7.前人未到・下
以前同じ権能持ちの芝馬と戦った時、奴は土壇場で「土を蹴り上げて範囲攻撃」という特殊行動を見せた。攻撃パターンがほぼ固定な他のモンスターと違って、奴だけが特殊だった。
だから警戒すべきだったのだ。推定権能持ちと思しき毒鹿も同じ様に、果実の連射以外の行動をとる可能性を。
可能性は…最悪の形で実現した。
「仲間呼ぶとかそんなんアリかよ!?」
あれはまずい。1体でも攻撃されれば毒で体力が持っていかれる。残りのライフタブレットは10と少し。マナタブレットよりは余裕があるが、ほぼ誤差だろう。奴らに集中砲火を受ければ、あっという間に体力を削り切られる。
なら…包囲される前に逃げる!そんでまとめて爆殺してやる!!
もう消費がどうとか言ってる場合じゃない、俺が今出せる最高火力で奴らを葬る。とにかく走れ、囲まれたら終わりだぞ!
ダッシュで土壁に背を向けひた走る。包囲網に近付くと、ベリーディアが果実を飛ばしてくる。
それをダメージ覚悟で突っ切り、前を塞いできた鹿共を踏みつけて跳躍。包囲の外に躍り出る。
だがまだ安心などできない。もっと距離をとる。でなければまた囲まれる。
「うおおおおおおおらあああああ!!!」
あらん限りの力を込めて両足をフル稼働させて鹿達を引き離す。
今更だが俺って鹿よりAGIあるんだな。毒果実の連射と高速リロードにエネルギー回してるせいで、基礎スペックが低いのかもしれない。
爆薬を適当に後ろに投げつつ、七転八起の準備をする。作戦はこうだ。
1.鹿共が俺を追って纏まります
2.十分な距離ができたら七転八起を放り込みます
3.爆薬で起爆してゲームセット
包囲を抜かれた鹿共が一塊になって俺を追う。よし、1はOK。問題は2だが、上手いこと距離が空いていかない。
見立てよりAGIの差が無かったのか?このまま走ってたらスタミナで負けそうなので作戦決行。
本当ならもうちょい離れたかったが、80m離れていれば一応致命傷にはならない。
七転八起を後ろに飛ばし、爆薬を放り込む。
ドガアアアアアアアン!!!
走りながらだったおかげで俺の体力は想定よりは削れてない。それでも3割を切ったが。
ライフタブレットを1つ使い、体力を8割程度まで戻す。
全快でないのが気掛かりだが、即死はしないと信じたい。
そして鹿共だが…結果は芳しくない。群れはほぼ一掃できたが、親玉が最後尾だったせいでダメージの通りが悪い。残りのマナタブレット的にあまりこれ以上雑に〔盛土〕を使う訳にいかないので、爆薬を投げつつ後退続行。
正直向こうが逃げるとかされたら厄介極まりないんだが、射程内に収めるためなのか、奴は愚直に俺を追う。
毒入り機関銃を引き撃ちするクソモンスを実装する運営ではなかったようで一安心だ。
ならばもう一度繰り返す。80m程度なら爆薬が届くので俺から大体その距離に魔晶を配置。
「オラァ!!」
今度は〔盛土〕を入れず、〔放火〕を2つ込めた強化版だ。爆薬は魔晶に吸い込まれるようにブチ当たり、再び…否、より強烈に爆ぜる。
よし今度はクリーンヒットだ。しかも脚も鈍った。奴もそろそろ限界なのかもしれない。
離れ過ぎるとこっちの攻撃も当たらないので、ちょっとだけ近付く。
その時、毒鹿は更なる行動変化を起こした。
「今度は何だ?…角が纏められてる?」
奴の頭に生えていた2本の低木のような角。それらがニ重螺旋を描いて絡み合い、1本のドリルのような角になる。鹿版ユニコーンって感じだ。何かヤバい感じがするので、爆薬を投げ続けるが、一切怯む様子がない。アレか?「形態変化中は無敵」とかそういうアレか?お前雑魚モンスターだよね?
「キュウウウウウ……!」
そのまま居合斬りの構えの様に首を横に丸め、全身に妙な光を纏い始める。
念のため離れよう、動かないなら動きを見てから動きを決める。
魔晶と爆薬のコンボを決められる距離より倍は後ろに後退し、ついでに〔盛土〕の2枚重ねで防御する。
「キュイッッッッッッ!!!」
渾身の力を込めた振り抜きにより、本来以上の射程と威力となった毒果実が土壁に叩きつけられ…一撃で壁を貫通、俺のどてっ腹に直撃した。
「ふぎゅっっ!!?」
さっきまでの戦法を捨てて、シンプルな威力重視にしてきたか!
連射力とリロード時間を犠牲に射程と威力を大幅に増大。即死はしなかったが危ねえ、また死にかけだ。急いでライフタブレットを飲む。
土壁2枚ブチ抜いて尚この威力。射程と弾速を加味すると、タイミング合わせて避けるしか対処法がないな。
リーチで優位を取られた以上、離れるのは悪手だ、むしろ近づかなければ。本当に回復がヤバいんだ、早急に決着を決めたい。
ダッシュで魔晶爆殺コンボを決められる距離に向かうが、既に奴のチャージは始まっている。間に合うか?壁無しでは即死、弾速が速すぎて正直避けられるかどうかも怪しい。即死である以上回避のタイミングを掴む練習もできない。つまり、何が何でも爆殺しなきゃ後がない!
「くううう間に合えええええ!!」
どうする、一か八かで回避チャレンジ行っとくか?…いや、芝馬の突進と違って放った瞬間にはもう俺は攻撃を食らっていた。100mは離れていたにも関わらずだ。
つまり防御も回避も今は不可能。文字通り必殺技ってわけだ。
ならばこのまま突っ込む。最悪アレさえ食らわないなら自爆でも構わん。
俺は爆薬を構え…ふと気付く。魔晶の爆発が起こるのは一定ダメージを受けた時。爆破タイミングをコントロールするため、さっきまでわざわざ爆薬を投げていたが…
別にこのまま突っ込ませればいいんじゃね?と。さっき奴は攻撃を受けてもチャージをやめる様子が無かった。もし爆破の後に生き残っていたら、そのまま撃ち抜かれて死ぬ。
だが、狙撃の盾に魔晶を使えば…生き残られていたとしても、爆破で狙撃が逸れるかもしれない。
その場で止まり、即座に魔晶を自身の正面に構え、射程限界まで急いで飛ばす。
奴の必殺技の正面に魔晶を配置すれば、俺に攻撃が届く前に奴が爆発に巻き込まれる。
念のため最後のタブレットで体力を全快させておく。さっき回復した分は毒で若干削られていたからな。
もし賭けに負けたら俺はただの的で終わるが…まあいいや、そんときゃそんときだ。
1度スポーンしたモンスターは死ぬまで消えないらしいから、草の根掻き分けてでも探し出してやるさ。
そして、その時は来た。
「キュアッッッッッッ!!!」
攻撃の軌道上にあった七転八起が超高速で直進する果実に貫かれ、〔放火〕2発分を込めた大爆発を起こし。
俺の肩口辺りを、奴の狙撃が僅かに抉った。体力は…残り2割。そして奴は…
『[戦闘]Lv68到達』
『[魔法]Lv68到達』
『権能所持個体死亡確認』
『真名:ダビデディア』
『〔権能〕獲得』
『権能名:〔神片:投擲〕』
跡形も無く消し飛び、俺は第2の権能を手に入れた前人未到のプレイヤーとなったのだった。
ハヤの基本戦術の要、ようやく登場。詳細は次回。




