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暗殺少女、フルメタルジャケットの融解  作者: LAST STAR


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第8話 札無しの日常

「っ……? あさ……? う、痛っ」

「おはよ、シャノン。撃たれた所は大丈夫そう?」

「まぁ、何とか……ですけど」


生半可な返事をするシャノンに対してミーシャはどここか嬉しそうに頷く。


「そっか。まぁ、問題は無いと思うけど……念のためしばらくご飯はお粥ね」

「え……」

「あぁ、大丈夫! 私も付き合うからさ? 結構。お粥って体にいいんだよ? カロリーも抑えられるし、腹持ちも良いしウィンウィンでさ? 少し待ってて」


そう言ってミーシャは小さな炊事場から朝食を運んでくる。

出されたのは山菜が入った茶色いスープ、そしてお粥と得体の知れない赤い丸いモノだった。


「これはライスを水分に浸したもの……? でも、これは?」

「ん? あぁ~梅干しだよ。私のお手製。ある程度のモノは自作してるの。お金も潤沢にあるわけじゃ無いしね」

「はむっ……!? くぅぅぅ……ナニコレ、酸っぱい」


シャノンはおっかなびっくりで梅干しを口に入れて全身が震え上がる。

そんな様子にミーシャは独りでに驚いた顔をする。


「はじめてみたわ~。梅干しを口にそのまんま入れる人。これはお粥に混ぜて食べるモノなんだよ?」

「それを先に言ってぇ……」


この子、常識知らないんだなという視線を向けられながらシャノンは食事を終える。


「ごちそうさまでした」

「うん、よろしい。挨拶が出来る子は偉い子」

「人を子ども扱いしないでもらえますか!? これでも私は17歳ですよ!」

「へぇ~シャノンって17なんだ? ってことはぁ? 一つ下だね」

「やっぱり、私の事を下に見てぇ……いっ……」


シャノンは食いつこうとしたものの、痛みが走ってその意欲も引っ込んでしまう。

そんな姿を見たミーシャはニヤリと笑みを浮かべる。


「別に下になんて見てない、見てないよ? 病人はしっかり休んでな~ふふん♪ 私はやることがあるからさ。んーっと? どこに入れたっけかな? ここら辺だったような……?」


何やら玄関先でガチャガチャと棚をいじり始める。

てっきり銃を取り出そうとしているのかと思ったら、思いがけないものが出てきた。


「あーちゃ、奥に入ってたかぁ……」

「へ? いや、なんで『鎌』?」

「なんでって……そりゃ草刈りをするには必要でしょう?」


当たり前じゃんと言わんばかりに語る彼女を前に私の思考が止まる。銃を振り回して人殺しをする人が――なんで草刈り?


意味が分からなかった。


「だから、言ったでしょう? 自作できるものは作っているって」

「まさか……農業を?」

「イグザクトリー! その通りだよ。見てみる?」

「えっ、あ……見ても……いいなら」

「いいよ、いいよぉ!! ただぁ……無理はしないでよ?」


シャノンは半信半疑でミーシャの後ろを付いて行く。家の裏手には畑があり、多くの野菜が育っていた。


「最初はね~? 趣味程度のド素人のそれだったんだけど、色々と経験者に教わったり、試行錯誤をしたりで、今は収穫が出来るくらいにはなったんだよね~」

「へ、へぇ……でも、市場で買った方が手間もかからなくて良いんじゃ――」

「ん……まぁ、確かに? そっちの方が楽で簡単なんだけど……基本的に市場は食材が高いからね。作った方が安価なんだよ。それに肥料とか、土とか皆、見向きもしないからさ、ほとんど経費がゼロなんだよねぇ」


そんな自信満々のミーシャの言葉に酒場での食事が頭を掠める。


「……あの、ごめんなさい。酒場でのごはん」

「あ、いやいや良いんだよっ! あんなのは! それにあの酒場のメインは裏の宿だから」

「え? どういうことです……?」

「あ〜えっとねぇ……宿泊代を割高にして食事のコストを落としているシステムで……要は飯だけはリーズナブルってわけ」

「な、なるほど……あそこは宿で儲けているんですね」

「そう、そんな感じだよ」


シャノンはコクコクと頷きながら新しい物をスポンジのように吸収するかのような目でミーシャの農業姿を見つめる。


「よしっ、ここは片付いたし、そろそろ仕掛けを見に行くかな」

「仕掛け……ですか? それってまさか――」

「そう! 森の中とか、川に罠を置いているの! 肉とか魚を調達するためにね? 当然、人を殺すものじゃないから勘違いすんなよぉ??」


シャノンは目を逸らす。


「へ、へぇ? でも、そんな勝手なことして良いんですか? もし、人が掛かったりしたら不味いんじゃないですか?」

「それは無いから大丈夫。ここら辺は『暗黒の森』って場所で、人がほとんど入らないエリアだから。まぁ、言ってみれば狩猟には持ってこいのロケーションってこと」

「暗黒の森って……あの、暗黒の森? ここが、ですか?」

「そうそう! あの暗黒の森だよ! だぁから~ほら! 自然に近い環境だから掛かっているでしょ?」


シャノンが知る暗黒の森は魔物が跋扈する危険地帯。

並大抵の冒険者は入りもしない場所だ。そんな土地をミーシャは意気揚々と歩き、罠にかかった動物を確保しながら再設置する作業を続ける。


「ん~。何なに? すごい見るやん……。そこまでガン見するならさ? やってみる?」

「え!? 私がですか……?」

「うん、こういうのも経験だよ! もちろん、体に無理が無いならの話だけどね」

「……じゃ、じゃあ少しだけ」


シャノンは子供っぽい所があるんだなと思いながら罠の仕組みを教えて設置作業を進めていく。この罠に動物が掛かったことが分かったら、シャノンは泣いて喜ぶんじゃないだろうかとミーシャはほくそ笑む。


