第四話 怨嗟
彼の名はブラッド。旅人である。
どこで生まれたかは覚えていないが、誰に育てられたかは覚えている。
何をしてきたかは覚えているし、そして、何をすべきかも覚えている。
「……」
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ブラッドの目的は、二つある。ひとつは母の蘇生だ。
かつて、ブラッドの母は彼を守りながら、熾天使王、最上位暗黒騎士、魔王神殺し、精霊王世界樹の種……
人間側で言えば、勇者ディア=グランデル。
当時世界最高峰の魔法使い、デオ=グランド。
最強の傭兵と呼び声が高かった、最終兵器、SSS。
神族側で言えば、神の中でも全能に限りなく近い、善神。
女神の中で最も癒しに特化した女神、治神。
破壊の神、破神。
その者達に一方的に嬲られる母親をブラッドは見ていた。いや、【ソレ】を嬲るというちんけな表現で表していいかどうかは些か疑問である──。
──が、ブラッドは当時母親が何をされていたのか、ということは曖昧な記憶となっている。なぜ曖昧なのかはブラッドにも分からない。だが──
だが、ブラッドの無力な力の前で母は…
『あ、ぅ、ぁっ』
…血にまみれた地面を見る。
怒りが、湧いてくるのだ。
腸が煮えたくる程の怒りが、理性というブレーキを壊す怒りが、憎悪が、恨みが、ブラッドという存在を確、正確に壊してゆく。
そして、ブラッドの二つ目の目的。
『復讐』することである。
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「…ッッは!?」
(…夢か……?)
ブラッドは嫌なものを見たなと思う。
その記憶を、消し去ることはない、今もブラッドの肉体を動かし続ける動力となっているのだから、仕方ないとさえ思った。
憎悪。怨嗟。
ブラッドは、その感情がどこからくるのかと言う理由を知らない。
何故母親があれだけの者たちから狙われていたのか、ということを。そして、それがどんな理由であれブラッドは母親を殺したものを許さないだろうという確信が、どこか胸の中にあった。
「……」
だから、それを解明するために、まずは手当り次第、問い詰めていかねばならなかった。分からない。理由が分からないのに怒りが常に湧き続けてくる。
これは異常事態である。
そんな状態を何とかする為、とにかく情報が必要だった。
ブラッドは手始めに、熾天使王から尋問していくことに決めた。理由は端的で、最もブラッドに近く、また最も会うことの出来る可能性が高いからである。だが彼らはみな強力で強大だった。
「ふむ…」
無力だった頃のブラッドとは違う。準備は整っている。そのために何年間も努力をし続けた。
「熾天使王…確か俺の母さんを殺したやつ、だったよな…」
ブラッドは握りこぶしを作って、それを開閉する。怒りが湧いてくる。否、怒りと言うよりかは、憎悪である。
ブラッドの母を殺した者を。ブラッドが殺す。
それはブラッドの悲願の一つであった。
「熾天使王がこの国に来るまで……あと二十四日──」
外交関係で、熾天使の王が、この国ラディアへ来るまで、あと……二十四日。
◇
その街の名は、ディーア。
ブラッドが育った街である。
街のものはブラッドに話しかけることはない。
何故なら、街のやつらはブラッドがどういった者たちとつながっているか、知っているから。
その殆どが、犯罪者。或いは、人外。
(人外か…)
一部の人外生物は、人よりも、人らしい場合さえある。正確に言うと、悪意を持っていない。
そして、この街の住人は常に貧困に困っている者が多い。
何故ならば、この国はやはり発展しずらい仕組みになっているからだ。
資本主義国家である我が国ラディアだが、しかし、他国に比べて魔術技術、及び魔導技術、機械技術が劣っている。
というのも、この国の近くに迷宮、空に続く天の道、ならず海の七秘宝、地に眠る大火山、異界門、滝の下の異空間、精霊と妖精の宴…等の金になる天然の秘宝たちが無いからだ。
故に、資金が無い。資金不足。
そして、この国の国王が変わったのが大きかった。
変わったのはブラッドが幼少の頃だが、しかしそれでも世情がガラリと変わったのはブラッドにもなんとなく分かった。
今まで満足に食べられていた食料は食べられなくなり、今まで皆が笑顔であったはずが、重い労働に課され、重税をとられる。
それでいて、国からは何の支援もない。
「一体、国王は何をしているんだか」
ブラッドは先代国王、そして、元お姫様となら仲が(それなりに)良くあった。理由はやはり、母親との繋がりである。
国直属の騎士であったアラエルは、やはり、国王や姫とも繋がりがあった。
そしてブラッドは、今日それを聞きに行こうとしていた。
「──魔法、使用」
城の城門付近で、使用。
使うのは、隠密、それから影化を使用する。
魔法。説明するまでもないことである。彼が魔法基礎を習ったのは、とある森妖精からであるが……その話は、今するべきでないだろう。
難易度Lv2,隠密。
難易度Lv4,影化。
それらを併用させた、正式名称、準存在消滅。
「…さて、入りますか」
飛行を使用。
そして、城の窓から入る。
本来なら二重結界が貼られている。
だがブラッドはどちらも看破出来る。
「…さてと…では」
眼の前にいる、ある女性の前で、紳士のように、ハットを被り、
範囲消音。
「魔法解除」
「キャァっ!!…」
「……」
「…って…も、もしかして…」
「……」
ハットをくい、と指で押し上げる。
「ぶ、ぶ、ブラッドちゃん!」
歓喜の声を上げるのは、この国の元姫、アロヴァ。
ラーディール・アロヴァ。
ブラッドの母親と仲が良かった人物だ。歳は三十越えと言ったところである。
「…で、今日は何なの、えっもしかして…わ、私をさらいに来たの…!きゃー!」
「……あなたが昔はお淑やかだったって聞いても信じられないな…」
「なんでよー!」
「…とにかく、今日は聞きたいことがあってな…」
ブラッドは恭しくアロヴァを見る。
「…あぁ、お父様呼ぶ?」
「いや。まだその必要は無い」
「…そう。というか、いつものように、準存在消滅と、範囲消音を使ってきたのね」
「…まぁ、な」
「…そう。大きくなったわね、そういえば」
「…ん?」
「見ない間にお母さんそっくりよー、貴方はー」
「…そうか?」
「えぇ」
「…」
幸せそうにするアロヴァを見て、ブラッドは、嫌な気持ちになった。それは、不快感そのもの。何故ならその瞳が……
「…アロヴァおばさん」
「おばっ」
「………」
ブラッドの真剣な声を聞いたからか、アロヴァも自然と真剣な表情になる。
「この国があと一月で滅ぶって言ったら、信じるか?」
「ええ」
ブラッドは目を点にする。そして驚愕する。
「…ん?」
「…?」
「えっと。今なんて言ったか…」
「えぇ。正確にはあと二十四日後ね」
「…あ、あぁ…あってる、けど…」
それは確かにブラッドの調べた情報と合致していた。しかし──
「え?…なんで知ってるんだ?」
「うーんそうねぇ…ま、それについて話し合おうかしら?」
「あぁ…俺もちょうどそう思っていたんだ…………え?」
ブラッドは口をあんぐりと開けた。理解が出来なかった。
魔法についての説明は少し後からあります。




