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至上の愛   作者: 高瀬海之
第二部

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16、蘇った女(ひと)





 漆黒の闇夜に登った月はまだ刃のように薄く、輪郭の半分を描くことも出来ていない。か弱い光では星明かりを打ち消せず、空にはまだ多くの星が瞬いていた。

 その一つがキラリと流れ消える。


 星が堕ちるのは誰かの生命が消える予兆なのだという。では、この世界が滅びるときには地上から消えていく生命の数だけ星が流れ続けるのだろうか?

 ……その様、いっそ見てみたい。


 世界の終わりが降る夜、最期に見るものが雨のように零れる星の煌めきならば、滅びもそんなに悪くないかもしれない。

 満ち始めたばかりの月を見上げ煙草を吹かしていたアシュリーは、他人事のようにこの世界の危機を考えていた。

 世界の終わりはアシュリーにとっても無関係ではないのに、まるで遠い出来事のように感じる。


 大体彼も、人間と魔族の戦争で二つの世界を共倒れさせるなんて、よくもまあそんな面倒臭いことを考え付いたものだ。すべて壊したいなら、この間のように生命と引き換えに魔力で大地を壊してしまえばいいのに……。まあ、そうしたところで人類を皆殺しにすることは不可能だろうけど。


 彼が砂に変えた大地も結局は広い大陸の一部分でしかない。一人で行ったことは驚異だが、全部壊したいと望むには儚なすぎる力だ。だから彼はより御しやすい人間側についたのだろう。


 二つの世界の関係を知らぬ人間を利用し、本当に世界を終わらせるつもりで……。


 眼下には、そんな企みなど知りもしない人間の象徴のように、天上の星よりも晧々と輝く街並みの光が溢れていた。

 あの光一つ一つに幾つかの生命が寄り添って生きている。それらがすべて消え、地上が真っ暗になるのを想像してみた。


 ……灯りの灯らない荒涼とした景色はアシュリーの知っている魔界に似ている。


 ただひたすらに暗く、永遠に夜の明けない闇の世界。昔はそれを不自然だと思ったことはなかったのに、昼夜を繰り返す光の世界にいった人を追って行ってからは変わった。

 光は忌むべきものではなかった。

 その証拠に、過ぎるのはいつも光を背負って笑う、あなたの姿。


『アシュリー』


 通り過ぎていく呼ぶ声は、穏やかで優しくて暖かくて……まるで冬の日に大地を暖める太陽の光のよう。


 光を放ちながら笑うあなたを心底愛しいと思った過去。

 誰がなんと言おうとあなたには日の光が一番良く似合った。光に包まれたあなたを愛していたと気付くのに随分長い時間が掛かってしまったけれど、今でも抱き締めたい、ただ一人の…。


 手を伸ばしても決して届かない人を想い、アシュリーは少し笑った。


 想うだけでこの身が甘く疼くのはどうしようもないらしい。愛おしくて愛おしくて、だから……他の何人にもあなたを殺させはしない、絶対に!!


 決意を表すように強く街並みの一角を睨んで、強く両腕で自身を抱く。

 あの光のどれかに寄り添っている最愛の人……もうすぐ、会える。早く、会いたい。


 しかし、身震いして待っているアシュリーを焦らすようになかなか人家の灯りは消えなかった。あれらがあらかた消えてからでないとアシュリー達は動けないのに……じりじりしながら眺めているとやっと灯っていた人家の光が消え始めた。


