第五十六話 中層
「……人だと?この層にか…?」
ブラッド達は目の前の集団と対峙していた。
しかし、それは不思議なことでは無い。むしろ、今の今まで遭遇しなかった方が不思議である。
「……そうだ。我々は、迷宮攻略部隊、その中層担当にあたる。持っているそれら剣を、我々に差し出し給え」
「……?武器を出す必要があるのか?モンスターがいるというのに」
「自衛のためだ」
「……?」
「もしかすると、お前たちが今ここで我々に襲ってくるやもしれん」
「……はぁ?お前──」
ディアが講義しようとしたその瞬間、ディアの喉元に目にも止まらぬ速さで、槍先が到達した。
「………ッ!?」
「ごちゃごちゃうるせーなー。男なら、そんくらい捨てろよ……」
『なるほどなぁ……』
『ん?どうしたんです、ブラッド様』
『いや、コイツらに乗るのもあり、か。しかし、面白い事を考えるな』
ブラッドは持っていた剣を捨てた。
草の生えた地面へと落ちる。剣の銀色に、月の灯りがほんのりとぼやけて反射していた。
「……ぶ、ブラッド…!?」
「まぁ、いいから。とりあえず、拠点に案内して貰おう」
「……」
渋々であるが、ディアもラリもヨーネも保有していた武器を破棄する。
「ボディチェックだ」
──。執拗にブラッド達を触るものたち。
「ッいやっ」
「あ、ちょ」
ヨーネが声を上げる。
「……」
「……にひ、あー、すいません」
卑屈そうな顔をした男である。
「………」
◇
「ほら、とっとと歩け」
ドン、と女に尻を蹴られるブラッド。
「……」
「何だその目は?」
「…いや、何でもない」
「…黙って歩け」
先頭の、リーダー格の男に言われるまま、ブラッド達は黙った。
「…よし、着いたぞ」
長くはかからなかった。
そこは、迷宮の中層付近であるというのに、まるで、──まるでそれは──
「………迷宮内に街だと……!?」
ブラッド達は驚愕すると共に、それが実現不可能では無いことに即座に気がついた。
『なるほど、外との時間の差異が有り得ないほどあるせいで、ここで新たに【街】を作成できたのか』
『にゃるほど〜』
「さて、では私は役目があるのでここで」
「……?」
リーダー格の男は何処へ行った。
「……──!」
ブラッドは勢い良く来た蹴りを掴む。
「不意をつく一撃とは意地が悪いな…?」
「…試しただけだ──では、これからは私についてこい」
「…」
女は意表を付いてブラッドへ攻撃を仕掛けた。ブラッドは警戒の念を解かず、歩き出した。
◇
「なんだここは」
「黙って入れ」
そこは、大きな灰色の建物。学校のような構造をしていた。
ブラッド達がその中へ入ると、まず女に告げられた。
「……まずは男女にわかれろ。男はあっち、女はこっちだ」
案内をしていた女はヨーネと共に、壁に【女】と書かれた方へと分かれた。
内部は灰色をしており、暗い印象を受ける。中は狭い道が多くあった。壁ばかりである。
女の指示のまま、ブラッド達は歩く。
そして──ディアが扉を開けた瞬間。
「ごっはぁ!?」
ディアの腹部に拳が入った。直撃である。
「…ギャハハッ、この時が一番、おもしれぇぇええええぜぇえええええぇええ!!」
ブラッドの目の前に現れたのは赤い長髪の女で、鋭い目に八重歯、それから見たことの無い灰色の服…
「……気味の悪い女だ」
「…あぁん!?誰だてめー!」
その女は何の前触れもなく、ブラッドへ拳を振りかざした。
『なるほどこれは、確かにディアでは防げないか』
ブラッドはその一撃を躱した、が尋常ではない速さである。
女の拳が宙を切った。そして、女はキョトンとした顔をする。
「…これを受けたディアも、よく無事だな…内臓が傷ついていなければいいが…」
「躱した…だと……!?」
「だったらこれで──!!」
女の周りにオーラのような物が纏わり始めた時、
「こら、イザーグ」
背後から別の女性の声がする。
「……!」
「あまり、暴力を振るってはいけません。ねぇ?」
女はにこやかな笑みをブラッドへ向ける。
「私はディナンシア。こちらはイザーグ。お二人共困惑されていると思いますが、後ほど説明させていただきます…」
ディナンシアと名乗る女は金髪で、そしてイザーグと同様灰色の服を着ていた。
「ぐ、はぁ、後ほど……?」
ディアがその身を起こし始めた時──
再びディアは転倒する。
「?」
「絶対気絶」
「……」
『Lv7以上の魔法だと……?』
『コイツは、人じゃないのですかね〜?』
ブラッドがよく見ればその女、ディナンシアは、人と若干違う点がある。
「なるほど、限りなく人に近い森妖精か」
「……どうやって、それを…?」
「魔力視…魔力の色を見れば分かる」
「なるほど、そんなに初歩的な事でしたか。しかし、何故ですかね?」
「……?どうした、ディナンシア」
「私は既に、九十回以上絶対気絶を放っていますが、何故気絶してくれないのですか?」
「…さぁな?」
「単純な抵抗力…だとしたら貴方も人では無いはず…」
「……お前の技が弱すぎたんじゃねーの?」
『釣れるか……?』
『いえ、恐らくは』
「そうですね。では貴方は特例ということで、私に着いてきてください」
『なるほど、あくまで冷静に、か』
「何を止まっているんですか?はい、急いで下さい…」




