第五十一話 蠢く
「ふぅ」
第三十二層にて、ディアは息をついた。
「だいぶ進んだなー」
「そうねー」
ブラッドがこの迷宮について理解しているのはそこまで多くない。
──がしかし、ある程度のことは分かってきた。
まず。
迷宮内においては、現実世界の一分が一日である。
そして、その際食欲、性欲、睡眠欲だけは外に合わせられるということ。
また迷宮内のものは外にもっていけること。
更に第八十層からは幹部級という四体で階層ボスに匹敵する者が現れること。
次元転移を使えば攻略されている最新の層までいけること。
階層ボスを倒すと紙を入手して次の層への入口を指定出来ること。
迷宮内のものは外に持ち込めること。
層が上がれば上がるほどモンスターは強くなること。
モンスターはおよそ一時間から二時間周期で再生成されること。
モンスターは外に出られないこと。
モンスターは外の魔物と酷似したものも多いが本質はかなり違うこと。(構成成分などは同じ)
モンスターは少し特殊である、ということ。
などなどである。
ブラッドは素材集めのため迷宮に乗り込んでいたが、一つの疑問があった。
それは、殺したモンスターが多くなればなるほど階層が死体で埋まってしまうのでは無いかという点。
しかし、死体は一定時間が経つと地面へ吸い込まれるように消える。
そこで一つの危惧が生まれる。死体が地面へ吸い込まれると素材も一緒に吸い込まれることになる。
たがしかし、人が剥ぎ取った素材などはそれと区別され、地面へ吸い込まれない。
「なんて都合のいい話だ……」
「…?どうしましたか?」
「いや」
ブラッドはラリと稽古をしながら言う。
「なんでもないが……あ」
「?どうかしましたか?」
ブラッドはここに来てある事を思い出した。
「……」
(そうだ。SSSの討滅があったじゃないか。?しかしなんでこんな大事な事を忘れていたんだ?俺は)
『ブラッド様、恐らくそれは──』
「おーいブラッド!」
「どうした、ディア」
「この武器なんだけどさー」
ブラッドは時たまこうして仲間内の武器を見ることがある。
仲間とはいえ、仮初のものにすぎないが。
『ツァリ、また後でな』
『ちぇー…はい』
「ふむ。短刀か。お前は普通の剣を使っていたはずだが?」
「あ、いやそれがさ。ヨーネに補佐的な武器もあった方がいいんじゃないかって」
「確かにな。それは英断やもしれん。だがしかし」
「……?」
「一体いつどこで買ったんだ?この短刀。はっきり言おうか。ゴミだ」
「──が、ッッッ!?」
「どうせ口の上手い奴に騙されたというオチだろう。
まぁこの際だ。俺が創ってやる」
「創る!?」
「あぁ。俺が創ってやる」
ブラッドは魔法を発動させる。
「魔法でな」
「……んなっ!?そんな事が可能なのですか!お師匠!!」
「んー、まぁそれなりに高位の魔法使いになればな。まこのレベルに至るなら魔力の扱いを仙人のレベルにするか、魔法知識を得て魔法に関する理解を深めるか、だな」
「は、はぁ、よく分かりませんが」
「まぁ見てろ」
ブラッドの手の平から黒い短刀が伸び出る。
「武器創造」
「おぉー!すっっげぇぇええ!」
「まぁ、そう興奮するな」
「お、おうよ」
ブラッドが手渡しするそれをディアは喜びに満ちた表情で受け取る。
「ありがとな、ブラッド。お前は心の友であり、魔法の師匠だぜ!」
ディアはそう言ってブラッドの肩に手をのせる。
ディアの黒い髪が若干ブラッドにかかった。
その瞳はしかとブラッドを捉えていた。
「…お、おう」
ブラッドは目をそらす。
その短刀はブラッドの魔力を媒介として作ったものであり、術者の魔法の練度の高さからその硬度もかなりのものだ。
「まぁ、二次的武器として使うんだな」
◇
「では、みなさん、集まりましたか?」
「……」
大きな暗い部屋に、何人かの男女がいた。
