第13話 密輸取引
「いいか、近接では銃よりナイフだ」
私たちは小さい頃から銃やナイフと成長してきた。
全ては現代の政府と国民の為に――殺るかやられるか。
そう教育を受けた。
「部屋に居る奴らを排除しろ! 突入っ!!」
「はいっ! しまっ――いたっ、いやぁあああ!!」
「どうした!? ほら、さっさと身を隠せぇ! 死ぬぞぉ!!」
訓練をしくじった者には容赦なく、ゴム弾の雨が降る。
例え、それで運悪く死んでもお構いなしだ。
だから私たちは生き残るために困難な訓練と任務を全うしきる。
そうして気付けば『私たち』が日本社会の裏から平和を守り続けていた。
そんなある日の夕暮れに私、篠崎詩織の元に任務命令が届く。
「HQより詩織」
「はーい? まーた面倒ゴトですか?」
「今夜、横浜旧港で海外武器商人が日本の反社会勢力と武器取引を行うという情報を入手した。アルファとブラボーの2チームで取引の阻止、及び密輸武器の確保を実施せよ」
「了解~。それで? 想定される敵性数と反撃規模はどんな感じ?」
「っ……相手は武器商人だ。当然、自動小銃や手りゅう弾で武装している。それ以外の兵器は確認できていないが、用心に越したことはない。ブリーフィングの後、0030に完全武装で状況を開始せよ。以上だ」
司令官は淡々と告げる。こんな殺伐とした光景はいつもの事だが、任務である以上は決して失敗は許されない。私は兵舎に入ると声を張った。
「はーい! 総員、注目~! アルファとブラボーは任務だよ? 即時、即応待機。今回の相手は武器商人だから反撃もあり得るってさ。手を抜かず、迅速に2130までに地下駐車場へ集結するようにぃ!」
「あ? アタシらもかよ。ったく、随分と引っ張りだこもいいとこだ」
詩織の戦友で、ブラボーの隊長でもある朱莉が「マジかよ」という表情を浮かべる。
「あ~うん……休憩がほとんどなしで悪いけど、朱莉たちにはもう少し頑張ってもらうことになるかな? ごめんっ……!」
「ふっ、お前が作戦を決めている訳でもあるまいに。そんな申し訳ないって言ったって埒あかねぇだろう? よし、アタシたちも気を抜かずに行くぞ!」
朱莉は隊員たちを鼓舞するが、表情には疲労が滲み出ている。
アルファ、ブラボーの両チームともにコキの使われようには納得がいっていないが、私たちにはここ以外で生きる方法を知らない。
だから、与えられた任務を淡々とこなすだけ。
全員がいずれは死ぬ。それが今日か明日か、一週間後か一年後かは分からない。
それでも、私たちは亡くしてきた仲間たちの分も生き抜かなくちゃならない。
簡単に死ぬわけにはいかないのだ。
――数時間後。
横浜旧港で武器商人が武器の積み荷を受け取り、武器の組み上げを行っていた。
規制が厳しい日本の貿易管理を突破するために複数の部品を様々な手段で密輸し、後に組み上げて運用するのだ。
「いくら日本とはいえ、こんな方法でやられたら密輸なんて防ぎようがないだろうなぁ? それに『これ』を輸入できたのは奇跡だったしな」
「ボス、クライアントから連絡が。少し到着が遅れるとのことです」
「そうか。まぁ、大きい前金を貰っている。この武器がなけれりゃ、やつらの薬物売買ルート拡大も夢のまた夢になる。逃げはしないだろう。多少の遅れは許容範囲にしようじゃないか」
彼等の目的はあくまで武器売買。
しかし、彼等とて玄人だ。クライアントがその武器を使って何を仕出かそうとしているのかも探り当てていた。そこまでは完璧だった。
そう、そこまでは――。
ブゥンという音と共に倉庫の電源が瞬く間に落ちる。
暗闇に包まれた途端、サイレンサーの銃声が鳴り響く。咄嗟に武器商人たちは物陰へと隠れたものの、周囲では大勢の護衛が崩れる音が木霊する。
「Ah, damn it!! what's going on!?」
すぐに電力が復旧して周囲が明るくなり、彼は仲間たちの屍と対面する。
「ボス、ダメだ! かなりの数をやられた! この取引は罠だっ!」
武器商人の部下たちはものの見事に急所を撃ちぬかれており、ボスは言葉を失う。残されたボディガードたちは逃げ道を探すべく、周囲に目を向けたが、その行動も既に遅かった。
