第七十三話 対傭兵 十二
──背後に、敵。
──不味っ
──不覚?この俺が?
──死ぬ?ここで?ここで!?
──何とか助かる方法を!
──もう既に……遅すぎたのか
──カミュリール……君が
──有り得ねー……
──ここまで?嘘だろ?
──ちょっと待
「内爆発」
「……」
魔力をかなり浪費したラビアの肉体は、外側は勿論、体内に関しては防御力がゼロに等しかった。
故に、この魔法で、彼は……
粉々に、吹き飛んだ。
周りに、血が、臓物の破片が爆散する。周囲へと酸っぱいような、つんとする匂いと、吐き気を催すような悪臭が広がった。
辺りは赤く血で塗れており、人の原型など微塵も残らなかった。
傭兵の実力においては、世界第三位の男、ラビアは死んだ。
ラビアの背後に立っていた男、それは。
「……」
ブラッド。
ブラッド・リ・ディアベルであった。
◇
時刻は数刻前へと戻る。
ザックとリンダと対峙していたブラッドは、ザックを気絶させ、リンダへと向かっていた。
「んのっ!?」
「ごあぁあっ!」
猛獣の如く突き進むブラッドを止める手段は、現状リンダにはない。
ブラッドの鋭い殴打を、ただ両腕で受け止めるだけだ。
しかし、それでも両腕はひしゃげ、骨は突き出す。腕はバキバキに折られ、使い物にならなくなる。
そして、その度に治癒の術をかける。
だが、ブラッドの猛攻は終わらない。
今のリンダではブラッドを倒す方法を持ちえない。故に、劣勢。覆す方法は、より強いものへと協力を要請すること。
しかし、それはリンダが許さなかった。
彼女はプライドが高く、基本誰かに頼るということをしたくない。
では何故ザックと共にいたかと言えば、それもどちらかと言えばいやいや、という他ない。
ザックが無理やりリンダを引き連れて来ただけだ。
リンダは生まれつき術が使えた。
生まれつき術が使えるものは、術使いの中では珍しくない。なぜなら術は、努力などによるものではなく、純粋に才能のみで開花する能力だからである。
先天的に術を授かるものは、一万から五万人に一人といわれ、後天的に授かるものは十万から五十万人に一人といわれる。
そういう意味で言えば、勿論ヨーネもかなりの才を持つことになる。
或いは、運とも言い換えられよう。
そんな彼女は、術使いの中でも飛び抜けて才があった。
かつて、その術は世界最高峰とさえ言われたことがある。
そして、彼女は傭兵団へと入った。
何故だったか。誰かに誘われてだったのか、或いは自分からなのか、理由はよく覚えていない。
とりあえず敵を殺せば金が貰えたのだ。なんとなしに生きていても何とかなった。
リンダは、強さには自信があった。
学力はさほど高くなく、純粋な体術や魔法は苦手としていた。
しかし、術には自信があった。
そんな彼女はなんとなく生き続けてきた。
生き続けてしまったのだ。
「──ひっ」
初めて、ブラッドという男と対峙して、彼女の脳裏に、薄暗く、べったりとしたものが張り付いている気がした。
──死。
初めて意識した。
これまでも、これからも意識することなどないであろう、自分とは無縁だと思っていたこと。
──恐怖。
死の恐怖が、少しずつではあるが。
「……あ」
「ぐぁぁぁあ!」
徐々に彼女のなかで大きくなっていった。
◇
リンダは無敗という訳では無い。だが、その敗北は劇的なものでは無い。
死に準ずるような敗北は経験したことがなかった。
その恐怖感から、彼女はやたらめったらに術を乱発した。
だが、ブラッドに通ったとしても、それでも突き進んでくる。
(なんだコイツは……!なんなんだ!?)
死の恐怖を捨てたブラッドに、リンダはより恐怖した。
「……っ!」
ならば。
と、彼女は自己の集中力を一点へと集める。
──。
「奥義……天征の術」
リンダの奥義は、不発に終わった。
「え?」
「うん!」
振り抜かれたブラッドの拳がリンダの頭部を捉え、彼女を遥か彼方まで飛ばしていた。
何故、リンダの術は不発に終わったのか。
天征の術は、それこそ名の通り、神の力を冠している。故に、今のブラッドには通じない。
今のブラッドは非常に不安定な存在で、半神とでも言えよう存在だった。
故にブラッドには効かない、ただそれだけの事だった。
「ふしゅー……っぐ……!」
ブラッドは激痛に顔を歪める。
それと同時に凶暴化が終了した。
「はーっ、はーっ、はーっ……」
息も絶え絶えだったが、すぐに元の呼吸に戻す。
深呼吸を何度か繰り返した。
「すぅぅぅ、はぁぁぁあ。ふぅ……」
ブラッドは迷宮五十一層、森の方面を見る。
「さて、行くか」
◇
ブラッドは透明化と無音の複合魔法を発動させつつ、三人の戦闘を見守っていた。
ラビアは戦闘に集中していた。夜中とはいえ、流石に地平での三人相手は集中力を使うらしく、ブラッドには気がついていなかった。
そして、最も気を抜く瞬間にブラッドは駆けつけた。
「死ね」
「そう、この瞬間を待っていた」
◇
以上が事の顛末である。
そしてラビア、ザック、リンダの倒れた今、傭兵団の主要戦力はほとんど残っていない。
あとは……
「……てめぇ」
「くそが」
「皆さん、気を抜かないで」
「分かっている」
「お前は転移して後ろから挟め」
「総攻撃なら流石に耐えられないはずだ」
「馬鹿が」
「この人数、しかも一度目は逃している。二度目はなあぞ」
「もう手加減抜きだ。最初からフルスロットルでいく」
ラリシア率いる、他傭兵団等級Sの集団である。
ブラッドの初撃で殆どは即死ダメージを受けていたが、ラリシアの治癒で全快したようだ。
しかし、ラリシアの魔力も相当な減りようで、残り魔力は神・治癒一回か二回分しか残っていない。
ブラッドはそう目安をつけて、傭兵団へと走り出した。




