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悪逆の魔法使い  作者: こんぶ
南国編
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第七十三話 対傭兵 十二

──背後に、敵。

──不味っ

──不覚?この俺が?

──死ぬ?ここで?ここで!?

──何とか助かる方法を!

──もう既に……遅すぎたのか

──カミュリール……君が

──有り得ねー……

──ここまで?嘘だろ?

──ちょっと待


内爆発インナーエクスプロージョン

「……」


魔力をかなり浪費したラビアの肉体は、外側は勿論、体内に関しては防御力がゼロに等しかった。

故に、この魔法で、彼は……


粉々に、吹き飛んだ。


周りに、血が、臓物の破片が爆散する。周囲へと酸っぱいような、つんとする匂いと、吐き気を催すような悪臭が広がった。

辺りは赤く血で塗れており、人の原型など微塵も残らなかった。


傭兵の実力においては、世界第三位の男、ラビアは死んだ。


ラビアの背後に立っていた男、それは。


「……」


ブラッド。

ブラッド・リ・ディアベルであった。



時刻は数刻前へと戻る。

ザックとリンダと対峙していたブラッドは、ザックを気絶させ、リンダへと向かっていた。


「んのっ!?」

「ごあぁあっ!」


猛獣の如く突き進むブラッドを止める手段は、現状リンダにはない。

ブラッドの鋭い殴打を、ただ両腕で受け止めるだけだ。

しかし、それでも両腕はひしゃげ、骨は突き出す。腕はバキバキに折られ、使い物にならなくなる。

そして、その度に治癒の術をかける。

だが、ブラッドの猛攻は終わらない。


今のリンダではブラッドを倒す方法を持ちえない。故に、劣勢。覆す方法は、より強いものへと協力を要請すること。

しかし、それはリンダが許さなかった。

彼女はプライドが高く、基本誰かに頼るということをしたくない。

では何故ザックと共にいたかと言えば、それもどちらかと言えばいやいや、という他ない。

ザックが無理やりリンダを引き連れて来ただけだ。


リンダは生まれつき術が使えた。

生まれつき術が使えるものは、術使いの中では珍しくない。なぜなら術は、努力などによるものではなく、純粋に才能のみで開花する能力だからである。

先天的に術を授かるものは、一万から五万人に一人といわれ、後天的に授かるものは十万から五十万人に一人といわれる。

そういう意味で言えば、勿論ヨーネもかなりの才を持つことになる。

或いは、運とも言い換えられよう。


そんな彼女は、術使いの中でも飛び抜けて才があった。

かつて、その術は世界最高峰とさえ言われたことがある。


そして、彼女は傭兵団へと入った。

何故だったか。誰かに誘われてだったのか、或いは自分からなのか、理由はよく覚えていない。

とりあえず敵を殺せば金が貰えたのだ。なんとなしに生きていても何とかなった。


リンダは、強さには自信があった。

学力はさほど高くなく、純粋な(・・・)体術や魔法は苦手としていた。

しかし、術には自信があった。


そんな彼女はなんとなく生き続けてきた。

生き続けてしまったのだ。


「──ひっ」


初めて、ブラッドという男と対峙して、彼女の脳裏に、薄暗く、べったりとしたものが張り付いている気がした。

──死。

初めて意識した。

これまでも、これからも意識することなどないであろう、自分とは無縁だと思っていたこと。


──恐怖。

死の恐怖が、少しずつではあるが。


「……あ」

「ぐぁぁぁあ!」


徐々に彼女のなかで大きくなっていった。



リンダは無敗という訳では無い。だが、その敗北は劇的なものでは無い。

死に準ずるような敗北は経験したことがなかった。


その恐怖感から、彼女はやたらめったらに術を乱発した。

だが、ブラッドに通ったとしても、それでも突き進んでくる。


(なんだコイツは……!なんなんだ!?)


死の恐怖を捨てたブラッドに、リンダはより恐怖した。


「……っ!」


ならば。

と、彼女は自己の集中力を一点へと集める。


──。


「奥義……天征の術」


リンダの奥義は、不発に終わった。


「え?」

「うん!」


振り抜かれたブラッドの拳がリンダの頭部を捉え、彼女を遥か彼方まで飛ばしていた。


何故、リンダの術は不発に終わったのか。


天征の術は、それこそ名の通り、神の力(・・・)を冠している。故に、今のブラッドには通じない。


今のブラッドは非常に不安定な存在で、半神とでも言えよう存在だった。

故にブラッドには効かない、ただそれだけの事だった。


「ふしゅー……っぐ……!」


ブラッドは激痛に顔を歪める。

それと同時に凶暴化(バーサク)が終了した。


「はーっ、はーっ、はーっ……」


息も絶え絶えだったが、すぐに元の呼吸に戻す。

深呼吸を何度か繰り返した。


「すぅぅぅ、はぁぁぁあ。ふぅ……」


ブラッドは迷宮五十一層、森の方面を見る。


「さて、行くか」



ブラッドは透明化(インビジブル)無音(サイレンス)の複合魔法を発動させつつ、三人の戦闘を見守っていた。


ラビアは戦闘に集中していた。夜中とはいえ、流石に地平での三人相手は集中力を使うらしく、ブラッドには気がついていなかった。


そして、最も気を抜く瞬間にブラッドは駆けつけた。


「死ね」

「そう、この瞬間を待っていた」



以上が事の顛末である。

そしてラビア、ザック、リンダの倒れた今、傭兵団の主要戦力はほとんど残っていない。


あとは……


「……てめぇ」

「くそが」

「皆さん、気を抜かないで」

「分かっている」

「お前は転移して後ろから挟め」

「総攻撃なら流石に耐えられないはずだ」

「馬鹿が」

「この人数、しかも一度目は逃している。二度目はなあぞ」

「もう手加減抜きだ。最初からフルスロットルでいく」


ラリシア率いる、他傭兵団等級(ランク)Sの集団である。


ブラッドの初撃で殆どは即死ダメージを受けていたが、ラリシアの治癒で全快したようだ。

しかし、ラリシアの魔力も相当な減りようで、残り魔力は神・治癒(ゴッドヒール)一回か二回分しか残っていない。

ブラッドはそう目安をつけて、傭兵団へと走り出した。


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