv68以上前衛。鋼草無限採取手伝い。
ぶっちゃけ鋼草玉連打で何とかなりそうではあるが、あの速度で連射するとなると鋼草が無限に必要な事に気付いた。マジでいくら合っても足りない、練習の後半とか野生の鋼草を毟って丸めて投げてたからな。
材料を集めるために人手が欲しい。分け前は後で考えよう。設定を済ませてカウンターに座り、待つ。
何か飲まないのかって?金が無いのにどうしろってんだ。ショップでアイテムを売る事もできるが、自分で使う分が多すぎて売却分が残らないんだよな。回復系は比較的消費が少ないし、後でいくらか売りに出すか。
〜30分後〜
…来ねえ。「鋼草無限採取手伝い」とか書いたのがマズかったか?
冷静に考えたら俺がいいと言うまで永遠に草むしりさせられるのはただの苦行なのかもしれない。でもホントにそれしかする気ないからな…嘘を書くのは論外だし。今からでも多少緩い感じに変えようか…
「あ、あの、ハヤさん、ですかぁ?」
「んぇっ」
振り向いたらパステルグリーンツインテールの美少女がいたのでびっくりして変な声が出てしまった。だが俺を探していたという事は募集を見て来てくれたのだろう。慎重に行かねば。名前は…「シフォン」か。ケーキかな?
「ん゛っん゛ん゛っ…ああごめん、俺がハヤだけど何かな?」
「その、パーティ募集を見たのでお声がけしたのですけどもぉ、さ、参加してもいいですかぁ?わたし、Lv56の前衛ですぅ」
「全然いいよマジありがたい。君が来なけりゃまた1人で草むしりコースだった」
「は、はぁ…」
落ち着け俺、いきなりグイグイ行き過ぎだ。相手は女子だぞ。相手ちょっと引いてんじゃねえか、しかも声から察するにリアル女子。このゲームは声を偽れないからな、女性の声で喋るという事は本当に女性なのだ。
「あー、募集目的見たと思うけど、ホントにアレでいいかな?ちょっと鋼草が大量に必要でさ、人手が欲しかったんだ。モンスター狩りは向こうから襲ってきたのを対処するだけになるけど、それでもいい?」
「だ、大丈夫ですよぅ。わたしも薬草集めのお手伝いが欲しかったのでぇ。一緒にやりませんかぁ?あの、Lvが近い人があんまりいなくてぇ、困ってたんですぅ」
薬草集めの手伝いか。まあそんくらいならいいだろ。毟る草が増えただけだ。
「ああ、分かった。んじゃ、集めた草はどうしようか?薬草は全部渡しちゃってもいいと思ってるんだけど」
「い、いえいえ、悪いですぅ、半分ずつでいいですよぉ。薬草なんてぇ、い、いくらあっても困りませんしぃ」
「君がいいならそうだな、それで行こう。ならとりあえずリスト登録しとこうか。じゃなきゃパーティ組めないし」
そう、このゲームではパーティを組む際、「リスト」という物に相手の名前を登録する必要がある。
相手の名前を打ち込むと、該当プレイヤーに俺の名前と「リスト登録許可申請」が送られ、それを許可する事で俺のリストに登録が完了する。
リスト登録による変化。それは閲覧できる相手の情報が増える事。
通常、他プレイヤーの情報は名前と1stロールのLv以外一切の情報を見る事ができない。強いて言うならアバターの外見くらいか。それにしたって、武器なんかは手元に出さなきゃ分からない。
だがリスト登録を行った場合、相手のロール2種とそのLv、装備、ステータスが閲覧可能になる。自分の手札が丸見えと言う訳だ。そして、このリスト登録を互いに行った者同士でない限りパーティを組む事ができない。
ちなみにこのゲームにはギルドやクランといったシステムが存在しないので、他プレイヤーと交流を持つにはリスト登録しかないのである。
MMOなのに何考えてんだろな、運営。
「わ、分かりましたぁ。どうぞぉ。」
シフォンがさっきから妙に緊張気味、いやどっちかというと怯え寄り?なのが気掛かりだが、どうしたんだろな。やはりさっきのファーストコンタクトがダメだったか?
…そういや昔、サッケンが言ってたな。『ハヤはいつもブチギレ寸前の殺人鬼みたいな顔なんだから気を付けろよ?』との事らしいが、鏡を見てもそんな物騒な顔をしてるとは思わないんだよな。
だが小中高と「顔が怖い」と言われる事がそれなりにあったし、事実なのだろう。じゃあ笑顔でも作っておくか。にこり。
「ひっ」
逆効果だった。解せぬ。
「あっいえ、すみませぇん。さっきまで無表情だったのにぃ、急に笑顔になったものでぇ」
「いやごめんなんでもない、なんか緊張してるようだったからほぐそうとしただけなんだ、忘れてくれ」
「はぁ…」
不思議な生き物を見る視線が混じった気もするが、緊張は多少ほぐれたみたいなのでヨシ。
ああそうだ、彼女のロール見とかないと。えーと、どれどれ…うん?
-シフォン-
1st.[戦闘]Lv56
2nd.[戦闘]Lv56
斧型凶器・死式
鎧型凶器・死式
HP 375
MP 100
ATK 220(+100)
DEF 250(+130)
AGI 60
DEX 60
MATK 10
MDEF 10
LUC 33
「あの、装備名…」
「…ふ、触れないでくださいぃ…知り合いの生産職に頼んだらこうなったんですぅ…」
女の子になんつーもん渡してんだ。それにしても、気になる事がもう1つ。
「同じロールを2つ付ける事も出来たのか、このゲーム」
「?はい…やってみたらできましたぁ。[戦闘]しかLvが上がりませんがぁ、経験値量は倍になるみたいですぅ」
盲点だった、そんな仕様があったとは。物理ステ以外初期値だから魔法しか効かない相手とかに手も足も出ないだろうが、今のとこそんな敵見た事ないし、脳筋ビルドでも戦える仕様なんだろう。
この見た目でゴリゴリのパワーファイターなのはちょっと意外ではあったが。
「ハヤさんはバランス型なんですねぇ、Lvの低いわたしが言うのもなんですがぁ、おたがい下位同士、頑張りましょうねぇ」
「そうだな、前衛役は頼りにしてるよ。そんじゃ、行くか」
「はいですぅ」
実際はむしろバランスブレイカーそのものなビルドなのだが、今は投げる物が無いので今回は真っ当な魔法ロールプレイで行こう。
相変わらず周囲の視線が気になるが、変に絡んで来ない限りは放置。だがまあ鬱陶しいので睨みの1つでも効かせておくか。全員目を逸らした、ヨシ。
俺とシフォンは、カオスタワーへと足を運んだのだった。




