第六十九話 対傭兵 八
ザックは北国の小さな村に生まれた子だった。
この国では、十二歳頃になると、一部の限られたものだけが、贈与というものを授かる。
贈与は正確に記すならば、【固有能力】とよんだ方が正しい。
何故その固有能力が発覚するのか。それは実は、年に一度、北国には鑑定士が来て、十八歳以下の子供を全員鑑定していくからだ。
ある種の健康診断とさえ言える。そこで能力が発覚する場合が殆どだ。(中には戦闘中に覚醒する者もいるようだが)
能力の説明に関しては、鑑定士が行う。
そんな【固有能力】を得たもの達は、総じてその能力を最大限に生かせる仕事につく。
固有能力の力は圧倒的であり、また絶対だ。
一般人が努力して到達できるそれとは違う。
ある意味で天才なのである。
ザックは固有能力を授かった子だった。
普通、固有能力は一人につき一つしか与えられないものだ。
だが、彼は違った。
本来一つの固有能力だけでも破格の性能である。
が、彼は違った。
彼の有する固有能力の数は二つ。
人智を超越する力をその時、手にしたのだ。
◇
北国は平和主義国であったため、ザックの能力はあまり使われることのないものだった。
まず一つ。【不撓不屈】は、自分よりも力量の上のものと対峙した際、いつもの実力以上の力を発揮でき、必ず怯まず、ダメージを受ければ受けるほど強くなる、というもの。
もう一つ。【逆境不屈】は、自分に致死ダメージの攻撃が与えられると、自然治癒し、三回だけ死んでも生き返ることが出来る。そして、自分が不利であればあるほど強くなる。
──この組み合わせが最高に噛み合った。
ザックの能力の性質上、自分から攻撃する際、それが格下ならば何の困難もない。
もし、それが格上ならば?
【不撓不屈】が発動し、あらゆる性能が向上する。そして、攻撃を受ければ受けるほど強くなる。
また、攻撃を受ける、ということは、不利になる、というふうにもとれる。
よって、【逆境不屈】が発動し、さらに強くなる。
その能力説明を受けた際、ザックは疑問に思う。
『強い、って何だ?』
──強くなるとは、究極どんな事だろうか。
ザックは父親に問う。
『つ、強いか?うーん?強い……は、そうだな、女の子を助けられる力かな?なんちって……』
母に問う。
『強さ?強さねぇ。それは、正義かもね』
街人に問う。
『強さ?そりゃ勝つことだろ』
旅人に問う。
『負けない心、他人を守ること』
恋人に問う。
『へ?うーん。考えたことないかも』
祖父母に問う。
『いつか分かる……』
友人に問う。
『力があることだろ?』
強者に問う。
『……考えるだけ無駄だ』
変人に問う。
『正義が強さ?勝者が正義?そんな訳ないでしょ。強いってのは強いから強いんだよ』
問う。
『パワーがあること』
問う。
『一定の能力に長けていること』
問う。
『まぁまずは有能ってことだろ?あ、でもそんな定義人によって違うしな……?人による?』
問う。
『膂力があって抵抗力が──』
問う。
問う。問う。問う。問う。問う。問う。
──問う。
『強い……ってなんだ?』
◇
ザックは肉体に魔装を纏う。
身体が蒼く光り、身体能力は爆発的に上昇する。
「……ゴラァっ!」
「防護壁」
「俺の攻撃力を凌ぐ防御魔法か」
現在のザックは、【不撓不屈】【逆境不屈】を発動し、尚且つ肉体を魔装で覆ったフル武装状態。
に、対しブラッドは丸腰である。ブラッドの方が当然不利なはずだ。
「……恐ろしい程に精錬された魔力……限りなく澄まされている」
使用される魔法Lvが同等であろうと、その力に大きな差が生まれることがある。
その原因は、魔法の精度──密度──である。
「だが、俺には勝てん」
ザックは腰の剣を引き抜く。
「……」
そこに生まれるのは殺気。空間が捩れ捻れ裂け或いは捻られ挫かれ歪み僻む。
極度の緊張状態。見つめ合う二人。その状態を壊すには、何かキッカケが必要だった。
そして、訪れた。
キッカケをもたらしたのは、一人の女であった。
「……!?」
「うふふふふふふふ」
「気色悪ぃな」
おっとりとした声で、突如現れたのは、封印した筈の世界七位の傭兵、リンダであった。
「私、自力で封印を解除出来るの」
「化け物かよ、術使いは」
「褒めても何も出ないわよ?ふふっ、ふふふ」
「……」
ブラッドは背中に冷たい汗を流す。緊張する局面。
まず動いたのは、リンダだった。
「【炎獄】」
「っ!」
術の発生前にブラッドはリンダを攻撃しようとしたが──
(ダメだっ、いくら何でも術の展開が速すぎる!?)
リンダの【炎獄】によってブラッドは右腕が焼ける。
「ただの炎じゃないわよ〜、特別性……それもとびきりのねぇ」
「そんなことは分かっている。俺の肉体を焦がすなんて、普通の攻撃じゃまず不可能だからな」
が、ブラッドは焦らず自身に治癒魔法をかける。
「治癒」
焼きただれた右腕が再生する。
だが、炎は消えない。
「?水砲」
炎に水をかけるが、駄目。なんら意味を成さなかった。
「は」
【炎獄】は、対象に消えない炎を与える。消すためには、術者がその術を解くか、或いは術者が死亡することが条件である。
「おい、今は二人と当時に闘ってんのを忘れんなよ?」
気づけば、ブラッドの懐にはザックがいた。巨体、肉体が筋肉の塊となったザックは数メートルはある巨体である。
「不味──」
「遅すぎる。破壊の一撃!」
破壊の一撃は、ザックの【不撓不屈】と【逆境不屈】を利用したただの殴打である。
が、その一撃は強力。
ブラッドの腹部に正確にめり込み、内蔵を破壊して尚止まらない。
「ゴラァっ!!」
拳を振り抜かれたブラッドは数メートル吹き飛ぶ。
「お、ぁ?ぁ……」
内蔵が破壊され、呼吸が出来ないため無詠唱で魔法を使用。
詠唱を破棄し自身に治癒魔法をかける。それが終われば既にザックとリンダに囲まれた状態である。
「……」
「この刀を使うまでもないな」
ザックは携える刀をそこらへ棄てる。
「お前に勝ちの目は……無い!」




