第七十四話 対傭兵 十三
「ブラッドぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「……」
ラリシアは血相を変えてブラッドへかかってきた。
それに続くように傭兵団がせまってくる。
彼らは皆戦いのエリート。
エリート中のエリートのはずだが。
「霧」
周囲に、ブラッドを中心として円状に霧が広がる。
「魔法無効化ー?頼むぞー」
「いや、やってる!」
「ん?じゃあなんでレジスト出来ねぇんだ?」
「これ、は……!奴の魔法が強すぎる!」
魔法の差。
込められた魔力量や精度、練度、そして対策。
「なるほど、無効化対策もしてるって訳ねー」
「どーすんのさ」
「ならこの霧の中かかるしか──」
そこで一人の声が途切れた。
「おい……おい!?」
「まじかよ?」
「ぐわぁっ!ぁあぁっ!」
あらゆる方向から聞こえる悲鳴。
「上だ!」
「でも……」
上方までも、際限ない霧で覆われているかのようだった。
「とにかく飛ぶぞ!」
飛んだら、どうなるだろうか。
空中では、よほどな能力がない限り、身動きはほとんど取れない。動きがとれない。これは戦闘においては常識である。
「地面は?」
「やるしかねぇ」
地面に向かって、何人かが攻撃魔法を放つ。
「隕石!」
「爆裂」
「炎」
「核撃」
様々な魔法が炸裂し、地面に穴が出来た。
そこへ傭兵達が流れ込むように入ってくる。
「……これで暫くは……」
「来たぞぉ!!!」
矢継ぎ早に、声がする。
ブラッドが降りてきた。
「やはり、上か!なればこそ不可避!雷撃!」
「炎!」
「真空波」
また、様々な魔法が炸裂する。
「魔法破滅」
「おらよっ!と」
ブラッドが魔法を打ち消すと同時に、背後から一本の剣がブラッドの身体を貫く。
どす、とも形容のつかない音がし……
「あ?」
それは、消えた。
「まさ、か」
「今のは──」
今のは本体ではなく。
その言葉はかき消され、地面からの爆発と共に何人かの傭兵達が吹き飛ぶ。
「有り得ん!全員が一個師団クラスの力を持つ我々が!?単騎程度に負けるというのか!!」
「……すぅぅぅ」
「そうだ、この数ならおせば……」
「……落ち着きなさい!!!!!」
「──」
耳を劈くような大声は、一人の少女から発せられたものだと理解した。
彼女はラリシア。治癒魔法特化型の傭兵で、傭兵団の要とも言える人物。
「今慌ててどうするのです!たった一人、簡単に追い詰められるはずです」
「……せやなぁ……ラリーの言う通りやわ」
「よし、行くぞ!」
──玉砕覚悟での戦闘が始まる。
彼らはプロだ。だから、自爆覚悟の攻撃さえ厭わない。
「──!?」
神速で駆け回るブラッドを取り押さえたのは一人の男だった。
彼に与えられた贈与、つまり固有能力は【韋駄天】。
圧倒的なまでの速さを手に入れた彼はブラッドに追いつき、さらに追い抜いていく。
「な」
と思うと、男はブラッドへと抱きついた。
「今だ、俺もろともやれ!」
「……」
男がブラッドを取り押さえた瞬間、背後からまた別の男が現れた。
彼は固有能力、【貫徹】をもつ。己の意思で貫けると思ったものならなんだろうと貫くことが出来る能力である。
なんの躊躇いもなく、男はブラッドとブラッドを抑える男を貫く。
「──」
ブラッドの目が点になる。
呼吸ができないため、詠唱破棄した治癒魔法をかけようとするが、効かない。
「──!?」
「治癒阻害の術」
「……うんんんん!」
男の貫いた手が、まだ抜けていない。
「──!!」
(不味いな……連携を……舐めていた……こいつら……個人には負けるはずもないのに……!)
