12.頽理世界・1
〜探索開始から約15分後〜
なぜか夜になっていたクノッサ平原を探索中、モンスターがいたので喧嘩を売ってみた。表示された名前は…
“がー■■バッフ■露ーLv??”
「VMOOOOOOOOOOO!!!」
「なんなんだコイツはァ!?」
「分かりませぇん!!」
頭部は上下逆に付いていて、角は片方がない代わりにもう片方が巨大で歪に捻じくれて穴だらけ。完全に蓮コラのそれで大変ゾワゾワする。
背中に生えた花は中央に人間の眼球がいくつも覗いており、ギョロギョロビクビクと周囲に痙攣のような動きで視線を回している。大変グロい。
尻尾は通常の3倍以上あり、途中に虫瘤のようなものが大量にできている。足は8本で、牛の脚を強引に昆虫のように変形させて生やした、恐ろしく冒涜的な怪物だった。
何もかもが狂っている。誰がどう見ても正常ではない。あの戦闘狂王国代表みたいなシフォンが、最初突撃していって姿を直視して悲鳴を上げて帰ってきた。
ついでに俺も吐きそうになった。
なんなんだアレは?ホントにバグじゃないんだよな?あんなイカれたデザインの化け物にゴーサインを出した馬鹿野郎共を全員並べて〔放火〕を浴びせてやりたい。
何度も攻撃を仕掛けているのだが、効いてるんだが効いてないんだか分からない。つーか声もおかしい。
ガーデンバッファローっぽい声ではあるのだが、エコーと音割れをガンガンにかけて、陶器の皿を釘で掻き毟る音を混ぜたみたいな、凄まじい不快感を覚える声。
シフォンがいるから使いづらかったが、もうそんな事言ってる場合じゃない。コンマ1秒でも迅速にコイツを殺せと、殺さなければならないと、俺の中の何かが掻き立てられる。
「死ねぇぇぇ!!!」
オーバースローの構えを取ると、〔神片:投擲〕による異次元の時間加速の力が俺に齎された。
何十倍にも引き伸ばされた長い数秒の中で、奴の頭部…として機能してるかは怪しいが、頭部に鋼草玉を投げつける。
「VVVvvMMMMooooooOoOO!!??」
ミュータント牛の顔面に視認不可能の超高速砲弾が直撃し、数十m程吹っ飛んだ。
「なんですかそれぇ!?」
「後で説明する!それよりアイツまだ死んでない!構えろ!」
「はっはいぃ!」
「■□vV□■□OO……!」
頭部を丸ごと吹き飛ばされたにも関わらず、牛どころか生物かすら疑問を感じるグロ存在は、首の断面から鳴き声のような何かと白と黒のマーブル色の血?を溢しながら、異形の八脚で立ち上がる。
コイツを直視してからずっと、背骨の中心に冷え切ったヘドロを流し込まれたような、身の竦む怖気と気色悪さが止まらない。
何が何でも殺さなければならないという謎の強迫観念のような感覚といい、このゲームどうなってんだ!?
「あああぁああぁぁあ!!!」
ひたすらに鋼草玉を投げまくる。死ね、消えろ、くたばれ、早く、迅速に、今すぐに!!!
「V……vMM………―――」
重機関銃の集中砲火のような勢いで鋼草玉を連射し、挽肉とすら呼べない程に、徹底的に牛モドキの肉体が蹂躙されていく。
「はっ………はーっ………は、あ?」
「大丈夫ですかぁ!?ハヤさぁん!」
「……し、…ふぉん、さん」
「びっくりしましたよぅ、いきなり凄い動きで何か叫び出したと思ったら、あの…牛?みたいなのが粉々になったんですもぉん」
「あ……ああ、アレね。ちょっと、その…特殊なスキルなんだよ、うん」
嘘は言ってない。〔権能〕を持っている事実が広まったら、俺に対する注目度は跳ね上がる。最悪、街にいる間はまともにゲームできないかもしれない。シフォンを全く信用してない訳じゃないが、人の口に戸は建てられないというしな…
「…あのぅ。もしかして〔権能〕ってやつだったりしますかぁ?」
「…………………あー…………うん」
バレたわ。そりゃそうか、あんだけ規格外のスキルなんて、そうそうないもんな。さてどうしようか?いや、なんとか黙っててもらう以外に選択肢なんぞ無いんだけども。…この際だ。もう1つの方も言ってしまおう。
「ついでに話すと、モンスターのLvが上がるスキルも、〔権能〕だ。投擲スキルを手に入れられたのは、1つ目のスキルの影響かもしれないけどな」
「やっぱりぃ。あんな出力のスキル、見た事ありませんからぁ。あ、誰にも言わないので安心して下さいねぇ。〔権能〕持ってる方をこの目で見るのは初めてですけどぉ、他のプレイヤーから狙われますからねぇ。ハヤさんの事は嫌いじゃないのでぇ、楽しくゲームして欲しいなって思うのですぅ」
「そりゃありがたい…ん?他のプレイヤーから狙われる?嫉妬でって事だよな?」
「違いますよぅ」
この時俺は、〔権能〕に関する最悪の仕様を聞かされる事になる。
「〔権能〕はぁ、持ち主を殺したプレイヤーに移動するんですぅ」
「……はァァ!!?」
殺したプレイヤーに移動する?待て、つまり…誰かに一度でもキルされたら、そいつに奪われるって事か!?なんだそのクソ仕様!?ギルドやクランが無い事といいこのシステムといい、MMO名乗ってる癖にプレイヤー間の協力どころか、徹底的に争わせようとしてんじゃねえか!!