「アシュリー、そろそろ行こうか」


 声と共に、バサリと羽音がして隣りにロードが舞い降りる。ぎしりとアシュリーが腰掛けた場所が撓った。

 アシュリーが腰掛けているのは都の街並みを見下ろす巨木の上。彼らは並んで高く伸びた木の天辺近い枝から眠りにつこうとしている街を見下ろした。

 視線は暗くなっていく街並みに向けたまま、アシュリーは微笑して呟く。


「戦争の始まりか…」


 勢いをつけて枝から飛び下り様マントを魔力で翼に変える。大きくそれを羽ばたかせ飛び上がると目的の場所を目指して一直線の風を切った。



◆◆◆◆◆



 ウェンディの帰宅を待ってからの食事を終えたのは、もう深夜に近かった。自室に戻ったイライアスは真っ先に、今夜はどうする? とウェンディに問う。


「あ……今夜は帰ろうと思ってます。両親にも偶には戻るよう言われてますし」

「そう」


 言った声に無意識に宿った落胆をイライアスは後になって気付いた。

 こんな別れすら惜しむ自分に疲れた溜め息が零れる。


 これでどうやって自分は計画を実行する気なのだろう? ことが起こればウェンディとて無傷ではいられない。それだけのことをしようとしているのに……。


 ギリリと胸が痛んだ。

 痛みに顔をしかめたこと別の意味に捕らえたのだろう、ウェンディは申し訳ないと済まなそうに顔を曇らせる。意味が違うと即座に首を振ろうとしたが直前で考え直し、わざと甘えるようにウェンディを抱き締めた。


 そう思わせていた方が誤魔化しやすかろう。


 エルウィンの襲撃以来、ウェンディはずっとイライアスの館に泊まり込んでいた。それはもちろん、再度の襲撃を警戒してのことだ。あの日取り逃がした魔族がまたここを襲う可能性がある。

 この館の地下にはまだエルウィンがいるのだから……。

 もしまた魔族がエルウィンを取り戻しに現れたら正しく彼が魔族と通じていた証し。しかし、それを哀しむ心とイライアスを心配する気持ちとは別だとウェンディは言う。

 兄の潔白を信じる気持ちより、恋人を心配する心を優先する彼女の気持ちが、嬉しくて……同時に痛くて、複雑だった。


 ウェンディはこんなに純粋なのに……オレはお前を騙すことしか出来ない。

 お前の真摯な気持ちにも、偽りを塗り重ねた応えるフリを繰り返すことしか出来ない。


 ああだから……、せめて最期まで騙しきるよ。


 この世の終わる瞬間まで、オレはウェンディの信じた『イライアス』でいる。

 絶対にウェンディには悟らせない、この胸の悪意も憎悪も何も……。



 滅んでなくなってしまうとしても、裏切りを気付かせないことは死に逝く彼女への救いになるだろう?



 だから、正直帰ると言い出してくれたことは有り難かった。

 アシュリーは来る、間違いなく。

 ここという場所ではなく、イライアスのもとへ。

 その場にウェンディに居合わせてほしくはなかった。


 もちろん、どんなきっかけでウェンディに正体が知れるかということも不安だが、それ以上に、アシュリーが昔のまま蘇るとしたら……彼女相手に、ウェンディを庇いながら戦うことは不可能だ。一緒にいて余計な危険に曝したくはない。


 ましてや、万が一その争いで自分が負ければ、それこそウェンディから一切の危険が取り払われるのだ。諸悪の根源の自分のためにウェンディに危険が及ぶなどということがあってはならない。

 緩く抱き合ってから離れ、諭す大人の顔で言った。


「オレのことは心配しないでいい。エルウィンのこともある、ご両親は君がそばで支えてやらないとな」

「はい…」


 頷くウェンディの頭を撫でた後、お別れのキスをして彼女を送り出すつもりだった。……なのに、抱き締めて小鳥が啄むようなキスを繰り返していると、ついきつく抱き返してしまった。そのまま縋りついた手をなかなか放せない。

 これ以上進んだら今夜も彼女を帰せなくなってしまうから……意思を持って彼女の肩を押し返そうとした瞬間、イライアスの意識に何かが触れた。

 キンと耳鳴りにも似た音が意識を弾き、目を見開いたイライアスはウェンディの唇を振り切って外へ視線を向ける。カーテンのない窓の向こうに広がるのは闇また闇。晧々とした室内の灯りに慣れた目では何も捕らえられなかった。