「Freeze. |Don't move《動くな》! Put your hands up! now! If you don't surrender, I will have to shoot you.」
上から軽快な英語が聞こえ、彼等が見上げればそこには拳銃やSMGで武装した制服姿の少女達がこちらへ銃口を向けていた。あまりに場とは不釣り合いな光景に絶句する。
「子どもがなぜ? この国はそんな国じゃないだろ、どうなっている?」
「あっ、なーんだ、日本語が話せるじゃん! 楽で助かるぅ~! ――さて、これは警告だよ? すぐに投降しろ。悪い様には――」
「ボス! にげっ――!!」
ボディガードの一人が先走って銃を抜こうとしたが、それは場慣れしている詩織にとっては茶番そのもの。銃を抜こうとした男の腕を華麗に撃ち貫く。
「くぁ……」
「無駄な抵抗は止してくれる? 私たちの実力舐めると痛い目に遭うよ? さっ、そろそろ武装を解除してくれない? アタシたちだってムダに人を殺したくはないし」
M9―—通称『ベレッタ』を手に一階まで飛び降り、武器商人のボスに銃口を向ける。しかし、武器商人は銃口を前にしても笑って見せた。
「ふっ、冗談はよせ。ティンエージャー。端から生かすつもりはないだろう?」
「ほ~ん? どうしてそう思うの?」
「勘だよ。まぁ、強いて言えばお前の目だな。それだけ濁るのは相当な殺しの場数をやってきた奴の目だ。それも兵士のように。違うか?」
武器商人は手を震わせながらゆっくりと胸元へ持っていき、葉巻とジッポライターを取り出し、人生最後のタバコへ火をつけた。
「ご名答。それは否定できないや」
「ふぅ……だろうなぁ?」
「んじゃあ、まぁ? 覚悟も決まったみたいだし最後に教えてよ。今回の取引相手が誰なのかを」
「そこからは取引だ。仲間は何も知らん。こいつ等だけは見逃してやってくれ」
「ボス! それは――」
「いいからお前等は黙れ!!」
これも最後の情けという奴だ。
私は少し銃口を下げて無言で出口の方へ首を振る。
「すまんな、恩に着る。お前ら、一目散に逃げて生き延びろ。何があってもだ。俺の命を無駄にするな」
潔い言葉に断腸の思いを馳せながら仲間は出口へ向かって駆けていく。
その最中、一人取り残されたボスは瞬く間にブラボーの隊長である朱莉に銃を奪われて地面に跪かされる。
「詩織。もう密輸武器は押さえた。後は取引相手を吐かせれば終わりだな」
「あ~うん。でも、それはもういいや。取引の阻止と武器の回収。それが任務だったし。あとはこの人の処遇だけ」
そう言いながら私は跪く彼の額に銃口を向ける。
「正直、仲間思いのアンタを殺すのは心が痛む。……それでも私が今、ここで終わらせてあげてもいい。多分、捕えたところで殺される未来は変わらないから」
「せめてもの温情……か。殺せ!」
そう言って彼は静かに目を閉じ、私は引き金を引いた。
こんな経験を何度も経験しているからか、痛みも罪悪感もほとんど感じなくなった。私はイヤーカフ型のワイヤレスイヤホンに手をかざす。
「HQ、ミッション成功。武器を押さえた」
「よくやった。回収班を向かわせる」
「了解。帰投する」
通信を切って周囲の荷に目を向ける。
そこにはカスタムされたAR15に数万発の弾丸。中古のロケットランチャー、さらにはグレネードランチャーに手りゅう弾と軍隊並みの兵器たちだ。
「何処の誰が買い手か知らないけど、戦争でもするつもりだったんかね?」
「わからねぇけど、間違いなく買い手はかなりヤバそうだな。ほらあれ――」
「ハザードマーク……か。まぁ、後はHQが上手い具合に処理してくれるだろうし、帰ろう。朱莉」
「あぁ、そうだな? 触らぬ神に祟りなしって言うしな」
「そうそう! てかさ、さっき思ったんだけどさ? 私を熊呼ばわりしないでよ。コードネームあるんだから」
「いいじゃんか。『血まみれの女』より熊みたいに可愛い方がさ? 実際、熊みたいに強いのも事実だろ?」
「あぁ!? 誰が熊じゃ!!」
「ほら、うだうだ言ってないで撤収すんぞ!」
この時、私たちはまだ大きな波が近づいている事すら気付いていなかった。