「な、なんですか? そんなにクスクスして……」

「ん?? いや、なんでもぉ~? さて、これで最後の罠も設置完了。あとは家に戻って魔物退治の用意をしないとね」


その言葉にシャノンはピクリと反応する。


「魔物……」

「うん、この『暗黒の森』は世間が言うように『魔物たちの魔境』なんて言われるくらい危険だからね。だから、自衛のためにもやらなきゃならないってわけ」

「危ないことが分かってるなら街に住めば――」

「あはは……そうできない事情もいろいろとあるんだよ。それに、何よりも狩った魔物の素材は高く売れます! これが最高なんだよっ! さぁ、準備準備っ!」


ミーシャは忙しなく、どこからともなく『扉』を顕現させる。

唐突に現れた不可思議な扉にシャノンは目を見開く。


「なっ、なんですか、それ!?」

「あ~これ? 私の心臓部――言ってみれば強さの源かな。気になるならおいでよ」


シャノンはその言葉に釣られるままに扉の中へと足を踏み入れた。その内部はまさに軍事拠点そのもので銃やナイフ、素材に至るものまで多くの物が並んでいた。


「こ、これ……」

「――やっぱり、綺麗だなぁ。シャノンは」

「え?」

「何でもない。ようこそ、私の核心へ。ここからは時間が掛かるから座っててよ」


ミーシャは愛銃のベレッタを丁寧に分解して清掃していく。

その眼差しは真剣そのものでシャノンの目も自然と釘付けになる。


「そんなにクリーニングしているのが珍しい?」

「あ、いえ……暮らしぶりが、その……想像とは違ったので」

「ははん? 銃をとにかくぶっ放して、人を殺して豪遊しているとでも思ってた?」

「いや、あの……すみません……」

「謝ること無いよ。普通にそう思うもんね」


ミーシャは手を止め、頭上で回る剥き出しの送風ファンを見つめてため息を吐く。


「私はただ、普通に生活がしたいだけなんだよ。本当なら殺しだってしたくない。だけど、綺麗事だけで食べて行ける程、この世界は甘くない。だからせめて、自分が大切だと思う人を守るためには武器を振るいたいと思ってる」

「え? それってどういう――」

「ん? 言葉の意味の通りだよ?」


カチャンとスライドが戻る音が響くと同時にミーシャは立ち上がり、ガンラックからG17――グロックを棚から取り出してシャノンの前に置いた。


「もしよかったらさ、撃ってみる?」

「銃を……ですか? それはさすがに……なんというか――」

「怖い?」

「え、ええ……。それはだって、人を殺す武器じゃないですか」

「うん。間違いない。それでもいつかは握らないといけない時が来る。政治家やお偉い人は「対話こそが解決だ」なんて言うけど、時には命を守るために武器を取ることも必要だからね」


グロックのグリップをシャノンに向けて差し出して握るように促す。

彼女が恐るおそる握ると顔がひきつる。


「っ!! 凄く……重い。こんなに重いんですか?」

「うん、それが命の重み。ここから吐き出される銃弾で人は簡単に死んでしまうし、向けられた人間や魔物は生きるために必死に抵抗してくる」

「……銃を持つなら命の駆け引きをする覚悟を持て、ということですか?」

「そういうこと。頭が良いね? シャンノンは――。さぁ、こっちへ」


ミーシャは悲し気な表情をしながらシャノンを射撃レーンへと案内する。


「だけど、ゴメン。私は――シャノンには銃を持つことを強制してしまうことになる。この世の中では女の子が一人生き抜くためには銃が要る。でないと昨晩みたいに大狼の餌にされかねない。シャノン、その覚悟は持てる?」


その問いに躊躇するかに思われたが、彼女は静かに目線を銃へと向ける。


「大丈夫です。私が、私らしく生き抜くため――ですから」

「うん。その覚悟、忘れないで。じゃあ、弾倉を押し込んで?」


弾倉を銃へと入れ込み、給弾をしたのちにスタンダードな立ち姿勢を取らせる。


「いい? 銃の狙いをつけるとき、照星と照門。この二つが合わさる所に弾が飛んでいく。ただし、引き金を引いた瞬間、大きな反動が来る。衝撃は肩と腕両方で吸収するような感じで――」

「わかりましたっ……撃ちます! ひゃあ!? あぅ、痛いっ……」


引き金を引いた瞬間、反動で大きく銃が跳ね上がる。

それと同時にひ弱なシャノンの体が開き、傷口に痛みが走ったようだ。


「だ、大丈夫? シャノン?」

「だぁ……大丈夫です」

「いやいや、大丈夫じゃないでしょ~涙目じゃん! てか、ごめん。そこまで反動制御ができないとは思わなかったもんだからさ? 今日は終わりにしよう」

「は、はい……。その……また、明日も撃たせてくれますか?」


ミーシャは銃を回収して弾を抜きつつ、その言葉に思わず苦笑いを浮かべる。


「まぁ、良いけどさ? 体を休めることも忘れずにね? さぁ、私は魔物狩りをしてくるから家で休んでて! はいはい、出てった、出てった!」

「え? あ、押さないでくださいよ!? 痛いんですから!」

「それじゃ自分で歩け~でないともっと押すぞぉ~!」


シャノンを扉――『武器庫』から追い出した私は一人、戦場へと向かうのだった。





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