第六十七話 対傭兵 六
ブラッドの背後に衝撃が奔る。
「っ!?」
現在、ブラッドが相対するのは、殺人のエキスパート、最強の傭兵達、ザックとリンダ。
ザックは青い瞳に赤い髪をもつ好青年で、リンダは黒髪に金の瞳をもつ麗しい女。
二人はブラッドを殺すため、ザールに命令され動いていた。
その理由はやはり、ブラッドの討伐報酬であった。
『一年間!?』
『ぁあ、彼を倒すことが出来たなら、貴方は一年間、戦地に赴かなくて良いですよ』
ザックは戦争が好きという訳ではなかったが、その非常識な強さゆえに傭兵を引き受けていた。だから、ザックにとってその報酬は些か美しく映った。
対してリンダは、純粋にザールに対して逆らえないという理由だけである。
リンダは意識阻害系の術を使い、ブラッドを翻弄する。
「ゴラゴラゴラゴラ!」
ザックの大剣による連撃。等身大はあろう大剣を振り回すザックの斬撃は、ブラッドをしても防ぎきれないような勢いであった。
「……く、近接戦闘特化型か!」
現在、ブラッドは肉体に多重の強化魔法と、多重結界を張っている。
それでもザックは、強化をかけられたブラッドを凌ぐ勢いで肉薄する。
薙いで佩いて回して切って斬って叩いて薙ぐ。
「は、っやすぎる!」
「俺は世界四位の傭兵だぜ?この程度はよぉ……」
ザックは両脚でブラッドの頭を挟む。
「!?」
「朝飯前だぜっ!」
ブラッドはザックの脚と共に頭が地面にめり込む。衝撃波が地面を伝わり、うなり、迷宮五十一層を震わせる。
「ほいっと、一丁あがり」
「……ってめぇ〜……」
頭から血を垂らしながら、ブラッドは地面から顔を上げる。だが、そこまで大きな損傷は無かった。
「……ほぉん。今のを受けてそのダメージか……」
「……治癒」
ブラッドは魔法を使い、体の傷を治す。
「ふふ、甘いわね」
「あぁ、もうタイミングは掴んだ」
ブラッドは後ろを向くと、ブラッドには見えないはずのリンダを、ブラッドは両腕で捕らえていた。それから片腕に持ち替えて抱える。
「きゃっ…!……は?」
「お前の【認知障害術】は、ギリギリ認知出来るか、出来ないかくらいって分かってたからな。違和感が当然生じる。その違和感を頼りに出現場所を予測しただけだ」
「……そん」
「離れろ!リンダ!」
空からザックが降り、ブラッドに大振りの一撃を食らわす。が、ブラッドの持つ刀に弾かれる。
「……肉体強化」
ザックが魔法を唱えた。
「…魔法も使えんのか…!?」
ブラッドが驚愕する横で、リンダはブラッドの腕から逃げようとするが──
「逃がさんぞ、封印」
「ぃやぁ〜ん」
リンダは捕縛される。
「案外呆気なかったな」
「そうだな」
「!?」
ブラッドの正面に居たはずの男は、ブラッドの背後に回り込んでいた。
「ちょま──」
「ゴラゴラゴラゴラゴラゴラ!!」
ザックが掛け声と共に、あらゆる方向からブラッドを斬り付ける。
だが、ブラッドはそれらに対応し、攻撃を受け流す。
「……あぁ、なんか…段々、適応して来たぞ……」
ブラッドはザックの攻撃を弾きながらそんなことを呟く。
「……あ?」
「ほいっ」
ブラッドは天上の剣を取り出すと、それをザックへ突き刺した。
「な」
しっかりと、剣で貫かれるザック。
「避けられない、よな」
ブラッドは天上の剣を引き抜く。その傷から血が滲む。
「俺の勝ちか〜?」
「……っ!」
「ほれっ、ほれほれ」
ブラッドはザックを勢いよく殴りつける。
「おい、世界四位の傭兵なんだろ?魔法も使えるんだろ?なぁ?おい」
何度も何度も何度も殴られ、血が飛び散り歯は取れて、鼻は潰れ白目を向くザック。それでも尚ブラッドは拳を止めなかった。ラリから習ったその体術を。
「終わりか〜?」
その赤い髪が、血の紅で染まりそうなその時──
「……ぁ、か、が」
「……あ?なんだ?」
「馬鹿が」
ザックの肉体が自動で治癒されて行く。
「なん、だ?」
「固有スキル、【不撓不屈】【逆境不屈】が発動したんだぜ」
「あ?」
気づけば、ブラッドの目の前からザックは消え、遥か遠くへ移動していた。
「あばふっ!?」
ブラッドは突如吐血する。
「ん?あ、おお。さっき殴ったんだが、早すぎて、今、衝撃が伝わっちまったみたいだな」
ザックの肉体は変形していく。ゴキゴキ、と骨が変形する音だろうか。ザックは異質な形へと変貌していく。
肉は肥大化し、骨格から変形されていく。
「……」
ブラッドは呆然とそれを眺めていた。普通ならブラッドはそれを止めるべきなのだろうが、ブラッドはそうしなかった。
「……」
ブラッドには今のそれに何をしても効果がないと理解していたからだ。
「しかし、人と言うよりモンスターじゃねぇか」
変形し終えたザックは、体高約三メートル、腕は大木のように太く、体は巨岩の様に大きい。
「……全身の表面が筋肉になってるのか…どんな変形だよ」
「ふぅぅ……」
ザックの背中から水蒸気が出る。体内に抱擁された熱が放出されているのだ。
「ザール様がお前を殺そうとしている理由が分かった……お前は生かしてはいけない存在だ」
ザックはその巨体を走らせた。
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