空中での攻防は、そのまま終わりを迎え、ブラッドは貫かれたまま地面へと落ちる。
「今だ、封印魔法をかけろ!」
「封印!」
土煙と、霧による白煙が辺りを支配していた。
しかし、次第に薄れていき……
「……成功か」
貫いた手は切断されており、【貫徹】の男と【韋駄天】の男は横たわっている。
しかし、ブラッドの四肢は赤黒い鎖で結ばれていた。
また胸には大きな穴が空いており、塞がりつつはあるものの、流れ出る血の量は膨大で、口から、鼻から、果ては耳からも血が出ていた。
「奴は満身創痍だが気を抜くな」
「当然ですわ」
まだ、ぞろぞろと、現れてきた。ブラッドも何人かは倒したが、それでも軽く見て二十人はいるだろう。
「さようなら」
「去ね」
「ごっ、内爆発ごふっ」
ブラッドは咄嗟に自分の縛られた四肢を爆散させる。
無詠唱再生魔法をかけつつ起き上がろうとするが。
「死ね」
目の前には大剣を持った大男がいた。
ブラッドと言えど、首を落とされれば絶命は免れない。
(あ)
終わった。自分の人生の終焉。それを感じつつ……
「ふぅぅん!」
大剣が振り下ろされた。
「…………」
(……?)
「……んっ、ぐぅぅううう!」
「なんだ、てめぇ……」
大剣を受け止めるのは、ブラッドの創った剣を使う男、ディアであった。
「でぃ……あ?」
「助けに来たぜぃ!っとぉ!?」
大剣を受けきれなくなり、地面へと受け流す。
と、同時に上から二人が降臨する。
「援護します」
「援護するわ」
ラリとヨーネが舞い降りた。
迷宮攻略四人組が、久しく揃った。
◇
「なんだかこの四人組は懐かしいわね」
「……ま、まぁでもブラッドくんがここまで瀕死なところは見た事ないけど……」
「おい、気ぃ抜くなよ。ブラッドがついているとはいえ向かいはプロ…目を見てるだけでブルっちまうぜ」
「こゅーっ、かはっ……ぐ、ふぅ……はぁ、はぁ、ご、かはぁ。ふぅ……」
ブラッドは息を整える。
「ふぅ、大丈夫だ」
「じゃあ、どうする?」
「殲滅する」
一瞬、目を開いて驚き、しかしすぐにディアは覚悟を決めた。
「……はいよ。向こうも殺す気なんだ。まぁ、こっちがやっても文句は言えねーだろ」
◇
激闘。
そう言うに値しよう戦いが繰り広げられた。激戦の跡は地面を抉り、焼きただれた人工街や崩れ去った岩石地帯、剣の後が幾重にも残る森林があった。
しかし、結局勝ったのは彼らであった。
「くっ、はぁっ……はぁ」
ラリの右腕は無い。敵の剣使いに切断され、再生する余力もない。もちろんブラッドにも魔力の余裕は無い。
ディアは両手足が折れていた。恐らく足は粉砕骨折で、このまま治さなければ一生歩けはしないだろう。
最も深刻だったのはヨーネで、上半身と下半身が薄皮一枚で繋がっているような状態だった。
なんとかブラッドが治癒魔法をかけたが、いつまで持つかは分からない。
この世界には、蘇生魔法は存在する。
しかし、一部の超上位魔法使いしか使えないという難点と共に、消費する魔力量、加えて死体の損傷度など様々な条件をくぐり抜けて初めて生き返られせることができる。
三人を布の上に寝かせ、早く迷宮の外へと運ぼうとするブラッド。
最早傭兵団などどうでも良い。
なんとか倒した傭兵団はあちこちへ転がっており、起きる気配は感じられない。
殺した数も多いが、殺さず生かしたものも多い。
別に私怨の無い傭兵団に対しては、ブラッドは特に思うことはなく、殺すという事をする必要性を感じなかったからという理由でもある。
彼なりの優しさなのか──否、臆病さとも言えるものか。
答えは出ない、しかし無益な殺生は好まない。無論、支援の場合は話が別となるが。
「ふぅ」
ブラッドの残魔力も残り少なくなっていた。この人数のエキスパートを相手にし続けていては、流石のブラッドも精神が削れていた。
「早くでなければ」
三人を転移魔法陣へと乗せ……
「……素晴らしい」
コツ、コツ、コツ、コツと靴が近づいてくる音がした。
ブラッドの心臓が警鐘を打つ。
冷や汗が伝った。
「よもや、この人数を相手に凌ぎ切るとは……素晴らしい」
パチッ、と仮面の男が指を鳴らすと、倒れていた傭兵達が皆消えた。
「何をした……」
「移動させただけです。彼らはああ見えて利用価値が高いので……まぁ、蘇生させるかどうかは別ですが……あ、申し遅れました」
男は、恐らく、仮面の下で笑っているのだろう。そんな嘲笑にも近い雰囲気をブラッドは感じ取った。
「私、ザール・ブリッケン。傭兵等級はSS。自称世界二位の傭兵です……貴方を」
剣が、ブラッドの喉元へと迫ってきた。
「──殺しに来ました」




