第七十八話 女神
「…さて、お別れは済んだかしら」
消えてゆく幻影の中、はっきりとした存在が浮かんできた。白き世界の中に、それはぽつんと立っていた。
「あぁ、もうそんなわだかまりはなくなったかな…」
「そう、それは良かったわね」
彼女は女神、治神。
「……まぁ、釈明する訳でもないけどね、私、貴方の母親を手にかけた記憶が全くないの」
「……ん、どういう事だ…?」
「私は別に貴方の母親を狙おうと思っていなかったってこと。まぁ、行動してしまった以上関係ないか…でも貴方に喰われて分かったこともある…とりあえず、今この中なら大丈夫なはずだわ」
「ちょっと待て、何の話だ」
「おそらく、私を監視して操作していた存在がいる」
「……!」
「それだけじゃない…多分私以外の世界の偉人や強者も、何者かに操られている…」
「……何者か…って誰だよ」
「分からない。でも相当上位の存在なのは間違いないわね…」
真剣に悩んでそうな女神の肢体を見る。身体自体は相当良い身体をしているな…本当…。横乳がすげぇな。
「実は言いそびれていたけど、貴方と思考や感情をリンクさせることも可能よ……なので、その気持ち悪いことをやめてくれるかしら」
「…す、すまん。それで…」
気になっていたことを聞いてみる。
「ここなら、無事というのは」
「……ここは、どこなのかしらね。貴方の精神世界とでも言いましょうかね…少なくともここは外とは独立していて、防衛力が他とは段違いだわ」
「……そうか」
ならいいんだが。
「……というか、貴方、現状を理解してるのかしら…」
「…現状って…何が?」
「貴方、SSSに惨敗したじゃない」
「あー……」
「ちなみに、貴方の掛けてた自己蘇生程度じゃもう復活できないレベルよ」
「……え!」
「ええ。このままだと、死ぬわね…てか死んでるけど」
「死ぬとどうなる」
「まぁ、私が真の意味で死ぬことはないけど、貴方は魂が成仏するか、残るかの二択ね」
「…な」
パン、と女神が手を叩いた。
「…で!そうなると私にとっても少し都合が悪い…色々と調べたいこともあるしね…だから」
女神は少し勿体ぶった。
「なんだよ」
「今回は特別サービスよ…少しだけ、力を貸してあげるわ」
「…、!まじか…」
「神の、力をね」
本物の神、それそのものから力を授かる時が来たか。いや、時が来たって別に待っていたわけじゃないんだが…
「時間が無いわ。私の手に触れなさい」
「…」
女神の手を取る。
「別に握らんでもいい」
「……いや、こっちの方が効率いいかなー、とか」
「全く気持ちが悪い…まぁ、いい。行くわよ」
────!!?
「うぉっ」
ぐぉっ、と背中の後ろから何かに押される感触と、風が横顔を切っていく。
押されている!何か凄い力に!
「ぉ、ぉおぉ、おぉおお!」
「行ってらっしゃい、ブラッド」
女神のなんとも言えない顔が横に映ったが、すぐに見えなくなる。
俺は、ぐんぐんと上へ行く。
「ぉおおおお!」
そして、水面のような所から出るような感覚を得た。
◇◇◇視点変更
「……」
SSSはブラッドの死体に目もくれず、ザールの元へと向かう。
「お前は流石に…」
そこでSSSは気づく。
後ろに物凄い気配がすることに。
「ほぉ、あの境地から脱したか…」
「あぁ」
「だが、俺には勝てねぇぞ」
瞬神、瞬く間にブラッドの前にそれは現れた。懐に既に入っており、爆発するように、右脚がブラッドの胸に炸裂する。
──確実に入ったな。
「……!?」
「…確かにこれはすごいな、神の力…か」
ブラッドは腹に弾かれる右脚を見る。その脚は、既にバキバキに折れていた。
「…有り得ん…俺の火力が…くそっ!」
「…封鎖」
ブラッドは他からの監視や侵入を防ぐために、防御魔法をかける。
「なんだろうな。身体が軽い…軽すぎる…魂でも抜けたか…?これが、神の力か」
「…ぬうんっ」
SSS渾身の一撃をブラッドは躱す。
──SSSに少しづつではあるが、ある感情が押し寄せつつあった。
「奥義・神龍舞踊!!」
SSSの奥義、神龍が如き力の乱舞を、ブラッドへ殴りつける。
「はぁ…っ、はぁっ」
「…流石に効くな…」
ブラッドの体は流石にダメージをおっていた。とはいえ身体から少し血を流す程度である。
「──はっ…?」
「もう終わりにしよう…もう、疲れた」
ブラッドの身体は自然と修復されていく。治神の力を借りている影響か。
「神撃」
「ふんっ!その程度の技…」
先刻は防がれた神撃。それを防ごうと両腕を構える。
しかし、ようやくSSSはそこで気がつく。
──これは囮かっ!本命じゃない!不味い対応が遅れ──
ブラッドが、背後からSSSの胸を突き刺した。その影が、地面に映る。
「治癒不可」
「なっ、てめぇえええ」
「…」
そこで、ブラッドは考えた。本当にここで、殺して良いのだろうか。そんな逡巡を、ブラッドはしてしまった。
ダンっ、と両肘でブラッドをうちつけた反動でSSSはブラッドから抜ける。
「かはっ、ふ、ぅ…なんで、殺さねぇんだ…」
「…今更だが…な。もう復讐はやめだ、やめ…」
「…はっ」
「解除」
空間の封鎖が解除される。ブラッドは少し歩いて、ある男の前へと座った。
「蘇生」
それは、ザールと呼ばれる男だった。
「……ん、私は何を」
「起きたか…」
「ブラッドさんですか…はは、闘気に満ちていますね…見違えるほど強い…それで、私を何故…ごフッ、生き返らせたのですか」
「転移させた傭兵達と、三人組に会わせてくれ」
「なるほど、そういう事ですか…それなら構いませんが…貴方、まだ狙われている立場ですよ…」
「まぁ大丈夫だ、ほら…」
ブラッドは後ろを指で指す。
「あそこにSSSが…」
「……?」
いなかった。そこに彼の姿形はなかった。
「嘘だろ…あの重症で動けんのかよ…」
「ふふ、なるほど、我々の依頼主である彼を打ち倒したので、もう戦う必要はない、とそういう事ですね」
「まぁ、な」
「ならば良いでしょう。集団転移」
そして、ブラッド達はこの戦い最後の場所へ行くのであった。




