第4話 酒場という雑踏
「相棒ぉ! もっと飲めぇ!」
「おうよ! ぎゃはははっ! うまいな、ビールは!」
騒がしく賑わう酒場の中心付近で私はつまみとビールを嗜みながら聞き耳を立てる。オッサン臭い酒場を私が好むのは情報の獲得のためだ。アルコールが入った馬鹿な連中は口が軽くなり、簡単に情報を垂れ流しにしてくれる。
「おい、鉱石商の奴が明後日の夜、大きな取引きをするんだとよ。そんで、護衛隊を募集しているらしい。お前、乗るか?」
「護衛隊ってことは……あぁ、密輸か?」
「まぁ、そんなとこだな? なんでも夜に国境沿いで王国の貴族と取引するらしいからリターンは大きいはずだぞ」
ビールを啜りながら決して振り返らず、横に目を流す。
正直、なんでそんな話をこんな誰でも聞ける場所でするかなぁと突っ込みたいところではあるが、私にとっては『美味しい話』であることには変わりはない。
「ミーシャさんっ! これ、これ凄くおいしいっ!!」
「あーうん、シャノンは美味しそうに食べるねぇ……」
それよりも私としては出費の方が頭痛の種だ。一体、華奢な体のどこに料理が消えていくのか疑問に思うほど、皿が積みあがって行く。ミーシャは財布を二度見しつつ、ジト目でビールを啜る。
「――なぁ、姉ちゃんたち? 俺の酒に付き合ってくれねぇか? へへっ」
そんなことを考えていると酒臭い男が突然、現れてミーシャの太ももに触れる。
正直、こういう酒場の席では酔っ払いに絡まれることもしばしばあることだけに、彼女は素早く手を払いのける。その目は凍るように鋭い。
「キモくてデリカシーもないおっさんと飲む酒は持ち合わせてない。他を当たってくれるかなぁ?」
「なんだとぉ! このっがぁき――!?」
「あっちに行けって言ってんの。今の、聞こえませんでしたかねぇ?」
酔った勢いで乗り切ろうとした男だったが、眼前にベレッタの銃口を突きつけられては絶句するよりも他ないだろう。挙句、銃の狙いを定めやすいようにハイポジションで構えて手練れ感を見せつける。
「それとも痛みがお好みでぇ? あ~それなら……味わってみます?」
「くっ……こ、こいつ……、良い女なのに無表情で銃をかまえて……」
「兄貴! だから『青薔薇』を相手にするのはやめた方が良いって言ったのに――!」
「は~ぁ~?? 青薔薇?」
聞き覚えがない二つ名に顔が歪む。
「ひぃ! だって、アンタが悪いんだぞ!? 良い女なのにいつも一人で酒を飲んで、寄って来る男を無表情で駆逐してきただろう!? 冷徹不動にも程が――!」
「はっ、ははは……ふざけんなぁよっ!!」
ガタッと椅子から立ち上がったミーシャは褒められてんのか、貶されてんのかよく分からない言葉の腹いせに弾丸の雨を彼らに浴びせたのだった。そのお陰で周りにいた客は短時間で解散し、得れた情報は『鉱石商のお話』、ただ一つだけだった。
「……ったく、今日も今日とてウチの店で撃ちやがって」
「しょうがないでしょうよ? アイツら、女に喧嘩を売ったんだから! それに撃った弾は全部、非殺傷だからノンプログレムっ!」
「いや、そういう問題じゃないんだよっ!」
「ふーん? その割にしてはな~んか、私を出し物にしてビール叩き売っていたように見えたけど? なんならこの子の飯代をタダにしてもらっても良いけどぉ?」
「何のことか、サッパリだね?」
私の言葉に店主の叔母さんは違う方を向いて知らんぷりを決め込む。
かく言う、シャノンは手を止めてどこか申し訳なさそうにこっちを見つめてくる。
「あ~大丈夫っ! こんなんで破産する軟な懐じゃないから心配しなさんなって! ほら食べて食べて! 冷めちゃうよ?」
「は……はいっ!」
ミーシャは閑散となった酒場のテーブルに頬杖を突きながらシャノンの食いっぷりを見ながら笑みを零し続けるのだった。




