第五十五話 ──開始
「ふぅ。明日が楽しみねぇ〜」
ヨーネはそう言って、自宅のソファに腰掛けた。
「なになに?ヨーネ、また冒険者の話?」
「うん、そうよ」
「良いわね〜、聞かせてよ〜ヨーネの冒険者話は面白いのよ〜」
「えー」
「なになに?パパにも聞かせて欲しいな」
「えー?パパにもー。まぁいいか。今ね、迷宮でね──」
ヨーネの家庭はごく普通の家庭で、迷宮付近の民家の出であるが、その術の才能から、戦闘職が向いているだろう、ということで冒険家になったのだ。
「……」
ヨーネは日々を充実して生きていた。
迷宮をチームの皆と攻略する。それが楽しかったのだ。
◇
「はッ!やっ!」
暗い森の中。一本の大木に拳を打ち付ける少年がいた。
ラリは拳を振るう。
体術の修行だ。
「……ふぅ」
拳を落ち着ける。
ラリは頬を伝う汗を手で拭った。
「……もう、ブラッドくんは、僕をとっくに越えている…僕が教える側だったのに……流石だなぁ……早く追いつかないと!」
ラリはそう言いながら、また体術の修行へと戻った。
◇
朝。
ブラッドは部屋で着替えをする。
『眠いです〜』
『顔を洗っておけ……って、精霊にも眠気はあるのか…?』
『んー、そりゃあありますよー』
『じゃあ……状態異常にもかかるってことか』
なるほど、とブラッドは感心しつつ、着替えを済ませて、部屋を出る。
「行くか」
本日は、白いコートに、藍色のズボンというコーデのブラッドだったのだが──
(……言わない方が良いわよね……言わない方がいい……)
ツァリは内心、思っていた。
──ファッションセンス、皆無じゃね?──と。
◇
ブラッドが迷宮の入口付近まで来ると、待っていた三人が寄ってくる。
「さて、今日も攻略といこうぜ」
ディアはブラッドから貰った短刀をくるりと回して得意げに言った。
「分かった。では──」
──【危険視】発動。
「……!?」
「……?どうした?」
ブラッドは基本、常に己に一定の魔法をかけている。
そして、それは防御系であったり、攻撃系であったりするのだが──
──【危険視】はその中でも破格の性能を誇る。
己に危害を加えうる可能性があるものが、己に敵意を向けていた場合に発動する、防御系、かつ補助系統の魔法である。
「……」
この魔法の何が素晴らしいかと言えば、己に危害を、加えうる、という点だ。
つまり、相当の上位者ということである。
現在のブラッドに危害を加えうる事の出来るものはそうそう居ない。
故に、予測できる。
(……動きだしたか…SSS)
◇
──昨夜。
「……」
それらは、人のカタチをして、冒険者組合へと入ってきた。
神のごとき、何から。
「マリー様…マリー様?」
「ん、あ?え、うん。はい、冒険者登録ですね」
「ええ、よろしく頼みますね」
「……この人数ですか?」
「はい。もちろん、お金は用意してありますから、大丈夫です」
「…わ、分かりました」
──ザールたちは冒険者の、最下位、第十級になった。
「では皆さん、早速行きましょうか」
◇
──迷宮五十一層──
優雅な森のような広大な景色が広がり、空は静かな灯りを称えている。
「月か」
上空には月があり、白い光が森を神秘的に映し出していた。
「奇妙ですね…」
ラリは言った。
「何だか、今までの層と雰囲気が違うというか」
「えぇ。何か、空気が変わった…?」
「……」
ディアは静かに前を見据えていた。
「ここから先は、喰うか、喰われるかだ。覚悟して臨めよ」
ブラッドがそう言った矢作──
──ピィィィ、と鳥の鳴き声のようなものが聞こえたと思うと──
「何!?敵?」
「……?」
森の中からゾロゾロと人が歩き出てきた。
一人の指揮官のような男が前に出て、言った。
「我々は、迷宮攻略部隊の中層隊である!武器を捨て、投降したまえ!」
◇
──ランクSSザールブリッケンは、迷宮内へ入った。
「ふむ、面倒ですが、やるしかありませんか。これも、皆さんのため…」
ザールは、脚に力を込める。
ザールの脚部はグッと膨らんだ後、逆に縮んで黒き脚に変わった。
「神速」
そして、地を蹴る。
自動的に人を送ることの出来る限界である五層、その大地はえぐれた。
ぼっ、と小爆発のようなものが発生したかと思うと、ソニックブームが出来る。
人が感知不可な速度で迷宮内を進むザール。
そして、ザールブリッケンは──
「ふむ、想定以上に時間がかかってしまいましたが…まぁ、これも許容の範囲内でしょうか」
──迷宮時間にして、約五分で、迷宮第五層を攻略した──。