 でも……強く感じる。それは……。


「…こんなに早く」

「え?」

「伏せろウェンディ!!」


 叫んだイライアスがウェンディを床に引き倒す。

 次の瞬間、新しくしたばかりの窓ガラスが割れ、部屋中に破片が舞った。更にその欠片の切っ先が魔力の介入によって鋭い刃と化して襲いかかるのを感じたイライアスは、咄嗟に手のひらを眼前に翳し自分とウェンディを防御する。イライアス達を避けるようにしてガラス片は次々と絨毯に突き刺さった。


 その雨が止んで顔を上げた時にはもう、それはそこにいた。

 室内の灯りが照らすバルコニー。辛うじて届く弱い光が輪郭をぼやけさせながらも、しっかりとその場にいる人は知覚出来た。

 背景に溶け込みそうな漆黒のマントを夜風に靡かせて悠々とバルコニーの手摺に腰掛ける女。

 ゆったりと組んだ足に肘を預け、繊細な手が鋭角的な顎のラインを包んでいる。朝焼けにも似たオレンジ色の頭髪が闇夜に不似合いで、だからこそ他の誰にも間違いようがない。

 こんなにも早く、驚異はイライアスの前に現れた。


「アシュリー…」


 イライアスは数百年ぶりにその名を紡ぐ。

 応えて、彼女が笑った。


「久し振り。元気だった、イライアス?」


 気安くヨッと手を上げて応える姿は在りし日のまま……再会は数百年ぶりなのに、互いの姿が何も変わらない所為で時間的な空白は一切感じなかった。


 闇に際立つ雪色の肌も、笑みを刻んだ珊瑚色の唇も、緩くカーブを描いた長い睫が彩る最高級のモルトの深い色合いにも似た琥珀の瞳も……それらに宿る感情すら、イライアスが知っている頃の彼女そのまま。


 美しい輝石の瞳には意地の悪い好奇心が宿り、唇に乗っているのはうっとりするような冷笑だけ……突然の非礼を詫びるような気配は一切見当たらなかった。


 非常にアシュリーらしい…。


 ………だからこそ感じたこの空虚さ、どう表現すればいい?


 アシュリーは変わっていない。

 それは、イライアスは覚えているままのアシュリーである。


 自分はこのアシュリー以外知らぬはずなのに、

 今のアシュリーを見て、イライアスの胸は確かに痛んだ。


 やはり彼女はすべてを忘れた。

 アシュリーの中にはもう、これまでの時間は存在しない。



 お前は………、エルウィンを忘れたんだな、アシュリー!!



 イライアスは無意識に非難を込めてアシュリーの琥珀の瞳を睨み返していた。

 怒りを別の意味に捕らえたのだろう、冷笑を消して蔑むように瞳を細めたアシュリーは、面倒臭そうにオレンジ色の髪をしなを作って掻き上げると跳ねるように室内に飛び込む。彼女の靴の下でガラスの砕ける音がした。


「ねぇ、あなたまたバカなことしようとしてるってホント?」


 冷たい声で問い掛けたアシュリーはイライアスまで後数歩の位置で立ち止まる。しばらくこちらの反応を窺うように視線を絡ませていたが、突然可視できる程の魔力を全身から迸らせて怒鳴った。


「誰が何をしようと私には関係ない!! けど…、勝手な真似されるのは気に食わないのよ!!」


 怒鳴り声に重なる強烈な衝撃波。

 アシュリーが開放した魔力の余波で石造りの館の天井と外壁は簡単に破壊される。イライアスの私室は一瞬にして外に向けて大きく口を開けた状態に変わった。防御していなければイライアス達も一緒に吹き飛ばされていたことだろう。

 その威力はかつてイライアスが追われた街を一晩で破壊し尽くした頃と比べても遜色なく、アシュリーが充分な魔力を蓄えていることを知らせた。


 アシュリーは本気だ。

 本気で争い、勝つことで止めようとしている。


 ……思い出した。

 言葉での説得など、魔族には存在しなかった。

 強い者に、勝者に従うのが魔族の絶対の掟。


 本気で戦う以外にアシュリーを退ける方法はない。

 ……最初から戦うつもりだったのだ、今更何を後込みする必要がある? もうなんの未練も遠慮もない。



 このアシュリーとならオレは戦える!!



