第四十八話 九十層
天災級の魔法はブラッドへ降り注ぐ。
隕石が、地震が、洪水が、火災が、流星群が、小さなブラックホールが。
ブラッドへ。
地面は焼けるというより溶ける。水は絶え間なく破壊を讃え、森は侵食される。
火は森を消し炭にして、流星群は地形を変形させる。
小さなブラックホールは破壊された地面や木を吸い込む。
だが、そんな中、一人だけ、一人だけ突っ立っていた。
「……」
「ほぉ、耐えるか」
「……」
ブラッドの魔法障壁はピシと音を立て割れる。
「これが割れるか」
「当たり前だろう。我が術の中でも最高峰のものなのだがな」
「はぁ、大概耐えれると思ったのだがな」
「……さて、お前はどこまで耐えられるかな──ッッ!」
「いい加減うざいなちょっと」
「?」
「タネは大抵理解した。お前は術さえ封じれば俺に敵う術はなくなる。ならば」
ブラッドはパシっと手を結んだ。
「完全捕縛」
見えざる手が階層ボスを押さえる。
階層ボスは停止した。
「な、んだこれは」
「Lv11魔法、完全捕縛だ。これを解くには相手の魔力量を越える必要がある。単純な膂力ではどうにもならんものだ」
「くそ、が」
そしてブラッドは階層ボスの腹部に手を当てる。
「術封印」
「ぐはあっ!?」
階層ボスは熱にも似た感覚を腹部に感じた。
「熱い…!?」
「お前の術が封印されている証拠だな。まぁ俺とは分が悪かったようだ。では俺に対策する方法も無くなったところだし──」
ブラッドは白金に輝く大剣を召喚する。
「──死んでもらおうか」
そして、振り下ろす。
天上の剣。その権能の効く範囲であれば万物を切り裂く剣。
が、それは空中で停止した。
「は?」
「……魔力量で負けているならば、勝てばよいだけの話だろう」
階層ボスは。
階層ボスは魔力を第九十層、そのものから吸収し始めた。
「……!?」
火山から、山から。
大地から、広大な第九十層その全てから魔力を収集しようと言うのか。
「だが、お前の肉体が間に合わないはず…!」
「いや、魔力を使用していればそんなことはない」
ブラッドは今ようやく何に攻撃が阻まれているか理解した。
それは魔法障壁である。
「…!?この剣の権能の上だと言うのか!」
「魔力量は絶対だ」
ブラッドはありえぬほどの力で蹴り飛ばされる。
「っぐ!?」
飛ぶ。
地面に突撃し、地面はえぐれ木に衝突し、木は折れ、それでも勢いは止まず次々と森が破壊されていく。
広大な森は、今はかなり削れてしまった。
「…!クソが」
ブラッドは口内に入った土を吐き出す。
「……しかし、想像以上の強さだ。単純な魔力量では俺と同等か。いや、それ以下ではある…のか?」
ブラッドも分からない程の魔力量になってしまった。
「単純な魔法勝負といこうか。次元断裂」
「魔法障壁」
ブラッドの出した次元さえも断裂させる刃は、階層ボスの魔法障壁へくい込み──
「!?」
それを断裂させる。
「殊、斬るということにおいてこれに勝る魔法はなかなか無いだろうな」
「きさ」
「遅い。冥府の一撃」
冥界からの一撃は、相手を死へと誘う。
階層ボスは気絶しかけるが──
「起死回生」
生命力を反転させる魔法。
によって階層ボスはほぼ全快状態になる。
(こいつここまでダメージを負っていて…!)
「割合損傷」
「んぐっ!?治癒」
ブラッドは身体の何割かを損傷によって失ったが咄嗟の治癒魔法によってなんとか持ちこたえる。
「……ッち、面倒な」
しかし、魔力の残量という意味では階層ボスの方がブラッドよりも多少多い。
長期戦という目で見ればブラッドの方が不利だ。ならば、短期でケリがつくような魔法を使用すれば良い。
「怨嗟の儀」
ブラッドの周りを覆うように赤黒いなにか、触手のような何かが階層ボスへ向かって迫る。
「……?」
階層ボスは魔法障壁を展開するが、
「…!?なんだ、これは」
魔法障壁をすり抜け、怨嗟の手は階層ボスの周りを覆い出して──
「くっ、獄炎」
地獄の炎が怨嗟の触手に触れるが、何らダメージはない。
地獄の炎では怨嗟の触手を滅ぼすことはできない。
「何故、何故俺が!負ける?有り得ない!ありえ」
怨嗟の触手は、階層ボスの胴体を貫いた。
「ごはっ」
「次は口だ」
詠唱出来ないようにする為だ。
そして、着々と赤黒い触手によって階層ボスは壊されていく。
「これで、終わりか」
怨嗟の触手が消えた後、そこに残るものは、バラバラになった階層ボスであった。
その時。
ブラッドの脳内に音声が流れる。
「……?」
【階層ボス討伐者。貴方には次の層への設置を許可します】
「設置?」
そう音が聞こえ、ブラッドの手元に一枚の紙が現れた。




