第五十二話 傭兵たち
迷宮、五十層までブラッド、ディア、ラリ、ヨーネの四人組は到達した。
経過年数は迷宮内にて、凡そ二十年近い。いや、更にあるだろうか。
だがかなり進んだ事に違いはなかった。
「しかし、凄いなぁ。ここをもっと前に開拓して、進んだ人達がいるんだろう?」
「まぁ、最上位攻略者なんてのは大概そんなものだ。速さから思考から全てそれ一色に染っているからな」
「ふぅん。知ったように言うわね」
「俺の見てきた中ではそうだったと言うだけだがな」
「……って、ブラッドさん。層のキリもいいですし、一旦外に出ません?」
「そうするか」
ブラッドは転移用の円盤を取り出す。
そして転移を発動させた。
◇
スタッ、とそれは降り立つ。
肉食獣のような鋭い黒い瞳に、動物のような白黒の髪。
服は重厚な黒で、腰にはベルトが巻き付けてある。
「ここは暑いからな。半袖の方が生活しやすいだろう。まぁ俺は暑さは感じないんだが、雰囲気作りには良いだろう?」
「そうですね。私も同感です」
「人を捨てて得られるものなど、たいしてありはしない。むしろ失う方が大きいというものじゃないかね。なぁ、ザックくん」
「……は、はぁ」
ザックはその男──世界最強の傭兵を見て驚いた。
髪の色以外、普通だ。
あまりにも普通。なのに何故かは分からないがザックは鳥肌が止まらないでいた。
「ん?あぁ、君が粟立って仕方がないのは、俺のせいだと思う。なんでも、魔力量や剣技、それから術力というものは、一定レベルを超えると感知することが不可能になるらしい。というより、同じ領域に立たねば感知出来ないとでも言おうか。俺としてはそれはそれで嫌なんだが、君がそれでも俺をみて何か感じるということは、余程勘がいいんだろう」
「……と、と言うより、いいか、質問しても」
「……ん?俺の答えられる範囲ならば可能だが」
「なぜ俺たちを集めた?世界中の最高クラスの傭兵達を?」
「ふぅ」
──SSSは席に着くと、無の空間から一瓶のワインを出す。
そしてまたどこからか出したコップにワインを注ぎ入れる。
「スぅぅぅ──」
香りを堪能したのち、SSSはくい、とワインを一口噛む。
舌で転がし、味を噛み締め、舌鼓を打つ。
「酒というのは、やはり適度に取るべきものだとは思わないか。俺はそう思う。一部の国家ではこれを法で禁止する国もあるらしいのだが、馬鹿馬鹿しくはないか。酒は、百薬の長、なんて言うくらいだ。俺としては最高の飲料の一つなんだがな。さて、では話の本筋に入るか。ザール」
「はい。私から皆様に、お願いがあります」
その発言、言葉の調子には、お願いと言うよりかは、命令という意が多く込められていた。
「ある一人の男の殺害。以上です」
「…………」
「……?」
「は?」
全員、ぽかんとした。
「ただ一人の殺害?」
傭兵として、戦争の前線で戦っていた彼らからしたら馬鹿馬鹿しい話だった。
何万人も殺した傭兵もいる。
基本、傭兵ランクというのは殺害者数、それからその残虐性に依存して作られる、査定されるものであるのだが。
そんな彼らのランクと言えば──殆どがランクS。
分かりやすい基準がある。
ランクE 0〜5人の殺害、またはそれに等しい犯罪行為。
ランクD 5〜100人の殺害。または戦争、戦地での大きな戦果。
ランクC 100〜1000人の殺害、またはそれに等しい犯罪行為。
ランク B 1000〜10000人の殺害、または一国に大きな影響を与える。
ランクA 10000〜50000人の殺害。または極悪行為。
ランクS 100000〜1000000人の殺害。または一師団を個人で殲滅。
ランクSS 戦争を個人で八割以上終わらせる。
ランクSSS 単騎で戦争を終わらせる。
「……ただ一人を殺すために、ここまでの精鋭を集める必要があるだと。それは何だ。【最強液状生物】並か?」
「そこまででは無いと思いますが……どうでしょう。かなり近くはあるでしょう」
「今回俺たち、まぁ一部都合により来てはいないが、俺が招集したSランク傭兵たち。お前たちの総力をもってしてやる。狙いは一人。だが向こうも俺たちを狙っている」
「……まさか、アイツか?」
「……アイツ?」
円卓の席で、Sランクの傭兵が静かに語り出す。
「あぁ、噂には聞いたことがあるが、確かSSS、アンタは帝国から目が付けられていたはず。ということは帝国の……最強の騎士、天上人ヴァイス……?」
「いえ違います。今回の相手は名は知られておらぬ者です」
「……誰だよ」
「天上人ヴァイスでも、地底王センヌリウスでも、熾天使王でも冥府の王でもありません。神でもない。それは、たった一人の女子の娘」
「俺も見た中で最も美しく強かった女。姫騎士アラエル。その子だ」
「名を──」
「……」
「──ブラッドと申し上げるそうです」