 跪いていたイライアスはアシュリーを敵と見なして睨み付け、ゆっくり立ち上がると強く拳を握った。押さえ付けていた力の枷を外し、魔力を全身に行き渡らせる。青い炎がイライアスを取り巻き始めた。

 やっと戦う意思を見せたイライアスを見て嬉しそうに唇を歪めたアシュリーは、優雅な動作で纏っていたマントの結び目を音を立てて解く。

 支えを失った布が床に広がっ……………………た時にはもう、彼女の姿はその場になかった。


 数百年ぶりの同族との戦闘。時間が勘を鈍らせていたなどという言い訳は通用しないだろうが、事実、イライアスは一瞬アシュリーの姿を見失ってしまった。

 たかが一瞬、されど一瞬。

 次姿を捕らえられた時、アシュリーは既にイライアスの懐に入り込んでいて、真っ直ぐ喉元を狙う剣が目前に突き出されていた。見開いた青灰色の瞳に紫の火花を纏った刀身が迫ってくる。

 今更避けるのは不可能だ。

 何処か冷静に判断した瞬間、ガキンと強く鉄のぶつかる音がして視界を銀色の色彩が掠める。


「……っ、ウェンディ!?」


 アシュリーの一撃をすんでの所で受け止めたのは、すっかり存在を忘れていたウェンディだった。

 イライアスとアシュリーの間に割り込んだウェンディは、イライアスを背後に庇ったままアシュリーと際どい鍔迫り合いを続けながら叫ぶ。


「イライアスさまっ…逃げて! ここは私が…」

「人間の癖にっ、私の邪魔しないで!」


 がなったアシュリーが二撃目に移る隙を突いて、ウェンディが得意の回し蹴りを繰り出したがそれは軽く躱される。後ろへ飛び退いて距離を置いたアシュリーは、すかさずウェンディに向けて左手を突き出した。

 息を吐く間もなく放たれた衝撃波がウェンディにぶつかる。直撃を受けてくの字に身体を曲げた彼女は、真後ろの壁にしたたか打ち付けられて血を吐いた。そのまま壁に沿って床に落ち倒れて、ピクリともしなくなる。


「……ウェンディ!!」


 一瞬後に悲鳴を上げたイライアスはすべてを忘れてウェンディに駆け寄った。ぐったりとうなだれている身体を抱き起こし、揺さぶる。

 敵に無防備な背を見せる、その危険すらもう意識の外。ウェンディの安否がすべてに優先された。


「ウェンディっ」


 力の入っていない身体はずっしりと腕に重く、必死に抱えて頬を打った。しかし微かに開いた唇から血が溢れるばかりで、意識は戻らない。

 知らず、涙が溢れていた。


「ウェンディ! ウェンディ!!」


 呼び掛け、揺さぶって、願う。

 死なないでくれ!!

 願いのまま強く頬を張った。何度か後、ゲホッと噎せるような咳で血を吐いたウェンディは浅いながら呼吸を始め、やがてうっすらと目を開けた。


「……ウェンディっ」

「いた、い…、い…いあす…ま」


 真っ先に訴えられた痛みが怪我ではなく叩かれた頬を指しているのだと気付くのに酷く時間が掛かった。慌てて、今叩いた場所を手のひらで包んで謝る。


「ごめん」

「あ…つは……?」


 ウェンディの視線が空を彷徨い何かを探す。

 彼女が求めるものを考え、ハッとイライアスは我に返った。

 自分達が今、どれ程危険な場所にいるかやっと思い出す。

 待っていたように背後で衣擦れの音がして、イライアスはそっと後ろを窺った。

 泣いて赤くなった目に彫像のように佇む魔族が写る。剣を握ったまま腕組みをしてこちらを見る女は、不満そうに眉間に皺を寄せていた。そしてそれはイライアスがしっかり振り返った瞬間、更に深く眉間に刻まれる。

