第八十一話 星城騎士団 前編
「あー…」
ブラッド・リ・ディアベルは、虚ろな表情で平野を歩いていた。
現在位置は、王都ラディア、の少し北、ファフという街へ行く途中であった。
というのも、ファフの北には、──かなりの田舎なのだが──学校、大学がある。そこに行くことによって、ブラッドは教養を高めようとしていた。
否、そんな崇高な目的の為ではない。しかし、母親殺しの復讐のためでもないのであった。実の所ブラッドは、復讐をやめたのだ。
彼が学校へ行く理由は、アルペとの共同研究チーム、『博識』、に会いにいくに他ならない。
魔法共同研究チーム、通称『博識』は、王都ラディアの北国、ノーストラダムスにある。
そして同時にそこにブラッドが通うはずであった学校、ケルプ大学がある。
ブラッドはその道ながらである、ファフ街に向かっていた。
「……ん?」
ブラッドは目前に何か奇怪なものを捉えた。否、人である。
「ありゃ……」
ブラッドは目を点にさせた。
「おいおい、眉唾もんだと思ってたんだがな…」
ブラッドの前にいたのは、星の形を胸に司った、ごつい、という言葉が似合う筋骨隆々とした鎧に身をまとう、女性の騎士だった。
いや、騎士なのか。
──聞いたことがあった。世界のどこにもいて、どこにもいない、幻の騎士団。その名も、『星城騎士団』。団員は全員女性で構成されている、という噂もあったが。
「……まじか…」
そして、目の前では、その星城騎士団の女性が、一人の少女を追いかけている姿が映った。
「……なんなんだか」
だが、ブラッドはその状況だけでは何が起こっているかは判断出来なかったため、少し偵察する。
「このっ!」
「ん?」
大上段に構えた星城騎士団の大剣、それを少女にふるおうとした。
しかし、特に何事も無く、その剣は止められた。
「こらこら、いかんぞ星城騎士団のもの。か弱き者を一方的に嬲るなど、言語道断も甚だしいぞ」
ブラッドの速度を越して、その女は、星城騎士団の剣を止めたのだ。長い白髪をもった少女……。何者かはブラッドにも分からない。しかし、一つ分かることがあるとすれば、この世で繰り広げられている生殺与奪の内の、一つの殺生を、この女が止めたということであった。
「……何がなんやら」
ブラッドはそう呟いた。
◇
────「待て!!」
剣呑な雰囲気とでも言おうか。そんな雰囲気が場を包んでいた。
(……星城騎士団の前に姿を現したのは間違いだったか…)
あの後、少ししてブラッドは、星城騎士団、騎士団員の前に姿を現したのだった。
「…貴様、何者だ」
「…まぁ、しがない旅人だ」
「……そうか。名乗れ」
女は高圧的な態度で、見下すようにブラッドへそういった。
「……はぁ。俺はブラッドと言う」
ブラッドはキョトンとした顔で答えた。別に女の態度はどうでもよかったのだが、名前を聞く理由がよく分からなかった。
「……ん?ブラッド…ブラッドか…どこかで聞いた名だな」
「……そうか?まぁよくある名前だろ…あー、それよりもう追いかけなくていいのか?」
ブラッドは、少女を攫った相手が逃げたことを星城騎士団、騎士団員に告げた。告げたと言うよりも、確認した。
「……あぁ、もう追いつけんだろ」
女はそう言って、ふいと顔をふった。
「そういえば…名乗ってなかったな……私は星城騎士団、騎士団員、千頭琉華だ」
「リューカ…か」
名乗り終えたことで、もう告げることもないとでも言わんばかりに、琉華は歩き出した。
「…さて、私は行くかな」
そこにブラッドは疑問をぶつけた。
「……なぁ、さっきはなんであんな小さい女の子を追っかけてたんだ?殺すつもりだったのか…?」
「殺すつもり、というのは少し違うな。正確には確保だ。無論、抵抗された場合はやむを得ず、大義名分、正当防衛の下、殺されても可笑しくは無かったがな」
「そうか」
ブラッドはそれを聞いて、おそらくは星城騎士団とあの少女とに何かしらの因果があるか、或いは個人的なものなのかは分からんが、少なくとも何かしらの事態が起こっていることは分かった。
「しかし初めて見たな……星城騎士団…末端の騎士団員とはいえ…」
「……末端の騎士団員……?ふざけたことを。私は星城騎士団、騎士──」
そこで琉華は目を点にした。
「……な、いない……」
ブラッドはもう姿を消していた。
◇
「さてと」
宿に着いたブラッドは握りしめた金貨を爪弾く。
「純金製の硬貨…魔法で作れちまうんだからなんとも皮肉なものだ」
当然、何種もの鑑定妨害魔法をかけなければ意味はないのだが。
「いやいや。偽造なんていかんよな。真っ当に生きなければ」
第一、そのレベルで硬貨偽造できる魔術師は、そこまで金に困ってはいない。無論ブラッドも例外ではなく、アルペから支給されていた金貨計20枚、これがあれば二、三年は食いっぱぐれることも無いのは自明であった。
「精霊召喚」
精霊、ツァリを呼び出す。
「呼ばれてとび出て、じゃじゃ──」
「こら」
ブラッドは手刀を、その小さな頭に軽く当てる。
「いて」
「ツァリ、お前を呼び出したのは他でもない。あの女、星城騎士団団員が一人、リューカの調査を頼む」
「……はぁ、なんであんなちょっと癖がありそうな女を……」
「まぁまぁ。しかし、星城騎士団なんてなかなかお目にかかれない……何か裏があったら面白そうだしな」
ブラッドはにぃ、と口角をあげた。
「うわぁ……ブラッド様……悪役みたい」
「……」
「む、無言の圧……」
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