そういえばリストやパーティの仕様もそうだ。フレンドリストじゃない、ただの「リスト」。
募集要項や募集目的。なぜわざわざそんなもん事前に書かせる?どうせリスト登録しなきゃパーティになれないなら、最初から「リスト登録募集」だけでいいだろう。リスト登録して、そこでパーティに誘えばいい。
つまりこのゲームにおけるパーティってのは要するに、「仲間」でなく、「一時的な協力関係」。
纏めると、プレイヤー間の交流に関するこれらの仕様が意味するのは…
「運営はプレイヤーで蠱毒でもしてんのか…?」
もうそうとしか思えない。〔権能〕持ち同士やそうでないプレイヤーが〔権能〕を奪い合い、最終的に勝者はより多くの〔権能〕を手にし…全てを揃える。
それで何をさせたい?ゲームである以上は…攻略、だよな?たった1人にこのカオスタワーの全てを踏破させようって?
「頭おかしいよ…」
「ゲームのコンセプトもそうですけどぉ、技術的な意味でもぉ、カオスタワーの運営が頭おかしいのは今に始まった事じゃないですよぅ?」
「どういう事だ?」
「時間加速現実比10倍なんて異常な加速倍率なのにこれだけ安全なゲームぅ、カオスタワー以外存在しないじゃないですかぁ。1.5倍で最新鋭ーって絶賛されるような環境ですよぅ?」
「おまけにスケールが何もかもぶっ飛んでますぅ。例えばカオスシティって塔と同じく正五角形なんですけどぉ、塔から街の頂点部分まで1000kmあるんですよぅ。しかもその先にもまだ地形が見えるって話ですぅ。極めつけにこの平原…いいえぇ、カオスタワーに実装されている全マップのぉ、それぞれの広さってご存知ですかぁ?」
びっくり情報が立て続けに飛んできて開いた口が塞がらない。
俺は普段新聞もニュースも碌に見ない人間だ。ゲームの情報なんて調べようと思った事もない。
大抵は店に入っていき当たりばったりで良さそうな物を探すか、サッケンが勝手におすすめしてくる。アイツの事もっと大事にした方がいいのかもしれん。
…マップの広さ?正直見当もつかないが、現実的に考えるとするなら…
「広めに見積もっても…カオスシティと同じくらいじゃないか?10もマップがあるんだ、それだけあれば全プレイヤーが広々使えるだろ?」
「星ですぅ」
「は?」
「カオスタワー内のマップの広さはぁ、1つ1つが地球と同じくらいと言われていますぅ。飛行スキル持ちの先輩方の地道な調査のおかげですねぇ。まぁそれも完璧ではないのでぇ、比較的探索が簡単なここの調査から得た推測なのですがぁ」
「おおぅ…」
この塔内に地球が10個収まってるって?どんなサーバーならそんなもん維持できるんだ、サーバーの星でも作ったのか?
「何者だよ、運営…」
「分かりませぇん、なにせ開発者の顔も本名も、性別すらも不明ですからぁ。唯一分かってるのはぁ、開発者としての名前だけですねぇ」
「あー…あの冗談みたいな名前か」
「絶対本名じゃないですけどぉ、分かってる名前がそれしかないのでそう呼ぶしかない、って感じですねぇ」
「『神』…だったか」
『神』。パッケージに記された、たった1文字のそれ。
拗らせすぎた中学生のPNみたいだが…こんな物を作れるのなら、あながち馬鹿にもできないかもしれない。
牛モドキと戦った時にゲームだというのに感じた強烈な怖気といい…
「ハハッ…面白え」
プレイヤーに一度でも殺されたらスキル消失。挑まされるのは格上がゴロゴロ湧く10の世界。
最高の難易度だ。モチベが湧いてくる。
「攻略してやるよカオスタワー。手始めに、このイカれた夜を超えてやる」
「ふへへぇ、あなたもしっかり壊れてますねぇ。いいですよぅ?さっきは情けないところを見せちゃいましたがぁ、わたしも最後まで付き合いますぅ」
さあ、攻略開始だ。
ハヤはテンションが上がるとクサくなります。