 不満に充ち満ちた声が告げた。


「……ねぇイライアス、あなたの目的は人間を滅ぼすことでしょ? なのになんでその子を助けるの? ……なんでその子のために泣くの?」

「…………判らない」


 本当に、判らないのだ。

 頭では人間の滅亡とウェンディの死はイコールだと理解している。

 なのに、……今死なないでほしい。まだ死なないでほしい。


 利己的な想いは勝手な願いばかり生み出す。

 再び意識を失いかけているウェンディの手を握っているとまた涙が溢れた。

 死なないで………無意識に、必死に、願う。

 しかし、彼女に生きてほしいと今望みながら、人間の滅亡を心底願っているのも事実。

 狭間で揺れて啜り泣くイライアスは、ここが何処かも忘れて敵に無防備な背中を曝し続けた。だが、無慈悲な一撃がその背に加えられることはなく……。


「馬鹿じゃないの…」


 やがて落とされた呟きに混じった呆れはどんな意味を含んでいたのだろう?


 涙でグシャグシャになった顔をアシュリーに向ける。しかし滲んだ視界と朧な星明かりでは彼女の表情をはっきりと捕らえることは出来ず、何かを聞き返す前に近付いてきたざわめきが二人の空間を掻き乱した。

 これだけ派手にやらかしたのだ、衛兵が駆け付けてこないはずがない。寧ろ遅すぎるくらいだった。こちらへ向かってくる人の気配で、また二人の間に緊張が戻る。


 しかし、もう一度予想外の出来事が二人を襲った。

 突然足下からズズーンと重い震動が響く。驚いてキョロキョロ周囲を見渡していると、外から巨大な影が飛び上がってきた。

 現れたのは大人の身の丈程もある白狼。彼は、遥か昔からアシュリーのそばにいる忠実な僕で、イライアスも良く知っていた。

 ベガがいるということは当然……案の定更に聞き覚えのある声が聞こえた。


「アシュリーもういいっ、今夜は帰ろう!」


 現れたベガの背に跨がっていたのはロードだった。

 間違いなく今の地響きは彼らが何かした所為だ、一体何を……推理していたイライアスの目に、ロードが大事そうに抱えている人が写る。

 しっかり抱えられているのは、地下牢にいたエルウィン。

 ロードに凭れ掛かってぐったりしている彼は意識を失っているのかもしれない。

 エルウィンを抱えたまま、ロードはもう一度アシュリーに呼び掛けた。


「戻ろう」


 言われて、チッとこれみよがしに舌打ちしたアシュリーは、しかし、渋々といった具合でも剣を鞘に戻した。そしてイライアス達を横目に眺めながら、最初に落としたマントを拾いに行く。

 今夜はここで引く気らしい彼らの行動はイライアスにとんでもない発想を促した。


 まさか、彼らはエルウィンを助けにきたのか?

 ……否、ありえない。絶対に、ありえない。アシュリーはそんな女じゃない!!


 否定的に考えながらもこの状況はそうとるしかなかった。


 今夜の目的はイライアスの生命ではなくエルウィンの無事?

 なんのために?


 何故、人間一人に彼らがこだわる?

 エルウィンはお前達とはもう無関係だろう?


 信じられなくて叫んでいた。


「待て、アシュリー!」


 マントを肩にかけた彼女がこちらを向く。しかし、やはり星明かりでは表情の細部を読み取ることは出来ず……言葉を探す間にロードが急かした。


「アシュリー、早く!!」


 ベガにも袖を引っ張られて、不服そうにしたもののアシュリーはマントを丁寧に身に付けた後は、振り返りもせずに虚空に飛び出していく。

 後を追って闇に帰るベガ達を見ていたイライアスは危機の去った安堵感に浸ることもせずに、芽生えた疑問をただ繰り返した。





 ………アシュリーは本当にすべてを忘れたのだろうか?










読んで頂きありがとうございました。

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