第八十二話 星城騎士団 後編
ツァリはその日も、朝からリューカの元へ行っていた。
ツァリは精霊の特性上、なんと、『生物としての特性』として、透明化と認識阻害の能力を持っている。これは、精霊という比較的小さく、弱い種族性から来ているものである。
リューカを見つけるのはそう難しくは無かった。というのも、彼女もまた、この街ファフに来ていたからに他ならない。
「さてと……」
琉華は質素な宿に泊まっていた。基本的に彼女は星城騎士団の鎧、正式名称、星城鎧をつけている時間は少ない方である。
普段はセーターのような服を着て過ごしている。だが、たまに星城鎧をつけてどこかへ行くのだ。
しかし、星城鎧に何かしらの阻害効果があるのか、星城鎧をつけた彼女が何処に行くのかをツァリは認識することが出来ないでいた。
「……く、このままでは私は役立たずのまま、とほほ…」
街中をふよふよと飛び回っている時だった。
「あ!」
ツァリは近くの少女に指さされて、少し驚いた後、それが後ろの店の事だと知った。後ろにはケバブ屋が展開されていた。その事だろう。
「……ふぅ、気づかれたかと思った……まぁ普通の人間じゃ私を認識するのは無理だよね…」
「精霊か!」
「……」
「……」
少し顔を見合わせたあと、
「んぎょァァァぁあぁあ!!!」
ツァリは逃げ出した。しかし、それも虚しく、ツァリはその少女に捕まった。
「こらこら、余り逃げるでない」
ツァリはぷるぷると震えながら、恐る恐るその少女の顔を見る。
「……大人?」
体躯は小さいが、その顔つきは妙に大人びていた。長い白髪に、赤っぽい瞳。
「そうとも。小さいからよくバカにされてしまいがちだが、こう見えても私は成人している」
とは言え国によって成人年齢は変わってくるので年齢は一概には言えない。
「私は天才でな、君のような精霊も見つけることが出来るんだ」
「て、天才…」
自称するような相手に、ツァリは初遭遇であった。
「そうだ。私は精霊を持っていなくてな。私のパートナーにならんかね?」
「いや、私もう契約してるから……」
「なんと…!それは失礼を──」
そこで、女は言葉を切った。
「……何の用だ」
女は後ろを振り向いて言う。
「ようやく見つけたぞ。お前が、特定指定危険人物、『悪逆の魔法使い』だな」
◇
「くしゅん!あっふぁっ!っ……はぁー。なんだ?」
ブラッドはくしゃみを一つ。白昼の中、現在ブラッドは街ファフで食材を集めていた。
「なぁ、店長さん。ここいらでオススメの料理とか、食材はないか?」
「そうさねぇ……」
ブラッドは現在、ファフの食料品店に来ていた。
「ここらは海が近いからね。魚なんかは新鮮な状態で回ってくることも多いさね」
「なるほどなー」
「あー、あとはあれさね。この近くの料理店、『絢爛な雫』の丼が美味しいって、倅が言ってたさね」
「なるほど、いいことを聞いた」
ブラッドは銅貨を店頭の女性へ渡した。
「な、ただ話しただけで、こんな」
「まぁまぁ、それでちっとは腹の足しにしてくれ」
ブラッドはそう格好つけて、歩き出す。
そして、その先で面白いものを発見した。
「あれは……」
フードで顔を隠してはいるが、間違いなく、それはブラッドが、平野で見つけたあの子だった。
「よっ」
ブラッドが軽く声をかける。
「ひっ!ひゃっ、、ひゃっぁあぁぁあ!」
「え、ちょ、なんで……」
少女は叫びながら逃げていった。
「い、いや違うから、俺はそういうのじゃないんだ!みんな!」
周りの忌避する目をブラッドは受け入れがたかった。
◇
「なるほどな、それでなんとか、命からがら俺の元まで来たと……」
「はい……なんでもあの女、『悪逆の魔法使い』などと言われているようで……」
「なるほどな、でその二人は結局どうなったんだ?」
「いやぁ、どこぞに行ってしまって…戦っているんじゃないですかね」
「へー、にしても悪逆の魔法使い…か。なんか格好いいな」
「いや、それがですね、悪逆の魔法使いについて調べてみたんですが!」
「うん」
「ほとんどの情報なし!ただ一つ!」
「ほぅ」
「殆ど単独で、傭兵団を壊滅させかけたということです!」
「へぇ〜…それは普通にすげぇな」
「……」
「…?なんだツァリ…なんか言いたげな顔して」
「いや、ブラッド様って意外と頭悪いんですね」
「おま……晩飯抜きがいいか?」
「いやーん!」
◇
「……んぉ」
ブラッドは己へ掛けている幾つもの警戒魔法のうちの一つが反応したことに気がついた。
それは日も暮れて、深夜の深夜。真夜中のことである。
「……誰か、いるのか…?」
「──」
「ん?」
「ぁぁあああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」
「おぅ、また会ったな」
ブラッドの泊まる宿の、それもブラッドの部屋にいたのは、昼間に会っていた少女だった。
少女はナイフを持ったまま、停止していた。
恐らくはブラッドに刺そうとしたようだったが。
「殺意より恐怖の方が上って……一体何がなにやら。まぁ、もう一旦休め。眠れる森の子守唄」
ブラッドが手をかざすと、少女は気を失ったのか、どさりと倒れた。
ブラッドが少女を止めるため使用したのは、無詠唱最短魔法の一つ、固定である。
「……この子をどうしたものか」
ブラッドは目の前の少女をどうしようか、と少し悩んだ後、一旦ベッドで寝かせることにした。
そうしてその少女を持ち上げた時だった。
「──」
(──軽い!いやそれ以上にこの子は──)
こうして星城騎士団との拗れた話が展開していくことになった。




