第11話 見たくない現実
「そこに居るのは分かっている。誰の手のモノだ?」
「ふふん~誰って? おたくのお嬢様の手のモノです」
「シャノンのことを言っているのか?」
私は木影から出て姿を晒して、自分の居た付近を指さす。
「ええ! だって、そこにシャノンが居ますよ?」
「――お父様!! どうしてこんなことを!?」
「なんということを……。貴様、何者だ」
「え~酷いなぁ? シャノンが行き倒れて大狼の餌になりそうになったところを助けてあげたっていうのに――」
その言葉にレオナルドの表情が一瞬だけ変わる。
それでも敵意は揺るがない。
「それは愚女が世話になったな。だがな、こうなってしまってはお前等にも消えてもらうしかない」
「どうしてですか! お父様は私を……殺せるのですか?」
「あぁ、全ては国の為だ。お前は国の礎になるんだ」
「まぁ、そうなるよね? 私たち、スキャンダルを見ちゃったし? ……にしてもさぁ~? そうなりますかねぇ……?」
ウィルソン家の兵士がぞろりと出てきて、小銃を私たちへと向ける。
完全に数的な不利だ。まぁ、相手からしてみれば国境境でいざこざを起こしている以上は早々に撤収したいのもあるのだろうが――。
「ご当主さんさ、『その考え』は戦場じゃ甘いよ」
私はシャノンとは反対側へ飛び出し、シールドを敵へ目がけて放る。
その隙にベレッタを引き抜き、速射をかます。
「まず三人。っ……!」
転がりながら撃ち倒した敵兵の身体を盾にして次々と相手を打ち倒す。
それでもまだ人数では負けている。どれだけ管理していても撃たれる隙は出来る。
「やばっ……! っ――!」
「なにっ!? がぁ!」
「はいはい、見とれてると死ぬぞ~うん、死んだけど」
到底、撃たれたら死ぬゾーンでミーシャは射線を見切って躱す。
そこには絶対無敵の暗殺者としてのオーラが身に纏う。
「ふぅ……それで? 形勢逆転したけど、どうするのさ? 私に銃を向ける余裕があるのなら娘に言葉一つくらい掛けなよ、アンタ」
「……。強く生きろ、シャノン」
「お父様、これはどういう事なんです!? さっきは国の為と……でも、だからってどうしてこんなことを!」
シャノンの言葉にはまるでと言っても良いほど、答えずに私の目を見る。
それは覚悟に満ちたような目だ。こいつは私に撃たせようとしている。
レオナルドの指がトリガーに掛かり、絞ろうとする。
パシューン!
「っ――!?」
「がぁ……!」
突然、重い銃撃音がその場を支配し、レオナルドを貫く。
明らかな遠距離からの狙撃だ。
「お父様ぁ!! 嫌あああ!!」
「シャノン!! 落ち着いて! 影に!!」
私は無理やりシャノンを森の中に転がり入れる。
しかし、酷なものでレオナルドの息はまだあった。
「お父様が、お父様が死んじゃうっ! ミーシャ、なんとかして!」
「馬鹿言わないで。相手は数キロ先から私たちが出てくるのを待ってる」
「じゃあ、このまま死なせろっていうの!? さっきみたいに銃弾を躱してお父様を救ってよ!」
「落ち着いてシャノン。私に遠距離の銃弾を避けるなんてことはできない。私の技術は近距離だけ。だから……残念だけど、見捨てるしかない。それにアンタの親父さんはそれを望んでる」
シャノンはその言葉に涙を流し、顔をしわくちゃにする。
きっと見捨てられる前までの思い出があるのだろう。
それでも、私は彼女に酷な言葉を突きつける。
「アンタの親父さんはアンタの事を嫌ってない。そうじゃなきゃ、兵士が私たちを殺そうとした時点で無防備だったシャノンは死んでる」
「ぁ……まさか……そんなこと……」
誰も居ない、気配すらしない風が吹く中でレオナルドが、うめき声を上げ最後の力を振り絞って声を出す。
「――シャノン、を……頼む。たのむ……」
「えぇ……あなたの娘さんはこの私が責任を持ちます」
「そんな馬鹿なことをいわないでっ! まだ、まだお父様は――どいてよ!!」
シャノンは感情に任せて私を押しのけようと顔を叩く。
その激情は正しい。それでも彼の思いを無駄にさせる訳にはいかない。
だから、シャノンの胸ぐらを掴み返した。
「いい加減、現実を見なよ!! あの男の、アンタの父親の意志を無駄にするつもり!? 娘に生きていて欲しい、そんな最後の願いくらい受け止めてあげなよ!!」
本当は彼女だって理解しているんだ。シャノンが泣き崩れている中、私はレオナルドに最後の手向けの言葉をささやく。
「――あなたの仇は私が。娘さんのことは心配しないでください」
その言葉を皮切りにレオナルドは言葉を発さなくなったのだった。