数人は大きな円卓の周りの椅子に座っている。
そのうちの一人が口を開いた。
「おいおいおいおい!おいおいおいおい!おいおい!俺をさぁ、呼んどいてこの場所はねーだろ!なぁなぁなぁなぁ!?ねぇ!?なぁ?」
一人の青年は隣に座る女の胸を揉もうとするが──
「うわっ、きもっ、いやマジあんた最低だよ。ほんとキモイって、ほんと。自分の方が強いとか思ってんでしょー?ほんとやめてよキモイからさ。てか今後一切あたしに近づかないでよ。キモイから。ほんとキモイから」
──圧倒的速度でそれを躱す。
その女から圧倒的魔力が溢れ出す。
「死にたいの?」
「ん?お前じゃ俺には勝てねーけど。俺ってめっちゃつえーからさ。お前じゃ相手になんねーんだよねー」
「あぁん?」
「二人とも」
一人が呼びかけると二人は途端に動きを止めた。
「少し、静かにしましょう。今から話すことは大事な事ですので。それにあの方もいらっしゃられるので、んーまぁ別に私としてはあなた方がどうなろうとも良いのですがね」
「……」
「しかし、私としてはどのような作戦を行い何をどうするのか、楽しみでありませんね。あの方、いえ彼は非常に私と気が合いますので。しかし、全員を集めるとは余程の相手なのでしょうね」
「…あのー、えーっと、何だったか。あ!思い出した。ザールさんとやら」
「ん?なんですか?」
「俺は初めて招集されたんだけどアンタが一番下なのー?」
ピリリ。
ピリリピリリ。
「……」
先程まで言い争っていた二人は、先程まで黙っていたが、その言葉を聞いて顔を青ざめる。
「お、おい、お前…っ!お前が戦地でどれだけの功績を上げたのかは知らんが──」
「大丈夫です。マラリアさん。もう行いましたので」
「……ん?なんだお前。俺を無視するなよ」
「いえいえ、しかし調教というのも中々骨が折れますねぇー、まぁ実際に折ったわけですけど」
「……?」
「まぁ、気づかない方が幸運かもしれませんね」
その男は、下を向き自分に何が起こったのか理解した。
両腕がひしゃげ複雑に折れ曲がり皮膚を貫いて骨が出ている。
そして体の殆どの皮が剥かれていた。
気付き、そして大量に出血する。
「その男を治療して下さい。このままでは死にますので。あぁしかし完治レベルの治療はよしてくださいね。私としてはギリギリ、最も辛い辺りを所望します。そちらの方が面白いので」
男は近くの給仕にそう命じる。
──その男は、黒い髪に黒い瞳をもつかなり高身長の男だった。ガタイもよい。しかし、太っているというより痩せているという印象のある不思議な体型。顔は少し老けて見える。が、しかし決して老いているという顔でなく、若くさえ見える、中年だが若年層のような顔。
黒いマントを羽織っており、体を常に武装で纏う。
戦地でつけられた名は数しれず。
──世界で、二番目に強かった元傭兵。
傭兵ランクSS最上位。
ザール・ブリッケン。
「……」
それをずっと黙って観察していた老人。
──傭兵ランクSS中層。世界三番目の元傭兵。ラビア。
無精髭に渋い顔をしている。
「……くそ、マジかよ…」
先程まで言い争っていた一人の青年。
──傭兵ランクSS下層。世界四番目の元傭兵、ザック。
「……」
同じく言い争っていた女。
──傭兵ランクS最上位。世界七番目の元傭兵、リンダ。
「が、ぁ、あ」
死にかけの男、傭兵ランクSの下層。世界九十二番目の傭兵、ラズー。
「さて、ではそろそろお見えになるはずですので」
ザールはマントを翻した。
「待ちましょう」
ここの誰もが、遠く彼には及ばない。
三番目に強いラビアでさえ、きっと彼には秒殺される。
そんな彼ザールを唯一圧倒できる存在。
「ふむ、待たせたか?」
「いえいえ、滅相もない。お待ちしておりましたよ?」
「ならば良いがな」
世界最強の傭兵。
傭兵ランクSSS。
SSS!!!
久しぶり、であります。




