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悪逆の魔法使い  作者: こんぶ
南国編
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第七十一話 対傭兵 十

リンダへと襲いかかるブラッドが、猛攻を始めるその少し前まで時間は遡る。




ラリ、ディア、ヨーネは、一人の老人と対峙していた。相手は、見紛うことなく一介の老獪に過ぎないはずだが、しかし、肉体がそれを否定していた。


およそ歳には似つかわしくないほどの筋肉が、見て取れたからだ。そしてその目付きは、肉食獣のそれを想起させるのに十分なほどに鋭く、あまりにも強さを漂わせていた。


彼の名はラビア。黒衣に身を包み、赤と白の毛が混じった頭髪はかなり目に悪い。


「君達は……誰かね?」


「……」


鋭い目つきでラビアは、槍を刺すが如く、三人を見つめた。


「悪いことは言わん。退け」


形容し難い威圧感が、場を包んだ。ラビアを中心に発せられるそれは、一般人には耐え難く──


「俺達は、お前をここで倒すべくここにいるんだ」


「……ほぅ」


ラビアは鋭い眼差しで三人を射抜いた。


「殺意があるなら話は別だな」


瞬間だった。ヨーネの全身が粟立つ。殺気が、全身を包み込む。

ヨーネの目の前に、ラビアがいた。

ラビアはまず、ヨーネを狙ったのだ。彼は知っている。後衛が崩れれば、前衛は大抵機能しないことを。彼は全力で踏み込み、ヨーネへと迫った。


「!?」


その刹那であった。もはや回避不可能の絶対時間の中で、ラビアの目の前に、魔力障壁が現れた。

すぐさまラビアは飛び退く。


「……」


一体、どれほど。どれほどの研鑽と努力を積めば、あの速度で魔力障壁を貼ることが出来るのか。

それだけではない。

魔力障壁の密度である。ラビアが退いたのはそれを瞬時に察したからに他ならない。


五年、十年?その程度の年ではたどり着けないかもしれない。


「やるな……」


ヨーネを見て、ラビアは言う。


「そこの男」


「……バレていたか……くくく、まぁ、お褒めに預かり光栄だよ」


ディア、であった。


「さて……」


しわがれた、渋い、重みのある深い声でラビアは言った。


「やるか……」



ラリは、魔法を唱える。


鈍化(スロウダウン)


「……」


強化(バフ)弱体化(デバフ)系統の魔法は基本、対策を取らない限り回避不可能である。

その中でも特に、鈍化(スロウダウン)は厄介な効果を持つ。単純な気だるさを与えるだけでは無い。その追加効果は、速度に比例して、重みを追加する。

速ければ速い速度を出すと、それに比例して重力がかかる。

つまり、相手が強大かつ早いほど、効果は増す。


反魔法(アンチマジック)


ラビアは反魔法(アンチマジック)を自身にかけることで、弱体化(デバフ)を打ち消した。デメリットとしては、同時に強化(バフ)魔法も打ち消してしまうことにある。

一見すると、魔法の効果が無いように思える。しかし、ラビアの持ちうる魔法の中で、デメリット無しで魔法を打ち消す方法がない、ということでもある。


「……」


しかし、ラリは内心毒づく。


(やっぱり持ってたか……対策魔法……まぁ、想定内だけどね……)


強化(バフ)魔法が無ければ、俺が勝てないとでも?」

 

刹那。ラビアはヨーネに肉薄し……


カン、と甲高い音が鳴った。貴金属同士がぶつかり合う音が。

ディアとラビアが剣を交えていた。


「……」


瞬間、互いに力量を察する。と、その隙を逃さんとラリとヨーネはそれぞれ魔法と術を唱えていた。


束縛(ホールド)

「原始回帰の術」


束縛魔法と、相手を混乱させる原始回帰の術を使う。


「……ぬん!」


しかし、自身の魔力を体外へ放出することにより、魔法、及び術の効果を弾け飛ばした。


「効かんよ、俺には」


ディアに斬り掛かられながら、ラビアは余裕そうに言った。


「魔力の放出で弾け飛ばすのであれば……」


ラリが魔法を唱えだした時、ディアとラビアは目にも止まらぬ速さで、剣戟の応酬をしていた。

ヨーネはそれを目で追うことは叶わず、あまりにも速い戦闘を見る暇は無かった。

その時間があれば、サポートや攻撃に回った方が幾分か得というものである。そんな考えのヨーネは、すぐさま分身の術を唱え、何人かに分かれる。


自身が最も狙われているということを知っているヨーネは、生き残ること、そしてどうしたら迷惑をかけないかを考えていた。




かつてのラリは、臆病者であった。

しかし臆病者が悪いという訳では無い。むしろ臆病とは、生物として優秀な感情である。

しかし、彼は人間社会を生きる上でそれを非常に引け目に思っていた。

理由は幾つかある。まず、なめられる。どこに行っても見下される。それが嫌だった。

だが、そんな自分が変われないというのもまた嫌だった。彼は嫌われていたかもしれない。しかし彼を最も嫌っていたのは、他ならぬ彼自身である。

変わりたい、と思っても、変われない。人間そんなものである。

そう、決めつけて、逃げていた。


しかし、迷宮に入って、気がついた。

──僕は逃げるべきでは無い。

立ち向かうものさえなくても、立ち向かう人がいる。そんな人の前で、なんて恥ずかしいことをしているのだろうか。


僕は、大馬鹿者だ。


彼は精進した。努力した。才は無かったかもしれない。

……しかし、彼は今──


「な」


「……」


にぃ、とラリは笑った。


魔力で魔法が打ち消される際、そのうち消す魔力を越えさえすれば、貫通できる。


「ごふ」


炎槍(ファイアランス)

全身全霊の魔力を込めた魔法は、急所は外されたものの、しっかりと、確実に、ラビアの身体を貫いていた。

毎日投稿したいよー

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