6.前人未到・上
牛狩り(時々馬)を繰り返していた時、「ベリーディア」というモンスターに出会った。
外見は例によってトピアリー。そして、ブルーベリーやラズベリーの木のような角が生えており、紫色の小さな苺が無数に生っていた。
コイツは俺を見た途端に頭を振り、果実を飛ばしてくる。Lv40の個体でも速度やダメージはそれほどでもないのでそれはいい。
問題は、この紫苺に毒性があるという事だ。食らった瞬間『毒状態』の表示が現れ、少しずつ体力が減少していく。
1度に複数の苺を豆撒きの様にばら撒いてくるので、中々に回避が難しい。しかも飛ばした瞬間にはもう果実が再生してやがる。
瞬間火力は低い上、やっぱり火属性に馬鹿弱いので〔放火〕のゴリ押しでなんとかなるが、解毒手段がないせいで回復アイテムの消費が激しい。
毒を放置すると自然治癒までに4割近く持っていかれるので回復しないわけにもいかない。
最終的に「見つけ次第放火連打」という結局今までとあまり変わらない攻略法に落ち着いた。倒しても毒状態が解除されないから、絶対に体力を削られるのがものすごく鬱陶しい。
次から状態異常対策アイテムも持っておこう。1度も寄った事ないが、ショップで売っていると信じたい。
ちなみにこの鹿、倒すと偶に「トリカベリー」というアイテムを落とす。
…名前からしてもう有毒だ。
さて、このベリーディアこと毒鹿だが、Lvが低い(厳密には俺とLvが離れていない)個体ばかりだったせいか、少し気が緩んでいた。バックアタックでの狩りに慣れ始めていたのも理由だろう。
俺は最初、その足音に気を向けていなかった。「なんか遠くにいんなー」くらいの気持ちでいたが…足音が近づいている事の意味に気付いた時、ソイツはもう近くまで来ていて、角の果実をぶつけるため頭を振り上げていた。そして、急いで火球連打を食らわせようとした時に頭上の文字が目に入る。
“ベリーディアLv80”
「やっべコイツッ―」
ゴリ押しでは撃ち負けるかも知れないと思い直し、〔盛土〕による土壁でのガードに切り替えた瞬間。
ベヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂッッ!!!
「うおおおおなんだぁ!?」
スコールの雨粒を全て雹に変えたような、桁違いの弾幕が土壁を襲った。
「異様に高いLv、おそらく俺をピンポイントで狙ったであろう挙動…!」
ハハハ最高じゃないか、推定権能持ちだ!
土壁が攻撃されている間に距離をとる。今ヒビが入り始めているので、あれ1枚で30秒程度は持つな。
まあいい、カモンニューウェポン「七転八起」!発動する魔法は〔放火〕と〔盛土〕!攻撃と防御を同時に行う今の最適構成だ。1度に45のMP消費、今1回撃ったからMP切れまで後6発!マナタブレットで回復すればもっと耐えられるぜ!
1度目。土壁生成と同時に火球を放ち、上から撃ち下ろすようにして毒鹿にぶつける。
「キュイイイ!!」
壁で見えないが多分当たった。今思ったが壁が崩れる前に手前に重ねて〔盛土〕を張れば、攻撃ついでに防壁で時間稼ぎができるな。もう1回使って2枚重ねにするか。…よしオッケー、急いでマナタブレットを飲み込んで、もう1回……ぶえっ!?
「キュアアアアッ!」
そりゃそうか、壁があるなら回り込むよな。くおおダメージはそれほどでもないが毒がヤバい!あと土砂降りの日に上を向いたみたいな鬱陶しさだ!壁、早く壁を…!
「〔盛土〕!〔盛土〕!」
どちらかの魔法名を言えばもう一方も発動してくれるのがありがたい。軌道を頭ん中でイメージしないと狙った場所に飛ばないが。
「キュアッ!キュイイッ!」
毒鹿が左右に跳ねながら合間合間に果実を飛ばしてくる。サイドステップで狙いを絞らせないつもりか?だが動きながら撃つ事はできない様だな。毒果実を飛ばすには頭を振る必要がある。そしてその残像が出るほどのスピードでヘドバンするには、きちんと脚を踏ん張らなきゃならないらしい。さながら重機関銃の様にな。
ならむしろ翻弄するのはこっちだ。長杖と違って魔晶は魔法を撃ちながら移動できる上、同時に別方向から攻撃ができる。
長杖は杖を相手に向けないと当たらず、回復も回避と同時にこなさないとならなかったしな。
「範囲攻撃で爆殺してやるよ!食らえ爆薬!そんで〔放火〕!今日はもみじ鍋だァ!」
適当に下位爆薬を投げてステップを封じ、動きが止まった瞬間に火球を叩き込む。どうだ…!?
