第八十話 悪逆の魔法使い
「……ヴァイス様」
「……どうかしたか」
「……先日、とある報告がされました。遠い南国、フィリアにてSランク傭兵団とある冒険者チームが争ったそうですが」
「……」
「なんとほとんど単騎でその傭兵団を壊滅させた魔法使いがいるとか」
「……魔法使い、か」
「……はい。通称は、傭兵団をかいめつさせたことから、悪逆非道の魔法使い、『悪逆の魔法使い』の異名を冠しております」
「……名前はなんという」
「推定ですが、名を、ブラッドと……」
天上人ヴァイスはそれを聞いて、ガっと立ち上がった。その金色の鎧から殺気が漏れる。
「今、なんと…?」
「はい、ブラッド……と」
「……く」
「……?」
「くくく、くは、はははは!」
「……ヴァ、ヴァイス様…?」
「面白い、本当に面白いぞ。くく、あはははは」
ヴァイスの甲高い声が、王室に響いた。
◇
中央大陸の少し上の方、ドルリン地方一体を制した冒険者チームがいた。
その冒険者ランクはS。過去最高峰とまで言われている今最も勢いのある冒険者チーム、『宵闇の覇者』、そこにある噂が流れてきた。
「ふむ、すごいヤツがいるもんだな」
「……どうしました?」
「なんでもSランク傭兵団を単騎で壊滅させた魔法使いがいるらしいぞ」
「へぇ〜」
「名前を、『悪逆の魔法使い』…というそうだ」
「……あんた達、そんな下らない話してないで、今日も行くわよ」
「あっ、待ってくださいよ〜」
「すまぬ、ちと待たれい」
◇
「おい、グランデル……面白い話が来たぞ」
「……なんだ、デオ」
「……くくく、『悪逆の魔法使い』か、面白そうなやつが来た……それに、是非やり合ってみたい」
「は、馬鹿が。お前とやり合ったら、命なんてもたねぇだろ」
「それもそうか」
「……──無敗の勇者、ディア=グランデル」
勇者は背中の大剣を取り出すと、それを軽く振るう。
「お前を倒せるやつなんかいねぇよ」
目の前で、最上位の魔物が一太刀で死んだ。
◇
その少女は、森を駆けていた。ねずみ色のフードを深く被り、ショートソードを腰に携えている。
「きゃっ」
森のツルに足をからめとられ、転んでしまった。
「こ、来ないで!」
少女は剣を持ち、応戦の体勢に入る。
「……ダメだ。お前は、我々星城騎士団が、捕縛する────魔物は、悪だ!!」
「だから、魔物じゃなくて!魔族だって〜!!」
◇
遥か東に、機械国という国があった。
四大国と言われるその国があった。王国、帝国、獣国、魔国の四大国で、機械国はそこに入っていない。人間至上主義を謳うそこは、外部との接触の一切を絶っている。
それだけでなく、どの大国も決して機械国に手を出すことはない。
それは彼らが暗に了解していること。機械国は、手を出しては行けない。
機械国に魔法の概念はない。
そんな機械国は、一人の首相を代表とする議院内閣制をとっており、首相の周りを護衛する、天皇慈四十八機関というものが存在するらしい。
天皇慈四十八機関には手を出すな。これは暗黙の了解である。
◇
魔国には、獄門と呼ばれるものがあった。実は獄門自体は魔国ができる前、いや本当の事を言えば、この世が産まれる前……正確には、私が産まれる前に出来たものだった。
獄門には、この世の秩序を乱すと言われている存在が眠っている。一匹でも逃走しようものなら、数日から数時間でこの世は滅んでしまうだろう。
獄門へと、それら超越した存在を閉じ込めているのは魔国ではない。実はこれには機械国が関与しており、天皇慈四十八機関が捕縛、研究、投獄をしているということがわかっている。
何故魔国かと言えば、立地的に最も安定するとのことであった。
その魔国を統治するのは、魔王神殺し。
身体中をコールタールのような漆黒に包み、触手のようなものが生えている。
だが、理性があり、理知的だ。
そんな、彼(彼女?)は、定期的に海に行く。
「海は癒されるな…ふふ」
ごぽごぽ、とこもったような声で魔王は呟いた。
◇
遥か北の国、龍の神殿の前で、彼女達は立ちすくんでいた。
「ここが、龍の神殿なのね…」
「ここまで、長かったな」
「さぁて、行きますか!!」
◇
──王国、とある研究室。
「ブラッド、こら!!」
「ぐはっ、なんだよ…」
「よく素材を集めてきたわね…よくやったわ、……それに…」
「…ん?」
「女神とも連絡が取れたようね…」
「あぁ、まぁな」
「で、もう復讐はやめるの…?」
「あぁ、一旦…な」
「……そう」
アルペはそう言って静かに頷いた。
「で、アンタ次はどこに行くの…?」
「どこって……そうだな」
「…ん?」
「母親が、学校に金払ってあるって」
「なるほど…ケルプ大学ね……ま、いいんじゃない。私も共同研究してるチームあるしね」
「……だから、学校にいこうと考えている」
「…そ、まぁ、せいぜい頑張りなさい」
「あぁ」
悪逆の魔法使い、南国編──[完]
次回──星城騎士団編。




