11.頽理世界・プロローグ
〜1時間後〜
「ふへぇ、結構集まったんじゃないですかぁ?」
「そうだな、とりあえず12スタックもあれば当面は大丈夫かな?」
「ハヤさんがいるとモンスターに全然遭遇しませんねぇ。1時間も戦ってるのにたった5体なんてぇ…物足りないですぅ」
「けどその分強力なモンスターと戦えたろ?Lv5つも上がってるし」
「あ、ホントですねぇ。道理でわたし、動きが良くなってると思いましたぁ」
目の前の敵を葬る事しか考えとらんのか?
サラリと戦闘狂の一面を見せつつ、比較的平和に採取が終わった。ちなみに俺は何もしていない。一匹残らずシフォンが殲滅した。おかげで俺は採取に専念出来たから結果オーライなのだが。
「そういえばハヤさぁん、こんなに鋼草集めて何するんですかぁ?薬草はあればあるほど困らないですけどぉ、鋼草玉の山でも作るのでなければ爆薬用に3スタック程度で十分ではぁ?」
「まさに鋼草玉の山を作るんだよ。急遽必要になってね」
「あ、もしかして金欠だから売却用ですかぁ?なぜか知りませんがぁ、あれわりかしいい値段で売れますからねぇ」
「…ノーコメントで。いやなんで金欠って分かるんだ?」
「わたしがお声がけした時ぃ、何も頼んでいないご様子でしたのでぇ、コーヒー1杯すら飲めない素寒貧なのかとぉ」
「素寒貧なのは俺のせいじゃないんだよ、何もかもジャスティスが悪い」
「何を言ってるんですかぁ…?」
口に出して俺も同じ事思ったけど実際そうなんだからしゃーない。
にしても、意外とよく見てんなこの子。戦闘が絡まなけりゃごく普通の子なのかもしれない。
〜カオスシティ第4区画中央広場〜
「今日はありがとうございましたぁ。…あのぉ、よければ明日、またここで会いませんかぁ?ハヤさんがいるとぉ、レベリングが捗るんですよぅ」
「そりゃ構わないけど…俺がいた方が捗るのか?逆じゃないのか?」
「雑魚をずっと狩ってるよりもぉ、強力なモンスターを1体狩る方が美味しいんですぅ。経験値的な意味でもぉ、歯ごたえ的な意味でもぉ」
なるほど、言われてみればそれは俺が証明してるようなもんだ。格上ばかり狩ってるからどんどんLvが上がるのか俺は。今日戦ってみて分かったが、俺は戦闘に一切関与していないにも関わらず経験値を取得できていた。おかげでLvが2つ上がって、今はLv70になっている。
全てのロールはLv100がカンストなので、もうすぐビギナーは卒業って訳か。
「ああ、いいぞ?けど、マジで格上しか出てこないけどいいかな?」
「むしろどんどん下さいですぅ」
うーん流石戦闘狂、強者との戦いは望むところか。まあ格上に挑むのは俺も大好きだけどさ。でも俺は目的を忘れて脳死突撃しないので戦闘狂ではない。至って普通の高難度スキーだ。
「じゃあハヤさぁん、また明日ぁ。第2区画に友人を待たせているのを思い出したのでぇ、失礼しますぅ。あ、集合時間は今と同じ時間でお願いしますねぇ」
大丈夫かなそのお友達。3時間とか待たせてたりしない?
「おう、気を付けてな。この区画は治安が悪いらしいから」
「はぁい、ハヤさんもお気をつけてぇ」
そう言ってシフォンはウインドウを操作すると、何処かへ転移して行った。俺は他の区画に行った事がないので、第4区画とビギナーズハウス以外への転移が不可能となっている。
いつか他の区画も見てみたいんだよな。こことはまた違った景色になってるらしいし。
〜【武具屋 スミス】〜
「お前か」
「あはは…七転八起のメンテナンスをお願いしたくてですね」
「寄越せ」
「お願いしまーす…」
相変わらず愛想が絶滅しているが仕事は本物だ。七転八起はダビデディア戦で何度か自爆しており、その回数が回復しないままだった。
だが、製作者に預ける事で機能を回復させられる。パーティで狩りをするなら万全の状態に仕上げておかないとな。そして数分後、オッサンが戻って来た。
「機能は戻した」
「ありがとうございます」
よし次、クラフトだ。
ビギナーズハウスに戻って、毟りまくった鋼草でありったけの鋼草玉を作って、あとライフタブレットにマナタブレット。
…状態異常対策アイテムは残念ながら作れなかった。材料がないのでちょっとどうしようもなかったのだ。
「抗毒樹の実」というアイテム名から察するに、ソドラール森林のアイテムではないかと考えている。また今度探してみよう。
〜カオスシティ第4区画中央広場〜
翌日。約束の時間に俺は広場に立っていた。
「お待たせしましたぁ」
「近いから先に着いただけだよ。時間通りだ」
「おぉ、やる気に満ちてますねぇ。それじゃあ行きましょうかぁ、強いモンスターと戦うの楽しみですぅ」
戦闘狂ムーブをしつつ、俺達は平原へと転移して行った。
〜クノッサ平原〜
「…あれぇ?」
「…なんだ、これ」
転移した俺達を迎えたのは…夜だった。普段なら常時快晴の真昼で固定されている筈のクノッサ平原が、なぜか真夜中になっている。それに、地面も変だ。起伏が激しく、おまけに植生が乱れ過ぎている。
波打った水面がそのまま固定されたみたいな奇妙な起伏。
普段はある程度纏まって自生している様々な平原の植物達が、てんでバラバラに生えている。細かくて雑なパッチワークでも編んだみたいだ。
「…シフォンさん、何か知ってる?」
「…分かりませぇん。わたし掲示板とかよく見る方ですけどぉ、こんなの初めてですぅ」
シフォンでも知らない現象。バグって事はないだろうな?メニューからお問い合わせコーナーを選び、目の前の景色の異常さをスクリーンショットと共に運営に伝えるが…
「ダメだ。正常な動作であり、仕様です、みたいな返事が返ってきた」
「じゃあ何か変な条件を達成してぇ、こうなってる、って事でしょうかぁ?」
「イベント告知はないし、アップデート情報なんかもない。…元から実装されてたって事か?どういう現象なんだ、コイツは?」
何が起きているのか分からない。分からないが…ゲームプレイに支障が出るものではない。なら、考えようによってはラッキーだ。
環境が変化しているなら、出現するモンスターにも変化があるかもしれない。もしかしたら権能所持個体もいるのかもしれない。というか、この現象はソイツの仕業という事もあり得る。
よし、気持ちが前を向いてきた。
せっかく未知の体験ができるんだ、楽しまないとな?
「シフォンさん。何が起きてるのか分からないけど、仕様だってんならどうせなら楽しもうぜ?雰囲気は若干不気味だが、今まで隠されてきた未知の要素に1番乗りできたんだ。なら、楽しまないと損じゃないか。もしかしたら、君の好きな強力なモンスターもいるかもしれない」
「…それも、そうですねぇ。周りにモンスターの影どころか気配すら感じませんが、ものすごくLvの高いモンスターがいるのかもしれませんしぃ?」
血に染まって乾ききったような戦斧を呼び出し、狂戦士が嗤う。
「いっぱい、狩りますぅ!」
「ああ、そうだな!」
俺達は、混沌とした様相を見せる、異形の草原を進んで行くのだった。