「キュイイ!!」
毒鹿が俺を無視し、明後日の方へ弾幕を飛ばす。今のうちに回復しとこう、体力がちょっと危なかったんだ。む、今度は魔晶狙いか?むしろありがたいが、位置がマズい。今爆発されたら俺も巻き込まれる。
「うおおまだ爆発すんなよ!〔盛土〕!」
魔晶を動かして狙いを逸らし、全力で毒鹿から離れる。クソッこっちに撃ってきやがった!逃がす気はねぇって事か。
タブレット2種を飲みつつ土壁を張って、同時に火球と爆薬で足止めして、とにかく距離をとる。マルチタスク過ぎて混乱してきた。
対して毒鹿はひたすら跳ねるように駆けながら俺を追うが、炎と爆発を避けながらなせいか思うように走れないでいる。
火球と爆薬で引き撃ちしながら鬼ごっこを続け、やがて両者の距離が空き、実験の時と同じくらいの距離になった時。
「こんだけ離れりゃ大丈夫だろ、死ぬのはテメェだけだ…!くたばれ!!」
後ろを向き、念のため互いの間に壁を張り、その先に魔晶を配置。
さらにその先から毒鹿が追ってきている形だ。俺は爆薬を壁越しに投げ、魔晶にブチ当てる。
ズドオオオオォォォン!!!
「キュイイィイイッッ!?」
「ぐううう…!」
ちょっと近かったか、俺も多少ぶっ飛ばされた。だがあの鹿はもっと無事じゃいられないだろう。
直撃とまでは行かなかったが、ほぼ爆心地にいたはずだ。頼むからそろそろ死んでくれよ…?
僅かに焦りを感じながら、鹿のいる方へ目を凝らす。鹿は…立っていた。
「キュウウ…!」
「1発じゃダメか、なら繰り返すまでだ!」
再び魔晶を自爆させるため、距離をとる。タブレットの消費が激しいからできればやりたくないんだけどな。
というか…そろそろタブレットが尽きそうだ。普通の鹿にもかなりライフタブレットを使わされ、土壁と火球を連打していたせいでマナタブレットも危ない。両方100個近く持ち込んだはずなんだけどな?
再び先程と同じように自爆を起こし、今度はキッチリゼロ距離で巻き込む。だが今回は俺も近すぎた。
体力が1割を切り、ライフタブレットをガブ飲みする。七転八起の自爆は残り6回。ロスト覚悟なら7回だ。
鹿は…効いてはいるが致命ではない。こんだけ火攻めして尚これかよ、タフ過ぎんだろクソが。
「ハハ…!いいねえこうでなくっちゃ!」
回復と引き撃ちでゴリ押して決着、というのも悪くないが、リソースが限界に達してから足掻いて勝つのはもっと愉しい。やれる事全部やって、全力の底の底まで出し切って、最後に勝つ。
俺がゲームに求めてんのはそういうもんなんだよ。
毒鹿が射撃に入った。壁を張り、火球を放つ。が…射撃が止まない。さっきはそれで中断した筈だが、どういう事だ?残りがいよいよ心許なくなってきたタブレットを呷り、爆薬を投げつつ土壁の横から毒鹿を確認する。
…アイツ、ダメージを受けるのを無視して攻撃してやがる。
さっきまでは火攻めできちんとリアクション取ってたんだが、もう自分の損傷もお構いなしで連射してる。
持久戦に持ち込まれたら先にリソースが尽きるのは俺の方だ。さてどうするかな。たった今マナタブレットが10を切った。1つで半分くらい回復するから、タイムリミットは後5分もない。どうにかしてダメージを稼がなければ。もしくは回復手段の確保。
「キュオオオオオオオン!!!」
「あ?」
なんだ、何をした?まるで遠吠えみたいな…
その時、周囲から足音が聞こえてきた。それもほぼ全方位から。これは…蹄の音?オイまさかコイツ…!
音の正体。それは…
「仲間呼ぶとかそんなんアリかよ!?」
推定20体以上の、ベリーディアの群れだった。




