第五話 元王
「…しかし、驚いたのぉ…」
元国王、イリヴァはブラッドを見てそう言った。
「あのガキンチョが、こんなに大きくなりよって…う、うぅ」
「ちょ、お父様涙腺弱すぎ…!」
アロヴァの部屋へとその父、イリヴァをよんだ。
話し合いがある、と。
その際、範囲消音の範囲が空間5メートルなので、範囲に入って盗聴防止に丁度いい、と言うことで、国王自らブラッドの元へと来たのだ。
「…で」
そこで、流石は元国王と言ったように、イリヴァは顔をさっと変え、真面目な表情になる。空気が……変わった。
「話とは…?」
「…ええ…」
いつもならアロヴァがここで『私、子供ができました!テヘッ』などと冗談を言うところだが…当然そんな雰囲気でもない。
「…この国、ラディアは滅びる可能性が高い」
「…な!」
皺くちゃのその顔をさらに歪めて、元国王アロヴァは驚いた。
「…一体どういう…」
「そして、それを止めることは多分俺でも出来ない。と言うか、俺じゃ出来ない」
「…」
「…ですが、被害を最小限にはできますものね」
「あぁ…」
「ちょっと待て…お前ら話を飛ばしすぎじゃ…ワシはついていけん…まず、どうしてこの国が滅びるのか、教えてくれんか。別に疑っとる訳じゃないのじゃが」
「…あぁ、そうだったな」
「それはですね、お父様」
現国王。
アロヴァの弟。名前はサリヴァ。
「…サリヴァ…?」
「ま、前々から俺はアイツのことが好きじゃなくてな…まぁ政策もそうなんだが…どーにも不自然に思うことが多くてな」
「………む、何故そう思った…?」
「まぁ、まずは税を重くしたということ。これが大きいかもな」
「ふむ…重税は確かに市民にとっては苦しいやもしれん…じゃがサリヴァがそれと何の関係がある?」
「…税を重くした割には、何故かお国からの支援はなかった。かと言って上層の人間が裕福になったかといえば、そうでもない。何なら、サリヴァ自体も苦しかったくらいだ」
「はぁ…というか何故ブラッドは知っておるのじゃ?」
「あぁ、これを使った」
指を上に向ける。ブラッドは魔法を使用した。
盗音。
「な、なんじゃ?」
『な、なんじゃ?』
国王イリヴァの声が、二度響く。一度は喋った本人の声、二度目は盗んだ声を発生させたのだ。
「お、おう…!は、反芻した?」
「そう。この魔法をかけておけば、知りたい情報をいつでも知れる…って寸法だな」
「しかしわしの知識にはない。つまりは非公式魔法…と言う事は…」
確かにイロヴァもかなりの強者である。それは武術など肉体的なものではなく、知識的に、という意味でだ。
この世界に存在している(と言われる)千の魔法。
正式魔法を全て覚えているからであった。
しかし、それだけでは真の強さには足らない。
一部の犯罪組織、或いは、個人が作り出した魔法。
そういったものを総称して、非公式魔法と言う。
「そう。まぁコレは伝手があって習得出来たんだが…」
「…して、どうしてアロヴァは知っておるのじゃ?」
「まぁ…私の伝手をなめないでくれます?」
「…ふん、にしてもブラッド。お前のそういうところは母には似てないな」
別に貶めるつもりもなく、嫌味とは違う風味でイリヴァはブラッドへそう言った。
「…別にいいだろ…で話を戻すがな…この国が滅びる理由は二つある」
「ふむ……」
「まぁ、まずは単刀直入に言うが、おそらくサリヴァは洗脳されている」
「洗脳!?」
「あぁ…多分だがな。じゃなきゃおかしい。そもそも俺も昔のサリヴァをそのまで覚えているわけではないが、突然、なんの理由もなしに重税を課すようなやつじゃなかったはずだ」
「う、うむ…」
「…洗脳……?……!うぅ」
