第七十六話 対傭兵十五
そこに現れたのは、現状太刀打ちする手段の持たないブラッドの目の前に現れたのは、一人の、獅子のような男だった。
「……」
虚ろな目をしたブラッドに、覗き込むように見てきたのはSSSだった。
獅子のごとき瞳は黒色に映る。
黒白の髪は動物を彷彿とさせる。
「……しかし、残念だな。アラエルの息子だと思って期待していたが、よもやここまで弱いとはな。俺の予想では、お前はアラエルよりは弱いとは言えど、ザールやザック程度、他の傭兵には苦戦して欲しくなかったんだが……それも、仲間を引き連れてとは、恐れ入るよ。お前が想像以上に弱かったおかげで俺はまぁ楽っちゃ楽なんだが……もう少し張合いのある戦いがしたかったなあ……」
「……かふっ」
ブラッドの胃から血が込み上げてくる。
吐瀉物ではなく、もっと熱くどろりとしたものが口から、つー、と垂れた。
「喋る気力すら失ったか。まあいい。ゆっくりとではあるが、お前をいたぶってやろう。何故だろうな、即死させる気分ではないのだ…」
スパッ、と。
ブラッドの左右の手が落ちた。
「っ──!」
「おらっ」
ブラッドの片目が潰された。
「っぁぁあああぁあぁ!」
久しぶりだった。
痛みにより絶叫、悶絶するのは久しく経験していなかった。
それは、喪失感から来るものなのか。あるいはただの痛みから来るものなのか。
それとも死が目前に迫っているからか。
分からない。分からないが、しかし、それでもブラッドは叫んだ。
「まぁ、もういいか」
どかっ、とSSSはブラッドを蹴った。
遥か彼方まで飛ばされるブラッドは、迷宮第五十一層、その果まで来ていた。
迷宮の果てはしっかりと壁になっており、材質は不明だが破壊することは極めて困難である。
壁にもたれかかるブラッドは、身体中が血まみれで、とても直視できる姿ではなかった。
「ほーら、よっ、と」
そこまで一瞬で駆けつけたSSSは本気で拳を振り抜き、ブラッドの頭部を破壊した。
歪む顔、直視できないほど凹んだ顔面は、辛うじて頭部としての役割を果たしているように見えなくもない。
しかし紙のようになった彼の顔は、今や──……
さらに追撃するようにSSSはブラッドの胸を手刀で貫いた。
「残念だな」
心臓を貫かれたブラッドは力なく倒れ──
──無かった。
「ざけん、……な」
「……!?」
ブラッドは最期の力を振り絞る。
アルペの残してくれた攻撃魔法紙。
その魔法の名は。
「神撃」
神にすらダメージを与える攻撃が、魔力の渦となって閃光を撒き散らした。
翻弄する魔力の渦が一つに納まった時、相手は灰燼と化す。
はずだった。
煙幕の中から立ち上がる人影をて、ブラッド、戦慄す。
「嘘だろ……」
(まるで、きいてない。効いてないと言うか、もうこれは──)
「んっ!!」
ブラッドは無様だと分かっていながら、走り出した。逃げるように。もうろくに動かすことの出来ない身体をどうにか動かして走り出した。
「俺の……俺の手で負えるレベルの相手じゃない…!」
仮に、全快時のブラッドだったとしても、勝率は一割を切るだろう、そう確信できてしまうほどの相手…
「はぁっ!はぁっ!」
怖い、怖い。
怖い怖い怖い怖い……!
彼を襲うのは恐怖。戦慄。
「ほいっ」
「──」
ブラッドの両脚が弾け飛んだ。
「あ、」
「…」
どん、と喉を突かれる。
「ご、ぇぇええ”ええ!」
「喉を破壊した。もう叫ぶことさえままならないだろうな」
「…かふっ、かひゅっ、こぉっ、かっ」
びくびくと痙攣するだけに成り下がったそれを見て、世界最強の傭兵は、ガッカリと言ったように、見下した。
「……まぁ、こんなものか…所詮…」
俺に敗北をもたらしてくれないか。
「散れ」
SSSの全力の手刀が炸裂し、ブラッドの上半身が爆散した。
◇
◇◇◇視点変更
……ド、ブラッド!
「…ん?」
目を開けるとそこには子供がいた。
「……あ?さっきまで俺はSSSと戦っていたはずだが……ここは…」
そこで自分の身体が無い事に気がつく。
「なんだこりゃ…あれか、走馬灯か…」
死ぬ今際に過去を見るってやつか。本当なんだな。
目の前のクソみたいなガキは間違いなく俺だった。歳は四歳くらいか。本当に嫌いなガキだ。
「俺はお前が嫌いだ」
だがその黒髪の幼子は俺の事を無視してどこかへ行く。
「……聞こえてないのか」
それもそうか。俺の過去を見ているだけなのだから。あぁ、こんなもの見たくもないな。
「……クソが…」
目の前には、消えたはずの存在が、堂々と、いや華奢に立っていた。
「なんで、アンタがいんだよ…」
「…ふふ、なんででしょう」
そこには消したハズの女神、治神が居た。
「お前は俺が喰ったはずだが…」
「…はっ、だからだろうね!」
「何がだ…」
「お前は何も分かっちゃいない……お前はまだまだまだまだ、未熟もいい所なのさ…」
「……?マジで何の話だ?」
「まぁ。いいか」
ヒーラからは敵意や殺意、憎しみを込めた目で睨みつけられた。
「……」
「……」
そう意味深なことを言うと女神、治神は何処かへ消えていった。
「なんでアイツが…ぁ」
そこで俺は更に自分を驚かせる存在に邂逅した。
「嘘だろ…」
そこには堂々と立つ俺もよく知る女がいた。
いや、俺はよく知らねぇか。
「最強の騎士……アラエル…!」
俺の母親の若き頃の虚像がそこにはいた。
久しぶりの投稿。一ヶ月は続けるぞ!