アロヴァは頭を抑え、つらそうな様子をする。
「…やはりか…」
「一体なんじゃ…っうぅ!?」
イリヴァもまた頭を押さえる。
「待ってろ。上位解放」
パアンっ、と弾けるよう光が散った。
「…い、今のは一体…?」
「…やっぱりな…国中が支配されてたみたいだ…この洗脳魔法によって」
「…なんと!」
「確かに…なんだか頭がスッキリするような?」
「とはいえ、アロヴァはさっき俺と話してた時も頭を痛そうにしていたがな」
「…え、そうでしたか?」
「あぁ。この洗脳、おそらくはサリヴァのしていることに違和感を感じないようにする魔法だったんだ。名前はわからないがな…それに、これは正直、魔法かさえ怪しい」
当然、生じる疑問。ブラッドの知識を総て絞っても、そのようなものに該当する魔法は、無い。
考えられるのは、術か、或いは固有能力か、またはその他の何ら考えつかないものか。
「…サリヴァのしておること…は、そうだ。この国は結局何故滅びるのじゃ」
「あぁ。ていうのもな、まぁ、まず単刀直入に。ここに熾天使王と、治神が来る」
「…神族…たちが来るのか…この国に…」
「それが今からおよそ、二十四日後。それまでの間にやつらの迎撃を準備しなければいけない」
「ほ。ほぉ」
「…が、すまない。俺の力不足でな。どうやら奴らを迎撃するには、かなり多くの犠牲を出さないといけないらしい」
「…はぁ!?」
「…そもそも何故熾天使王と治神がこの国ラディアに来るかと言えばー」
「それこそ、サリヴァが関係していますわ」
「ほぉ?」
「この国がちょうどいいと目がつけられたのだろうな。恐らく熾天使王は、まずサリヴァに、それから周囲の者に気付かれないように洗脳魔法をかけた…」
「な、なるほど?」
「…まぁ、俺は魔法耐性があったし、他の国にもたまに行っていたから特に影響は無かったがな」
「ふむ」
「ま、そうして、この国で奴らはあることを起こそうとしてるのさ」
「…ある事…?」
「──異界召喚…」
その耳慣れない単語に首を傾げるイロヴァ。
「…別世界からこの世界に、全く違う者を召喚する、神族のみが使用できる禁止極限術!」
「…禁止極限術…!」
その単語は、基本一国が滅びるときに使われる、圧倒的なものである。
この世の中を単純化する事はできないが、主に攻撃の種類を分けることが出来る。
殴る、蹴る、或いは撃つ。
それ、総称して、物理。
炎を起こし、水で流して、風で切る。
それ、総称して魔法。
そして。
上記まではほとんどの生物が使用できるものだが、
以下からは、一部のものしか使えないものとなる。
まず、固有能力。一部の種族が、一定の年齢に到達すると開花するもので、その名の通り、個人個人が持つことに起因する。しかし、全員が固有能力を保持している訳ではなく、一部のものが加護として授かる。
地方によっては、その呼び名が異なり、ギフトと呼ぶ地域もある。
続いて、術。
呪術、禁術、善術、悪術。
基本、それを防ぐことは不可能とされる、汎用性と破壊性を兼ね備えた、圧倒的攻撃。
「…」
その中でも、神族のみが扱える、禁術。
その極地、(或いは極限とも言うが)、の術。
過去に使用されたことは、二度。
2万年前、大帝国、ディ・アルベロを二日にして消滅させ、
千年前、世界の湖を3日で蒸発させた。
それが、使用されようとしている。
「が、今回は攻撃型ではないだけマシなんだが……」
「ともあれ」
ブラッド達三人は顔を見合わせる。
「今から準備にとりかかる」
「わかったぞ」
「ええ」
「…まずは…住人の避難からだ…」
ブラッドは羽織るローブを翻して言った。




